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「デジタル化する新興国」を読んで

  伊藤亞聖著「デジタル化する新興国」(発行所:中央公論新社)を読んだ。
  情報通信の進展は、農業革命や産業革命に続く、デジタル革命を起こしつつある。
  けど、既にいろんな仕組みが出来上がっている先進国ほど、既往の仕組みに群がる既得権者が邪魔をして、デジタル化への移行を難しくする。
逆に、既得権のない新興国では、白地に絵を描くような大胆なデジタル化が進む。これが先進国で言われる“次世代”だ。新興国は、既得権もいないので、いきなり最新鋭のデジタルワールドがつくれ、ここでゲームチェンジが起こるわけだ。
  本書「デジタル化する新興国」は、そんなゲームチェンジの可能性を示してくれる本。
 

いつだって、ゲームチェンジは、新しい処から始まる

 少し前に読んだ、ロスリング,ハンス・他著「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(出所:日経BP)。この時は、『自分の知見が古臭い。いや、事実誤認になってる』と気付かされ、少しショックだった。
 例えば、新興国と言えば、先進国に遥か遅れる国々(と習ったので、そう思い込んでいた)。だから、先進国が支えなければならないという国際課題があった。当時は“南北問題”なんて言ってたけど、今なら“SDGs”か。
 けど、その認識は、今では大間違い。らしい。
 IMF(国際通貨基金)が発表している2022年の世界のGDPランキングを見ると、既に上位10か国の中に、欧米や日本に伍して、中国(2位)、インド(5位)、ロシア(8位)がランクインしている。上位20か国にまで広げると、ブラジル(11位)、韓国(13位)、メキシコ(14位)、インドネシア(16位)、トルコ(19位)がランクインしているし、その先には、オーストラリアやサウジアラビアが続いている。そして、これらの地域での人口増加率は、先進国以上で、GDP成長率は、それを反映していく。
 自分が学生の頃に学んだ新興国と、「今の新興国」では、経済社会の充実度がまるで違う。にも関わらず、何十年も前に学んだ新興国のイメージを引き摺っている自分は、もはや「時代遅れ」と言われても仕方ない。既に世界は様変わりしている。
 そんな中での本書で示している「デジタル化する新興国」は、先進国といわれる国々にとって、大きな脅威なのかもしれない。
 日本は1950年以降、急成長し、先進国の仲間入りをした。先のGDPランキングだって、世界第3位で堂々たるもの。けど、少子高齢化社会に陥った日本は、持続的な経済成長が出来ず2000年以降は低迷。昨今では、既往の仕組みに群がる既得権者の力が強過ぎて、社会制度改革も法改正も進まず、ユニコーン企業すら生まれない。
 巷間、話題のマイナンバーカードと健康保険証が上手く紐づかないのは、総務省と厚労省の縦割りの壁を突破異出来ないからだし、電子決済が歪に拡がっているのは、昭和の時代に奨励されたタンス預金派がたくさんいるから。個人的には、そんな感想。だから、既得権者の少ないアニメやゲームが伸張し、世界に羽ばたいている。
 既得権益者のない新興国でDXが進むのは当然のことで、本書「デジタル化する新興国」でも、インドや南アフリカ等々の先進例が紹介されている。
 もちろん、本書では、新興国で進むDX化は、先進国の先進的技能を持つ会社が旗振りしていることにも着目していて、「新興国リスクの虚実」として紹介されている。
 
 パックスブリタニカが終わり、世界の実権がアメリカに移ったものの、既にアメリカ一強時代でもない。今は、アメリカと中国、ロシアが覇権争い。
そのうち、人口最多のインドがヘゲモニーを握るのか。はたまた、「デジタル化する新興国」なのか。

 いつまで経っても終わりのない争いが続く。 この狭い地球で。
 もっと一人ひとりをリスペクトする社会であれ。そう願わずにいられない。
 
  「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
   沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
   おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
   たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」
                      (出所:平家物語)
 
                           (敬称略)

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