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広告主が絶対聞けない代理店の本音②

・想定する読者
アプリ領域でWEB広告出稿に携わるデジタルマーケター
・本記事を読むメリット
読み手が得られるメリット業界をリードする意思決定レイヤーのマーケターがぶっちゃけ何を考えているか知れます。思考プロセスを盗み、実務に応用できます。     

第一回目の記事は株式会社ナイルの坂井さんのインタビュー記事でした。第二回はグリーアドバタイジング株式会社代表取締役の柴田さんです。

インタビュー記事

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森下:いつもお世話になってます。よろしくお願いします!

柴田さん:はい、よろしくお願い致します。記事拝見しています。大変参考になっています。

森下:ありがたいですw 本題に入る前に、まず簡単に今までのキャリアを教えて頂けますか?

柴田さん:2008年グリーの広告事業本部に入社し、SNS GREEの広告セールスを経て、その後ソーシャルゲームの広告などのセールスをしておりました。その時はスマホもなくガラケー時代ですね。

森下:まさに以下のような時代を駆け抜けてたわけですね!(他社ですがw)

柴田さん:はいwスマホの流れからプラットフォーム事業のSAP事業がはじまり。GREEリワードの立ち上げをしたり、広告の海外事業部立ち上げをしたりしました。そのときにグリーアドバタイジングを立ち上げ、地道に国内営業してスタート3名から今では約70名程度になった感じですかね!

森下:面白い!輝かしいキャリアですね!あと、深堀りしないでほしいんですが、柴田さんって新卒なのに全然グリーの方っぽくないですよねw 

柴田さん:酸いも甘いも有りましたからねw良い時代と苦しい時代を経験して現実を色々見てきて今のスタンスになりました。

森下:基本は広告畑なんですね!70名もの人員を率いているので大変だと思いますが、どんな目標の持たせ方をしているんですか?

柴田さん:一人の生産性を最大化するという感じです。某大手WEB代理店の1人あたりの年間広告取扱高ってIR資料みると大体1億円くらいなんです。うちもそれくらいに設定している。しかし、当社はゲームクライアント様にフォーカスしたビジネスをしているのでゲームクライアント様のゲームが当たる当たらないのボラティリティが激しい。また、直近の市場激化でヒットする確率も減っているし、アプリリリース数も減っている。ですので、予実管理は難しいです。他の代理店さんはそういった意味でもあまり対象を絞らず広範囲な業界を対象としますよね。非ゲームアプリとかナショクラとか。うちは会社の方針は母体であるGREEの強みである強固な基盤とゲームのナレッジを活かすべくあえてゲームクライアント様にフォーカスしております。

森下:正しいと思います!

柴田さん:しかし、この選択をする代償はこのボラティリティと付き合い続けるということなんです。ですので、ボラティリティがある中、月次目標に固執するのは現実的ではないので、半期や一年といった中長期目標を達成することに重視するようにしています。
月次目標で追いかけさせるとそれを達成するために良からぬことをやる営業も出てくるリスクも0とは言いきれないですし、そういうことはさせたくない。ゲームの場合、リリース半年前から提案とかするんです。そしてリリース遅延とかするとやはり、1年くらいのスパンがかかる。ですので、大体、半年単位でも目標を追いつつ、残り半年で年間目標を達成できるのかを意識させて動かせています。このようなボラティリティと付き合い続けるには企業としての体力も求められるため、そこにリソースを投下しています。ですので「今月どうなの?」のみに固執した聞き方はしないです。あと、内部(=グリーグループ)領域もあるので、そこがある程度の支えにはなってます。ビジネスは戦いなので、自分たちが秀でてて、他社には真似できない領域で戦わないとですしね。

森下:理にかなってます。

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柴田さん:マーケティング出身者や経験者がグリーアドバタイジングに多くいるので、単にWEB広告を回すだけではなく、ちゃんとプロダクトをいじったことがある人間をアサインできる。マーケターの派遣など他社にはできないことができる。最近はこのケースが多いです。

森下:へー、すごいですね!

