第一回きつね童貞文学大賞 大賞は山本貫太さんの『エイズで死んだ童貞』に決定!

 令和5年8月22日から9月22日にかけて開催された「第一回きつね童貞文学大賞」は、選考の結果、大賞・金賞・銀賞、各評議員賞、ファンアート賞が下記のように決定しましたので報告いたします。

◆大賞

山本貫太『エイズで死んだ童貞』

◆受賞者のコメント
大賞、とても嬉しいです。
実は、学生の頃、4〜5人で童貞会を結成したことがあります。しかし、参加メンバーの半数が結成時ですら非童貞の疑いがあり、一度集まっただけで解散しました。「互いの童貞を信じられなかったのだから当然の結果でしょう」と纏めたかったのですが、振り返ると単に気が合わなかっただけかもしれません。
『エイズで死んだ童貞』、信じられるところまでは信じて、読んでくださると嬉しいです。

大賞作品には草森ゆきさんからファンアートが送られます。

◆金賞


ももも『恋愛未満』

◆銀賞


真狩海斗『童貞、銃を拾う』

◆各評議員賞


 ◆謎のリドラー賞
まらはる『童貞が聞きたくなかったセリフを聞いた話』
 ◆謎の暴力賞
るつぺる『まだ達』
 ◆謎のきょうじゅ賞
大村あたる『I Love(or You Love)』

◆ファンアート賞(うろこ道さん)

◆春海水亭『一人心中』

春海水亭さん『一人心中』

 その他、参加作品にファンアートを書きたい! という方や、この作品にファンアートを送りたいという方がおりましたら主催のTwitterまでご連絡をお願いします。

◆全作品講評

臆病者/宮塚恵一

謎のリドラー:
 臆病な青年が遭遇したとある出来事の話。
 一番槍は宮塚さん!! 童貞の一番槍だ!(最悪の字面)
 夢子さんが最悪女すぎる!! 主人公の幼馴染である加奈子に対する対抗心めいた複雑な感情から主人公を寝取ろうとして、誘いを断られたことに腹を立てて報復手段に出る。こわすぎる。
 主人公のキャラ造形から感じる童貞性なのですが、たぶん彼はなんやかんやでモテるタイプだと思うんですよね。場に流されていればチャンスはあったし、心持ち次第では勝負の場に立てる。それでも変化を厭う臆病さや自分の中の信条で盾を作ってしまう様子は非常に共感力の高い童貞性ではないでしょうか。その気持ち、痛いほどわかる。
 主人公の今後の人生を考えると加奈子を選んだ方がいいに決まってるんですが、加奈子に主人公に対する感情はあまり無いんだろうな……と思わせる塩梅も見事。まだ夢子さんに初めてを奪われた方がマシだったかもしれない。そう思わせる話でした。
 一つ気になった点として、終盤の展開の理不尽さがあります。初読時に「暴力要素が浮いてるなぁ」と思ったのですが、何度か読むうちにこれは〈本来自責しなくていいことまで自責してしまう主人公の精神性〉を際立たせるのに必要なのだ、と思いました。読み手の感情は夢子さんのヤバさと不良の理不尽な暴力に対して主人公を可哀想に思う気持ちが勝ってしまって、彼の臆病さが隠れてしまうかもしれません。理不尽な展開は物語を動かすために必要ですが、主人公のどうしようもなさを描くために「どうでもいい挫折」があると僕が喜びます!!
 とはいえ、主人公の今後が心配になる良い童貞文学でした。お見合いとかした方がいいよ……。

謎の暴力:
 宮塚さん一番槍童貞おめでとうございます、とても嬉しいです。特に何も言うことはないですで終わらせたいくらい良い童貞だったと思います。
 主人公の造形が特に良いですね。タイトルの臆病者が等身大で現されています。宮塚さんの思う童貞性とは「臆病」で、自身の宗派や友達などを言い訳に、別の世界や他人へ踏み込むことを恐れているために純潔なのだととりました。ナイス童貞。これでは……ナニガシを突っ込めない。しかし臆病者だと自覚したため皮は剥けたと思います、応援しています。
 個人的な趣味を言うと嘔吐から始まるパンチが素晴らしいです。暴力文学としては嘔吐と謎の男二人組ターンをもっと分厚くしてほしいですが、文学なのでこのくらい簡素な方がいいのかな? でももっとボコられていると悲壮感が相俟って、読了後の虚しさが増すかもしれません。女性二人からももっと詰られていいかも。せっかくなので、主人公の尊厳は徹底的に殺しましょう!
 興味深く読めて面白かったです。一番槍で読むに相応しい童貞文学掌編でした!
 主人公くんのお金、無事に戻ってくるとええな…………。

謎のきょうじゅ: 
まあこの作品なりの「童貞らしさ」というものが表現されていると思う。私にとって一番引っかかるのはやはり「キリスト教徒であることを盾に貞淑を正当化すること」という点にあるわけですけれど、それを単純に「キリスト教徒だからいいんだよ!」とせず、所詮は臆病者の言い訳に過ぎない、と切り落とすあたりが逆に本物っぽさがありますね。ただ、世界観そのものが全体的に、がちゃっとしていていまいち普段の宮塚さんらしい精緻な世界観が表現されていないのが気になったかな。

give it back/アオイ・M・M

謎のリドラー:
 中学時代から片想いをする女子が風俗店で働いていることを知った大学生の青年の話。
 ウッ、ウワーーッ!!!! 啓介、新しい恋とか探そう!!!!!
 ……主人公である啓介の煩悶がこの小説の肝だと思いました。思春期から恋慕している相手がそういった店で働いていることへの衝撃と、後ろ暗い欲望と、それを俯瞰的に見てしまう自己嫌悪。啓介が加賀美さんの特徴を列挙していくところの着眼点が妙にピンポイントなのも、たぶん夢の中で致したことがあるんだろうな……というリアルさがある。少なくとも加賀美さんきっかけで発露した性癖が何個かあると思います。
 童貞がデリヘルを呼んでホテルで待機する間の思考感がしっかりと表現されていて、コミカルな中にある悲痛さや心の機微が痛いほどよくわかりました。「これは人間にとっては小さな一歩だが、童貞にとっては偉大な一歩である」と賛辞を送りたくなりますね。
 それに対して、加賀美さんの強かさも非常に好きです。主人公が聖域化していただけで、実際はかなり性に積極的なタイプなのかもしれない。仮に10,000円が財布に残っていたら主人公は浮かばれたのだろうか……? いや、その後の展開がより辛かっただろうから……きっと幸運だったんだと思う。そう思わないとやってられないから!!
 気になった点として、物語を牽引する悪友の存在があります。悪友の瑛太、たぶん風俗に行き慣れてるし加賀美さんのサービスも一度受けたことがあるからこその最後の台詞だと思うのですが、初読時にそれを理解するのに少しだけ時間がかかりました。穴兄弟未遂オチが綺麗に決まればしっかり締まった物語になっていたと思うので、そこをわかり易く描かれていればもっと主催好みだったかもしれません。
 それにしても、主人公と悪友の関係性が良すぎる。このまま瑛太は他の風俗も勧めようとするけど、啓介にとっては最初で最後の甘苦い記憶なんだろうな……。啓介、瑛太ルートに行こう!!

謎の暴力:
 あ〜〜〜面白い!面白かったです!童貞文学と銘打たれる企画の評議員でありながら、暴力くんは大衆娯楽が大好きです!
 とは言え文学性、童貞性が少ないわけでもなく、昔好きだった女への感情がまだあるという童貞のいじましさがたいへん良いです。童貞とは想いが重いもの……そんな香りを感じ取りました。
 地の文にコミカルさがねじ込まれるところも良いですね!「股間の山岳キャンプは雄々しくテントを展開している。女体山脈の登頂を今か今かと雄々しく待ち構えているのだ」ここが特に好きです。女体山脈、そこはかとなく拗らせを感じる良いワードに思います。
 悪友のキャラ立ちもたいへんよく、それゆえに最後の締めの一言が若干伝わりづらいかもしれないところがもったいないかもしれません。暴力くんの察しが悪いのもよくないのですが、えーとつまり、抱いたことあるってことかな…?と解釈するまでにラグがありました。俺と兄弟になった?くらいまでわかりやす度を上げてもいいかもです。なれなかった虚無も増すぞ!
 全体的に読みやすく、俯瞰視点の三人称であるところで非童貞読者も楽しめる仕様になっており、暴力くんもたいへん楽しく読みました!
 一万円なくて逆に良かったやん……せやろ………?

謎のきょうじゅ:
高すぎない?デリヘルで基本料金がそれは高すぎない?地域にもよるけど、すすきのだと最高クラスのデリヘルでも四万は越えないような……という、本筋と関係のないどうでもいいことを思った。本番追加で一万というのは逆に半端だし。などと童貞みのかけらもないコメントをしてはみたが、まあ、わらける話にはなってますね。ただ、童貞文学、というからにはもう一味欲しいかな。面白い掌編ではありました。ただどっちかというと、エッセイ漫画とかそういう方向性の面白さで、少なくともこういう企画で賞に押したくなる強さみたいなものではない。

ぼく=童貞なるもの/きりしき

謎のリドラー:
 童貞である“ぼく”が焦がれた恋と多元世界の話。
 初めましての方かな? ご参加ありがとうございます!!
 童貞SFだ……。主人公である“ぼく”の思考感や恋心は非常に共感できるポイントなのですが、そこからの飛躍に「そうくるか!!」と膝を打ちました。こういうの好き……。
 主人公の感性を言葉にする際の冷たい冬の朝のような雰囲気が特徴的な作品でした。冷たく、孤独で、美しい。その中にある微かな温もりのようなものが詩的な表現で描かれていて、文学性も非常に高かったです。
 童貞性と呼ばれるものは他人によって植え付けられて自己が育てる種のようなものだ、という持論があるのですが、そういった観点から見てもかなり完成度が高い作品でした。主人公は周囲によって“童貞”という呪いを植え付けられ、逃れようとするたびに縛られていく。数多の旅を通してそんな自分を諦念まじりに肯定できるようになったことが、成長なのかもしれません。
 アンビバレントな感情が揺れ動く、非常に良質な童貞文学でした!

謎の暴力:
 酔歩する童貞だ……。三番目にして哲学的童貞がやってきて暴力くんは笑顔になりました。けっこうわかるというか、暴力くんは童貞とは肉体的な話を越えても精神的な話が残っており、マインドが童貞であれば何度セックスをしようが童貞が残り続けると思っていたからです。その点で完全に解釈一致な童貞掌編でした。
 評価しようと読み始めたのにいつの間にか引き込まれていたので特に言うこともないんですが、評価はかなり分かれるかもしれないという印象です。恐らく、意味がわからない方には本当にわからない話だからです。でもそれを気にする必要はないと思います。
 敢えて加筆を頼むのであれば、恋人と暮らす「ぼく」が夜に散歩する場面だけは童貞だというシーンかな。あそこに具体的な「夜散歩時だけ童貞」エピソードを入れると「ぼく=童貞」の補強になるかと思います。
 童貞性が自立に不可欠な要素となった主人公に童貞性とは……と話すのも野暮なことです。
 数多の世界線を旅して至った「ぼく」に幸あれ!とても面白かったです!

謎のきょうじゅ:
出だしのあたり正直わかりにくくてかったるいなと思ったんだけど、後半一気にギアが上がって壮大な話が展開されていた。文学か文学でないかでいえば多分文学ではあるんだけど、訴えかけようとする主題そのものが、そんな大上段に構えなきゃいけないようなテーゼかなぁという気がして、うーんという感じ。たぶん人間としての描写はもう少しクリアに描いた方がよかったと思う。

新入社員/神澤直子

謎のリドラー:
 先輩社員に片想いする男と、イケメンの新入社員の話。
 童貞すぎる!!!! 神澤さんの作品の根底にある湿度感や人間の暗い部分と作品テーマが見事に噛み合っていて、読んでいる最中とても胸が痛かったです。強く生きてくれ、主人公……。
 登場人物のキャラクター性が非常に卑近で共感が持てます。自分に自信がなくて、他者を理想化して、嫌いな相手さえも自分と比べてしまう。拗らせてしまう一歩手前のような、そんな味わいを感じました。或いは既に拗らせているのかもしれない。
 新入社員くんの完璧さも主人公のフィルターを通しているから……という説もありますね。童貞とは究極的に主観の生き物なので、自己判断の結果ひとりで感情を高めていく生き物です(自分の心臓にナイフを突き立てる)。逆に言えば他人の良いところが分かるという素直さがあるのですが、それを表に出さないからこその童貞なんだよな……。
 自分磨きとかで自信をつけてほしい、そう思う主人公でした。彼や彼みたいな人に幸あれ。

謎の暴力:
 これはキツイですね〜!我々のボス、謎のリドラーにちょっと刺さるんじゃないかなと思います。
 主人公僕の虚しさがこれでもかと伝わってくる掌編ですね。童貞の卑屈さと独りよがりさが感じられ、読みながら早くキメろよ!ともやもや出来るところが非常にポイントが高いです。
 主人公のダメさはたくさんあります。連絡先の渡し方が陰キャやね……。自分の容姿を自分で落としまくるのもダメ過ぎる。もっと自信を持って欲しい。そしてタイトルの通り新入社員くんへの卑屈さと素直さがダメ過ぎる。騙されやすそう!
 このようにいくらでもダメ出しが出来てしまうこの主人公……童貞です!
 新入社員くんが実は腹黒なのかマジでいい子なのか、歓迎会が始まってみないと判断がつかないなと思ったので、歓迎会シーンは入れても良かったかもしれません。
 でもこの終わり方故に漂う虚無感に文学性も感じるので難しいところですね……。僕は娯楽が好きなので、ついあと一声!と思ってしまいました。
 童貞がなぜ童貞のままなのか、たいへんわかりやすく現された童貞掌編でした!

謎のきょうじゅ:
テンプレート的に書かれたテンプレート的な童貞小説という感じ。テンプレートなんて別にどこにもありはしないんだけど。なんていうか、努力もしないし戦う前から負けているくせに何かいっちょ前に自分は何かであったつもりでいるみたいな精神性の未熟さが実に童貞くさくて、それらしいといえばそれらしいんだけど、文芸作品として見たときに特にアッピールする点がなくていかんともしがたいな。

初鰹/百歳

謎のリドラー:
 バイト先のツェンさんが突如として辞めた年の話。
 カクヨムでは初めましての方かな? ご参加ありがとうございます!!
 まさしく文学でした。主人公から見たツェンさんやバイト先を取り巻く環境、新しく入ってきた藤峰さんの性格まで叙情的に描かれています。この作品の凄い所として、童貞文学の童貞部分が直接的に描かれていないんですよね。性的な匂いを一切させる事なく、主人公の語り口だけで童貞が表現されている。すごくテクニカルだ……。
 恐らく藤峰は主人公のことが好きで、周囲からすれば二人の関係性は良いものに見えて、それが主人公にとって抗えない大きな流れになってしまっている。何かを失った後に惰性で生きていく人間と、美しい記憶を上書きされていく感覚が肌を刺すように感じられました。
 ツェンさんが万人に理解されるタイプではないことも、彼女との楽しかった記憶を自分だけが持っていることも、その記憶が薄れつつあることも。全てが静かに、確かな美しさを伴ってそこに存在している。そんな小説でした。

謎の暴力:
 めちゃくちゃ文学ですね!!とはいえ僕はあまり文学をわかっていないのですが、何も起こらず何も発展せず主人公が童貞であるとの言及もなく、しっとり進んでいつの間にか終わるこの寂寞が文学かなあと思いました。
 上に書いた通り童貞だという言及がないところが魅力です。言及がないけれどレギュレーションの通りであるならば童貞でなければいけないわけで、ということは童貞なんですよ。消えてしまった女性への未練と現れた女性への距離の取り方、詰められ方などが「童貞である」と看做すだけでたいへんに輝きます。現状維持のような姿勢を崩さない部分がね、特に童貞度が高いなと思いました。
 なぜか粉が降っているというちょっとした不思議な要素がいい味を出しています。タイトルを見るに本当に鰹節なのかな? バイトの面々が急に消えた理由も明かされず、僕はわからないともやもやしてしまうんですが(すみません…)回収すると台無しになる掌編だと思います。
 これで3000文字台か〜〜! 普通にめちゃくちゃワザマエで、指摘もクソもなにもないです! いい掌編をありがとうございました!

正直に一言で申し上げると小説が下手。文章はいっけん端正なんだけど、情報の出し方と構造の作り方が上手でないので読んでいて何がどうなってるのかがだいぶ分かりにくいです。童貞小説としては「らしさ」の薄い作品で、むしろちょっとしたラブロマンスの掌編として美しい雰囲気が出ていないこともない。嫌いではないですが、他人に読ませるものを書くということの練習を意識した方がよいでしょう。

ちんちんが大きすぎたおおかみのお話/ライオンマスク

謎のリドラー:
 ちんちんが大きすぎるおおかみの孤独と、その末路の話。
 大谷ポケカでバズったライオンマスクさんの参戦だ! ありがとうございます!
 フォーマットは子供に読み聞かせできそうな童話なのですが、どこか現実世界のメタファーや寓意のようなものを感じる作品でした。それでいて物語構造は普遍的で共感性があり、ファンシーな絵柄で奥深い絵本を読んでいる感覚です。ちんちんもファンタジー棒って感じがする。
 おおかみの孤独感や距離感のバグによる童貞性に対して身につまされる思いがありました。おおかみは娘のカリカチュアされた女性像や象徴としての大きなちんちん(加害性に対する恐れや自意識、男性性のメタファーなのかもしれない)の果てに孤独の中で死んでしまうのですが、それを見た神様が彼を星座にして後世に残す。……ハッピーエンドかなぁ!? これ公開処刑じゃない!? いや、孤独は癒せるのか……?
 おおかみはどうすれば幸せになれたのだろう、と思いました。ちんちんの大きさを肯定してくれるパートナーがいればよかったのかな……?

謎の暴力:
 こんなん笑うのよ。大谷ポケカで時の人となったライオンマスクさんですが、今度はちんちん童話での殴り込みですね。おおかみさんかわいい。人外×人間(逆も可)大好きなので喜びました。
 大谷ポケカと同じよう、タイトル出オチかと思いきや新美南吉を彷彿とさせるような温かみと切なさがあり、しっかりした筆致の童話です。だがちんちんだ。ちんちんが大きすぎるおおかみ、不幸でしかないですね。多分地面にも擦ってしまうんでしょう。苦労を感じます。貞操帯とかつけな〜〜?
 童貞の独りよがりな雰囲気が、人とおおかみという種族差でも現されていたように思います。急にハラキリ始めたので殺しちゃうのかと躍りましたが生きていました、いやでも殺していたらまた話が変わるので、もしホラー寄り児童文学に書き換える際は殺しましょうという提案を置いていきます。
 オチでそういう回収するんか〜〜い!とついひっくり返りました。普通に星座の由来神話につなげるとは思わず、まさか過ぎて笑っちゃいました。すごくいいオチだと思います。
 童貞児童文学、まったり楽しめました。こっちもバズれバズれ〜〜〜!!!

