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B2Bのユーザーコミュニティを半年で2つ立ち上げた話(前) ファーストピンを探せ

こんにちは。
私は、外資系のRPA(Robotics Process Automation:簡単に言うと、PC上で動作するソフトウェアロボットのこと)のソリューションベンダーでカスタマーマーケティングを担当していました。

2019年7月に入社し、1年後にあたる2020年7月に退職したため、結果的にわずか1年という短い期間の在籍ではあったのですが、入社5か月後の2019年12月にユーザーグループとDeveloper Meetupという2種類のユーザーコミュニティを立ち上げ、途中にコロナ・ショックもありましたが、なんとか軌道に乗せることができました。

この記事では、2つのユーザーコミュニティの立ち上げに至るまでのプロセスと、そこからの学びについて書いていきたいと思います。

昨今のサブスクリプション・ビジネスの盛り上がりとともに、リテンションやコミュニティマーケティングを目的としたユーザーコミュニティの重要性に注目が集まっています。ユーザーコミュニティの立ち上げを自ら企画したり、自分が指名されてやることになった、という方も多いという話をよく聞きます。

私がこの1年で実践したことは、ごく特定の状況における特定のケースに過ぎないため、他で同じようにやればうまくいくかというと、決してそんなことはないと思います。ですが、「こんな状況で、こう考えて、こう動いた結果、こうなった」ことを追体験していただくことで、コミュニティをやろうとしている方にとって、これからやるべきこと、発生することを少しでも想像・解決するきっかけとなれば幸いです。

だらだらと書き連ねてみたら1万5000字の大作になってしまったため、3回に分けて掲載したいと思います。よろしければぜひ続きも読んでいただければ嬉しいです。

※この記事の内容は、筆者が在職していた時点(2019年7月〜2020年7月)での内容になるため、現在の状況とは異なる可能性があります。また、個人としての見解であり、企業としての公式見解ではないことをご理解いただければ幸いです。

カスタマーマーケティングという仕事

私が入社した外資系のRPAベンダーは、本社がアメリカにあり、当時日本法人が立ち上がって1年強という段階。私は日本で唯一の「カスタマーマーケティング」の担当者として入社しました。レポートライン上の上司はアメリカにいるインド人女性で、同じチームの同僚はアメリカ、イギリス、シンガポール、インドと世界各国に散らばっています。日本ではマーケティングチームに所属し、カスタマーサクセスのチームとも密に連携する、というなかなか複雑な構造になっていました。

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カスタマーマーケティングが何をする仕事かというと、ひとくちで言うと「既存顧客に対するマーケティング」です。
外資によくあるJob Description(職務内容を記述したもの)的に言うと、こんな感じになります。

1. マーケティングの立場として、顧客事例の制作やイベントでの顧客スピーカーのアレンジなど、既存顧客を起点とした施策によ新規顧客獲得に貢献する

2. カスタマーサクセス チームと連携して、既存顧客向けのユーザーコミュニティや、活用を支援するプログラムによってカスタマーサクセスを支援し、リテンションやアップセル、クロスセルなどに貢献する

実際やっていたことはこの通りではあったのですが、私としては、「心はカスタマーサクセス、身体はマーケ」という気持ちで活動をしていました。やっていることはマーケティング的な手法の仕事ではあるのですが、気持ちとしては「お客様のサクセスを支援する」と思ってやっていたということです。
そしてマーケティングとカスタマーサクセスの両方に密接に関わる唯一の存在として、両者をつなげる立場でありたいと思っていました。

その中でも、私個人として一番大事だと思い、入社前から「何が何でも成功させる」と思って力を入れたのがユーザーコミュニティでした。

コミュニティはカスタマーサクセスに不可欠

BtoBの、それもEnterpriseをメインターゲットとしたサブスクリプション・ビジネスでは、最初の商談でいきなり大きな契約額(ACV)が取れることはそうそうありません。最初にどかんと大きな契約をとって、あとは数年後の更新までしばらく放置・・・というビジネスではなく、スモールスタートで始めて、顧客社内で小さな成功体験を積み重ねてもらう。社内でプロダクトが浸透していき、全社に展開され、結果アップセルやクロスセルにつながる。そんなビジネスモデルが一般的で、かつ理想的でもあります。

そのために大事なのが、言うまでもなく、カスタマーサクセスです。導入した顧客がプロダクトによって自社のサクセスを実現すること、がゴールになります。

サクセスのためには、ベンダーからの情報提供だけでは足りません。なぜなら、ベンダーはプロダクトについては詳しくても、実際のユースケースや運用上のナレッジを実体験をもって語ることができないからです。いくらCSM(カスタマーサクセス マネージャー)が熱心にユーザーに伴走しても、「実際に他のユーザーがどうやって運用しているのか」はなかなか答えられません。こういった運用に関する情報は、実はユーザーが一番知りたい情報でもあります。

