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【読書】阿部智里/烏百花 八咫烏シリーズ外伝 白百合の章

八咫烏シリーズにおける2冊目の短編集です。

収められた作品はそれぞれ面白く、あっという間に読めてしまいます。あー、もっと長編を読みたい!と思わせますね。

さて、(どんな小説でもそうだとは思いますが)八咫烏シリーズでもその世界観をより深く理解する上で、登場人物の相関関係を掴んでおくことがとっても大事です。

いつものことなんですが、この手のものを読むときは登場人物の関係、立ち位置がとっても重要です。本編でいうところの誰、どの話の誰とかどこに繋がるんだろうと思いを馳せて読むと面白いですね。私は人物紹介ページを常に見返しながら読みました。

では8本それぞれについて触れたいと思います。
あまり本の中身を知りたくない人は読まないでくださいね。



かれのおとない

雪哉が山内衆の親友茂丸の実家を訪問する話です。茂丸は猿との戦いで命を落としました。親友、そしてその家族に思いを寄せる雪哉の優しさが茂丸の妹みよしを通して滲み出てきます。そして知ることのなかった茂丸の家族、バックグラウンドを知った今再びあの戦いについて読み返したくなっています。

ふゆのことら

続いても山内衆の一人、市柳と雪哉の話です。腕っぷしにはそれなりに自信があるも街でいきっていた(いちびっていた?)市柳が飄々として雪哉に鼻を折られ、勁草院へ行くことを決めるまでです。この人の気性や同郷の雪哉との馴れ初めは面白いですね。

ちはやのだんまり

三人目の山内衆は千早です。千早には血はつながってはいませんがものすごく大事にしている妹の結がいます。この結が結婚したいと連れてきた男がなんだか怪しい、でも(タイトル通り)千早は口を聞かないということで、こちらも結を可愛がっていたという西家の明留が間に入っていろいろを文字通り汗を書きます。さんざん苦労して、結果は二人の中は認めてもらえるのですが、それでも最後に千早が言った言葉が笑えます。これは是非読んでください。

あきのあやぎぬ

先ほど明留が出てきましたがここから段々と東西南北の家のお話になります。まずは明留の兄顕彦が当主を努める西本家に輿入れた環という側室の目から見た西本家の姿が描かれます。

各側室はともかく、顕彦の軟派な感じがすごくいいですね。同じ感性を感じました。でも側室18人は大変だろうなぁ(^^)

おにびさく

次は西家のお膝元の職人が作る摩訶不思議な鬼火灯籠にまつわるお話です。西家の職人の作品を中央にも献上するという機会に恵まれますが、急死した先代の後を継ぐもまだ自信のない彼には勝てるきがしません。ところが養母も一緒になってリサーチを重ね、彼の作品を評価するのが先代皇后大紫の御前で送り先が奈月彦の妹藤浪の宮ということらしいということも。

結果自分には自信がない、自信がないという割にはなんだかんだ言って仕上げてきたのはさすがですし、その彼がどういう人物、どういう感性を持っているのかを丁寧に書いている作者(阿部さん)はそういう目で物事を見て、感動しているのではないか、と思わされます。そんな感性で書かれたら本当にそういうものがあるのではないか、と思わされますね。半端な映像作品では表すことができない美しさを感じました。

でもこれを読んで実はさすがと思った、書きたかったのは養母じゃないかな?登喜司をその気にさせて仕上げさせるんだから。

なつのゆうばえ

浜木綿の義母、南家から嫁いだ先代皇后大紫の御前の幼少の頃、夕蟬と呼ばれていた頃の話です。南本家はその下にいる分家が強烈なため存在が難しく、使えないとわかるや本家ものものですらすぐに暗殺されてしまう厳しい家です。

そこから先代金烏に嫁ぎ、長束を産みましたが次の金烏は奈月彦になってしまったためいろいろと暗躍をしているという話がありますがその彼女でもこんな可愛い、優しい頃があったのだなぁ、と。

はるのとこやみ

東領の楽士を目指す双子が知り合った天才、それは東家当主の奥方である浮雲。楽器の演奏を通して天才同士のつながりからか、弟は心を奪われ、やがて自害するに至る。その自害を受け入れられず、何年かして里に帰った兄は再びあの神の調べを耳にした。そこには弟の顔、髪の色をもつ娘がいた。東家のあせびです。そう、第一作、第二作で活躍(?)したあせびです。浮き雲になんとか再会した双子の兄の結末を是非お読みください。

この話はあせびの母にあたる浮雲を描くことであせびのあのキャラクターが浮き上がってくる趣向となっています。

きんかんをにる

最後は我らが金烏の愛娘紫苑の宮のお話です。

大紫の御前がまだまだ奥から力を奮っており、あろうことか食べ物に毒を入れるという事件が起きてしまいます。でも利発で明るい紫苑の宮は、自分で作れば誰も毒を食べずに済むということを言い出し、父親ときんかんをにることに精を出します。

最後に金烏から生まれた紫苑の宮が雪哉の口にきんかんを押し込むところがとってもよかったですね。金烏の言葉にもありますが、この子が今後の主役になっていくのではないか、という予兆を感じました。

以上


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