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三谷 晶子
2022年6月8日 08:44
着信の緑の光が目の端に映った瞬間、美春は携帯を手に取った。しかし、応答ボタンは押さないまま、震える携帯をしばし掌で弄ぶ。画面に表示されているのは、虹男の名前だ。コールは五回待て。小さな、駆け引き。「もしもし」「あ、どうも。虹男です」「あ、この前はどうも」「いえ、こちらこそどうも」 何がどうもなんだか。そう思いながら、美春は無言のまま、爪の先でこめかみを掻いた。酔いと喧騒の中で出