見出し画像

ウブド探訪

2012年の冬、アジアを3ヶ月程、一人で旅したことがあります。ベトナムにまず1ヶ月、それからマレーシア、インドネシアへ。パソコンとペンタブ持参で、滞在しつつ絵が描けるか試してみようと。結果はただただのんびりしてしまい、「沈没」する人がいるのも分かるけど、私は欧州の方が好みだな、というのが、その時の自分が出した結論でした。
気候や食べ物、文化、生活習慣、人との距離感。人それぞれ、どの土地がしっくり来るかは、やはり実際に行ってみないと分からない。日本で生まれたからと言って、日本が一番しっくり来るとは限らないのは勿論のこと。
さて、そんなインドネシアはバリ島での体験を綴った文章が、先日思わぬ所から出て来たので(ほぼ忘れていて、他人が書いたもののように読みました笑)、記録代わりにご紹介。アジア一人旅、一度は是非お試しを。

バリ島の中程に、ウブドという村がある。伝統芸能や芸術が盛んで有名だというので、友人の友人を訪ねてインドネシアに行った際、ついでに寄ってみることにした。

ウブドの第一印象は、人懐っこい、日本語で話しかけられる、田んぼが多い、野犬がいる、家の敷地内に寺院がある。などなど。日本人観光客が大挙して訪れると見え、こちらを一見して日本人と分かるらしい。ベトナムやマレーシアでは、中国人や韓国人と間違われることも多かったが、ここではそれがほとんどない。

敷地内に寺院があるという表現は大げさだろうか?日本の仏壇のように、家族がお参りする為の、プライベートな祭壇が庭に設置してあり、それがやたら大きくて立派なのである。宿では毎朝、経営者の家族の女性たちが、色とりどりの花びらを四角い入れ物に入れてお供え物を作り、子供がそれを敷地の入り口や祭壇の下などに置いて回るという光景が見られた。朝から昼にかけて、本当に毎日欠かさず。飽きっぽくて面倒くさがりな私はそれだけで尊敬の眼差し。

インドネシア全体ではイスラム教が約8割らしいが、バリ島は9割をヒンドゥー教が占めるという。日本では宗教を意識することがあまりないけれど、一つの国の中でここまで地域差があるのも珍しいと思う。祭壇に祀られた神様たちは、チェック模様の腰巻を巻いていたり、耳元に生花が飾られていたりと、大事にされているようである。

何より午前中いっぱいかけてお供え物を用意するという習慣自体、何だかのんびりしていて、良いなぁ。こういう人達を見ていると、豊かな生活って、気持ちの余裕のことをいうんじゃないかと思う。

田園風景は、葉をのびのびと大きく広げた、いかにも南国な植物が混じっているので少し不思議な雰囲気。日本ではないことがすぐ分かる。バリ島では、年に3回お米が採れると聞いた。ライスワインという半透明の、日本酒のような飲み物もあった。

村の治安は良さそうだったが、野犬は結構怖かった。向こうで知り合った外国人旅行者の中には、野犬をやり過ごす為だけにタクシーを呼び止め、飛び乗って行ったイタリア人女子もいた。ドイツとスイスの女子二人は逞しく、「万一の為に」と拾った石を握って果敢に立ち向かい、私もそれに倣って一緒に精一杯威嚇しながら距離を詰めた。すると大抵犬の方が折れてくれた。もちろん迂回できる時はしていたので、正面から退治したのは精々1、2度だったけれど。

村の代表的な観光地の一つに、モンキーフォレストという、猿たちが群れをなして住み着いている森があった。森の中には至る所に像があり、人や動物、神様と思しきものがひっそりと緑に紛れている。いつからそこにあるのか、苔むした石の表面に触れると、ああ、ここには確かに何かが宿っているなと、理由も無く納得したりするのだった。猿は犬同様なかなか凶暴で、食べ物を持ってぼうっとしていたりすると、突然飛びかかって奪いに来る。怖がって泣き出す観光客の子供もいた。

伝統芸能や芸術が盛んだと聞いてウブドに来たはずだったけれど、振り返ってみればほとんど芸術には触れずに、寺院と猿と田園風景で終わってしまった。ただ一度、地域の女の子達が踊りの練習をしているのを間近で見る機会があり、その時の光景は印象に残っている。

小学生から中学生くらいの集団の中に、4、5歳の小さな女の子が紛れ込んでいて、真剣に踊るお姉さん達をキョロキョロと目で追いながら、たどたどしく付いていく。そして度々踊りの途中で、端で見ているお母さんの所へニコニコと駆け寄って行ってしまう。また戻ったかと思うと、また駆けて行き、そんな調子ですっかり置いて行かれているのだが、全く気にした様子は無い。周囲のフォローも特に無い。女の子はただただ楽しそうで、見ているこちらも釣られて笑ってしまう。上手く踊ることだけが、人を楽しませる訳じゃないんだなぁ。純粋に物事を楽しむということ、最近できていただろうか?

書いておかなければならないことが一つあった。ウブドに限ったことではない(隣のロンボク島でも同じだった)のだけれど、インドネシアで見た夕暮れ時の空の色が本当に鮮やかで、混じり合う色と色の重なりが、思わず歓声をあげる程の美しさなのだ。旅先で何が必要かって、美味しいご飯、そして空と緑が綺麗なら、とりあえずそれで充分な気がする。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?