謎のきょうじゅ:
意欲作だと思う。こういうものにチャレンジしてみたかった、という意気込みはわかる。わかるんだけど、いまいち話全体の整合性やメッセージ性がうまく機能していなくて、意欲が意欲だけで終わっているという感じがある。あと、童貞文学というよりは、これは異類婚姻譚のニュアンスが強いですね。まあ、いろんな作風に挑戦してみること自体はいいと思いますので、ここで止まらずに進んでいくといいです。

思い立った彼に恥はないのか/黒本聖南@快調まではほどほどに

 バイト先の年上の後輩との、とある夜の話。
 初めましての方ですね。よろしくお願いします!
 子犬系童貞攻めBL!!!!! 主催、子犬系童貞攻めBLすき!!
 主人公である小手くんと栗音さんの関係性が好きです。小手くんは栗音さんのことをそこまで嫌ってないのかな……?と思って見たのですが、それにしても栗音さんが童貞攻めすぎる。「強引だって!!」と思いながらも、受け入れてしまう小手くんの感覚がなんとなく理解できる、そんな小説でした。
 主催はBLに関する知識がなく、謎の暴力さんがしっかりとした講評を書いてくれると思うのですが、こういった童貞攻めに対する受け目線の形のBLはフォーマット的に王道なのでしょうか? 主催が新しい性癖の扉を開きかけるかもしれない。
 気になった点としては、栗音さんの「小手先輩の家で飲むから大丈夫!」という台詞があります。その後の関係性を語る上でのフックではあるのですが、それまで主人公の名前が出ていないので初読時は「小手先輩という第3の人間がいるのか?」という風に読んでしまいました。最初に栗音さんに小手先輩呼びをさせるとスムーズだったのかな……と思います。
 とはいえ、非常にハッピーエンドな童貞BLでした。童貞文学の性質的にビターエンドが多いので、読んでいて心がふわりと浮き上がる感覚がしました!

 ゴリゴリに王道BLでした! これはボスと教授は細かく拾えないかもしれないので暴力くんが長めにいきます。
 BL含めて恋愛小説は基本構成がほとんどテンプレートだと日頃感じているのですが、こちらはそのテンプレを忠実に守ったお手本のような掌編だと思います。ちなみにテンプレであることは大切なことだと僕は考えているのでその前提でいきます。
 まずテンプレ上でどう色を出すかという話になるのですが、BLの場合だと主に攻め受けの属性です。こちらのBLは恐らく童貞ワンコくん×多少遊び慣れたゲイと思われます。そう童貞ワンコくん。童貞です。(ついでにゲイもネコ専っぽいので童貞ですね)
 BLはある程度期待通りに進むことが重要です。そうセックスないし性描写です。こちらの掌編は本当に忠実で、ただならぬ仲になるまでの端折り方が上手いです。早速部屋にシケこみ、以前から気になっていたという開示とあわよくばで上がり込んだという本音、かわいいですね。童貞の先走りがよく出ており、まるで犬のように見える攻めくんのかわいらしさにかわいい攻め好きの愛好家は喜びます。受けのちょっと快楽主義な遊び慣れた雰囲気もたいへん良いです!
 せっかくなのでアドバイス(?)を挟むのですが、どちらが話しているのかちょっと混乱する時があります。恐らくですが受けは敬語+◯◯さんで攻めは「先輩」と呼ぶために上下関係がわかりづらく……どちらも一人称「俺」なせいもあるかな…? なのでもし加筆するならこの辺りかなと。これはただの僕の好みですが、童貞ワンコくんの一人称は「おれ」にしましょう!!!とってもかわいいし「俺」に未練やこだわりがないのであればおすすめです!!!!
 攻めのワンコくんはとてもかわいく、受けの仕方ないなーという受け入れ方も性格のゆるさがよく現れており、これから先が気になるとても良い引きです。BLはこうでなければ……どうなんの!?付き合うの!?昔の男とか出てくる!?!?とワクワクして先を妄想するときが……一番楽しい!
 セフレから始まるBL、サイコー! 面白かったです!

ボーイズラブとくくってあるけど、なんていうか、18ページくらいの短いBLアダルト漫画をそのままノベライズした、というような雰囲気の作品。……これ、「男性との性体験は過去に経験している」という前提での話になっているんだけど、ああそうか相手側が童貞だから向こうが主人公ということになるのか……うーん、そのことが何かうまく物語構造に寄与しているかというとあまりなんにもないけれど。内容自体は可もなく不可もなくというところで、まあこのジャンルが好きな人なら摂取はできる、といったところではないかと思う。

知らんことにしといて/おくとりょう

 友達と片想いとどうしようもない心を抱えた“僕”の話。
 おくとりょうさんの作品です。おくとさんの恋愛私小説を何度か読ませていただいたことがあるのですが、その際に感じた温かみや柔らかさのようなものを今作でも感じました。
 ビ、ビタースイート……。まずは構造の話からで申し訳ないのですが、登場人物3者が全て蜂由来の名前なのが好きです。キャッチコピーに書かれているように、蜂と熊と蜂蜜ですね。全体的な雰囲気が統一されていて、そこにちゃんと意味がある。こういうの好き!!
 主人公であるハチがハニーの外見や性格についてしっかりと分析しているのが非常に好きなポイントでした。主人公はちゃんとハニーのことが友達として好きで、ハニーに恋するマキちゃんの事も好き。だからこそ、告白によって変わってしまう関係性は不可逆で、一度知覚してしまうとあの頃の関係には戻れない。せ、切ない……!!
 BSS的な要素もあるのですが、そこよりも3人の関係性に関心が向く味わいは流石の一言でした。ずっと仲良くしていてくれ……

 三角関係だ〜〜〜! 誰も悪くない上になにもなくなる三角関係、いいですね。とても好きです。
 タコちゃんの文章はいつも爽やかさがあるなと僕は思っているのですが、その爽やかさが上手い具合に作用して、切ない三角関係の中に中々珍しいかんじの味わいが生まれています。オノマトペの使い方かな? シリアスになりすぎない塩梅がちょうどいいです。
 あと関西弁がいいですね! 関西弁に限らず方言が出てくると、おっ! と思います。現代ドラマがなんとなく身近に感じられて、知り合いのだめだった恋愛話を聞いているような心地になりました。
 なぜかマキさんがハチくんもハニーくんが好きだと勘違いしていたのがなんとも切ないです。本人が出てくるわけではないけど妙に存在感のあるハニーくんの造形も良かったです。
 鼻毛抜くと痛いよね……。面白かったです!

なんていうか、これは童貞文学というより普通に恋愛小説のくくりではないかな。主人公が同性愛者であるということが話のフックになってるけど、その設定が特に生かされるような何も話の中にないので、出オチで終わってしまっているという感じ。主人公であり語り手である人物について、もう少し掘り下げるなりなんなりしないと作品が活きてこないという印象はどうしてもある。

まだ達/るつぺる

 カードゲームを通した童貞男子大学生同士の友情の話。
 めちゃくちゃ良かった!! ぺゐさんの作品は何作か読ませていただいているのですが、その中でもトップクラスに好きな作品かもしれないです。
 この作品で目を引くのは、慎と航の意地の張り合いから感じる浅ましさとプライド、カッコつけがちな性格の描写です。どの要素も童貞っぽさに繋がっていて、とても味わい深いんですよね。側から見たらどうでもいいように見える事が彼らにとっては人生を左右する大問題で、それを若さと呼ぶには青すぎる情動である。そういう“しょうもなさ”が好きでした。
 慎と航の関係性もいい……。お互いに対等なライバルとして見ていて、その根底には〈友情〉という端的なワードからこぼれ落ちる重い感情がある。樹海に行こうとしたシーンやタバスコで死のうとしたシーンなど、どこか憎めないエピソードに彩りを与えていました。
 慎と航、どっちが先に童貞を卒業するんでしょうね。一見すると航の方がモテそうだけど、慎に対する重い感情的にそれを選ばなさそうな気もする……。
 総合して非常に完成度の高い童貞性だったと思います。あと純血狐ってなんだよ。

 蹂躙ドラゴンカーセックスと蟹アグロでもうダメでした。バスで人権を失いし暴力くんです、めちゃくちゃ笑っちゃった! あとちょっと泣きました。
 童貞文学というと基本的に対好きな相手をメインに据えての構成が多いかなと勝手に思っていたので、好きな女を出しつつ失恋させつつブロマンスしつつデュエルしつつ熱い友情エンドというドカ盛り究極トッピングが出てきて感情がめちゃくちゃです。そんで文章が読みやすいねんな。ぺるさんの文章はいつも読みやすいです。パクります。
 好きなくだりは妖精さんの話しか出来なくなったところを青木ヶ原樹海に連行する場面です。ここで友情を感じるので、好きな子をBSSされてアイスゴブリンになり死にかけ失恋と友情喪失の痛みこのカードが場に出た時点でモンスターカードが場に出ていた場合そのカードを破壊するが発動しても、彼女とのデートを切り上げ戻ってきた彼が「お前をよくない言い方した」というyu-jyoが発動し握手が成立して対戦が終了し、熱い展開に読者僕は不覚にもうるっと来てバスで二度目の人権を失いました。
 これは本当にいいですね!!!トンチキ具合も絶妙でたいへん楽しめました!!!
 純血狐一番ワロタ。暴力植物のカード効果も今度教えてネ。

ちょっと全体的に攻めすぎている気はしないでもないが、話としてちゃんとまとまっているし、何より面白い。落ちがいい。スタンダードな落とし方といえばスタンダードな落とし方なんだけど、王道は王の道だから王道と呼ばれるわけなわけですよ。これはれっきとした童貞文学の一角というに足る作品だと思う。ただね。この企画でこれをいうと身もふたもないから言うべきじゃないかもしれないけど、この二人についていえば「ソープに行け」と言いたくなるところがあるね。ほかの作品の童貞たちにはあまりそういうこと思わないんだけど。

童貞が聞きたくなかったセリフを聞いた話/まらはる

 好意を持っていた異性から“とある事”を聞いた童貞の思考の話。
 うおおおお……うおおおお……(慟哭) タツくん、お前は俺だよ……。
 ……主催の最近のエピソードにクリティカルで刺さったので冷静な講評ができそうにありません。ただ、めっちゃ好きです。
 タツくんの独り語りもさることながら、この関係性を続けているミサキちゃんに対する怖さもちょっとだけあるんですよね。友情なのか、都合のいい存在なのか……?
 NTRやBSSですらなく、そもそもスタートラインにさえ立てていなかった感覚、痛いほどわかるんですよね。今から進めようとしたシナリオの幕が急激に下りる感覚。自分の抱いていた期待の分だけ萎んでいく感情と、どうしたらいいのかわからない困惑。浮き足立っていた感情がゼロに戻っただけなのに、自分の中ではとても大きなマイナスが心に渦巻き続ける、そんな話でした。
 サークルの後輩も思わせぶりな態度で!!(再び冷静さを失う主催)
 主人公のフィルターを通した対人関係なので実際の相手の感情は藪の中なのですが、この感じで異性と話せる主人公は将来的に良い人が見つかるんじゃないかな……? 頑張れよ、俺も頑張るから……。

 NTRにもBSSにもなれないバドエン! とってもバッドエンドで、心の中で十字を切りました。トドメがほんとあ〜〜あ〜〜〜、可哀想…………。
 開幕から聞きたくなかったセリフを聞かされるスタートダッシュがたいへんいいですね!どう展開するんだ? と思ったら聞きたくなかったセリフ聞かされたから話が全然頭に入ってこないし自分の趣味であるコミケなどが急に否定的に感じられるし脚本の内容はわりと真面目にダメ出しされるしで、終始主人公くん可哀想……が続いていって読み応えがありました。
 ――独り相撲、四股踏み地削り、蟻地獄。
 一句読んでしまった。
 ここめちゃくちゃいいですね!とても好きです。ほぼ辞世の句でした。可哀想……(三回目)
 何が可哀想っていうとこの主人公とくべつ悪いところがないんですよ。童貞ゆえの視野狭窄拗らせとか、感傷マゾって言うんですかね? そういう可哀想さに酔う部分なんかがなく、シンプルに恋愛対象になれないという虚しさがありありと感じられて僕はとても悲しいです。バッドエンドです。
 後輩ちゃんももしかして好きなの?と思わせておいて違う部分、綺麗にオチていて面白かったですが主人公はやはり可哀想(四回目)でした!
 主人公くん、脚本や小説書くの、やめないでくれよな……!

この企画では典型的な、ヘタレがひたすらヘタれている作品。それが悪いとは言わないが、かといって良いというべき何かがあるというわけでもない。童貞が出てくる小説、ということと、童貞を描き出す文学、というのは何かもうちょっと「位相」の違いみたいなものがあってほしいんだけど、なかなか難しいのかな……。しかしこの女、底意地が悪いのか何も考えていないだけなのか、重ねて止めを刺しに来ますね。気づいてないわけないだろ普通。よっぽど馬鹿な女でない限りは。

二人で踊りましょう/姫路 りしゅう

 大学時代に出会ったサークルの姫に恋をする青年の話。
 主催が勝手にマイメン呼ばわりしてる姫ことりしゅうさんの作品です。宵姫明煌路履修改二って呼んだ方がいい?
 確かに僕は心臓を狙えと言った。……完敗です。僕は童貞大学生の等身大の恋愛に弱い。殺してくれ!!!!!!!!!
 要するに呪いの話なんですよ。主人公にとっての梨夏ちゃんは明確に恋を自覚した存在で、彼女の思わせぶりな態度や姿を童貞卒業後も思い返し続ける。これは童貞卒業によって上書きされるものではなく、時間によって朽ち果てていくまでは苦い記憶として残り続ける。主催はまだ癒えてない傷を背負って生きているので、ものすごく刺さりました。メッセージのやり取りが嫌にリアルなんだよな。
 風間さんが梨夏ちゃんを抱いてないなら、主人公もワンチャン行けた気もするんだよな……。一度諦めてしまうと、もうどうしようもないんですけど……。

 ウサウサナイトフィーバーがやってきましたね。ちなみに原曲をまともに聴いたことがなくて、せっかくなので聴かないまま講評を書きます。
 よく聞く話に「女は上書き保存、男は名前を付けて保存」というものがあり、真偽はともかくこの主人公は「本気で好きだった彼女の名前で保存したファイルをずっと使ってる」という印象で、童貞じゃなくなった後すら童貞性に囚われている幕切れがなんとも虚しいですね。タイトルを見ると更に虚しい。一生二人で踊れないだろうから……。
 風間さんの立ち位置と「男からすると楽しいしギャグセンもあるし好きな先輩だが実はかなり軽薄でヤリチン」みたいな像がとても良かったです。いますよね〜〜こういう人!でも女からすると年上で気さくで優しくて自分を出せる相手みたいになるというか、多分りかちゃんに処女性(少女性?)があるので、まあ、主人公くんより風間さんになびいちゃうわな……という抗えない虚無感。
 我々のボス読んでちょっと死んだんじゃないかな? とても良く童貞が現された掌編だったと思います。リーダビリティの高さも魅力だぜ、じゃあまたな。ガチャッ ツーツー……。

類型としてはファム・ファタール系統の物語構造だと思うけど、そこまでのめりこむほどの相手か?というところに物語的な説得力が見出せなくて、いまひとつ乗れなかったところがある。でもまあ、全体的には頭一つ抜け出るくらいにはレベルの高い作品です。物語的な説得力がないとは言ったけど、現実の恋愛では運命の女なんてそんなもので、特別な何かがあるからファム・ファタールになるわけではなくてなんとなく自分の人生にそういうものは現れるのだ、というのはそうだといえばそういうものだしねえ。

火と僕とサセ子と/惣山沙樹

 大学にいる『サセ子』を狙う童貞の青年の話。
 初めましての方ですね。よろしくお願いします!!
 主人公がどうしようもなさすぎる。恐らく作者の方が意図している動きだとは思うのですが、半ばインセル的なものに片足を突っ込みかけている主人公の自意識と性行為に対する憧れ、それでいて本人が一番童貞性に固執している虚しさをありありと感じました。恐らく自己肯定感も低く、努力の方向性がややズレている。そこに愛嬌を見出せるか見出せないかで作品の味が変わってくるのが面白いポイントでした。
 映画で聞き齧った知識で卒業前に煙草を吸うディティールの細かさが特に好きです。口では効率的なことを言っているのに、内心の憧れは隠しきれていない。だから肝心の童貞卒業の時に理想と現実のギャップで苦しむんだよな……。
 主人公は拗らせるべくして拗らせた、そんな感情を抱きました。お疲れ様……。

 タイトルのサセ子のパンチがいいですね!どうでもいいのですが僕の地域ではパン子と呼ばれていました。多分パンパン(擬音)ってことだと思われます。
 主人公のどうしょうもない感じが深い味わいになっている現代ドラマです!硬派な文章が内容マッチしており、文字数以上の読み応えを感じました。主人公には終始な、なんかこの子……大丈夫か……?となってくる……。完全に拗らせている……。
 サセ子さんがいると聞いて爆速で煙草を買いに行き喫煙所に入り浸るくだりがとても好きです。主人公、嫌いでもないんだけどこれはチビデブ関係なくモテんだろうな……と思ってしまう塩梅が絶妙でした。
 ちんちんから血が出たのは剥けたからってことなのかな? 恥ずかしながらちんちんがないため、そういうこともあるのかな…?と想像しにくかったのですが、流血沙汰は好きなので無問題です。大事なければいいですね……。それより大事なものを失っている気もしますが……。
 主人公の童貞性が楽しめた掌編でした!

え?なんで血が出たの?いや、男性でもそういうことが起こることがあるのは漠然と知ってはいるが、できれば作品内で説明してほしい。なんていうか、一般論としては「ソープに行く方が正しい」とも「素人で童貞を捨てる方がかっこいい」ともどちらにも特に思い入れはないし、どちらに固執する必要もないだろうと思っているのだけど、この男についていえばやっぱりこいつも「ソープに行け」と言われてしかるべきだと思う。どっちかに固執するのはね、それ自体がかっこ悪いんだよ。

どうしようもない/惟風

 SNSで知り合った女性と会おうとする青年の話。
 ど、どうしようもない!!! 主人公の思考感は誤用の方の蛙化現象的……というか、過度に理想化した存在に勝手に幻滅してるだけなんですけど、僕はその思考に割と共感できてしまう方なので彼のアレさを糾弾できない!! ただ毛布をかけて「いつか慣れるよ……」というしかないです。がんばれ、主人公。
 主人公の一人語りは痛いほど共感できるのですが、それにしても受け身すぎる。完全に出鼻を挫かれてどうしていいかわからなくなっている小動物のそれなのですが、相手からするとその態度が苛つく原因になるという感情もわかってしまう。せめてもっと素直になっていれば……格好つけなければ……まだなんとかなったのかもしれない……。
 童貞の思考感的には一回会うと更に好きになる気持ちが強い気もするのですが、彼の場合はそのルートも絶たれたからな……。どうしようもない、そんな話でした。

 あ……敢えて言おう……(主人公が)カスであると……。
 正直な話、勝手に相手の容姿や立ち振る舞いを妄想してたら写真見てちょっとガッカリまではこういう失敗や経験はありますわね……と頷くに留まるし、全然良かった失敗談に僕は思ったのですが、待ち合わせをしている時に
「僕はずっと前からここにいるのに、まだ来ないなんて。今日のことを楽しみにしていないのだろうか。」
 とムッとし始めるところがエグ過ぎて評価を改めました。素晴らしい解像度の「ダメ童貞」です。けして童貞自体が悪いわけではない。だがしかし拗らせてしまい、尚且つ傲慢さが顔を覗かせてしまった時点で、この主人公の「終わり」が明確に感じられます。
 取るに足らない失恋と言っているところから見ると全然反省していません。多分似たようなことをこの先もやります。一ミリも発展していないのに勝手に友達以上だと思い込んだりします。フラれた時に「まあ僕には合わない子だった」と言い訳したりします。
 このように未来や現在の終わりまで想像させてくれる素晴らしいダメ童貞の掌編だったと思います。
 これは書くの辛かったでしょう……ありがとうございました……。

本当にタイトルの通りだな。主人公の人品のひどさ、ここまで読んできた作品の中でも屈指だと思う。実は私もSNSでつながって会ってみてヘコーとなった経験は無いわけではないのだが、すごく相手に問題があったという話ではなくて、相手が生身の人間だったという事実そのものに耐えられなくてこの結末になるの、童貞がどうとかいう以前の次元で、ダメ人間がテーマの小説になってしまっていると思う。

俺はAV女優、鏡シュラが好きだ/木船田ヒロマル

 推しのAV女優を夢の中で抱くと決心した童貞の話。
 アホ!!!! いっそ清々しさまであるほどの主人公の熱意であるとか、ある種狂気的なまでのプロセスであるとか、その結果のオチとか……。童貞エンタメとしての完成度がとても高かったです。陽の童貞だ。
 童貞文学を抜きにしても『手が届かないものに手を伸ばそうとする存在』という概念が主催好みで、それを“夢”というワードで回収する手腕が好きです。僕の好きな歌詞でエロい夢を『妄想の海へ漕ぎ出す』という表現がされていたのですが、この主人公はまさしく妄想の海へ漕ぎ出してるよ……。
 「童貞は夢の中で卒業できない」というあるある、共感できてしまう自分が悲しくなってきました。こう、その瞬間だけ世界が抽象化されて圧縮されるんですよね。覚醒と半覚醒の間の微睡を体感する感じ、わかるな〜!!
 鏡シュラの名前のモデル、あの人とあの人かな……。

 個人的にかなりタイムリーで笑ってしまいました! ちょうど配偶者と童貞だと挿入の夢を見ることができないという話をしたところでした……これが引き寄せの法則ですか?
 ヒロマルさんは基本構成が過不足なく綺麗で、読みやすく、技術において突っ込むようなところはないです! 今作もたいへんサクサクと読み進めることができ、楽しい読書になりました。
 所々に挟まれる比喩表現がとても好きです。内容が下ネタというか、鏡シュラさんが好きすぎてセックスがしたいという欲望に終始しており、「そうだ!明晰夢を見よう!」と発想がいくところに主人公への好感を持ちました。優しいね。なんとか撮影スタジオを割り出し夜に出待ちして襲いかかり「AV女優なんだからヤラせろよ!」などとならず、夢で抱こう……となるところ、とってもかわいいし、基本的に善人の方なんだろうなと思いました。
 う〜〜ん好きだな〜〜〜好きです! 僕自体がクズとかカスを書きがちなので、こういう空回っちゃっただけの善人が主人公のちょっとおバカだけど愛せる話を読むと可愛さが溢れて好きになっちゃいます。幸せになってほしい、いやなれる!
 オチもタイムリーだしめっちゃほっこりできました。面白かったです!!

