見出し画像

「700人の村がひとつのホテルに」を読んで

 嶋田俊平著「700人の村がひとつのホテルに」(発行所:文藝春秋)を読んだ。略歴を見て、私が過ごしてきた世界に近いと思って買ってみた。

消滅可能性都市

   10年程前に、日本創生会議の人口減少問題検討分科会(分科会長:増田寛也元総務大臣)が発表した「消滅可能性都市」が、政治や行政を賑わせたことがある。座長の増田寛也氏が、同じ年の2014年の夏に発刊した「地方消滅 東京一極集中が招く人口急減」(発行所:中央公論社)も読んだ。次の年に発刊した冨山和彦氏との共著「地方消滅 【創生戦略篇】」(発行所:中央公論社)も読んだ気がする。
   発表では、2040年には、全国の市区町村のうち896区市町村が「消滅可能性都市」として挙げられていた。この896区市町村の中には、乗降客数日本2位の池袋駅を擁する豊島区も含まれていて、多少の違和感もあった。けど、名を挙げられた都市は、不名誉な騒ぎになっていた。
   きちんと読めば、「消滅可能性都市」の定義は、『2010年から2040年にかけて、20歳~39歳の若年女性人口が5割以下に減少する市町村が消滅可能性都市である』と幅広なもので、ちょっと?が付く。あからさまな条件設定のため、『人口減少時代にどう対処していくのか、真剣に考えいこう』という主旨だけが伝わってくる。『上手なプロパガンダだなぁ』、と思った。今なら、SNSで拡散されてバズっていたのか。否、若い世代ほど興味のない話題なので、スルーされるか。
   ここで発表された896区市町村のうち、523市町村は、2040年には人口1万人を切ると予測されている。人が減れば、地元だけの商売も難しいから、商店街は壊滅的状態になる。住民税等の税収も少なくなって、役所が支援しようにもお金が無くて応援・支援すら出来ない。地方分権どころじゃない。
本書「700人の村がひとつのホテルに」の舞台となる山梨県小菅村も「消滅可能性都市」のひとつで、人口減少対策を期待された著者が、自身の率いる会社で奮闘する話だ。

人手が足りない・・・だから「伴走」からはじめる

   増田レポートの発表の翌年には、「まち・ひと・しごと創生法」が制定され、国を挙げて、地方創生戦略が進められていった。こんなに上手いタイミングで物事が動くことなんてない。総務省あたりが後ろ盾になってたのか、その動きを知って前振りしてみたのか。と、邪推してしまうのは、ミステリー好きの悪い癖だ。
   さておき、既に人口が減ってしまった地域(含消滅可能性都市)は、人が増えて賑わいを取り戻したいわけだ。昔のような栄華を・・・という感じ。
ある地域で人が増える、増え続けるには、若い人が必要だけど、実態として、どの地域でも、若い人ほど、東京や大阪などの大都市圏に行ってしまい帰ってこない。だから、Iターン、Uターンなどの政策が進むけど、人口減少地域には「稼ぎになる仕事」がないので、若い人が増えるわけがない。
   じゃぁ、どうするか。
   地元の有望な資源と言えば、自然と広大な土地くらい。これを使って観光ビジネスで再興するか、インバウンド需要を当て込んで。という流れも頷ける。
   最近では、太陽光や風力もたくさんあるので、自然エネルギーを使った発電事業で再興していく道も地方ならではの事業として着目されている。これまでの努力の集成としての「日本の匠の技」は世界的にもブランドバリューがあるそうで、ITを活用して、細々とやってきた地元産業を輸出型産業にまで拡充する道もあるようだ。いろんな可能性が拓けてきた。
 問題は、その担い手だ。
 どんなに町長や村長が旗振りしたところで、それを実現する「人手」がいなけりゃ、絵に描いた餅。名のある学識研究者やシンクタンク等々が、立派な戦略を組み立てても、『計画したけど、頑張ってみたけど、ダメだった』という感じ。
 そもそも地域の長く居る人達は、おおむね守旧派で、既得権者が多いので、新しい地方創生政策は、心ざわつかせる、煩わしい存在でしかない。
 だから、守旧派の人たちは、ちょっと足を引っ張ってしまう。ちょっとのつもりだけど、立派な大人の守旧派の力は強く、よちよち歩きのニューフェースはひとたまりもない。で、地方創生はとん挫する。
 本書「700人の村がひとつのホテルに」では、その打開策のひとつとして、「伴走」を挙げている。納得。これこそ、求められている「人手」だ。
 ホントは守旧派の人たちだって、今のままで、孫子の代まで栄えることは難しいことは、薄々感じている。何かを、何処かを変えていかねばならない、と覚悟している人達もいる。けど、「変革」は、自分の歩んできた道を否定するようなもので辛さもあって、「嫌だ」「面倒だ」になる。
 守旧派の人たちの心のバリハーを外し、ちょっとだけ考えを改めてもらう。よちよち歩きの革新派(創造派)の人たちにも、変革の光と影を考えてもらう。『双方歩み寄り』なんて、当事者だけでは難しく、「伴走者」の出番だ。そのとおり!

 本書「700人の村がひとつのホテルに」は、古民家群と宿泊事業を掛け合わせた事業を核に、様々なことに取り組んでいったようだ。著者ら「伴走者」が力強く支えていく。最初「伴走者」かも知れないけど、いずれ、地元出身の人に引き継ぎ、持続可能な繁栄になっていくのだろう。そうなって欲しいと期待してる。

                             (敬称略)

#読書感想文

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?