柴田さん:結構、経営的なニーズから降りてくるケースが多いです。やはり、優秀な広告とかマーケやれる人材獲得が難しいというニーズからマーケターを派遣してほしいという要請が来ます。なので、マーケターを派遣しつつ、デジタルのエージェンシーとして当社も行く感じですね。ただ、デジタルの全てを当社でうけるわけではなく、当社の不得意領域はパートナーシップを結んだ企業様と連携してやっております。

森下:素晴らしい受注の仕方ですね。不得意領域はパートナーシップ組んだところと協力するとのことですが、昨今のソーシャルゲーム市場の激化で代理店ビジネスって儲かっているのでしょうか?

柴田さん:運用代行のみという意味ではfeeは一定の%で成り立つ事は可能かと思います。しかし、制作コストがかさむ。リスティング広告や静止画バナーのようなものではなく、動画広告が主流となってきたので、コストがかさみます。ある程度のfeeをもらわないとビジネスとしてなかなか成り立たないもしくはクライアントの高い期待値に物理的にお応えできない事もあると感じるケースもあります。一方、広告主としては当たり外れのボラティリティがあるので、マーケ部分の変数(feeとか)は出来る限りコストカットしたいのは分かります。おそらく広告主側の視点は3軸あって、

①機械学習やAIを使った広告(主にUACやFacebook広告)のfeeを下げたい。

②スタートアップ界隈であるのが、そもそものfee含めたコストを極限まで削りたい。

③別のR/Sなどのパートナーシップを組んで、マージンではないビジネスモデルでの協業をしたい。

代理店としては、実費は動画などの制作で高くなっているし、採用教育コストもありますから、広告主側の求めていることと逆行している状態です。

森下:広告の初期設定に負荷は一定かかるが、運用に乗ればそこまでチューニングの必要ってありますか?

柴田さん:媒体によりますね。一部媒体は自動化もあるのであまりかかりませんが、それでもクリエイティブPDCAや自動運用が好走しないときはいじるので一切かからなくはないんですよね泣
またそういった媒体はまだごく一部になるので大半はまだチューニングが必要な媒体が多いです。

森下:まるっと手数料ビジネスが無理なら、クライアントへの広告パフォーマンスを担保するための人月を保証する。だから、MGをこんだけくれっていうビジネスの可能性って無いものでしょうか?WEB広告出稿はNETかNETに限りなく近い形で売る。MGと制作は実費請求とか。

柴田さん:可能性としてはあり得ると思います。私の過去の話を少しさせてください。以前、会社の絶頂期にマーケター組織の規模が60人ほどだった時期がありました。今振り返ると固定費の重さが異常でした。年間売上広告予算が何十億とあればインハウスで抱えられるが、昨今のモバイルゲームのヒットするしないのボラティリティ考えるとその固定費を抱えることが難しい。マーケ組織はプロフィットを産まない組織と捉えられることが多いです。ですので、経営が傾いた際にテコ入れされるターゲットになる。予算なければマーケいらん!みたいな。ですので、コストセンターに対する固定化はゲーム業界は可能な限り避けることも必要だと感じました。非上場企業で年間1-2本しかださないところはマーケ組織を固定化しないほうがいい。会計コストで人件費80万で仮に10人だとしたら年間約1億円くらい。。。直ぐキャッシュがなくなる。やるべき会社とやらないほうがいい会社があるのは間違いないです。

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森下:そうなると、広告代理業というよりはマーケターを派遣するビジネスやるしかなくないですか?だって、マーケ組織構えられないですもん。