ガストにトンカツ定食ってあったっけ?まあ、別に無くてもいいんだけど。今無いとしてもあったことがあるかもしれないし、未来のある時点ではあるかもしれないし。とまあどうでもいいことで話を引っ張ったが、これは意欲的な作品だけど、根本的に「童貞」に焦点が当たっておらず、ある男の狂気のような妄執がテーマになっている話なので、そこをどう評価するかですねえ。一つの掌編小説作品として確かに面白いことは面白いんだけど、「小説点」は高くても「テーマ点」ではちょっと外してるかな。そんな感じ。

童貞珠/尾八原ジュージ

 体内で宝玉を精製できる童貞の恩返しの話。
 進捗モンスターエンジンことジュージさんの作品です。書籍化おめでとうございます!
 ジュージさんがキッカケで主催の恋愛私小説シリーズが生まれたと言っても過言ではないのですが(恋愛私小説童貞卒業ですね)、ジュージさんの書く童貞文学が見られるとは……!!
 まず書き出しが強い。「鶴を獲る罠にかかって震えている童貞を見つけた」じゃないんだよ。昔話に唐突に出てくるギャルとかフレアスカートのセンスも好きです。フレアスカート……?(なんらかの記憶がフラッシュバックする)
 自らの身体から生み出したものを与える時の童貞の動機も妙に重いし、その後の一念発起もどうしようもなさすぎて好きです。さ、誘い受け……!! その後のBSSも含めて完成度の高い独り相撲でした。童貞に乾杯!

 最初は汚い貝の火? となったんですがちゃんと童貞でした! でもおれは何を読んでいるんだ……?(褒めています)
 童貞珠についての説明が迫真過ぎて笑っちゃいました。それはそれは……なんだろう……30を越えて童貞だと妖精になれるみたいな…、? ナチュラルに鶴の罠にかかっているところがうっかりさんな雰囲気ですね。童貞の童貞さを珠という物理で現しているところがこれまでの投稿作と違う斬新な部分です。
 後半にかけていくに連れ、現代風単語も出てきてトンチキさが増しますが、同時に童貞の哀しさも増していって不思議な読者体験でした。……。いやもうこれなんて講評したらいいの!? クソデカボイスで独り言叫び始めるところとかお前どうしたァ!? 妖精さん見えてんのぉ!? ツッコミが追い付かなくてほぼずっと笑ってました!
 でもオチは好いた子に彼ピッピがいて珠を即売り歓楽街、その後の消息は知れませんが素人童貞として再起をはかったと僕は信じています。
 ちんちんおおかみといい童貞珠といい童話童貞は魔窟ですな……。

出だしが強い。この時点でもう奇譚として完成している感すらある。最近ではなかなか見られなくなったジュージさんの、ホラー成分もないトンチキ小説の中でも、まあ佳作の部類には入るんじゃないかな。人を食ったような嘲弄的なメタネタの数々をどう評するかというのが難しいところで、これが「童貞文学の大賞受賞作」になるところはちょっと想像しがたいんだけど、やっぱり小説がうまい人の小品は強いし面白い。そう思いました。まる。

ボクは童貞という存在を知らない/金沢出流

 童貞でなくなった小さな『ボク』と、お姉さんの話。
 カクヨムでは初めましての方ですね。この小説がカクヨム初投稿とのことで、ご参加ありがとうございます!
 描かれたテーマとしては『不在の在』でしょうか。童貞という価値観を内在させる前に捨ててしまった少年は、その価値を理解する前に奪われてしまった、と言っていいと思います。パッケージだけなら所謂おねショタなのですが、実質的には間違いなくチャイルド・アビューズだよ……。
 童貞文学のアプローチとして非常に新鮮でした。童貞性に固執するのはそれに対する価値が人生に根付いてしまっているケースが多いからだと思うのですが、気付く前に捨ててしまうとそれは空洞になる。空洞の輪郭をなぞるからこそ見えてくる存在の大きさもあるのだと思いました。
 最後の段落でお姉さんの人間性が見えてくるのも好きです。コレクション欲や何かを育てる欲はあっても、途中で満足したり飽きてしまう。それは彼女にとって『ボク』のトレーナー認定証だったのかもしれないし、ボク自身だったのかもしれない。彼女の蜘蛛の巣は、この後も広がり続けているのでしょう。

 ポケットモンスターって海外スラング(?)でちんちんって意味だったな……。そう思い出しながら読了しました。かけてあるんでしょうか? 偶々だったら本当にすみません。
 でも相手の女性は学歴やら見るにポケットモンスター=ちんちんだとわかってて「満足するまでポケモンカードで対戦」という言い回しをした気がします。だとすればとんだ悪女です、大人になった少年に心の傷のようなものがひとまずはなさそうで安心しました。でも警察には……行こう!
 ポケモンバトル(意味深)の詳細が語られないところが粋ですね! 人によっては詳細が聞きたいと思うのですが、文体の感じを見るに事細かに描写すると純文学からは遠ざかりそうですので、このままで過不足ないのかな? でも恐らくわかりにくくはあり(僕は数秒考えました)、僕のようなエンタメ読みにはどうしても刺さりにくいだろうなとは思います。申し訳ない…!
 童貞という単語が内包する様々な感情を理解しないままの脱童貞という内容も他作と差別化がはかれており、なるほどそのパターン! と膝を打ちました。興味深く読めた掌編でした。

だいたい発表順で読んできているわけですが、頭ひとつ抜けた印象がある。これは大賞候補として論じうる作品の一つだと思う。情報が伏せられている部分が多いんだけど、その「伏せ方」がうまい。童貞のヘタレ感情みたいなものとはまったく縁のない、清楚ですらある少年の童貞喪失の物語であるんだけど、その具体的な部分は黙して語らない。黙して語らないというところに、この作品の「童貞文学としての完成」はあるんだと思う。

あなたのヴァンパイア/鍵崎佐吉

 酔った勢いで女友達と致すことになった童貞と、彼に備わった性癖の話。
 好きです。短い中に夜を纏うような雰囲気があって、尚且つ主人公の童貞性とストーリーがマッチしている。こういう時にカッコつけたがる感じが童貞なんだよ!!!となる作品でした。
 彼が目覚めた性癖は征服欲と動物的な肉欲を併せ持ったものなのですが、それと性行為を繋げられていないので童貞のままである。彼の本懐は満たされているのに童貞のままだ、という捻れた構図の倒錯が魅力の作品ですね。
 側から見ると行為をできなかった負け惜しみに見えても、彼にとっては満足できる行動の結果である。賢者タイムの独りよがりさは童貞的で、行動だけを取り上げると主人公は経験豊富なクズ男にも見える。その多層構造が魅力的な作品でした。
 主人公、佐々木さん相手だとどうなるんだろう。

 特殊性癖に絡めてある童貞の話で、たいへん楽しく読みました。暴力くんは暴力が好きだからです。噛むの……いいですよね。好きです。よく書きます。
 好きな女の子が他にいるが性欲と雰囲気に任せ、別の女の子とシケこむというスタンダードな入りですが、上記の噛む(噛まれる)という特殊性癖がすごくいい味を出しています。支配欲征服欲が満たされ、童貞をすっ飛ばして別の次元に到達するという流れが綺麗に決まっており、更には(挿入していないという点では)童貞であるまま賢者タイムも経験と、事後でありながら童貞でもあるというテクニカルな構成だと思いました。
 その賢者タイムで相手の女性のことが思いっきりどうでもよくなるという虚無の到来、そこはかとないクズさで僕は好きです。
 ビターな締めくくりが合う暴力込みの掌編、笑顔で読み終えました。面白かったです!

童貞文学っていうか……ある種のフェティシズム的なものがテーマなのかな(フェティシズムという言葉は実はこれ誤用なんですがそのまま使います)。やりたい一心を押し隠した童貞たちばかりの中で、主人公のやる気のなさが光る。女がちょっとかわいそうではあるが、まあこっちはたぶん雰囲気的に処女でもなさそうだしな……ってそこは別にどうでもいいか。

リロードとシャッガァーン/神崎ひなた

 結婚して2年、いまだ童貞の主人公と彼の金玉をリロードする妻と杉田智和の話。
 出たな、神崎ひなた……!!(ご結婚おめでとうございます)
 主催は神崎ひなた厄介オタクかつ神崎ひなた文学のオタクを自負しているので童貞文学の主催の自我と殴り合いの喧嘩をしているのですが、読み終わった直後の感想としては「やってくれたな……!」の一言です。まず講評冒頭のあらすじが正気じゃないのよ。
 神崎ひなた文学のオタク視点からすると、出てくる登場人物のフィクション性の高さが好きです。ヤミタの妙なアクの強さとか、「シャッガァーン」しか言わない妻の雰囲気とか、急に出てくる杉田智和とか。
 そもそもこの作品の要素に杉田智和って必要だったか??ってなるあたりも神崎ひなた文学性が高い。悪名高き『アキハル』ほどはっちゃけてはいないけど、よくよく考えると全員何言ってんだ??となる味わい深さは唯一無二です。今、自分は高濃度の神ひな文学を吸っている。
 ストーリーそのもののエンタメ性の高さや味わいなどは非常に大満足なのですが、今までの童貞文学の評価軸に合わせると非常に評価が難しい。劇物を投げ込まれた感覚です。このまま突っ走ってくれよな!!

 すごい、おもいのほかめちゃくちゃ文学だった……。暴力くんの好きな舞城王太郎に通ずるものを感じる文学性がありました。お前何言うてんねん……というトンチキさを内包しつつあ〜〜そういう!? という納得に持っていく感じ、とても好きです。
 奥さまの造形がたいへんかわいらしいです。シャッガーンで起こしてくるチャーミングな奥さまと、シャッガーンされても脳内が常に冷静な主人公の対比がなんとも言えず心地よい。あ〜〜〜これこの夫婦好きだな〜〜〜〜!と魂に思わせてくる力がありました。
 ただ主人公の愚痴を聞いているだけかと思いきや、ヤミタさんにも見せ場と役割があったところもたいへん良かったです。
 夫婦だけどまだ童貞という設定も効いていますね! 装填した弾、魂込めて発射して奥さまを撃ち抜いて欲しいなと思います。
 面白かった〜〜〜!!!ありがとうございました!!!

なんか、シュール系。ぜんぜん「この企画でいうところの」童貞性に寄り添えていないしそういうものに興味もなさそうな筆致で描かれた、いまひとつ全体が整合しているのかどうかよくわからない話に無理がある世界の物語。真面目に考えると深刻なセックスレス夫婦の話であって、童貞のメンタリティがどうのとかいうことからは遥かに遠いところに主な要素のすべてが置かれている感じ。さすがに書きなれている人の筆だけあって非常にうまいんですが、なんていうか、得意の主題でないものを無理に書こうとしているみたいな匂いが若干するなぁ。

けもの/秋永真琴

 美術部の憧れの先輩と、心の中に飼う“けもの”の話。
 秋永先生だ!! 僕が主催をしている企画では初参加になりますかね?
 青春だ〜!!!! 凛とした先輩である麻耶さんと彼女に恋をする主人公は、どちらも心の奥の“けもの”を飼っている。それは己の中の欲望や感情に向き合うという行為に近く、大人になると折り合いを付けて逃がしてしまうものなのかもしれません。絵を描かなくなった麻耶先輩に対する主人公の内に秘めた欲求は創作という形に昇華され、キャンバスに叩きつけられた筆は大きな絵となっていく。童貞性を創作者における初期衝動に例えるのは新鮮なアプローチで、思わず膝を打ちました。
 谷口、たぶん麻耶先輩と付き合ってるんだろうな……という匙加減も好きです。谷口も麻耶先輩の心が自分を向いているからこそ主人公を茶化せるんだろうな、という嫌な質感までありありと表現されていました。
 主人公のどうにもならない感情が乗った筆致は、どんな色を描くのか。願わくば、彼の“けもの”が幸せな最期を迎えますように。

 タイトルのシンプルさがまず好きすぎます、これ以上でも以下でもなく当然これ以外でもないというキマったタイトル……。
「けもの」が「童貞性」「処女性」の比喩のようなものだと捉えて読みました。主人公とマヤさん二人だと確かにある似た者同士のどこか現実離れしている雰囲気が、立ち振る舞いが現代そのものの谷口くんが入ってくると一瞬で霧散するところ、秋永先生うますぎる……。
 主人公はマヤさんのけものはふいにいなくなったと語りましたが、僕はこれ谷口の持つ別種のけものに捧げたり、押し負けたり、食わせちゃった結果なんだろうなと思いました。彼氏が出来た瞬間にオタクをやめて画材をすべて僕にくれた友達を思い出しました。
 寄り添ったり共感したりするだけでは得られない関係性は良し悪しともかく確かにあり、主人公にはわからないのかもしれないですね…。
 短い中に青春に取り残されようとしている少年の悲哀が詰まっており、たいへん面白かったです! 好きだな〜〜〜!

美しい話。でも、みもふたもないんだけど、この話は別に主人公が童貞でなくても成立する。主題はあくまでも芸術的葛藤とかそういうものであって、性的衝動みたいなものは脇に添えられているだけだから。芸術家としての葛藤と童貞としての葛藤みたいなものを重ね合わせて透かし浮きにしようとした作品なんだろうということはわかるけど、そこまで奥深く成功しているかというと、それは微妙なところだと思う。

Andante/狐

 えっ、自主企画って主催が好きに暴れていい場所じゃないんですか!?

 切り離せと言われたので作品のみで講評を書きます。狐さんを貶したり、傷付けようとして書いてはいないとの理解をお願いいたします。
 本当に申し訳ないのですが、ここまで読んだ中で一番苛立つ主人公でした。
 承認欲求に抗えずこの段階まで来ている(来てしまった)童貞は最早モンスターなのだと思います。ただ、主人公から見たアキちゃんの理解不能な振る舞いが、彼をモンスターにしたのだとはよくわかります。感情の違いが生む悲劇がダイレクトに伝わる、熱のある作品です。
 これ多分エグみが強すぎるので読み物としてのアク抜きやぼかしという点ではあまり出来ていないかな……? でも文学だからこれでいいのか……? いやボスが主催だからこれでいいか……。
 所感ですが、アキちゃんにあるものは庇護欲が近く、頼られていることが嬉しい部分はあり、彼女の理想の立ち位置は「一切の恋愛感情のない、たまに帰宅できる実家にいる姉」なんじゃないかなと……。
 読みながら本当にめちゃくちゃ険しい顔になりました。腹立つのか虚しいのか悲しいのかよくわからなくなりました。こんな読書体験をすることはまずないので、童貞の文学としての極地のひとつだと思います。色んな読み方ができるものってそうあるものではないですからね……。
 ホットココア飲む? なにはともあれ、本当にここまでされたらあんたがボスだよという気持ちです!

