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こっちにはなりきれず、あっちにも入れず

2023/10/06(金)

 朝から大雨だった。
 幾億の水滴が地面をさわさわと叩く音を窓越しに聞きながら、小原晩『ここで唐揚げを食べないでください』を読む。
 個人出版だけど、私が通販で取り寄せた本は1年で9刷まで達したバージョンだった。要は異例の人気ということ。私も桜庭一樹さん(!)が推薦していたツイートで存在を知った。

 二十一歳の秋、ほんの出来心で、ひと月だけ、カレー屋をやったことがあります。経堂という街で場所を借りて、週に一回ひらきました。どうしてパン屋ではなく、カレー屋をひらいたのかというと、私にはパンを作る技術がなかったからです。

小原晩『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』

 若い歌人(短歌を詠む人。長いほうです。57577のほう)のかたが、地元から飛び出して東京で暮らす悲喜こもごもを、平易でかろやかな文章でおかしく切なく綴ったエッセイ集。
 歌人の書いた散文(エッセイや小説)って、やっぱりプロパーの作家とは少し違う。多くは語らずに、読者の中でふわっ、ふわわっ、ぶわーっとイメージが広がる文体であることが多い。
 私もどちらかといえばこっちなんだけど、でもこっちにはなりきれず、かといってあっち(ゴージャスで重厚で華麗なほう)にも入れず、どうしましょう、という感じでやっております。やれてるのか?


2023/10/07(土)

 夜まで用事。
 疲れてしまい、何もできずに寝てしまった。


2023/10/08(日)

 夕方まで用事。
 大変疲れてしまい、なんとか本屋に寄って必要な本を買ったが、それを開くこともできず、夜更けまで茫然としてしまった。


2023/10/09(月)

 終日、用事。
 あまりにも疲れてしまい、私が仲がいいと思っている人たちの95%くらいは本当は私のことを疎ましく思い、うっすら嫌っているような気がしてくる。
 ある日、友人たちからいっせいに何かのふるまいを批判されたり、編集者から虚ろな苦笑いで絶縁を申し込まれたとき、どんなふうに言われ、それにどう返すかというシミュレーションを脳内で小一時間続けてしまい、ますます疲れる。


2023/10/10(火)

 少し寝たら、だいぶ精神がましになっていた。
 肉体と精神の疲労は繋がっており、片方を癒やせばもう片方もよくなることが多いと思う。「寝る」というのは双方に効くから、睡眠って大事なのだろう。

 以前に日記で紹介した謎の小説コンテストの全講評が発表された。センシティブかつユニークなテーマなので、応募される小説もエッジが利いたものが多く、三人の評議員の好みやコメントもバラバラで実に楽しい。私の参加作品もよかったら読んでください。
 小規模な小説のコンテストって増えました。
 どのコンテストも、書籍化とか賞金とかの副賞がなくても、応募者が大勢いる。「みんな一等賞」じゃつまらないから一応入賞作は決めるけど、それが絶対的な評価というわけじゃない。ボードゲームのように、目先の勝敗だけではなく(勝ちは真剣に追うけれど)みんなで競うこと自体を楽しむことに価値がある。そういう場があるのは大事だと思う。

 外は晴れていても肌寒い。長袖の服でも。
 もう春先と秋口に着るコートを出すべきかもしれない。今のヘビロテはおととしかな、買ったのは。カジュアルなロングコートで、会った人にかわいいと言われたこともあり、自分でも気に入っている。
 特別な日でなくても、お気に入りのものを身につけたり使ったりするのはけっこう大事なんじゃないかと最近思う。流行りの「ケア」ってやつでしょうか。ていねいな暮らしを、どう雑にやっていくか、みたいなことを考えている。 

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