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「ニッポンが壊れる」を読んで

 ビートたけし著「ニッポンが壊れる」(発行所:小学館)を読んだ。著者の本を読むのは初めて。だと思う。 前々から著者の小説に興味はあったけど、読む機会がないまま、このエッセイを読んだ。

 大谷翔平のお陰で、今では二刀流、三刀流が社会的に認知されるようになったけど、著者が映画監督を始めた頃は、影武者のような監督がいるんじゃないか、なんて噂話も出たほど。まぁ、有名税のようなものか。

 本書は、この頃オカシイな、と著者が思うことを、あれこれと綴っている。 読んでいて、私自身も、そうだよなぁと合点がいくことが多かった。それは、去りゆく者の寂しさでもあるんだと、読み終わって納得した。

人に、力を・・・

 フィンランドは、1917年に独立宣言をして、医療や社会福祉の充実と共に、教育に国力を捧げた。学校は無料だし、給食も無料。大学だって無料になったらしい。先生たちは、教育分野の修士資格者ばかり。しかも、専門課程の勉強だけでなく、教える技術も学んでいる。未来のために、学ぶ場というインフラ整備を徹底した国だ。

 一方の日本の戦後は、官民を挙げて、経済一筋に注力してきた。
おかげで、一時的には世界トップクラスになった。超高齢化社会の今だって、何とか経済大国の一つとしてしがみ付いていられるのは、経済復興に注力し、官民で莫大な資産を築き上げたからだ。
 けど、経済以外の社会福祉や医療も教育も歪なまま。かじ取り役の政治も未熟。 経済以外は「周回遅れ」になってしまったようだ。

 日本が再度、世界のリーダーとして復活するには、フィンランドのように、シンガポールがやったように、教育に注力すべきだ。
なんて思っていたら、著者も、『「教師の「エリート化」が必要』なんて言ってる。 国造りの基本なんて、似たようなものなんだな。

 「末は博士か大臣か」なんて言ってた時代もなったけど、高度経済成長時代も、大学卒業がブランドバッチになった。「目指せ東大!一流校!」みたいなキャッチフレーズがまかり通っていたし、東大を目指す子供たちだって「東大法学部を卒業し、国家公務員になって、国を動かす」なんて言って、東大法学部卒が、葵の印籠のようにプラチナブランドだった。昔は。

 今だって東大法学部卒は、一定のステイタスはあるのだろう。けど、今は、院卒か、司法試験等の難関国家資格取得者が、ブランドホルダーの証になるのだろうか。
 同時に、自分らしく生きて、独自の世界観で世に出てくる若者も増えてきた。「みんなが同じじゃなくていい」というのが漸く認知されてきた感じ。
 必要なのは知力であって、学力じゃない。学卒院卒なんてどうでもいい。  
 けど、人間が社会をつくって共同で生きていくには、一定程度の知力は必要で、そのための勉強の場が欠かせない。
 そこでは、子供たちが、自分らしい学び方を知り、進む道に必要な知力を習得できる教育が必要だ。理想かも知れないけど。子供たちを未来に誘っていく教育。難しいだろうけど。
 それにしても日本の今の学校の先生たちは大変だと思う。 特に小中学校の先生。
 大学を卒業して、いきなり学校という閉ざされた世界で、子供たちと対峙していくのだから。ロールモデルは、閉ざされた世界の先達だけ。 狭い世界しか知らない先生たちに、未来を創る子供たちの進路を示唆させるなんて酷だなぁ。と思ってしまう。医者じゃないけど、2~3年くらいのインターン期間とか、社会人経験を教員になるための条件に加えて、報酬を3倍にするとか、なんか工夫が必要なんじゃないかな。

移ろいゆく人の、残り香のような叫び

 TVやお笑いの世界だけでなく、経済も政治も、このところの日本ときたら、なんだか迷走しているようで、危なっかしい。
 だからなんだろうか、「漂流する日本企業」「ゲームチェンジ日本」なんかが気になって読んでいた。
 本書の至る所で、著者の不安が描かれている。

 確かなことは、このところのニッポンは、「失われた30年」と言われていた時代とは、異なる様相ということ。
 何かが始まろうとしている。そんな気がする。

 振り返ってみれば、新しい時代を迎える前は、「時代の裂け目」のような混沌とした時があった。 明治時代、終戦直後等々・・・。
 今に満足できず、かといって新しい道も定まらず、進むべき方向を失ったままエネルギーが溜まっていく。 爆発寸前。混沌とした不安と期待。

 今が、その時。

 年長者の未来への不安と裏腹に、若者たちは飄々とSNSやAIを使いこなし、混沌とした世界の中で、自分たちらしい新しい時代をつくり上げていってるようにも見える。 このところの株式上場企業の社名、カタカナや英文字ばかりで、何やってるか全然わからないけど、凄い技術を持ってたり、これからの時代に必要な新しいビジネスであったりする。

 若い人たちが、夢中になれるなら本物。 黙って任せておけばいい。

 今までの時代をけん引してきた者たちは、静かに舞台を捌ければいい。
いや、「ニッポンが壊れる」「漂流する日本企業」と言ってしまうけど、気にするな。 それくらいの叫び声をあげたくなるのもヒトの常。

                            (敬称略)

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