主催者自作。何が恐ろしいってこれが私小説であるらしい事実が一番恐ろしいのだけど、作品全体を貫く童貞臭さという観点から見れば多分随一か、そうでなくてもトップクラスではあろうと思う。純粋に文芸として評価するとき、登場人物が主人公はじめみんなダメでイヤな奴でおよそ読み手に対して娯楽性を提供しない、ウルトラリアリズム的な世界観(私小説なんだから当たり前かもしれないが)であることがよくも悪くも非常に特徴的で、悪く言えば「調理が甘い」。よく言えば「作品の調理の仕方そのものにすら童貞臭さというものがにじみ出ていて企画趣旨にはマッチしている」。読み物として正直かなりキッツイんだけど、下手だからキッツイことになってるわけではなく力のある書き手が書いているがゆえにキッツイ種類の作品だというのも確かであり、俺はこれを大賞に推したいかというと推したいとは思わないけど、しかし主催者冠作品の名に恥じない「いかにもな作品」として完成されているとは思う。

籠城/武州人也

 久しぶりに帰郷した男が、初恋を思い起こす話。
 念者さんの作品です。僕が主催の自主企画はなんやかんやで皆勤賞かな?
 非常に王道な童貞文学でありながら、念者さんの色がきっちりと出ている印象を受けました。作品で語られる漢文の要素がそう感じさせるのか、それが作品自体の雰囲気と合わさってとても好きです。
 主人公の自己評価が低く、唯一の浮いた話である赤崎さんとの記憶を拠り所にしている感じの生々しさや、学生時代から現代までの思考感に一貫性があるのが好きです。後悔は既に遅く、苦く眩しい記憶を思い返して歩いて行くしかない。
 現在の赤崎さんは既に結婚して家庭がありますが、記憶の中の彼女は中学時代の輝かしい姿のまま固着されている。思い出は年月を経るごとに美化され、薄れていく記憶を抱えていく主人公には守るべき現状の生活がある。だから、きっと会わないのが正解なのだと思いました。

 めちゃくちゃバランスが良い掌編です。武州さんの硬質な筆致が、もう三十になるけれど童貞で、でもそれでいいと思っている諦観に抜群にマッチしており、すっと話が頭に入ってきました。
 自分の状況を文豪や偉人の言葉を引用しつつ噛み砕いていく様子が自分でも言った「頭でっかち」によく噛み合っています。本当に読みやすかったな……なぜだろう……? 主人公への苛立ちがほとんどなかったからかな…?
 確かに初恋の人に初恋したエピソードはちょっと気持ち悪い、でも妄想で完結された話ではあるし、相手の女性は「頼りになる貴方でいてね」と書いてくれていた事実がある。臆病なだけかもしれないけど、誠実な方ではあるとの印象で、このキャラクター性もまた硬質な文章に合っているんですね。
 このように、一文目にも書いた通りとてもバランスが良かったです。なので何も突っ込むところが……ない……!
 最後の夢の中に溶けるような終わりも綺麗で、とても好きな作品でした。

最後まで読んでようやくはっきり確信したがサメは出てこなかった(武州さんの作品にはサメがよく出てくるんです)。いわゆるダメな童貞の話の類型だけど、社会人にもなっていまだにこれをやっているしょうもない男の話。なんていうか、こういうのを投げてくる人ほんとうにこの企画で多いんだけど、それをやるならやるで「もう一味」か「もう一工夫」何かがないと評価のしようがないというのが正直なところですね。この幼馴染の少女が男のことをどう思っていたのかもまったく見えないし、そういう角度からの掘り下げも難しいな、これについては。

童貞、銃を拾う。/真狩海斗

 喋る銃を拾った童貞と、その小さな成長の話。
 初めましての方ですね。よろしくお願いします!
 いやー、好きです。エンタメとしての童貞文学の中でもかなり好きな味わいでした。主催はそもそもエンタメ小説が好きなので、とにかく美味しく味わいました。大傑作まである……。
 モチーフの使い方が見事です。喋る銃は主人公の本音やある種のマチズモのメタファーで、内心では誰かを撃ち抜きたくてたまらない主人公の心情を表す存在だと見ました。主人公とのやりとりは軽快で相棒感さえ感じるのですが、それが他者からの声である保証はない。そんな空気を感じました。飛び道具的な「バキバキ童貞」(春とヒコーキのぐんぴぃさんですね)というワードは一見するとフックなのですが、クライマックスでとてつもないカタルシスをもたらすパーツになる。バキバキをそんな意味で使うか……という驚きと熱い展開、特に自意識を撃ち砕く描写がとにかく好きです。これもチェーホフの銃なんだよな……。
 童貞の内面性を深掘りしながらパルプの味も匂わせ、エンタメ的な成長要素もある。文句のない大傑作だと思います。弟子にしてください。

 面白い。面白いで講評終わらせかけたくらいには面白いです。
 まずこの意味のわからなさが良いですね。日本で銃拾えるわけないやろ、銃が喋るわけないやろ、リアリティラインどうなってんだ!? というツッコミは完全に些末で、むしろその意味のわからなさが展開の読めなさを生んでおり、他作品との違いを演出できていると思います。
 撃鉄を竦ませたりする銃特有の地の文もいいですね! とてもかわいい。そしてSNS民なら一度は見たことがあると思われる「バキバキ童貞」の彼が使われているところが僕は一番良いなと思いました。本文中で触れられていますが「バキバキ童貞」さんは「ポジティブな童貞」なんですよね。童貞=ネガティブなイメージはありがちというか、非童貞の方が格が上ということはないんですけど童貞を書く上で童貞を悩み過ぎる主人公はテンプレで、でもその払拭に使われているのが「バキバキ童貞」さんという、童貞が童貞をハッとさせてくれるところ、本当に良い書き方です。
 銃も撃ったことがないという前提では童貞で、こちらも主人公の前進に欠かせない重要な役割であり、ちんちんとの親和性(射精を発射やらガトリングやらとつい比喩ってしまいますし)も相俟ってとても読み応えがありました。
 ああ……ポジティブに踏み出せる童貞は素敵だ……。
 ありがとうございました!

うーん。頑張って書いたんだなというのは伝わってくる。すぐ上で書いた「ありがちな童貞が童貞くさいことを考えたりうだうだしたりする話に加える一工夫」として、童貞が銃を拾う、というのはまあ悪くはないと思う。でも、「銃が喋る」というのがもう既にいまいちだし、成功もしていないと思う。銃を拾ったことによって話をどう動かすか、それを考えるのが小説というものですよ。銃が男根の暗喩になっているのも、ありきたりな発想であまり意味がないです。ただ厳しいことを言いましたが、ワンアイデアをひねろうとして一味加えたこと自体は評価しています。

白映え/碧月 葉
 
 童貞に悩む大学生と、その友人との宅飲みの話。
 初めましての方ですね。ご参加ありがとうございます!
 日常系作品や片想いの関係性の1ページを切り取った作品だと読みました。作中のお酒に関する描写がしっかりしていて、作品全体の雰囲気作りに寄与している印象を受けました。
 黒瀬さんの性別が途中まで「どっちだ……」となる部分が好きです。最後でボーイッシュな女子と読んだのですが、気の置けない親友としてのやりとりとしてはちょうど良いのかもしれない。そこから恋心を自覚するうちに、相手に対して色々な感情を抱いていく流れも好きです。
 主人公と黒瀬さんの関係性、続きが気になりますね! 欲を言えばもう少し進展していくところまでのストーリーが読みたいな、と思うくらい雰囲気のある作品でした。

 アオハルだ〜〜可愛い! 文章に瑞々しさがあり、あら〜〜〜可愛いわね……と近所のおばちゃん顔になりました。
 童貞いじりをされて、でも先輩の武勇伝を聞いても特に羨ましくはない……と主人公が考えるところが好きです。強がりなどではなく本当に羨ましくはないし、むしろ合わせて童貞ステレオタイプのような返しを先輩にする気遣いと空気の読める社会性……すぐに童貞ではなくなるだろうなと思いました。いい子だ!
 指摘になってしまい申し訳ないのですが、黒瀬が女の子(と同時に好きな相手)というのは、ミステリ読みなどにはすぐにわかってしまうと思われます。好きな子がいる話が出て、その後すぐに黒瀬が出てきて、なら構造と文字数的にオチさせるためには好きな子が黒瀬というオチかな、まで読む人間は深読んじゃうんです……。
 でもこちらの作品はミステリなわけではないので、そんなに気にしなくて大丈夫です! むしろギミック取っちゃいましょう、主人公の等身大なキャラクターが素敵ですし黒瀬の気さくで爽やかな雰囲気も良いので、アオハル一本背負いで戦えると思います!
 好きな子がいて甘酸っぱく悶々とする童貞、笑顔で読み進められました!

これはあれだ、「男だと見せかけて実は女でしたオチ」のパターンですね。これも「童貞臭い童貞がうだうだする」に一味を加えた作品であると言ってよいでしょう。ただ、小説では非常に使いやすいテクニックなので(絵がないからね)、よく使われる小技です。ていうか押し倒せヘタレ。と思った。

一人心中/春海水亭

 童貞が過去に出会ったとある女子高生と、そこから生じた歪みの話。
 『尺八様』や『異世界チクショー』の春海水亭さんです。胡乱でトンチキなイメージのある作者の方ですが、個人的には湿度感のあるホラーが非常に好物で、今回もその文脈にあると思いました。
 出てくる女が全員ヤバくてサイコーでした。りりぃも大概アレなんですけど、そんなりりぃが常識人に思えるほどのオーラを放つ黒髪女子高生の奇妙な魅力。当時中学生だった主人公が容易に狂ってしまうほどにはファム・ファタール性が高く、それでいて本当に碌でもない。死を以て永遠になったところまで最悪度数が高いです。隙がないな?
 主人公の童貞性は受動的な立ち位置とその性癖によるものが大きいのですが、歪みを抱えたまま生きてしまったものは簡単に治らないんですよね。正常になれないまま、傷が塞がるのを待ち続けて生きていくしかない。主人公がこのまま童貞卒業する日が来るのか不安になるオチも含めて最高でした。
 童貞性、性癖ポイント、ともに高かったです!

 素晴らしいです。コメディの作風(ちなみに感度6500倍クイズが好きです)を存じ上げているゆえにギャップで評価が上がってもいるのですが、差し引いたとしても素晴らしいです。
 何が素晴らしいかというとまず構造の話をしますが後半に語られる相田の過去の場面、過去を現在軸のように描写し、りりぃとのやりとりを過去のように挟んでいる部分です。これが酩酊感をもたらす大変良い構造で、相田の過去をのめり込んで覗いてしまう…いいですね、尺八様くらい読まれてほしい。
 そしてりりぃのキャラ像が相田を蹂躙するのに本当に合っているんですよ! 特にうわっと思ったのが「なんていうか相手に許されたいと思ってるからね」で、俗に言う火の玉ストレートなのですが本人に直接言ってしまえる立ち位置と性格になっているのがすごくいい。
 あと文体なのですが、文学の方面に振ろうと調整して下さったのかな? と思いました。嬉しいです。同時に一人心中というこれしかないタイトルと相田の持つ被虐気質にマッチしていて、全体的に本当にバランスが良い…!! 当然アムカや絞首などの暴力表現は僕が好きなので加点です。
 純文学すぎると全然わからん…になってしまう暴力くんにも読みやすく、尚且つ人間の業を三者三様(JKと相田はもちろんりりぃもやべーやつなので)見事に絡み合わせた、素晴らしい童貞文学でした。
 セックスは来来来世!面白かった〜〜〜〜!!!!

うーん。確かに童貞でないと成立しない話になっていて、童貞文学ですねこれは。主題はEDなのかと思ったらそうじゃない。いわゆるロールプレイ的なお遊び的なものじゃない、もっと根の深い病理的なサディズムの物語。そんなに傑出したストーリー展開があるわけではないんだけど、個人的には面白かったです。舞台は現代なんだろうけど、雰囲気としては古典小説のような趣を感じた。私の中では上位に食い込む作品の一つだと言っていいと思う。

こころがとけていくまで/チャーハン

 クリスマスが近づく冬の夜、童貞の独白の話。
 つ、辛い……!! 露悪的なまでの語りで繰り広げられる一人の人間の人生と生活の話でした。
 一人語りの切実さや彼の視点から見える世界はどう見ても暗く、とても醜く見えます。もう少し俯瞰すれば世界はもっといいものだ、という慰めの言葉ではどうにもできないほどに、彼が見る世界には地獄が広がっている。誰かを羨むことしかできない、そんな状態の表現として非常に良くできた作品だと思います。
 彼が触れた世界がもう少し優しければ、悪意のスパイラルに陥ることはなかったんだろうか……。穏やかだった心が解けて、どうしようもなくなっていく。そんな話でした。

 これでもかと言うくらいに虚無でした。私は物凄く好きな雰囲気です。
 こちらの作品、おおっ!と思った点があって、それは「童貞を拗らせることになった初恋の女性」が明確には存在しないことです。徹頭徹尾「童貞」のみで展開されており、これが見たかったんですよ!!!!と膝を打ちました。
 そう、童貞の悲哀と虚無が見たかった。バドエンでもハピエンでもいいから、童貞がどう生活してどうなるのかが見たかったんです。セリフがほぼ全て独り言である部分がとにかく虚しく、舌を噛み痛かった時すら一人である場面が目も当てられません。
 単純な僕の好みとしてもうちょっと苦しんでいるところが見たかったので、大学時代のエピソードが具体的にあった方が嬉しいです。特にレポートを盗んだ相手の逆恨みです。どう嫌がらせをされたのか詳らかにすると、最後の夜の底に解けるような終わりがいっそう虚無いのではないかなと思いました。
 でも上記は僕の完全な趣味なので、このままの方が受け止められる読者さんの方が多いかも…! 悲哀や虚無、人がたくさんいる都会でひとりぼっちという何者にもなれない諦観などが充分楽しめる作品だと思います!
 孤独死してなかったらいいですね……。

えっれえ暗くて何の救いもない話。童貞臭い童貞がうだうだしてるのはだいたいよくあるやつなんですが、この作品は世界そのものにも救いがないところが特徴的で、別にこいつ童貞を捨てても救われないだろ……。故にソープに行けとも言えないんだわさ。

ニンフルサグの聖なる狐/きょうじゅ

 電脳セックスが発達した未来、セクサロイド管理AIと純潔を貫く少年の話。
 童貞SFだ!! ありそうでなかった新機軸の童貞文学ですが、主催はサイバーパンクモノが大好物です! さては主催狙いだな……?
 所々に挿入される女神や神話絡みのワードが物語に一貫性を持たせていて好きです。童貞は女性を過度に女神扱いするパターンがある(主催調べ)のですが、そこから来たネーミングだと面白いですね。
 主人公であるキタキツネ、有り体に言えば「風俗でプレイをせずにコミュニケーションを取ってモテようとするやつ」というキャラクター造形なのですが、童貞はそこを切り離せない。なんなら相手の人に強い感情を持ちかねない。そういう話だと見ました。ウブでピュアなキタキツネの押しの強さを可愛げと取るか怖さと取るかで、この作品の読み味は変わってくると思います。
 主催はウズメさんみたいなタイプが好きです。幸せになれよ、キタキツネ。

 身も蓋もない感想からで申し訳ないんですが、キタキツネがわりとマジでキツくて引いてしまいました……! でもきょうじゅのことなのでこのキャラクター性(童貞性)に引く人がいるとわかって書かれた気はします。
 たとえばBLだったとしたら萌えただろうか…? と考えてみたんですが、キタキツネに一番キモいと思ったところが「僕のイシュタル」だったので、無理なような気がします。僕の……僕のて……なんかこう……風俗嬢ガチ恋オタクってこんな感じなんだぁ……という気分になりました。
 相変わらず読みやすく、AI嬢のマリアとアメノウズメの話も挟まり「どういう意図でキタキツネはログインするのか?」という話を引っ張る構成がとても上手いと思います。それ故にこう……キタキツネの存在が浮き彫りになり……やっぱりちょっとキモい……!!!
 AIとは言え人の裸を目に毒と言い放つキタキツネくん、僕はやっぱりなんか嫌だな! でも面白かったです、ミニキャライシュタルちょっと見てみたい。

自作。自分の企画じゃないので自作語りはやめておきます。

ふたりにはあとがなくて/君足巳足

 同じゲームをプレイする中で出会った中学生同士の初体験の話。
 きみたりさんの童貞文学だ!! よく話していて思うことなのですが、主催ときみたりさんは完全にタイプや思考が真逆です。その中でどのようなアプローチの童貞文学を書いてくるのか……と思っていたのですが、参りました。好きです。
 まず中学生同士なのがいいんですよ。童貞性というのは固着した思春期を削ぎ落としきれずに結晶化した状態だと思っているのですが、描かれている二人はまだ新鮮な思春期です。本当ならそこまで焦らなくてもいい段階で、「後腐れがない」という理由で行為経験を済ませる。それ自体は一見すると童貞性から遠いのですが、主人公やエニちゃんのキャラクターとしての中学生らしさ(瑞々しさ)が思春期性を補強することで童貞文学としての味わいを出している。時価で取引されてる新鮮な寿司を食べている感覚になりました。
 この達観しているようで初々しい関係性とその後の顛末がグッと引き立てられるその後の展開が好きです。お互いにその後の選択への後悔や未練はなく、記憶だけが残る。爽やかなオチだ……!!

 あ〜〜〜良いですね良いです、めちゃくちゃ良いです。読みやす〜い! と思うのはやっぱり古川日出男的なあれなんだろうか……。
 もうね、助かりました。多分ここまででほぼなかったパターンの童貞で、助かりました。童貞を拗らせているわけではない童貞……ありがとうございます。
 童貞だった頃、という回想の構成ゆえの落ち着きが文面にあり、もう本当に……ほっとしました。具体的なエピソードのひとつひとつ、会話のひとつひとつが日常で、あーこの二人は日本のどこかにいるだろうな、と感じられるところがとても好きです。
 最後の幕切れがちょっとビターでこれもまた良かったです。後腐れたわけではないけど別に忘れるわけでもなく、たまにポップアップする普段はどうでもいい思い出、ありますよね。
 僕もまあいいか、で流しがちな人間なので……身につまされる感じがある掌編でした。ナチュラルでフラットな童貞が来て本当に良かったです。助かりました。

ばっさり切り捨てますが、きみたりさんには童貞小説は書けないんだな、と思いました。青春小説として、あるいは男女の小説としてはよく書けていますが、これはただ少年が童貞を失うプロセスを描写した小説であって「童貞文学」ではない。私の判断はそんなところです。いや、別に非モテでもなんでもない少年が少女と一緒に成長を遂げる作品が童貞文学足りえる可能性は十分あると思うけど、この作品についていえば「それでそうなる条件を満たせてはいない」という印象でしたので。キャラクターの立てっぷりとか、情緒の細かい配置とか、非常にうまいんですけど、どこをとっても「童貞文学だ」と思うような要素は私には見出せませんでした。でも面白い。別のテーマの企画だったら高評価を差し上げていると思う。

天使の胃袋/草森ゆき

 性行為の直前に嘔吐してしまう主人公とヤリチンの友人が実家に帰省する話。
 『不能共』の草さんの童貞BLだ!! 主催が初めて書いたBLは草さんの企画から生まれたものなので勝手に親だと思っています。
 面白かった〜!! 主人公の強いコンプレックスとしての童貞性と、その対極にいる存在である直己の対比が好きです。
 確かに性行為はあくまでもコミュニケーション手段の一つで、ただの行為以上でも以下でもない。それだけで何かを語るほど人間は単純ではない……という観点は豊富な性経験がある直己だからこそ説得力のある言葉だ、と思いました。童貞文学の逆位相だ。
 また、主人公が行為の直前に嘔吐してしまう理由を実家への帰省や過去の記憶から紐解いていく展開はミステリ的で、最後に導かれる解答のようなものに納得感のある構成も好きです。これ、このままなし崩し的に直己と初体験を終えるんじゃないの……?
 最後の「私」は少し未来の「彼」なのかな、と思いました。吹っ切れて、トラウマを過去にできる。そんな人間になってたらいいな。
 読んでいて救われるような気分になる童貞文学でした。ありがとう……!