柴田さん:なのでうちはグループシナジーを使って、そのような既存の代理業にとらわれないビジネスが可能です。今、中小のソシャゲパブリッシャーのニーズは「マーケの採用したい。でもいい人が市場にいない」などです。だから、当社からグループシナジーを活用してコンサルティングすることがあります。「一通り、軌道にのったら、自社でマーケターを採用してください。」みたいなスキームを模索してます。ぶっちゃけ、事業会社のニーズって「リリース2ヶ月前の事前登録くらいからマーケできる人がほしい。そしてリリースして当たったら、そのまま残りつつ増員。もし、はずしたら、切りたいじゃないですか(固定費削減)」。ですので、今後ゲーム界隈ではより一層、このようなマーケターという人材=固定費の変動化が進むのではと思います。当たるかわからない事業にプロモ費はまずあてないといけないが、人材を採用して、それを固定費で抱えるというリスクを負うは厳しい。あと少し話しが逸れますが、マーケターとして経営から俯瞰してみれる人材が少ない傾向なのかなと感じます。まず、固定費と変動費を理解していない人がいるでしょうし、会社全体のPL、事業のPLの構造をわかっている人がどのくらいいるのでしょうか。一方で日本の企業体質も要因かもしれませんね。CMO職が少ないのも連動しているかもしれません。こういう経営視点をもったマーケターがもっと増えるとより良いかもしれませんね。

森下:柴田さんのおっしゃるマーケターの派遣業良いと思うのですが、そのマーケターにどこまで求める感じですかね?WEBADのコントロールのみなのかはたまたゲームのKPIへの指示出しやUIUXの改善まで含むイメージですか?後者であれば、それができるデジタルマーケターはほとんどいないような。。。

柴田さん:はい、おっしゃるとおりだと思います。そこは派遣するマーケターで役務をデジタルプロモ担当、オフラインプロモ担当、プロダクトマーケティング担当で分けたほうがいいかと思います。全部できる人は本当にまれです。

森下:まぁそうですよね。上記全部できる人間がいれば、その人間を派遣してプロダクトにも口をだし、プロモーションにも口を出し、それらを含めたアプリのPLに責任を持つ人間を派遣できればいいと思います。ただ、そんなスーパーマンはなかなかいないので、デジタルプロモ担当、オフラインプロモ担当、プロダクトマーケティング担当のように特化した人間で組織されるプロ集団を送り込む感じですかね。勝てる試合にするためにあらゆる手段を尽くす人間を送る感じですかね。

柴田さん:おっしゃるとおりなのですが、外部から派遣されてきた人間がPJTの責任を全て負うというのは難しいし、固定費を圧迫してしまうと思うんです。やるのであれば、事業責任者は派遣先にいるべきかなと思います。経営指標をその人間が追い、予算の決済権を持つ。どこまでを派遣されてきたマーケターに預けるかを決めるべきかなと。

森下:組織の話ですが、やはり私はマーケティング部という部配下にコンテンツとマーケティングの部署がないとだめだと思うんです。マーケティング部とコンテンツ部みたいに並列にするとお互いがバラバラに動き始める。あと、売上や利益の責任所在がはっきりせず罪のなすりつけ合いになる。「プロダクトがイケてないから売上上がらない」「広告のインストール単価が高いから売上あがらない」とかとか。それを阻止するためにマーケティング部の責任者が事業PLに責任を持つようにすればいいんだと思います。ブシロードが輝けたのもこの必要条件を満たしていたからだと思います。カリスマが責任を追ってコンテンツ開発とプロモーションを連動させたから上手くいく土台はあったのだと思いました。それだけではコンテンツヒットの十分条件にはなりませんが、必ず満たさなければならない必要条件ではあるかと思います。

柴田さん:逆にいうと、過去そういった人材体制に恵まれず苦しい時期も見受けられました。つまり、ハイブリットな力が求められますよね。あるあるなのが、コンテンツあがりの人間はプロダクトをしっかり作り込むが、いざマーケティングとなったときに「他社はこれくらい事前事後プロモーションに使っているから、それくらいで」という予算組みをし始める。そこにロジックはなくずぶずぶだと思うんです。そこを疑わなかったのが良くなかった。

森下:こんだけ世の中にアプリが出てるんだから、アプリの初期設計やマネタイズの入れ方で大凡のRRやPUR、ARPPUは計算できますし、IPのパワーを定量化すればインストールの規模感は測れると思っています。ということは売上は事前にある程度の標準偏差の範囲で予測ができると考えております。正確にあてるのは困難でも、ある程度のレンジ幅で予測することは可能だと思います。現に当社の何タイトルかで初月売上を様々な確度で算出して大凡当てることが出来ました。ってなったときに、年間の収益が予測できる。ということは、プロモをどこまで踏んで売上のトップラインをとりにいくかを想定することができると思います。そのような絵を描ける必要がある。

