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初めての自家製コンポストと、私のレモン。

2年半が経った。
机に向かい、窓の外を見るたびに、その期間を思う。
窓の外には、レモンの鉢が6つ並んでいる。
2年半前に植えたレモンの種。
一番大きな株は、今60cmほどの背丈になっている。


フランスで、新型コロナウィルス感染対策として最初の外出禁止令が敢行されたのは2020年の3月 17日だ。

そこから、8週間だったと思う。続いた。

普段の行動という観点からすれば、限りなく制限されたけれど、おかげで普段できないことが随分とできた。久しくじっくり話すことのなかった学生時代からの友人たちと話す時間が持てたし、全て自炊の食生活に、朝晩としっかりストレッチとエクササイズもできて、読書も書き物も”時間が足りないなぁ”と思うほどにじっくり取り組めた。

その非日常の日々の中で、私は、ある日、食べたレモンの種を植えることにした。

湿らせたキッチンペーパーで包み、発芽するのを待って、とりあえずその時点で家にあった鉢に植えた。11粒。たしかシチリア産のレモンだった。その11粒は、全て芽を出した。

ハーブや何かの種を植えたことはあっても、自分で食べたものの種を植えたのは初めてだった。発芽するまでも待ち遠しくて仕方なくて、仮の鉢に移してからは、11の生き物と一緒に生活を始めた気持ちになった。

外出禁止令が解けて、外出する距離に制限がなくなってから、すぐに鉢を買いに行った。春から夏に移行するタイミングで、ハーブの苗も買い、それらも素焼きの鉢に移し替えたけれど、やっぱり向き合う心持ちは異なるものだった。

そうさせた一番の原因は、11粒のレモンの種は、その成長速度にすぐさま違いが現れたからだ。ぐんぐん伸びるのと、うーん…これはどこまで持つかなぁと思わせるか細いのがいた。成長具合に応じて、大きな鉢に移した方が良さそうなものは植え替えた。その度に、オーガニックのスーパーで売られるようになった、パリ近郊の畑で作られたコンポストを混ぜ込んだ。

そうやって見守りながら、冬になって、雪が降った。

ニースに行くと1月にレモンの実がいっぱい生っているし、マントンのレモン祭りは2月だし…とコート・ダジュールの街で目にした、冬のレモンの木の風景を思い浮かべながら、私は、鉢を窓の外に置きっぱなしのまま日本に帰国していた。

iPhoneで天気予報を確認しては、部屋の中に入れて出発するべきだった…と後悔した。パリに戻ると、どれも健在だったものの、春になると差が出てきて、結局私は、5株に別れを告げた。

残る6株と迎えた2度目の夏。
実をつけるのはまだまだ先だろうけれど、葉に触れただけで、爽やかなレモンの香りを指先に残すくらいに、鮮烈に彼らはレモンで、私は隣人に水やりをお願いして、帰国した。

すると、妹がフェルト製のコンポスト用バッグを使っていた。

冬に帰国した時には、大きな発泡スチロールの箱と段ボール箱2つで、コンポスト作りを実践していて、堆肥にするには何を入れられるか、そして入れるものによってどんな反応が起きるかを説明してくれた。

前々からコンポストには興味を持っていたし、「人の体の中で起こることとほんと同じだよ」と言う彼女の言葉にも大いに惹かれたけれど、私の住むアパートには、窓の外に植木を置くくらいのスペースはあっても、コンポスト用の段ボールを置く広さはない。見栄えの点でも躊躇われたし、それに、虫が湧いたらなぁ…と思うと一歩踏み出せなかった。

ところが、そのコンポストバッグはそういった懸念が無用らしい。

ただ、土に還るものを作るのに、遠い日本からパリに運んで使うのは嫌だった。フランス産、難しくてもヨーロッパ産で見つけたかった。ドイツはフランスよりもそういった動きが活発だし、きっとあるに違いない。

パリに戻って、早速探した。でも、これ!と思うものがなかなか見つからないまま冬になった。

春になったらきっと、新芽も出るだろうし、自分で作ったコンポストで育ててみたいんだけどどうするかなぁと悩んでいたところに、妹の使っていたコンポストバッグの生みの親が、フランスに支社を設け、パリ近郊で生産(バッグも基材も)を始めたことを知った。

願ったり叶ったりだ。

迷うことなく使い始め、初夏になる頃、初めての自家製コンポストができた。毎日、コーヒーの出涸らしに、果物や野菜のヘタに皮、時には鶏の骨も加えて混ぜ込んできたコンポスト。
それでまた、レモンそれぞれに合わせて、少し大きな鉢に植え替えた。もちろん、自家製コンポストを入れて。

そうしたら、だ。

驚く勢いで、葉が増え出した。こんなにわんさか?と思うくらいに。栄養ってすごいな、と目の当たりにした。これでいつか実をつけたら……そのレモンは、私が食べてきたものと同じものから栄養を得たレモンだ。それってもう、母乳を飲んで育った赤ちゃんみたいな感じだよね。

いちばん元気なレモンは、葉も10cm強と大きくて、鉢植えでは窮屈じゃないかと思い始めている。

それで、近しい人の田舎の家の庭に”植えさせて欲しい”と聞いてみたら、喜んで!と言ってくれた。
その時に、「作物によって、これにはこれが合う、あっちには別の、とコンポストを分けて作ってるんだよ」と教えてくれた。
なんと、面白そうな!!

私の中でコンポストは、植物へのごはん、と言う感覚だ。そりゃぁ植物それぞれにも、体質により合うものも、好みも、あるだろうなぁと思った。

理科が大っ嫌いで、そのために、設計図を書きたいと夢みながらも理数系に進むのをやめた私が、こんなふうに、まさに理科じゃないかこれ!ってことに夢中になるなんて。

人生ってわからないなぁ。

外出禁止令が出るような日々にならなかったら、自分が食べたレモンの種を植えることもなかったかもしれない。

窓の外のレモンの葉が揺れるのを眺めるたびに、面白いよなぁ、と思う。
私とレモンの日々はこれからも、続く。


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だいぶ、興奮気味に書きましたが、
コンポストを始めての経験談をお話しする機会をいただきました。
コンポストセミナーの最後に、30分ほど、登場する予定です。
ご興味ある方、よかったら、詳細、ご覧くださいね。


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