 二割くらい私小説です。

すごい。さすがというかちゃんと童貞で文学だ。あとBLというか、気軽に男にも手を出すバイセクシャルの性的放埓者とノンケ男の一夜の交歓。ただ、野暮な突っ込みなのは分かってるんだけどこういう作品を読むとどうしてもこれを言わずにいられないのが臨床心理学修士号所持者の業というかサガで、この主人公は専門的なカウンセリングと心理治療を受けた方がいい、というようなことを俺は考えずにいられない。ここには書かないが、有効そうな治療方法をいくつか真面目にピックアップし始めてしまったりもする。これ、言ってしまうとみもふたもないんですけど、ヤリチン男が連れてくる娼婦とろくに変わらんような関係性の女で童貞を捨てようとするからいかんのだよな。事前に自分の過去とトラウマを打ち明けて、気長に付き合ってくれる女性を相手に時間をかけて治療した方がいいんだよ、絶対。って、そういう話じゃねえわけだが。でもまあ、そういうことを話に組み込んでしまうと多分童貞文学にはならなくなるわけで、この人生の迷走ぶりこそが童貞文学の童貞文学たるゆえんなんだろうな、と思った。

君の見てる景色に僕は…/花群ゆうき

 中学の頃からの片想いに決着をつける童貞の話。
 童貞文学大賞をきっかけにカクヨムアカウントを登録し作品を出された方です。ご参加ありがとうございます! 良き童貞文学ライフを!
 よ、佳乃……。主人公の空回り感や浮き足立っている感じが痛いほど伝わり、童貞文学として非常に完成度が高いのですが、作品そのものはどちらかというと佳乃に感情の軸足があるように読みました。「佳乃視点でアンサー的な小説が書けるのではないか」と思うほど、意図的に伏せられた感情がある気がするんですよね。
 佳乃に主人公に対する恋愛感情はなく、セフレ的な接し方なら主人公は関係を維持できたのか……? それでも消耗していくだけなら、彼女のSNSをブロックするのも正解だったのかもしれない。噛み合わなかった歯車はもうどうしようもない、そんな話でした。

 う〜〜〜んこのすれ違いぶり………やはり童貞からすると女性というのは何を考えているのかわからないんでしょうか? とはいえ僕もこの作品の彼女が何を考えていたのかはまるでわからないのですが…。
 主人公の情けなさというか、最後にがんばって告白するところさえ、盤石の布陣じゃないと動きたくないというような臆病さを感じ、それが童貞臭くて良い味わいになっている小説でした。最後に彼女をちゃんとブロックできてたいへん偉いです! 付き合っていても摩耗するだけの人間、やはり存在しますので……。
 全体的にさっぱり味で、ここまでの参加作が原液ダバダバ童貞が多かったため、どうしても影に隠れてしまう部分があります。僕の好みで言うなら彼女と友達が付き合ってしまうBSS部分がもっと濃い方が入り込みやすいかな…?
 でも好みの問題なので、このさらりとした読みやすさを保ちたい場合僕の言うことは無視してください!
 いける!と思ったのにいけない、悲しいよね……。主人公くんにいいことがありますように…。

えーと、小説をお書きになるのは初めてですかね?もし違ったら失礼しましたと言うほかありませんが、筆致からしてそれがありありとわかる感じです。正直、童貞文学がどうだとかいう評価を下す段階の筆力ではなく、とりあえずもっと数をこなして上達を目指しましょう、と言うよりほかはない感じですね。でもまあ、執筆お疲れ様でした。小説の世界へようこそ(違ったらマジごめん)。

筒と鏡と偽物の星/宮下愚弟

 居酒屋で昔好きだった相手を思い浮かべる童貞の話。
 カクヨムでは初めましての方です。企画参加ありがとうございます!!
 うわーーーーーーー!! めちゃくちゃ良い……。
 主人公と香奈のやりとりから覗ける関係性や彼女自身の性格が好きです。こう、童貞を狂わせるタイプの匂いがする。二人のやりとりは軽快で親密なのですが、どこか隔たりがある。その隔たりを作っているのは主人公で、その隔たりこそが幻想が見せる輝きだった。そんな話でした。
 未経験からくる性行為や相手の感情のブラックボックスに対する“神秘の解体”というアプローチは、万華鏡を分解してパーツを取り出したまま興味を失うのと同じだ、という語りは納得感があり、かつ共感する要素がありました。そこで再び組み立てられなかったのが彼の童貞たる所以だった……というストーリーは、行為をした後の童貞の質感として実感が伴っている気がします。後々結婚相手が見つかったことでそういう事もできるようになったんだろうな……。
 僕も好きな相手に未知でいてほしいタイプなので、読んでいて身につまされる思いがありました。万華鏡を組み上げられるようにならないとな……。

 こちらめっちゃいいですね〜〜!!僕はとても好きな作品でした。
 色々好きなところはあるのですが、一番おお! と思ったのはバラした万華鏡の回収の仕方です。好きだった女性を遂に抱けたけど、それきり興味をなくすという流れはよく見るのですが、そこからもう一歩進んだ「本当につまらないのは自分だった」まで至る終わりがとても良いです。
 そして締めに使われるのが、冒頭でも言及していたバラバラにした万華鏡で、この流れが非常にスムーズで話がすっと染み込む心地がしました。
 童貞卒業というよりは童貞喪失というような後戻りのできない雰囲気も好みです。作者さんが肉体的な童貞自体には然程執着や思い入れがなく、その後に残る精神的な童貞性に射程を定めてらっしゃった印象で、それが僕にはとても馴染みやすかったです。
 現在の子供へ思いが向いてのじんわりと温まるような終わり方も綺麗で、良い掌編を読んだなーと思いました。
 追記→ちょっと経ってから読み直したら結末の文章が変わってたのですが、こっちだと汚れちまった悲しみを感じました。僕は初めの方が好きだったのですが、こちらの方が作者さんの言いたかったことかな?と思いました。

なんだろう、何が格別どうってわけじゃないんだが、割とよかった。話の構造もストーリー展開も特筆すべきところはないんだけど、ダメな人間がダメな人間なりに自嘲して成長する物語であるところが良いのかもしれない。個人的にはかなり評価の高い作品ですね、こういう系統の中では。でも主催が求めているものはこういうんじゃないような気もするな。難しいな。

あの子/@Sikuri_Ututuna

 同窓会で再会した中学時代の「あの子」との思い出の話。
 しくりさんだ!! 参加ありがとうございます!!
 文学でした。掌編という形式の中に重厚な物語が展開されていて、初読時にグッと胸にくる感じが好きです。
 京子が既に死んでいるという事が首のアザから察せられる展開が好きです。全能感と少しの下心から来るある種の英雄感情的なものを持っていた子供の頃と大人になった現在の対比、苦い記憶と傷を抱えたまま生きる事、などの要素を配置するにあたって、彼女の死は言及される前に匂わされるのがちょうど良い。そう感じました。
 忘れるものでもないし、忘れられるものでもない。そんな記憶を抱えて生きていく主人公が幸福な最期を迎えられますように。

 しっとりしたムードが魅力で、一抹の寂しさがある掌編でした。
 京子のちょっと間が外れた雰囲気のキャラ造形がすごく良いと思います、昔も変わった子だったんだろうな〜と想像が膨らみました。同窓会の喧騒からふっと外れて、寄ってきた誰かとぼんやり話す風景がとても良く、僕は映像や絵が浮かぶタイプではないですが想像できて楽しかったです。
 話としては全体がなんとなくばらけている印象があります。京子が実は既に……というギミックのために、前半部分が多少ごまかした書き方になっているからかな…? 前半の同窓会場面の間に京子の状態を開示しちゃった方が、後半以降読みやすくなるんじゃないかなと思います。あくまでも僕の所感ですが…!
 「同窓会という場所は、過去を振り返る場所として適している。皆、過去の登場人物だからだ。」の一文が特に好きで、はっとするような表現がいくつかあり、僕にない感性がある書き手さんだなと思いました!
 後追いはやめろやめろ〜! 面白かったです!

しくりさんの小説読むのもひさしぶり。悪くなかったです。捨て損ねた童貞に祟られている、永遠の少年の物語。ただもだもだしているダメな童貞というんじゃない、負い切れないものに引け目を感じている間に何もかも破綻して、そして結局は違う形で背負い込んでしまう。人間の業のようなものが割とうまく表現されていると思う。まあそんなに目新しさのある作品ではないんだけど、全体的に肌触りがよかった。

僕が愛した君の嘘/紫陽_凛

 『桃うさぎ』というアカウントに恋をする少年と、その裏の話。
 しよポメさんだ! 書籍化おめでとうございます!!
 アッキー……。僕は『手の届かない星に手を伸ばす』話が好きなのですが、彼の中学生特有の青臭さと瑞々しさ、視野が狭まってる感じからその展開になるか……という味わいを感じました。「SNSでそういうポエム書くタイプはしょうもないよ!!」という思いもあるんですが、それでもアッキーに共感してしまう自分がいるんだよな。
 『桃うさぎ』さんこと優紀が大人として割とどうしようもない部分も好きです。童貞文学としてはこっちの視点が『擦れ切った童貞』でしょうか。若者の眩しい光に引け目を感じながら、必死に寂しさを埋めようとする。無垢な中学生を騙し切れず罪悪感を抱いてしまった部分が、本当にどうしようもないと思いました。騙すなら騙しきってやれよ!! 大人だろ!?
 優紀が求めていたのはペルソナではなく本当の自分を見てくれる人で、それとネカマという行為はもの凄く相性が悪いんじゃないか、と思いました。無垢な中学生にそんな感情を受け止めてもらえると思うなよ!!
 最後は姪の結婚式で再会する2人で締められるのですが、ここからBL展開に行くのか……? 優紀はアッキーが好意的な動機で探してくれていると思っていますが、本当は糾弾するために会いたかったのかもしれない。叱ってやれアッキー!!

 はじめに潔く謝りたいのですが、キャラが全員苦手でした……。でもけして下手とか面白くないとかではなく、単純にキャラが僕の好みではないという話です、申し訳ない……!!
 とにかく文章がお上手です! 特に情景の描写が巧みで、雪国特有の雪掻きやら雪寄せ、銀世界に登る太陽の描写が美しいです。これが文体ができているというやつなのかな? 一文から摂取できる栄養素が高いです。
 キャラが好きではない以外で気になったのが、一万文字におさめるには前半に尺を割きすぎかな…?というところです。実際最終話がかなり駆け足に感じられ、唐突な再会に思えて納得しにくかったです。あくまで僕の意見なので参考までに……。
 これからの未来が感じられるような仄かな希望の見える終わり方が綺麗だなと思いました。BLというかBL文芸(百合みたいな呼び方があればいいんですが…)という雰囲気がとても良かったです。

なんていうか、ずいぶん昔のネット恋愛小説のような趣の作品。要するに……ネカマ(これ自体が古い言葉)を演じることにハマって、遠くの少年に懸想してしまった男の話、よね。なんていうか、騙すなら騙し通してやれよ、とちょっと思う。バラすな。夢を壊すな。永遠の夢でいてやれ。それが可能な唯一の贖罪だろう。別にBLや同性愛そのものを否定はしないけど、これがBLかと言われるとかなり抵抗がある。ゆえにオチがちょっと厳しい感がある。そんなところですね。

エイズで死んだ童貞/山本寛太

 童貞のまま性病で死んだ友人の謎を追う話。
 初めましての方です。ご参加ありがとうございます!
 ホラーミステリーだ……。学生時代に童貞を誓い合った友人グループが大人になっていくにつれ誓いさえも形骸化していくなか、1人だけ童貞を貫いたかもしれない男の不可解な死。彼の童貞性を証明するのは最期の会話しかない。この設定自体がミステリの冒頭として出来が良く、すごく続きが気になる牽引力がありました。これ短編で終わらせるの勿体無いよ……。
 ここからどう転ぶかがとても気になります。オカルト的な話に展開していくのか、ヒューマンドラマになるのか。主人公は各国で何を見るのでしょうか。

 めっちゃいい。めっちゃいいです。童貞会…?なにそれ…!?からのこれ文学だわ……と納得できるこのギャップがものすごく刺さりました。めっちゃいいな…これ……。
 驚くほど童貞だったや、「俺は全人類と同時にセックスしてみたい。一人を選べないから、童貞でいるしかない」など、好きな一文が大量にあり、前半部分で水永をかなり好きになってしまいました。こんなカッコいい童貞がいるかよ……いたよ………!!!
 処女懐胎ならぬ童貞罹患? のシーンもめちゃくちゃ好きです。この辺りがタグのボーイズラブにもかかるのかな? 水永は主人公のことを理由はわからないけど何かしらの特別には思っていたことが伝わり、行かないでくれ水永……という気持ちになりました。
 あらゆる性病にかかったとされるところ(恐らく真実という体で読めば)がちょっとした不思議要素というか、シームレスに捩じ込まれる現実離れしている設定で、僕はこういう雰囲気の小説が大好きなので余計に加点が入りました。
 水永の旅路をなぞると決意し、彼は童貞だったと一人だけでも信じることにした光のある終わり方もものすごく良かったです。面白かったです。

どう評価したらいいのか難しいな、これ。語り手で主人公である人物は確かにありがちな童貞なんだけどそれはあまり重要じゃなくて、水永という、「童貞サークル」の主催者が実質的な主役。彼は童貞じゃないんだけど(素人童貞かもしれないが)、自分は童貞だと主張していて、性病にかかって死ぬ。童貞とは何か、ということを考えさせられるという点では随一の作品。エンタメとしても成り立っているし、ミステリ要素もあるし、そしてすごく哲学的であるような気もする。ひょっとしたら大賞候補の一角かもしれない。

燃え滾るふたつのファイヤーボールと磨き抜かれたダガーを俺は持て余している/南沼

 盗賊ギルドに所属するギデオンが受けた直近の任務の話。
 ギ、ギデオン!!! ありそうでなかった童貞ファンタジーというアプローチに、卒業し損ねた思春期を持て余すギデオンの煩悶が確かな筆致で描かれていました。
 素直になったり蛮勇があれば童貞卒業くらい簡単にできていた気がするのですが、肥大化した自意識と生存戦略がそうさせなかった。結果的に独りで致して悶々としてしまうのは、彼が普段から命の奪い合いを行っているからでしょうか。リリィとかもう少し関係性を育てればいけた気がするけどな……。
 最後はエロトラップダンジョンにかかり、童貞のまま70歳で死ぬというオチも見事でした。まぁ最後に快楽を味わえたなら良かったんじゃないか……という思いと、でも仮初だしなぁ……という思いが交錯する、考えさせるオチだと思います。ギデオン……。

 キャッチコピーもタイトルも笑かしにきてる! と思ったら内容も全力で下ネタで笑っちゃいました。暴力くんは普通に下ネタに弱いです。
 青いギデオンくんが宿屋のベッドで今まで出会ったエロすぎる女を思い出し自家発電に勤しむという流れが三度繰り返されており、回想形式の構成としてはそらもうツッコミどころなどないです。読みやすい。
 クソデカ文章力で殴りながら「すごかったのは、アマリリスのおっぱいである」などと挟まれたら笑うしかないんですよね。本当にずっと笑ってました。ヒロマルさんといい南沼さんといい、文章力構成力で高得点キメながら全力下ネタしてくれるので大好きです。僕の癒し枠に追加しました。
 一番好きなシーンは爆速で宿屋の窓を破り外へ飛び出していくところです。一番笑いました。いや笑い事ではないんですが、あまりに電光石火だったもので…。
 最後のオチのエロトラップダンジョンも笑っちゃったんですが、普通に死んじゃってちょっと寂しくなりました。エロすぎるだろ!と言っていた頃のギデオンくんに馳せちゃうな…。
 全力でボケに来てくださって楽しかったです!

もうちょっと徹底的にハジけさせて不条理なまでにギャグを敷き詰めた方が「らしい」作品になったんじゃないかなと思う。娯楽作品としては楽しいんだけど、正直なところ「世界観全体のまとまり」がいまひとつよくわからない。主人公の性格、職業、その他もろもろが「彼は童貞として生涯を終えた」ということに結びつかないんだよね、プロット構造として。

公正取引委員会/@o714

 クラスメイトに恋をする男子の煩悶と進展の話。
 初めましての方ですね。よろしくお願いします!
 すいません。主催の頭が悪いのが原因なのですが、この作品の要素を完全に拾えた自信がなく……。タグに「ミステリ」とあったので最後の展開には何らかの解答があるのだと思うのですが、ここはミステリを読み慣れている他の評議員に任せた!
 描写の緻密さが好きです。主人公の持って回った言い回しから溢れ出す童貞感がとにかく魅力的で、独り語りにちゃんと色がついている。描写に個性がある文体の魅力が十分に伝わる作品でした。

 暴力くんはミステリが大好きです! 全体的な文章表現が本格ミステリ、古典ミステリの趣があり、(悪い意味ではなく)衒学的な言い回しや単語を使っているところがすごく雰囲気がありました。
 大変申し訳ないのですが、キャラが多すぎて一読しただけでは話が全く掴めませんでした。僕はシンプルに馬鹿なのであんまり多いと覚えられないんですね…。また、今誰が視点なのかも分かりにくく、おそらく五話の途中までは河野視点、五話後半が細田視点、六話が角田視点だと思うのですが、まず主人公と思われる河野の名前がずっと出てこず、他のキャラは小高、松本、日野、加藤と色々出てくる上に、氏名の説明をされていないのにファーストネーム呼びをされて誰のことか全くわからず、読んでいて辛かったです。
 上記のように名前を出せているのは読解出来なさすぎて真横にメモを置き、キャラ名と恐らくの関係性と時系列を書き出して整理したからです。それでも多分作者さんの書きたかったものは僕はまったく読み取れていないと思います。
 文章自体の雰囲気は本当にすごくあって、懐かし〜!という気持ちになりました。流れを把握した後にタイトルを見た時のなるほど感も楽しかったです!

何がなんだかわからなかった。もう一回最初から読み直すべきかもしれないがそこまでするモチベーションが沸かない。たぶん、たいしたことのない話をもってまわって書きすぎているんだと思う。全体的に情報の出し方がもっさりしすぎです。

お前にセックスの経験があるかどうかを世界はまったく気にしていない/和田島イサキ

 最終決戦の直前、互いに思いの丈を語り合う勇者と魔王の話。
 イサキさん作品の「ダメ人間をポップに描く」雰囲気が好きなのですが、この作品でもそれが如実に発揮されていました。魔王のどうしようもない感じは美少女だからこそ脱臭されている気はするのですが、それでも隠しきれない童貞性の圧! 勇者の台詞に主催までダメージを受けつつも、話の筋はコメディなのでスラスラ読めてしまう。強い……。
 中盤まで読んだ段階では「これ別に処女小説でもよくない……?」と思ったのですが、終盤でその感想が吹き飛びました。魔王に対比される存在としての勇者がすでに失ってしまった物、トラウマと受けた傷を描く上では、たしかに魔王は童貞である必要がある。この物語構成の転換の上手さで「イサキさん作品読んでる!!!」となる味わいでした。
 魔王と勇者、幸せに生きてくれ。

 タイトルが火の玉ストレート!と思ったら内容も火の玉ストレートでした。冒頭から「それを個性にしちゃったら人間おしまいだよね」と来て胸が痛みました。掴みが最高!
 魔王と勇者だった!とすぐにわかるところもたいへんポイントが高いです。早めの情報開示、僕大好きです。えっラブコメ?いやラブコメ、ラブコメだ。分かります、魔王がめんどくさいのに可愛いので…。
 いつものイサキ節という感じで「やった〜〜待ってました!」となれてとっても楽しかったです! ウン百年処女として鎮座する魔王、むしろ光り輝いて見えました。
 勇者可哀想過ぎん?とは思ったのですが正直興奮しました。童貞どころか……な勇者と純潔極まった魔王という対比構造もすごく好きです。
 イサキさんは完全に文体も特有の持ち味もあり、他の人には書こうと思っても書けないフレーズや感情表現の連続で、面白かった!!以外全然何も言う事ないです。というわけで面白かったです!

順番抜かして先に読んだ。で、これから講評を書く。傑出した作品なのはかなり多くの人が認めるところだと思うんだけど、実は個人的にこういう「勇者と魔王の話」というのがかなり好きじゃない。ライトノベルのテンプレートの一つと言ってもいいくらいよくあるんだけど、ほんっとうに、俺はこの手のが好きじゃない。勇者の方が女ならまだましなんだけど。世界観の掘り下げ方とか、人物像の深みの描写とか、実に和田島さんらしい仕上がりの作品ではあって、しかしであるがゆえにこの魔王の描写が本当に個人的にキツかった。魔王という存在には邪悪であってほしいんだよ。偉大であってほしいんだよ。まったくもって個人的な思想に過ぎないんだけど、実際そうなんだよ……。でもまあ客観的っぽい評価をしましょう。「童貞」が「女」であるという変化球をはじめ、本当にこのイサキさんという人は何者なんだ?という以前からの疑いが余計深まるくらい技巧に満ち満ちた作品と言っていい。作品としての格は非常に高い。でもきょうじゅの地雷です。以上。

こんにゃく/2121

 童貞がこんにゃくで自慰を試みる話。
 タグに自慰と筑前煮が並ぶことある??
 中・高生の性知識において友人から提供された情報というのはものすごく大きいです。『こんにゃくを使う』以外にも『片栗粉X』とかもありましたね……。(試したことはないです)
使ったこんにゃくをちゃんと処理しなかったことが主人公の悲劇のきっかけなのですが、衛生的にダメだろ!!(煮沸消毒になるのか?)
 これ、家族にも何も言えないのが特につらいですね。秘密を抱えて生きていくしかない。そんな童貞の悲哀がありありと描かれていました。
 そんな話だったか??