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柴田さん: なのでマーケターの定義を変える必要があると思います。現状だとソシャゲのマーケターのキャリアは同じような業務の繰り返しが多いと思うんです。ある会社でWEB広告の運用やってました→広告主側にいってWEB広告のハンドリングしてました→飽きたから同業の規模でかい企業に行ってWEB広告のハンドリングしてました。みたいな。

森下:あるあるですね。

柴田さん:マーケターが経営層に上がるケースがまだまだ少ないように感じており、そもそも経営が見ている視座を持ち合わせているマーケターが育ちにくいのかと。そのようなマーケのことがわかって経営指標が追える人材のニーズが今後高まるのではないかと思っています。

森下:なんか、この業界のマーケターって言葉って、プロモーションだけやって、プロダクトには口出せないっていう固定観念ありますよね。まず、そこのメンタルブロックを外さないとキャリアが開けないと思います。あと、私もですが日本人はほとんどの人が日本語しかしゃべれないから日本でしかマーケターのキャリアが詰めない。さらに、ソシャゲの市場規模は私はダウントレンドに入っていると思うんです。一部の統計データでは2019年まではソシャゲ市場のマーケットは右肩上がりとあるものの、それを国産アプリと国産で無いアプリの売上シェアでみると、国産アプリの売上はダウントレンドに転じている。つまり、中国のような開発費コストが安く無限にある労働力をレバレッジしてローンチしてくるアプリにマーケットシェアを持っていかれている。これは良い悪いではないのですが、日本のソシャゲ企業はもう開発力では勝てない。いいとこ、IPを搭載して局地戦で戦うアプリ以外勝算が無いということだと思います。さらに、このIPを搭載したアプリの勝算も今後下がると思っています。中国のアニメCGのクオリティはもう日本を超えています。足りないのは日本の世界観や文化に対してアジャストする部分のみ。これはもうトレースされるのも時間の問題で、いずれ近い未来に中国で作ったアニメが日本で当たる日が来るでしょう。そうなった時に日本のソシャゲデベロッパーは打つ手が無くなる。本当に打ち手として残るのは伝統や歴史のあるIPを搭載するしかない。つまり、過去から現在まで伝統的なIPが積み重ねてきたブランド力に頼ったアプリ開発以外道がなくなると思います。ということは、ダウントレンドに入った日本のソシャゲマーケットで日本語しかしゃべれないマーケターはたしかにキャリア選択の幅が狭くなる。これが直視しなければならない現実だと思います。それでいて、WEBADのことしかわからないマーケターは近い将来いらなくなる。

柴田さん:私もまだまだですが、やはりマーケティングにおいても経営視点を学ばないとだめだと思います。俯瞰してものごとを見る力ですね。過去、マーケ部という形でプロダクトにマーケの人材を内包したことがありました。その時に起こったことが、どうしてもプロダクトの方に決済権が寄り、プロダクトがやりたいといったことを実現することが、ミッションになってしまう傾向が見受けられました。すごい昔ですが。そうなると、マーケ的に効果を出しやすい表現にしたいのに、プロデューサーが世界観を大事にしたいからバナーはこうしろ!と指示をだす。結果、効果は振るわない。とかはありました。だから、森下さんのおっしゃるとおり、プロダクト担当者とも対等に話せて経営目線を持ち合わせるマーケターが今後の市場で求められるのではないでしょうか。

森下:おっしゃるとおりだと思います。話が尽きないので、今回はこのへんにしておきましょう。


まとめ

GAIの代表取締役社長である柴田さんとのインタビューを通じてマーケターに必要なスキルや組織体制の話を経営視点で伺いました。会社の売上、利益に責任をおっている柴田さんならではの話(例:固定費の流動化)や過去の失敗経験を伺うことで様々な学びが有りました。ご協力頂きましてありがとうございました。


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