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信頼と励ましの効用

これはまだフランスに来たばかりの頃、今から5年前の話。

スイスとイタリアとの国境近く、フランスの南東の端にあるValloire(ヴァロワール)という街に行ってきた。まだ彼だった夫と、夫の同僚のムッシュー二人と、計四人。ちなみにフランス語は殆ど話せないし聞き取れないので、当時は英語をメインに使っていた。

山歩きとスキー、どちらも馴染みがないので、観光がてら、くっ付いて行くだけだとタカをくくっていたら、当たり前のようにどちらも参加することになり、初日に4時間ほど山歩きして戻った時の私の両脚と言ったら、怠いのか痛いのかよく分からないけどとにかく疲れた、と主張して大変だった。30cm以上雪が積もっている場所もあり、雪の中を歩くことも中々難しかったけれど、これは装備の問題かもしれない。

次の日、思ったよりも早く回復した両脚に気を良くして、スキー初体験。本当は中学生の時に母の実家で一度だけしたことがあるのだけど、あまり滑れなかったのだろう、ほとんど覚えていない。そして今回、やはりというのか、最初は全く思うように動けず、スキー板に対してうっすら敵意を覚える程で、初心者向けのリフトに乗るのも怖くて何度か拒否した。

どうにかこうにかリフトに乗った後も、少しずつ滑って下まで降りてくるまでに、曲がれないのと止まれない二重苦で疲れ果て、お昼の休憩を挟むまでに結局一度しかリフトに乗らなかった。
休憩後、ムッシューの一人が私の肩を叩いて言った、「これから数時間で確実に滑れるようになるから、心配するな」そして曲がる時の体重移動のコツについて教えてくれた。

これが凄く効いたのである。その後4〜5回初心者用コースを繰り返し滑る度に、どんどん自分の身体が体得して行くのが分かった。とりあえず曲がることと止まることは出来るようになり、初心者用コースでは転ばなくて済むようになった。ムッシューの言った通りになったのである。
もちろん休憩を挟んだことで、私の気持ちは果てしなく後ろ向きだった所から、だいぶ前向きになり、もう一度やってみようと思う所までは行っていた。

ただあの言葉とアドバイスがなかったら、ここまでの変化はなかっただろう。自分以外の誰かが、自分のことを信じてそれを伝えてくれることに、こんなに勇気付けられるものだとは。改めて人の言葉の与えるものの大きさに驚かされた出来事だった。

そしてもう一つ、リフトにいた係の人が、ちょっと訛ったフランス語で「マダ〜ム、ブラボ〜、トレビア〜ン」と毎回手放しでベタ褒めしてくれるのにも随分慰められた。やっぱり人は褒められて伸びるものだ。少なくとも私は、楽しいと思えないと続けられないし、楽しければ誰に言われなくてもまたやりたくなる。

自分が人に対する時も、そうありたいものだと改めて思った。

*追記:「おじさん」と書いていた箇所に違和感が拭えず「ムッシュー」に修正。「おじさん」には親しみはあっても、どこか敬意が欠けている気がする。何故だろう?

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