 辛すぎ……。辛いですね。こんにゃくでキメるところまではコメディの装いだったものの、姉ちゃんが帰ってきてからの展開があまりに主人公には辛すぎる……。
 確かにホラーというか、ジャンルに困る作品だっただろうなと思います。ギリギリ現代ドラマ……? 私は立場上そこそこ料理はするので、きっとちゃんと洗ってくれただろうと信じることしかできない……!
 下ネタですが全体的にさらっとしていて読みやすく、童貞の悲哀の書き方がなかったパターンで面白かったです。オカズをオカズにされるというこの……。
 真実を知らない家族が美味しいと食べていたことが救いですね!頑張れ少年……!

うーん……。なんか、むかしのラジオ番組の投稿のネタかなんかにするにはいいかもしれないが、わざわざ短編尺の小説にしてこれを読まされても、その、なんだ、困る。正直なところ。話の主題の部分、童貞でなくても成立するし……。

いかなる痛みも伴わない去勢/五三六P・二四三・渡

 睾丸にしこりを見つけた男が思い返す過去の記憶とこれからの話。
 五三六Pさんだ! 主催の自主企画でも常連の方ですね。
 フィクションと銘打たれていますが、非常に現実的な質感でした。物語の小道具として出てくるカクヨム等のギミックもそう感じさせ、「この主人公が日本のどこかに本当にいるのかもしれない」と感じさせるほど鮮やかに切り取られている印象を受けました。
 主人公の内省的で薄暗い独り語りでありながら、それが内包する承認欲求や自己防衛の反応までも描かれています。ここが非常に童貞的で、自意識の強さと哀れみを感じさせながらも後ろ暗い共感性を抱くキャラクターではないかと思います。
 彼がこのまま生き続けることは“救い”だと思います。それがなりたくなかった自分の姿でも、生きていくしかない。そんな味わいを感じる作品でした。

 僕こちらめちゃくちゃ好きです。主人公の一人語りで進んで、他のキャラはほぼ出て来ないに等しいんですが、文学ってこんな小説かな?とぼんやり思っている解釈に今までで一番合っている感じがしました。
 内容は本当にどうしようもないというか、言ってしまえばしょうもないことを自省したり諦めたりする「人間ならよくあること」に終始されていて、でも「人間を書く」ってこういうことだろうなと僕は思いました。
 オモロ〜〜! となったり、考えさせられる……となったりするわけではなく、どこかにいる取り立てて秀でたところのない童貞の、つまんねえな!と鼻で笑われそうな事の顛末だけど、主人公はふっと気が緩んで美味しいものを食べに行こう、と落ち着くところが、すごく腑に落ちる感じがしました。
 美術館の端のほうに飾られている、技術以外の部分でなんだか惹かれるな…と思う絵画を見たような気持ちでした。とても好きな文学作品です。

ソープに行く前に病院に行け。どうしてもこれが言いたい。全体的に必要のない描写が多くて、このワンプロットの内容だったら3000字レベルの掌編にまとめた方が綺麗だったと思う。いちおう童貞でないと成り立たない作品として成り立っており、話にフックもあるんだけど、正直言って、文学性という観点からみるとかなり弱い作品だと言わざるを得ないな。

一宿一飯/あきかん

 雨の中、少年を拾った「俺」の話。
 ハードボイルド童貞BLだ……! 物語の合間に挟まれる狩猟パートも丁寧に描かれていて、ストーリーの輪郭をなぞるかのようにリンクしていく構成が好きでした。
 主人公の狩猟趣味は現代において失われつつあるマチズモや暴力性、命の張り合いに対する渇望だと見ました。内心の暴力性を必死に抑えているつもりなのですが、助けた少年に怖がられるほどには隠しきれていないんですよね。獣になりきれないのが彼の童貞性で、それはハードボイルドに対する矜持と近しいものである。この倒錯がすごく興味深かったです。
 主人公、いつか山で満足して死にそうだな……。

 書くの辛そうだな〜〜!という感想がはじめに来ました。実際にそう仰っていたような……?(勘違いだったらすみません)
 僕はあきかんさんの書かれる簡潔で粗暴な雰囲気の文章が好きなのですが、その文章自体に童貞みのようなものが皆無なので、かなり難航したんじゃないかなと……。
 猟師(?)の男性があああ!!めんどくさい!!!となるところ、あきかんさんの心の声のようにも思えて物凄く共感できました。うっかり拾ったけどあんな態度取られたらまあめんどくさいですもんね……。
 話の流れというか、構成がすごく好きです。童貞文学と言われると違うかも…?とは思うのですが、でも童貞文学の定義も曖昧というか人によって尺度が違う感じがあるので、あんまり童貞に見えない童貞という点で他作とは差別化がはかれているかなと僕は思います。
 撃つシーンめちゃくちゃ好きです!!

ざっくり切って捨てるが、これは童貞文学ではない。まあ、企画ルールに反してはいないと思うが、テーマ点を百点満点でつけるなら3点くらいです。

白鷺の羽/筆開紙閉

 改造手術によって勃起出来なくなった傭兵が人形兵器を操って戦う話。
 ありそうでなかった童貞サイパーパンクだ。最近流行っている某ゲームに関しては詳しくないのですが、世界観や兵器のドンパチ感、主人公の台詞回しが非常に主催好みでした。
 主人公が過去に愛した女を模したセクサロイドを戦闘用AIの義体にしている設定が好きです。死んだ最愛の人を模した義体はサイバーパンクの華だよね!
 すごく好きな設定で長編化したら読みたいのですが、童貞文学かと言われると微妙なラインかな……という感想を抱きました。それぞれを掘り下げれば童貞要素はあるのですが、そこを掘り進める前に物語が終わった感覚です。
 それはそれとして、主催の好きなものだけで構成された作品そのものはとても好きでした。このまま長編になったら読みます! 待ってます!!

 ゴリゴリにSFでした!因みに暴力くんはSFのことをあまりわかっていません、不勉強で申し訳ないです。
 こちらめちゃくちゃ戦闘がかっこい〜〜!世界観もしっかりしていて、専門用語的なものが次々と並ぶ様子がとても楽しかったです!
 でもそれゆえに、多分展開がめちゃくちゃ性急で、せめて2万文字くらいあればシロカラスさん周りの話がもっと丁寧に語られてのめり込みやすかったのかな? と思います。
 童貞の話なんですが、ある意味シロカラスさんに操を立てた形での不能による童貞だと解釈しました。その一途さがとても好きです。単純に引きずっているわけではなく、そっくりにしたAIに自由を引き渡して自害までの流れは完全に覚悟のキマった人間の行動で、このならざるを得なかったゆえの童貞性が良いなと思いました。
 長編加工がしやすそうなところもいいですね!慣れないジャンルながら、楽しく読めました。

童貞の話をするのにこの設定いるか?みたいな怒涛の設定の嵐が続いたと思ったらそのまま終わった。まあその、童貞文学として堂々の零点ですね。

童貞録/光

 童貞だった男の過去と、これから卒業するまでの話。
 初めましての方です。ご参加頂きありがとうございます!
 「童貞文学」として非常に好きでした。主人公の独りよがりな回顧を挟みながら主体的に道化役をやっている現在を描き、最後は卒業するまでの流れ(彼の自意識的には『喪失』が近いかもしれません)で〆る。主人公は客観的に見ればある程度モテるタイプなのに、自らの存在や不純さに「穢れ」を覚えてしまう。対比される綺麗な思い出として小学校時代の親友(そう呼ぶには感情が重すぎる)である「夜空」と最後のラブホから見える景色がリンクするのも非常に好みでした。
 彼の周囲からイジられようとする行動は処世術ではあるのですが、その処世術を行うこと自体に強烈な自意識を感じ、胸が痛くなりました。この痛みは恐らく共感だと思います。
 童貞文学に求めているものがここにありました。ありがとう……!!

 どうしょうもない人間のどうしょうもない話で、進むに連れてどうしょうもなさが増していく構成がとても良いなと思いました。
 こちら終わりが物凄く潔いですね! 個人的にすごくポイントが高いです。最後の一文のあとは恐らく童貞ではなくなるわけで、だからこそあそこでバッサリ切られているんだろうなと思って、なるほど!!!と諸々に納得をしました。
 確かに童貞文学大賞なので、徹頭徹尾童貞であるほうが良いわけではあり、タイトルを見ると「童貞録」。じゃああれ以上書いてしまうと完全に蛇足なんですよね。とても良い切り方だと思います。
 主人公と夜空くんの関係性の雰囲気がすごく好きです。というか、なんとなくわかる……となりました。あのまま仲良くできなかったのが人生ですね…。
 主人公のクズさ(褒めてます)に読み応えがあり、とても面白かったです!

ご自分ではそう書いておられるが、ギャグ要素はほとんどない。童貞を文学している作品であるのは確かで、また文学っぽさもあるのだが、フックとしては自傷癖などのメンヘラ要素が主人公にあるだけで、そんなにひねった話にはなっていない。ただ、カクヨムに置いてある作品自体が少ないことから執筆キャリアがそんなに長くないと予想される割には(違ったらすいません)、文章力自体は低くないと思う。賞とかはたぶん出ないんじゃないかとは思いますが、ご参加ありがとうございました。

高原あと二分/帆多 丁

 毎年誰かに告白していた高原が本当の恋を知るまでの話。
 高原ァ!!! なんていじらしいやつなんだお前は!!
 童貞文学の中で三人称で書かれた作品は珍しく、それがこの作品の雰囲気にグッと深みを与えていた気がします。俯瞰した視点で高原を描いているからこそ出る味、みたいなものを感じました。
 中学生で「誰かに告白する自分」というキャラクターを得た高原は、それが失敗に終わったとしても特にダメージはなかった。それはある種の無敵感と共に「どうせ受け入れられない」という諦念があったのだと思います。その無敵性を奪って傷を厭ってしまう鴨田さんとの出逢いよ。「その人に嫌われたくない」という感情は立派な恋なんだよな……。

 終わり方がとても好きな掌編でした! あと鴨田さんのいじましさ…。ちょっとコメディ寄りのアオハルで、心が洗われる感じがしました。
 ちょっと重い雰囲気の作品が多い中で、等身大の男子中学生が主人公という設定も僕は好きです。男子中学生なりに一生懸命色々考えて、少し変わったところはあるものの一生懸命ではあり、高原くんはこのまま順当に成長して彼女が何人もできたりするだろうな…。なので、文学性より童貞性が低いかも? と少し感じたのは等身大のキッズが主人公ゆえかもしれません。
 でも悪いというわけではなく、これからの展望やこの先の鴨田さんへの返事などを考えるとがんばれ負けるな!という気持ちになります。
 多分すぐに童貞卒業できるだろうな…。彼女もできると思うし、相手の立場や感情を考えられる男性になると思います。僕は高原くんを応援しています、二分後めっちゃ頑張って!!!

確かに童貞くさい主人公を童貞くさく描き切っていて童貞文学の趣はあると思うんだけど、それ以上に主人公の人間像の不快さが勝っていて、正直な感想としてはあんまりなんていうか読んで気分のよくない作品だなという感じ。思春期の子供なんてこんなもんだといえばこんなもんなんだけど、そういう嫌なリアルさっていうのはうまく消化しないと文芸としては昇華されないと思うんだ。

あのマンガ/ムラサキハルカ

 あの日見たエロ漫画をもう一度読みたい童貞の話。
 性を覚えたての頭は水を吸っていないスポンジみたいな物です。その時に印象に残った性癖はなかなか消えず、下手すれば一生モノになる。記憶に固着するほどの何かに出会ってしまった瞬間、それは強く心に残るのかもしれません。
 主人公がエロに対してめちゃくちゃ貪欲なのが好きです。今ではそういったコンテンツが検索などで簡単に見つかる時代ですが、あの頃は誰かにバレたくなくて必死だった記憶があります。その中で誌面にしかない漫画を追い求めるバイタリティは探検家のそれで、強烈に残る記憶の1ページだった。
 今となってはタイトルすら思い出せないその漫画は、記憶の中で燦然と輝き続けるのかもしれません。

 こちら多分男性の方があるあるというかわかるな…になる部分多いんじゃないかな〜!と読み始めは思ったのですが、最後まで読むと印象が変わりました。何もエロ本に限定した話ではなく、心に残っている自分の根幹であるなんらかの作品、でもどこを探しても見つけることができない作品、誰にでもあるんじゃないかなと思います。僕にもあります。
 その誰にでもある切なさみたいなものが丁寧に、同時に(題材によって)コミカルに書かれており、三千文字台という短さでありながら読み応えがありました。
 主人公が忘れられないあのマンガの内容がすごくいいなと思いました。どんなエロ漫画なのか具体的に語られていて、しかもニッチというかNTR要素が最後にわかるという巧みな構成の漫画…。僕もぜひ読んでみたいです。
 気になる点などもなく、面白かった!で読み終われました。思い出の漫画が見つかることを影ながら祈りたいと思います。

素直に面白かった。現実の女性とか、現実の女性に対する葛藤みたいなものが一切出てこず、ひたすらエロ本の話だけで展開され、最終的に回想している段階の主人公が童貞なのかそうでないのかについておくびにも触れられない、この構造は別に目新しくはないんだけどこの企画の中では意外と珍しいような気がする。この作品が童貞でない男性を主人公にして成立しうるかというと難しいと思うし、私はいいと思う。

いとしのマリー/クニシマ

 急死した恋人の秘密を知った男の話。
 クニシマさんといえば『からすのかって』という作品の黄昏のような昏さと喪失感が印象に残っているのですが、今回の作品も既に失ったものへ手を伸ばそうとする人間の虚しさのようなものを感じました。
 ファム・ファタール的な男の娘は呪いとして強固すぎませんか?
 一度魅入られてしまえばその後の人生を変えかねない存在である「マリー」は主人公を置き去りにしたまま“若い男性の屍”に変わる。この残酷さとどうしようもない虚無感が、主人公を幻想の中に閉じ込めてしまう。救いようがない、そんな話だと思います。
 マリーは彼の中で永遠になってしまったのでしょう。未来へ進む車の鍵を無くした彼に、これからの幸せがあるのでしょうか。

 あ〜〜〜めっちゃいいですね〜〜〜〜! なんというか、好き!という気持ちが最初に来ました。語り口かな? 饒舌な文体が好きなもので、掌編全体の雰囲気がとても僕の好みでした。
 やはりBL好きの暴力くんとしてはマリーが実は男だったというところにナイス……となりました。いいですよね、女装男子。めっちゃ可愛い子に陰茎が生えていると思うと笑顔になります。いやもしかしたらとっているかもしれませんが…。
 文体だけで楽しめたので僕としては満足なのですが、一応講評っぽいことも言っておくと、ちょっと読み足りない気がしました。マリーがどうなったのか知りたいというよりは、主人公にもう少しアクションを起こしてもらった方が幅広い層の読者さんが楽しめるかな、という印象です。
 でもマリーを探したりすると雰囲気を損ないそうだし難しいところですね…。この結局待っているしかできていない部分が童貞っぽくもありますし、童貞文学としてはこれが最適解かもしれない。
 何せよ全体の雰囲気がとてもよく、テンポの楽しい掌編でした。

クニシマさんはやはり味わい深い小説をお書きになる。小ネタとして特撮(大槻ケンヂのバンド)の『身代わりマリー』のフレーズがちりばめられた、類型としてはまあファム・ファタールものなんだけど、その相手が実は男(ただし知らされていない)という変化球のロマンス。傑出した作品とは言わないまでも、一味違っていてよい仕上がりだったと思います。佳作と言うに値するでしょう。ただ、あともう一味欲しかったとすれば、マリーの人物像はもう一段階くらいは掘り下げられたんじゃないかなと思う。

朽ちたクジラの死骸のように/ラーさん

 中学生の駆け落ちと初恋の呪い、既に誰かのものになった彼女の話。
 あぁぁ………つらい……。
 恋に限らず完全に対等な関係を築くのはほぼ不可能で、それを対等だと信じ込んでしまうのは思春期の病理だと主催は思っています。不幸に見える相手との無軌道な駆け落ちは20年間も主人公の足を止めさせ、呪いのような恋を受け入れてしまう。ここで対比される「既に脱却し思い出として消費する」駆け落ち相手の存在がSNSというツールで可視化されてしまう。せめて存在を知らなければ、あの日の後悔を思い起こすこともなかったのかもしれません。
 腐敗した鯨の死体はガスが溜まって爆発するのに、腐りつつある主人公は溜まった感情を無為に爆発させきれない。呟くように漏らした感情は、誰にも届かずに海の底へ沈んでいくのかもしれませんね。

 僕はこちらを読んで評議員ながらやっと童貞文学のひとつの解釈を見出したんですが、初恋ないし激しい恋の記憶に支配されている男、他の女性が興味持つわけないんですよね……。なんせ自分に来る見込みがないから……。
 それ故に永遠に童貞なんだと思います。こちらの主人公がまさしくそうで、過去の彼女が今は幸せにやっていることを知った後の反応を見て僕は「うわ〜〜………」と声に出ました。凄惨な生い立ちだった彼女の幸福について祝福とか安心が先にこないの、わりとマジでこう……よくない……。男なら死ねい!って台詞、こういう時に言うんだなって……。
 素晴らしい解像度の童貞で、多分今後も童貞なんだろうなこの人……としみじみしました。
 タイトルにも使われているクジラのモチーフがとても良いですね!! 内容自体ははっきり言ってしまうとよくある感じの秒速5センチメートル的なそれなのですが、モチーフにより作者カラーがうまく出ていて読みやすい、綺麗にまとまった掌編でした。

さすがというか何というか、圧巻の美しさでした。永遠の幻想であってほしいという願いをあっけなく粉砕するブレーンバスターのごとき現実と、三十三歳の夢見る悲しき童貞という構図。これぞ期待していた「予想外の角度から斬り込んでくる、童貞をテーマにした文学作品」だと断ずるに足る。素晴らしい一撃であった。一話目で語られる青春挿話そのものはありきたりといえばありきたりなんだけど、ありきたりの話であればこそ、あとで話をひっくり返すブレーンバスターが効いてくる。強いです。

ビバ☆フタリ/柏望

 クラスメイトの女子と親友が一緒に歩いているのを目撃した青年の友情と嫉妬と山登りの話。
 濃厚なブロマンスだ!! 友情と呼ぶにはやや湿度があって重い主人公と大場の関係性が非常に味わい深く、随所に挟まれる山登りの描写も好みでした。
 親友に恋人ができた時の寂しさとか置いていかれる感覚、主催はすごくわかる側の人間なんですよね。優先順位が変わってしまうことへの寂しさやら一足先に進んだ羨望やらでウワーッとなる感覚は非常に共感性が高かったです。
 だからこそ最後の爽やかさなオチがすごく良いんですよね。衒いなく叫んだ言葉は、青春の青さが発露させた結晶なんだよな……。

 男性同士の友情にフォーカスされている作品です。童貞だし彼女もできないと思っていた男友達が女の子と歩いているところを見てしまうところから始まる物語で、開幕主人公はおばあさんを助けているのでいい子だ!とさっそく好感度が上がりました。いい子だ!好きです。
 同時にたいへん申し訳ないのですが、ちょっと字数を割き過ぎかな……?という印象があります。多分5000文字もあれば充分書ける内容で、実際に読んでいる間、全然話が進まないな…?と思ってしまいました。すみません。
 友達と一緒に釣りに行き、キャンプをする場面がとても良いです。青春の1ページという趣で、お互いに本音で話し合えるような雰囲気作りがすごく上手いなと思いました。
 彼女欲しい〜〜!と叫んだ主人公くんですが、おばあさんを助けるような善性があるので、その優しみを見てくれる女性はすぐ現れる気がします。がんばって主人公くん、暴力くんは応援しています!

全体に掌編の多いこの企画にしては文字数多めの作品。でも、この内容でこれだけ尺を取る必要あった?ってのが正直な印象。やたら引っ張るから、「主人公と友人は童貞を守り抜く約束を誓い合ったりしている」とか「主人公は同性愛者で友人に対しひそかに恋愛感情を抱いている」のどちらかのパターンに分岐していくのかと思ったんだけどそういうこともなく、特に何がどうというほどのこともなしに「友達に彼女ができたので羨ましい」ということを語るためだけに一万字近い文字数を割く必然性はあんまりないと思う。

誰とも繋がれない/ささやか

 労働と自慰のルーティンによって辛うじて現実を生きている男の話。
 ド級の虚無でした。どこかプロレタリア文学的な労働描写や全てをフィクションだと捉える主人公は既に現実に対して無気力になって、唯一のチャレンジである風俗デビューもできない。彼が巨乳の嬢を望むのはフィクションへの夢想なのか、彼の思う「クソみたいな現実」からの逃避なのか。それすらも成し得ない彼は、他人事のままフィクションを享受し続けるのか。
 彼に必要なものは風俗ではない気がするんだよな…….。仮に卒業できたとしても別の拗らせが起きそうなんですよね。

 僕こちらとても好き、というか、はじめから終わりまでずっと虚無で、虚無とはこういうものだろうなあと納得できる感じがありました。
 世間とか世界との断絶といえばいいのかな? 徹頭徹尾一人きりで、人生に起伏もなく、言ってしまえば主人公たる資格もないような男性が主人公で、でもこのなんのドラマもなかった人間の話を敢えてすることが文学のひとつだろうと僕は思います。
 事故で勃起できないとか、過去に凄惨な目にあっているとか、そういう突き抜けたどん底ですらなく、ただただ認識されないいなくてもなんの問題もない何なら死んで悲しむ人もいなさそうという主人公の限りない薄さを書き出す筆致がとても良くて、ささやかさんの地力の高さを見たような気持ちです。
 面白かったというとなんだか変なんですが、面白かったです。延々と夜の手前の薄暗い時間を彷徨ってるような気持ちで読み終わりました。

ぐだぐだ屁理屈こねてねえでソープ行ってこいよ。それに尽きる。暗い小説なんだけど、突き抜けて暗いことが作品の持ち味になるほど暗いというわけでもないし、描写の半分くらいは男がマスかいてるだけの話だし、これを読まされてこちらがどう反応すればいいのか、正直言うべきことに困る。一種のリアリズム文学なのかもしれないけど、あんまり褒める気にはなりませんでした。文学というなら、もうちょっと「何か」を深掘りした方がいい。以上。

恋愛未満/ももも

 高校卒業を前にした予備校生の2人の不器用な恋の話。
 爽やかな童貞文学だ……。主人公の思考感も柳原さんの決心の理由も言ってしまえば思春期に特有の拗らせではあるのですが、そこに湿度がないのがこの作品の特徴だと思いました。主人公、拗らせてるけど素直なんですよね。若さ特有の応援したくなる魅力がある。そんな主人公でした。
 柳原さんも主人公も恋愛経験が少ないだけで、普通に経験を積んでいけば恋愛もできるんですよね。そこで周りと比較して焦る部分に、この年代特有の童貞・処女性がある。そこがいいんだよな……。

 とにかく暗かったり拗らせ童貞が悩んでいたりと陰の童貞文学ばかりの中に燦然と輝く、爽やかなアオハル童貞文学でした!だいすき!!!!
 爽やかさがラブホに入り童貞&処女喪失すっぞ!という段階でも保たれているところが物凄く良いなと思いました。メイン二人のキャラクターも嫌味がなくてかわいいし、気が強くてはっきり言うタイプの主人公のお姉ちゃんもナイスサブキャラで、本当にストレスなく読めました。助かりました。ありがとう。
 多分争点(?)は文学なのかどうかみたいなところにあるかと思うんですが、ここに関しては僕はガバガバなので難しいところです…。ただ地の文を変に凝った言い回しなどにせず、あくまで高校生男子の目線に徹している側面が僕は好きで、爽やかアオハルの装いのまま駆け抜けた光のある終わり方も素敵です。本当にずっと爽やか…。
 企画終盤に来てかなり疲弊している僕の清涼剤であったことを明記して終わろうかと思います。ありがとうございました。

うーむ。よく書けてるし面白いんだけど、大賞に推す三作品には惜しくも入らないラインかな。何が足りないというより、この爽やかなまでのハッピーエンドが、全体的に泥のような情念が詰まりに詰まっているこの企画の中では浮いていて、この企画の五十くらいの作品の中で頂点に輝く、という印象が無いんだよね。ほとんどフィーリングだけだが、そんな感じ。作品そのものの感想としては、主人公がえらい紳士で善良なのがよくもわるくも特徴的で、童貞をこじらせているというほどこじらせているわけでもないし、まともな人間だなあ、という感じ。

産月記/押田絵凪

 糞をきっかけに知り合った男たちの奇妙な友情の話。
 『爆葬』の押田さんだ!! どこかSFチックな世界観と文学性が混じり合った作品を書かれる印象があるのですが、今回の作品でもその要素が存分に発揮されていました。
 ストーリーの要素として突如現れる機械人形の存在が好きです。彼らの世界においてその存在は当たり前で、それが彼らの異質さや童貞性を際立たせる要素となる。恐らく機械人形に対比されるのは「糞」で、生命活動における排出物を好む彼らの価値観こそがこの作品の異質感を担保する要素である、という物語構造だと感じました。
 恐らく彼らは彼らのままで、緩やかな日常を過ごし続けるのかもしれませんね。

 こちら私にはちょっと難しかった感じがします。難しかったというか……なんだろう……?ジャンルは現代ドラマとなっていますが、ちょっと幻想小説のような趣で、全体の雰囲気が独特でした。
 男性同士の友情にフォーカスされた投稿作はこれまでもいくつかあったのですが、その中でも難解な部類で、でもこの難解さを文学と呼ぶのでしょうか……?
 あまりにも咀嚼できていなくて申し訳ないです。何故こんなに難解に感じるのか僕にもよくわかっていないです。どちらの男性もなんとなく浮世離れした人物像で、僕の中に当て嵌めて思考できる型が存在しないような感じです。申し訳なさすぎる……!本当にすみません!!
 わかりやすい友情ではなく、なんとなくお互いに一般的な友達とは違うニュアンスでの友情を愛でている雰囲気で、この関係性をとても好きだなと思いました。
 ウスバカゲロウとアリジゴクもかわいいですよね。

え?なに?唐突にSFになりましたね。そしてそのまま終わった。正直、別に面白くもないし何がしたいのかよくわかりませんでした。童貞二人の友情ものを書きたいのだろうなというコンセプトは分からなくもないですが、それに限って評価するとしても「あんまり上手に書けていない」としか言いようがないです。

灰と蟒蛇/狂フラフープ

 世界を滅ぼす恋と迫害された“化け物”の話。
 面白かったです。価値観の倒錯は魅力的なSF要素の一つだと思うのですが,この作品の「恋をすると熱によって世界が滅ぶ」という要素は独創的でありながらどこか現代にも通じるような風刺性があるように思いました。
 より深く恋をした方が凄惨な拷問を受ける世界において、愛する人を守るために自らの身を犠牲にした穂波を“化け物”と呼ぶ主人公が非常に味わい深かったです。まさしくこの世界の価値観の体現者でありながら、「躊躇なく自らの命を犠牲にするほどの深い愛を持つ存在」は確かに“化け物”なのかもしれない……とも思えてしまうんですよね。それは主人公が本当の意味で恋を知らない童貞だったからなのか、眩しい光に目を焼かれそうになったからなのか。愛の持つ自己犠牲という性について深く考えさせられる作品でした。

 シンプルにめちゃくちゃ面白かったです。なんかふつうに読み込んでしまって、面白かった〜〜!で読み終わってしまいました。だいたい実体験……? 心中お察しします……。
 単純な地力がものすごく高い作者さんだと思うので、僕から指摘などもちろんありません。実体験が骨として考えると恋に狂って燃える相手方を恐ろしいと感じたことがお有りなのかな。そうだとすると、童貞文学内では珍しい僕からの共感が存在します。
 実際、作中の相手の女性が恐ろしく見えるロジックも理解できます。恋に狂い過ぎた人間、あるいは本当に化け物に見える瞬間、あるんですよね……。あるんです……。まるで話が通じないんだ……。
 恋愛を肯定的に軸にした投稿作がどうしても多いので皮肉や風刺に見える作品かもしれないなとも思いましたが、少なくとも僕は額面通りに受けた上で共感します。そして実体験を読み物として練り上げる技術はワザマエで、主人公の恐怖は童貞ゆえの臆病とも取れるため、童貞文学としても非常に面白かったです。

なんていうか、ちょっと凝りすぎだと思う。凝ったことをしている割には説明が少なくて6000文字尺で終わってしまうので、話が見えにくいし結局やりたかった事というのがクリアにこちらに見えてこない。童貞文学とは何かということに対してチャレンジブルな作品だとは思うんだけど、SFで童貞縛りでこういうことをするのならもうちょっと風呂敷の広げ方が他にあったんじゃないかという気がする。この話が「童貞の童貞たるゆえんを表現しているか」というとちょっと微妙に疑問を抱かざるを得ないというのが正直なところ。

童貞の俺が恋をした/夕日ゆうや

 恋をした童貞の高らかな宣言の話。
 初めましての方です。ご参加ありがとうございます!
 小説というよりは詩のような作品ですね。短い文章を畳み掛けるように記述される宣言は小気味よく、どこか檄文やアジテーションを聞いているような感覚になりました。熱血童貞、あまり見ないアプローチだ。
 仰々しい言い回しや持って回った表現など、開き直った童貞特有の清々しさに残る割り切れなさを全編通して感じました。これは個人的な好みですが、タイトルの恋の部分をもう少し厚めに描かれるとより好みかもしれません!!
 とはいえ、作品自体のアプローチの面白さは非常に興味深かったです!

 ジャンルはラブコメとなっていたのですが個人的には詩篇を読んでいるような気持ちになりました。童貞がパッションで叫んでいる童貞詩篇。そしてそう読んでしまったので謝らなければならないのですが、僕はまともに詩を通ってきていないので読み方がめちゃくちゃ間違っていると思われます、面目ない……。
 全編独白で進んでいくので、語り手の心情はこれでもかというくらい把握できます。とにかく童貞なのだが、童貞で何が悪いのか? 童貞性や処女性はすなわち善性で、それらを失うから争いが絶えないのだと進んでいき、色々と考えている方なんだな……と語り手の真面目さが感じられました。
 ところが恋をして童貞捨てたいと来るので笑っちゃいました! 詩篇として読んでしまいましたが、これを思うと確かにラブコメですね。
 読み終わって思い出したのが未成年の主張という文字列で、直情の青さが全文に出ている気持ちのこもった詩篇だと思いました。

文学以前に、小説ですらない。駄文の連なりと言うしかない。特に最後のが完全に蛇足で心底寒い。お引き取り下さい。

タイムトラベル・ノベル/福永 諒

 失った童貞性を取り返そうともがく非童貞の話。
 文学だ……。主人公は童貞を卒業してるんですが,精神的な面では立派な童貞なんですよね。“失った”という表現からもそれがありありと伝わってきました。
 最後まで読んでタイムトラベルの意味をなんとなく理解しました。過去を回想するのは流れる時に逆らうということで、それは自らの心を過去に逃すことにもつながる。それを指して『タイムトラベル』と呼ぶなら、人間はそのための道具を誰もが持っている。そういう話だと思いました。

 ちょっと推理小説のような趣で始まり、その雰囲気が好きでした。主人公くんの固定観念に固まった感じの思考も面白いです。
 たいへん申し訳ないながら、難解の部類になると思います。少なくとも僕は話に置いて行かれてしまいました。主人公くんが自分で言っていますが、話があちこちに飛んで、どう読み取るべきか悩みます。主軸がしっかりしている方が読みやすいのかな?という印象がどうしてもあります。僕の理解力の低さももちろん問題なのですが…。
 最終的にSF的な着地になるところに斬新さがあり、一人の童貞があれこれ考えた末の着地と思えばずいぶん遠いところにきたな……と感慨深いものがありました。
 相手の女性は処女捨てたかっただけなのかな…?だとすると忘れ去って次に行って欲しい……そんな切ない気持ちになりながら読み終わりました。

リア充がつまらない自慢話をだべってる話。童貞文学として何を表現しようとしているのかがまったく見えてきません。タイトルの意味も理解できない。正直なところ、箸にも棒にもかからないというレベルの作品だと思う。

誰がためのジョイスティック/@JACK_RED_NIGHT

 小学生時代の幼馴染に性癖を狂わされた話。
 ジャックさんだ!!! カクヨムへの登録および企画参加ありがとうございます!!
 好きです。はじめての作品だとは思えないほど完成度が高く、主人公の悲哀とそこからの展開、オチまでがコミカルながらも非常に綺麗でした。
 「面舵で狂ったから取舵で戻す」という解決策も好きなんですが,ジョイスティック扱いに対する興奮は「無邪気に蔑ろにされる」という癖に結びついている気がしました。強烈な体験が記憶に蓋をして性癖に変えてしまうこと、割とありますからね……。
 これからも小説を書き続けてもらえると嬉しいです!待ってます!!

 あ〜〜すごく読みやすい、それからとてもわかりやすいです。文字数に見合った内容で、読者を振り回さない堅実な構成が良いなと思いました。
 全体的にちょっとコメディの雰囲気で進むところも良いですね!ちんちんジョイスティックという家庭内限定の遊びも、キッズのいるご家庭だとあるかも……と思う絶妙なオリジナルゲームです。
 大人になり全然勃起できず、あれこれと試してみる段がとても好きです。凪だった、で締めてあるところのテンポがよく、そこから風俗で更に試行錯誤する展開への接続がスムーズでした。仕事とは言え女児服着たりして一緒に遊んでくれる風俗嬢、めちゃくちゃ良い子ですね……!
 オチでちょっと切ない気持ちになるところもいいなと思いました。面白かったです。

なにげに面白かった。なにげに面白かったし、この話は確かに主役が童貞でないとまず成立はしないけど、でもこれ主題は童貞ではなくインポテンツとその治療についてという構造になってしまっていると思う。面白いんだけどね。その上で作品としてのほんにゃらを言うとすると、ミクちゃんの人物像はもうちょっと掘り下げておいた方がよかったかもしれない。これでは彼女より風俗嬢のミクさんの方がキャラが立ってしまっていて微妙にバランスが悪いので。でもばかばかしくて割と好き。

取鳥様の巫女と燭台/柴田 恭太朗

 異世界・取鳥県に行き着いた童貞の話。
 カクヨムでは初めましての方です。ご参加ありがとうございます!
 童貞異世界因習ホラーだ! 溢れるパラレルワールド感や取鳥様の謎などのフックをコメディチックなノリで展開させていく面白さがありました。最後のオチも……童貞卒業できたしハッピーエンドだな!
 気になった点としては、童貞描写のステレオタイプ感があります。ストーリーの引きの強さに対して童貞性の深掘りのようなものが弱いように感じられました。他の企画ならそれで全く問題ないのですが、童貞文学においてはもう少し踏み込んだものが読みたかったです。
 とはいえ、ユーモラスな因習ホラーとしてとても面白かったです! 巫女さんのポニテ、いいぞ。

 ここまで数々の童貞を読んできてお腹いっぱいになり疲れているということを先に言わせてください。その上で講評となり、本当に申し訳ないのですが、主人公がかなりキツくて……つらかったです……。
 もう本当に、拗らせて何故かイキりはじめている童貞、お腹いっぱいなんですよ…!!!申し訳ない、投稿順が良くなかったと思ってください……!!
 内容は因習村の因習ホラーの趣で、個人的には空からライフルで撃ち抜いているのを怪現象と見立てているという部分が好きです。ミステリもライフルも好きなので、うわ〜〜いいな〜〜!と素直に思いました。
 ホラーミステリと拗らせ童貞としてかなり良い作品で、僕は童貞に食傷してしまっていますが単純な因習ホラーと見ると手軽さが読みやすさに繋がっており、楽しい掌編でした。

童貞が出てくる以上は童貞小説だろうけど、童貞文学か、と言われるとちょっと悩む。主人公のキャラクター像と語り口がキモいのはわざとやってるんだろうとは思うけど、いかにもステレオタイプ的で特に物語を面白くするのに寄与していないし、かといって哲学的な思索に読み手をいざなうほどの機能を果たしているわけでもない。まあ、軽い読み物としては悪くないかもしれないけど、コンテストに出して結果が出るような作品では残念ながらないと思います。

get out !!!/亮

 同窓会終わり、酔った勢いの行為に巻き込まれる童貞とヤリチンの男の話。
 童貞暴力BLだ!! 行為に至るか至らないかのやりとりで9,000字描き切る部分に確かな性癖を感じました。
 関くんのキャラクターが好きです。どこかズレている部分が魅力で、即座に彼女と別れるところが特に理解不能で非常に魅力的でした。そこまで主人公のことが好きなのか、何も考えていないのか。これ後者だな……。
 また、主人公が童貞である理由も納得感がありつつ、普遍性もあって暗澹たる気持ちになりました。彼はある種の性嫌悪を抱いているのですが,そんなタイプにガンガン行くのはどうなんだ……!?
 この後どうなるかが非常に気になる作品でした。続きが読みたい!!

 暴力みのあるBLでした!やったぜBL。ありがとうございます。
 前菜の同窓会部分からすぐにベッドシーン未遂の場面に行くところがとてもいいです!やっぱりね、BLはこうでなきゃ…みたいな気持ちが溢れ出ました。二人がやるやらないと問答しているところがめんどくさくてかわいい、好きです。
 話の内容というよりは、キャラクターを愛でて楽しむのがやはりBLだと僕は思います。なのでこちらの作品も、二人のやり取りの場面がすごくいいですね。関くんのガバガバ倫理というか、ガバガバ貞操観念が好みです。この破天荒さがハマるとかなり楽しめる作品だと思います。
 主人公が過去にセックスをできなかった理由にも言及され、童貞理由の部分もなるほど……。わりとこういう人いるんじゃないかな? という理由づけで、納得もできたし面白かったです。二人にはいつかセックスしてほしいなと思いました。

両性愛者の男に犯されそうになる性嫌悪症の男の話。それ以上でもそれ以下でもなく、童貞文学として成り立っているかというと微妙というラインだと思う。他の作品いくつかにも言えることなんだけど、話のピントが童貞なるものに当たってなくて性嫌悪症の方が話のメインになってしまっているのがいかんともしがたいわけですよ。

I Love (or You Love)/大村あたる

 同級生同士の性行為を目撃してしまう童貞と、その後の関係性の話。
 大村さんだ! ご参加ありがとうございます!!
 出歯亀から始まる奇妙な友情の話でした。トオルもシズカも世間一般の感覚からは外れるのですが、クラスメイトの顔と名前を認識していない主人公も結構アレだな……。
 トオルが一見粗暴に見えて爽やかなアホで、主人公の内向的な思考感との対比が気持ちよかったです。だからこそ友情を築けたし、その後の主人公の感情につながったのかな……と思いました。
 シズカさんのキャラも好きです。奔放で、気丈で、そんな人が最後に見せる願いと心情に強く人間味を感じました。
 主人公、童貞卒業できたのかな……。

 ほぼ上限ギリギリの文字数で攻めている力作でした!
 内容としてはうっかり学校でセックスシーンを目撃してしまうという流れで、そのまま妙な縁が繋がり三人で仲良くなるところがいいなと思いました。奇妙な友情とか他の人とは何かが違う関係性みたいなやつ好きなんですよね……。
 王道的な三角関係ものの趣もあり、セックスしていた二人の性格がさっぱりしているところがかなり好感度が高いです。それゆえに最後、訃報が突っ込まれて動揺しました。ここでどうしてももうちょっと詳しく…!という気分になってしまったので、中盤の会話文を減らして死んじゃってからの話を引き延ばしてもらえる方が、僕の好みではあります……でも好みの問題なので今のままが良いという方もいらっしゃると思います。
 最終的な締めは切なく、お互いに喪失感を覚えている中での抱擁はどこか映画的でもあって、とても良い場面でした。綺麗にまとまった良い掌編でした、面白かったです。

キャッチが強い。ゆえに小説として強い。他を飛ばして先に読もうかと迷ったくらい。わざわざ女に誘われているのに童貞を守り抜く主人公の心性とかはよく分からないんだけど、青春小説の一篇としてはかなり水準の高い作品だと思う。まだ全作品は読んでないんだけど、個人賞に推す作品はこれにしようかしら。

純けつ/@akuzume

 35歳童貞が献血に行く話。
 灰汁詰めさんだ!! ご参加ありがとうございます!!
 タイトルは「純潔」と「純血」をかけたものですね。私小説やエッセイのような淡々とした文体で周囲の日常を描いている所に魅力がある作品だと思います。実録レポの味わいだ……。
 主催は献血に行ったことがないのですが、これを読むと行きたくなりますね……。童貞の自己をどこまでも肯定する、生き方の小説だと思いました!

 あ〜〜〜〜献血、いいですよね献血。暴力くんもしばしばヌきます。
 この齢(35歳)になると童貞が恥でも誇りでもないと言い切る冒頭がすごく好きです!そう!そうなのだ!と声に出ました。恥でも誇りでもないという解になっているところ、大人だ!
 それはそれとして本当にずっと献血してるだけなのでちょっと笑ってしまいました。しかもめちゃくちゃ詳しい……本当に献血し慣れている人のエッセイだ……いや私小説か……。
 赤血球の数を褒められて誇らしい気分になるところがたいへん可愛いですね。このまま献血エッセイとして終わるのか……?オチどうするんだろう……?と思っていましたが、吸血鬼が処女の生き血を好む話を持ち出してきて純潔童貞血液という文字列を見た瞬間にまた笑っちゃいました。
 ほっと一息つけるエッセイで、癒されました。ありがとうございました。

素人くささが逆にちょっと好感が持てるんだけど、残念ながら文学作品としての出来をどうこうと言えるような水準には達していないです。まあ、ご参加ありがとうございました、と言ったところ。次に挑むなら、とりあえず小説としての構造と形式というものを意識してみましょう。

ドロドロボコボコ/技分工藤

 内気な童貞とチャラくて粗暴な陽キャがナンパをし、互いに殴り合う話。
 めちゃくちゃ面白かったです。これは確かに童貞を描いているし、執拗な暴力描写にしっかりとした意図がある。童貞が恐れる「他者への加害性」と喧嘩という肉体言語のコミュニケーション、マハラのキャラクター性が密接に結びついていました。
 「男同士の殴り合いは実質性行為」というミームがありましたが,つまり己の持つ暴力性や加害性を相互に受け入れ、お互いに同じ言語を用いることが“コミュニケーション”の一種であり、それは性行為にも置換されうる、という話だと思います。一歩踏み出す暴力性を主人公の視点とマハラの視点の両方から語る部分に、この作品の魅力があると思います。
 マハラ、なんやかんやでモテそうだけど絶妙に友達になりたくない感じがいいな……。

 タイトルから漂う暴力の香り!ありがとうございます。暴力くんは暴力表現が好きです。
 まず主人公くんが彼女とかいないとラブホ入れないだろ!と言っているところがすごく童貞っぽくて好きです。場所によるけど入れるでと僕はつい言いました。童貞だな〜それもこう、なんだろう、隣に陽キャのマハラがいることにより拗らせ感が中和されており、好意的に見られる童貞くんです。結構ガチガチに大学生とはこう、ナンパとはこう、と固定観念抱いているところも青くて可愛いですね。
 立ち振る舞いも思考も全然違う二人のやりとりが面白いです。主人公くんがあー殴ろ!と思って喧嘩を申し出る展開はどこかエモさがありました。
 とにかくマハラがいいキャラですね!殴り合っているシーンは迫真で、暴力表現が好きなので加点に次ぐ加点です。めちゃくちゃファイトクラブでした。男の主人公と対等に殴り合っているので男性だとは思うんですが、超強い女として読めなくもないのかな…?
 でも性別は関係ないですね。拳で語り合った二人の行く末に幸あれ。面白かったです。

実に爽やかな青春小説。童貞文学と言われたときにこういう切り口もあるのか、と感心した。ただ、よくもわるくもこれはマハラが話のメインであって、主人公のキャラクター像がマハラに完全に負けているのがちょっと残念。主人公のキャラ立ちをマハラと互角にまで持って行けてたら大賞を狙えるところまで行ったかもしれない。

くすぶり/myz

 高校時代に仲の良かった女子との体験と後悔の話。
 終盤に飛んでくる直球ストレート、味わい深いですね。綺麗な思い出と呼ぶにはざらついた手触りの記憶は、抱えておくよりも作品として昇華する方が“救い”になるかもしれない。そういう話だと思います。
 書いている最中に無数の反省や後悔が浮かんだような書き味は、叫びや告解のような印象を受けました。これを出力することによる痛みに共感する自分がいます。
 くすぶりを昇華するとすれば、それは風俗ではない気がします。それでも行動することが大切だと、主催は思いました。

 恥ずかしいので読まないでくださいとキャプションにありましたが読んじゃった! 評議員なので許してください。
 思い出の中にずっといる「あの子」についての話で、ずっと過去回想が続いて語り続ける様子がとても純文学の装いに感じました。
 その「あの子」が現在軸の僕のところにやってきてからも過去回想のように話が進むところが独特です。いくら友達でも一人で男の部屋に泊まるのは良くないよ!とあの子ちゃんへのダメ出しが出てしまいました、すみません。でもそういうことになってもいいと思ってのお泊まりなら僕が口を出す必要はないです。
 ないんですけど、そういうことになってもいいと彼女が思っていた可能性はなきにしもあらずに感じたので、これは主人公の精神的な童貞性が招いた虚しいくすぶりのような気がします。
 しっとりと読める、おさまりの良い文学作品でした。

うーん。この企画ではよく見かけた種類の作品で、それはまあいいんだけど語り口がいまひとつ没入感を削いでいて、読者として「入り込めない」という感じが強い。他には特筆するほどのことがない、正直言って凡庸な作品ですね。

ΣΧΕΔΙΟ ΕΠΙΝΟΙΑ/@Pz5

 宇宙船で新しい生命を作り出そうとする“男女”の話。
 pzさんはもっと早く小説を出せ!! 童貞文学を出力されるのに相当苦労されたと聞いたのですが、まずは完結されたことを感謝します。
 pzさんの作品の中ではモチーフは分かりやすく、旧約聖書かな?と思いました。童貞を描く上でSF的なアプローチと神話的なモチーフを合わせる試みは非常に面白いと思いました。
 主人公であるAの視点ではΩの意図が読めないように見えますが,実際はAの行いのアレさがΩを幻滅させている……という構図だと思います。ただ、作品そのものの感情的な軸足がややΩ側(この場合は“女性”に言い換えてもいいかもしれない)にある気がしました。童貞を描く上で独りよがりは重要なキーですが,そこに若干の俯瞰性を感じたのも事実です。Ωに捨てられたAが肋骨から生命を作り出したのも、童貞性とはちょっと違う気がしました。
 とはいえ、pzさんの描く童貞という独特な味わいを感じることができました! 次に企画やる時は締め切り1週間前に書いてください!

 またギリギリに難解なものを……!とは思ったんですが、予想よりはまだ理解がしやすかった気がします。
 とりあえず用語なども見て、アダムとイブの神話を下敷きにして書かれたSFという風にとりました。作中用語が溢れていますし、理解するまで咀嚼するにはちょっと投稿日が遅かったので、頓珍漢な講評になっていてもご容赦ください。
 世界観の部分を置いておくと、主人公の男性の立ち振る舞いは童貞のそれで、わからないと嘆いてらっしゃいましたがしっかり抽出出来ていると思います。女性の心がまったくわかっておらず、自己中だと結局振られてしまうところなど……痛い……主人公が……という気分になりました。
 最後の最後には肋骨から女性(娘)を生み出すところが痛さの極みです。あの〜、イマジナリー彼女みたいな概念作ったのかな…?と解釈したもので、本当に居た堪れなく……。
 娘を女性と認識していたのでもう駄目だ! 童貞文学SFとして、個人的にはすごく楽しめました。

SFは別にいいんだけど正直物語として面白くもなんともない。読めたものじゃない、というレベルですね、残念ながら。難しいとか簡単とかそういう段階ではなく、それ以前の問題です。

童貞税/阿下潮

 少子化対策として童貞税を設けた日本の話。
 ディ、ディストピア……!! 税の逆進性とか公平性を投げ捨てた童貞税、怖すぎますね。
 一見するとコメディ作品なのですが,どこか現代を風刺するような質感がありました。特に終盤の畳み掛けるような多視点は、現代における“童貞”の立ち位置を感じる要素だと思います。
 最後に出てきた川畑総理も童貞だった……というオチも面白かったです。童貞は可能性を信じるには荷が重いよ!!

 もう開幕から童貞なだけで税を納めなくてはいけないときて、世界観の斬新さと童貞の可哀想さに合掌しました。可哀想すぎる……!
 内容も可哀想というか、一般的な童貞の方、事情があって童貞の方、更に事情がひっくり返って童貞の方と、確かにそれも童貞になるのか……というバリエーションに溢れており、読み応えがありました。
 場面の切り替わりがちょっとわかりにくいかもしれないです。三人称の単数視点にしてしまったほうが、読者は混乱しにくいかなと思います。
 童貞税というどう見てもあかんやろという施策を前にしての様々な人間の葛藤や怒りは面白く、オチまで読めばどんな意図での施策だったのかもわかる構成になっており、こうかな?ああかな?と考えながら読めて楽しかったです。

自家撞着がひどい。自分で考えたSF設定を自分で「こんなの狂ってる!」とか言われても、第三者である読み手としてははあそうですかと言わざるを得ません。童貞をテーマにした小説には違いないですが、文学じゃないし、SFとしてもだいぶ質が低いです。

老人と柿/坂水

 安是の里の光輝く女と、老人が世話した“柿”の話。
 時代小説的なニュアンスのある怪奇ホラーです。語り手である老人はおそらく童貞で、世話していた柿は安是女だった。神の供物に成り損ねたのか、柿は既に狂ってしまった女だという読み取りが可能ですね。
 執拗に液体を啜る描写が印象的でした。人間の持つ嗜虐性のようなものが生々しく描かれ、エロティックというよりはグロテスクな空気感が作品全体の雰囲気を形作っていました。
 非常に面白い作品だったのですが,童貞文学の要素としては評価しづらい作品かもしれません。童貞性がなくても成立しそうな物語ではあるため、老人の童貞性を際立たせる描写があるとさらに好みでした。
 とはいえ、怪奇文学としての完成度が非常に高い作品でした。童貞文学企画でこの作品に出会えたことが面白い……!!

 老人の語り口にものすごく風情があり、時代物の雰囲気がとても良かったです。僕は時代劇っぽいものがまったく書けないので、シンプルにすご〜〜い!とはしゃぎました。
 こちらの作品の特徴は語り口もそうですが、柿の存在かなと思います。キャラクターと言ってしまって良いのかな……? 読み落としているのであれば申し訳ないのですが、食べ物の柿のはずなんですけど転げ回ったり寝込んだり欲情したりと、幼女のような振る舞いで、この不可思議さが味わい深いなと思いました。ロリから大人の女性へ変貌していく過程を見た気持ちになり、官能的でした。
 童貞文学として見ると、主軸は語り手の老人よりも、光る体質の女性(柿含め)のような気がしたので、多少ずれているかも……?
 でもあくまでも童貞文学に重きを置いた場合であり、ひとつの掌編として読むと幻想文学の雰囲気が楽しめる、とても良い作品でした。面白かったです。

和風ファンタジーという切り口はいいんですが、あまりにも怪奇小説の度が過ぎて、全体的な話のまとまりが今一つじゃないかと思います。この文字数ならこんなにあれもこれも設定を詰め込まない方がいいと思うんだ。設定がとっちらかっていて、最終的にどこを読者に見せたかったのか、という的が定まっていないという感じでした。

◆大賞選考

 選考方法は評議員が賞にしたい作品を同時に3作品発表し、得票数が多かった作品が選ばれるという形式です。

謎のリドラー(以下、リドラー):
「2人で踊りましょう」
「童貞、銃を拾う」
「童貞録」

謎の暴力(以下、暴力):
エイズで死んだ童貞、一人心中、恋愛未満

謎のきょうじゅ(以下、きょうじゅ):
ボクは童貞という存在を知らない/金沢出流
エイズで死んだ童貞/山本貫太
朽ちたクジラの死骸のように/ラーさん

リドラー:エイズが童貞大賞です!
暴力:おめでとうございます! ガチ推しなので嬉しい

リドラー:エイズを大賞に挙げた理由等も聞かせてください!
きょうじゅ:あれが一番考えさせられた それに尽きる
暴力:エイズはなんだろうな 多分いろんな読み方ができて 水永を童貞だと考えればあんな童貞初めて見たに尽きるかなって しばらく考え込んだのはエイズだけかもレベルです キャラ名がポンとでてくるあたり本当に印象に残った 大賞は納得でしかない

リドラー:金賞、銀賞が難しいですね
きょうじゅ:あと七作品挙がってる
暴力:残りから推し作品出しますか?
リドラー:候補が多すぎる

きょうじゅ:一票に絞るなら 朽ちたクジラの死骸のように/ラーさん
暴力:一票絞りなら恋愛未満 なんか辛気臭くて暗い感じの童貞ばっかだったからこういう爽やかな話にも光を当てたい そんな感じです
リドラー:「童貞、銃を拾う」を推したい

暴力:クジラ〜は話の筋が王道すぎて刺さりはしなかった感じで童貞銃は僕も好きです
きょうじゅ:童貞銃は評価が低い
リドラー:童貞銃、本当にカタルシスが気持ちよくてエンタメとして好きです 主催権限で賞に入れたい
暴力:三人が挙げた三作の中で二つ選ぶなら恋愛未満と童貞銃でお願いします
きょうじゅ:じゃあ恋愛未満とクジラ
リドラー:恋愛未満、好きなんですけど童
真性がそこまでだったな......って感想があって
きょうじゅ:恋愛未満は明るすぎると思ったから三選からは避けたけど金賞には値すると思う
暴力:わかります 恋愛未満たしかに大賞になるとちがうかったかもしれない でも金なら爽やか クジラも芸術点はトップ3内にはいたんですけどね……
きょうじゅ:クジラは三選じゃなくて一票のルールならこれに入れてたくらい評価が高い ありがちなところからブレーンバスターで落とす落差がいい
リドラー:クジラ、良かったです かなり童貞文学度が高かった

リドラー:金賞が恋愛未満、銀賞が童貞銃にします!

リドラー:五億点賞も決めます?
きょうじゅ:I Love (or You Love)/大村あたる
リドラー:「童貞が聞きたくなかった台詞
を聞いた話」
暴力:まだ達 理由→私の中の最強ブロマンス (ないしBL)賞

リドラー:それぞれの賞の選出理由等もいただけると嬉しいです
きょうじゅ:あんまり小説技巧点は高く無いんだけどエモかったから個人賞
リドラー:「童貞が聞きたくなかった台詞を聞いた話」、冷静な講評ができなくなるくらいには質感が本物のそれだったので……
暴力:他にもいいなと思う男男の話はあったんだけどタイトルまで覚えたのがこれだけだからこれが一番刺さったんだと思う あとカードゲーム加点が入った

暴力:一人心中はシンプルに評価シート最高打点でした
リドラー:一人心中、完成度が高すぎて逆
贔屓にしてしまった...
暴力:キモい童貞だけじゃなくてキモい女の描写も抜群にうまかった
リドラー:総合得点でいうと一人心中めちゃくちゃ高得点ですね
きょうじゅ:水準は高いと思うけど個人的な好みからはちょっとずれる一人心中
暴力:私でいうクジラですね うまくてすごいんだけど刺さらないというやつ...…
きょうじゅ:春海水亭さんって割とコンテスト荒らし (悪い意味の言葉ではなく)だよね 『ボクは童貞という存在を知らない/金沢出流』は 美しかった
暴力:ボク童貞 全体理解までにちょっと時間がかかったのでそこは申し訳ない感じなんですが シンプルに収まった綺麗な掌編だと思います ポケモンカードなのがポケットモンスター(スラング)にかけてあるのかどうか気になる
リドラー:ボク童貞、童貞性を描かないことで輪郭を描き出すのがすごいなーって思いました
きょうじゅ:和田島さんのやつ一票くらい入るかと思ってた 好きではないんだけど強い作品だとは思っている
リドラー:イサキさんは逆贔屓……
暴力:イサキさんはいつも強いので無意識逆贔屓してたかもしれないです
きょうじゅ:贔屓というのはやらないことにしている あえていえばジュージさんにだけはやっているかもしれないが
暴力:きょうじゅの講評全部勝手に読んだんですが タイトル忘れちゃったんですがマハラってキャラが出てくる童貞ファイトクラブなやつ
すごい好きでした
きょうじゅ:マハラ あれ女だって説があるけど どうなんだろう?

リドラー:企画を通しての感想や参加作品の傾向、賞以外に好きな作品等をいただきたく!
きょうじゅ:詳しくは講評を読んでもらえば分かるが 厳しめに付けたけど光る作品はあったよ いい企画だったと思う
暴力:企画を通しての感想 一生どころか来世分まで童貞を浴びた感じでしばらく童貞のこと考えたくない……まで一時は追い込まれました
すごい企画だと思いました
リドラー:僕も予測変換が童貞で埋まりました
きょうじゅ:童貞文学とは何か、というのは散々考えたよ よい小説でも童貞を文学してないやつはばっさり評価した
リドラー:この企画からカクヨムデビューした人が多かったのも嬉しかったです この企画でええんか 評議員によって「わかる」と
「わからん」の隔たりがあったのも面白かったポイントですね
きょうじゅ:「ソープに行け」は童貞小説として評価が低くて「ソープに行ってもダメだろうな」は童貞文学として評価が高い証 俺の講評は ちなみにアンダンテは後者だから
リドラー:なんかナイフ飛んできたな
暴力:僕も最後になんですがヒロマルさんのやつもすごい好き AV女優とせっくすしたいだけの話 一番素直に笑ったしいつかは童貞卒業できると思う 頑張ってほしい
暴力:そういやきょうじゅ個人賞の小説も僕好きです なんか間の外し方みたいなところが面白くていいなーと思いました

リドラー:最後に一言何かありましたら!
暴力:最後の一言というか総評?としては なんだろう 僕が好きなのはBLナイズされたかわいい童貞攻めだということを骨の髄まで叩き込まれ これから童貞をもし書く時には参考にできるものばかりでした 面白い作品たくさんあって楽しかったです
きょうじゅ:他人はどこまでも他人で、自分とは別の存在です 恋愛でも文学でもこれは同じ 鉄則と言っていい
暴力:そして良かったら本買ってくださ
い 童貞(物理)受けがいます よろしくね!

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