顧客事例はもちろん一つの有効な手段であり、特定の顧客のストーリーや活用例をポータブルな形で再現できる優れた手段です。ですが、事例という形で加工されたコンテンツをベンダーから提供するだけでなく、ユーザー同士が自身のノウハウを直接共有し合えることが必要です。そして、ユーザー同士が情報交換をしてもらうためには、ユーザーコミュニティが一番早くて効果的であると考えました。
コミュニティを中心にどうやってユーザー同士の結びつきを作り、コミュニティの価値を高め、その熱をマーケットに伝えていくか。入社前に私はこれが自分の大きな課題になると考えていました。

RPA、それは熱量の高いユーザーが集まるマーケット

話はいったん飛びますが、RPAは情シスや事業部門の一般ユーザーがオーディエンスとなるテクノロジーです。元々プログラミングをやっていたような、ゴリゴリのエンジニアという人は、実はそれほど多くはありません。(そういう方は開発ができるので、RPAのようなエンドユーザーサイドのテクノロジーにはそれほど興味を持たない、という側面もありそうですが)

一般的に、こういった属性の方々はあまりSNSなどオープンな場所で積極的な発信をしないことが多いのですが、私がこれまで見てきた中でも、RPA業界は、ユーザーもベンダーもTwitterを中心にアウトプッターが多く、熱量の集まっているマーケットだと思います。

ベンダー側がミートアップやSNSで情報発信を積極的に行っているのはもちろん、ユーザーサイドで発信・交流している人がとても多い。Mitzさんが主宰されている日本有数のRPAのコミュニティであるRPA Communityをはじめとして、業界勉強会やミートアップもとても盛んで、ユーザー同士が特定の製品・技術にこだわらず、互いに学び合う姿勢がある。そして、熱い思いを抱いて、時に職場で孤独に闘って頑張っている方が多い。私は前職でRPA界隈の方々と交流があり、このことを実感していました。現場を変えようと頑張っている方々を応援したい、と思ったのがこの業界を選択した一つの理由です。このアツいユーザーさんを中心にユーザーコミュニティを広げていけたらすごく面白いんじゃないか、と思っていました。

ファーストピンに会いに行く

ユーザーコミュニティを始めるに当たっての私の前提は、「ユーザーを企画側に巻き込む」でした。ベンダーがレクチャーするだけの場や、事例発表のみユーザーに登壇してもらうような場作りでは、その場では盛り上がったとしても、継続的に広げていくことは難しいのではないかと考えたからです。

実際にプロダクトを使っているユーザーさん自身がほしいと思える場を一緒に作っていき、ユーザーさん同士が自主的に助け合うような雰囲気を作っていくことで、価値のあるコミュニティを実現できると思いました。

なので、入社して私がまずやったことは、ユーザーコミュニティの中心となるようなアツいユーザーさん、つまり「ファーストピン」候補に会いにいくことでした。
以前、カスタマーマーケティングについてこちらの記事を書いたときにも、「まず最初にユーザーに会いに行くべし」と言っています。

コミュニティを立ち上げるときに必ずと言っていいほど質問が上がる「ファーストピンのみつけかた」ですが、私の探し方はこんな感じでした。

・ソーシャルつながりで見つける
入社後に、幸運なことにTwitter上でつながっていた方のうちの一人が自社のプロダクトのユーザーさんであることが判明。早速その方に連絡を取って会いに行き、ユーザーコミュニティのアイデアを話して相談に乗ってもらいました。最初から意気投合して、同じ思いを共有できたのは本当にラッキーだったと思います。コミュニティに幹事側メンバーとして参加するにあたり、上司の方の理解を得るハードルはありましたが、ご本人の熱意のおかげで活動を認めてもらうことができました。

・社内から探す
自己紹介も兼ねて、セールスやCSMなど様々なチームのミーティングで時間をもらい、「ユーザー主導のユーザーコミュニティ」の企画について説明。「幹事をやってくれるようなお客様を紹介してもらえませんか?」とお願いしました。最初はなかなか理解と協力を得られませんでしたが、個別に相談するうちに、徐々に「あの会社の〇〇さんはユーザー会に積極的」「以前、ユーザー会があれば幹事をやってもいいと言っていた」などの情報を教えてくれる人が出てくるように。営業担当や、お客様へのパスを持っている方にお願いしてお客様訪問に同行させてもらい、時間をもらってコンセプトを説明して、「幹事をやりませんか?」とお願いしました。すぐに承諾をいただけないケースもありましたが、このやり方で何社かの方に賛同していただくことができました。

・過去のユーザー会の参加者アンケートから探す
実は私の入社以前にも、「ユーザー会」は開催されていました。いわゆる昔ながらの「ユーザー会」のようなもので、会社が主催してお客様に事例発表をしていただき、懇親会がセットになっているというものだったようです。何度か開催したものの、継続的に担当者のリソースが割けず、休止状態になってしまっていたようでした。その「ユーザー会」参加者から集めたアンケートの回答を共有してもらう機会があり、見てみたところ、「もっとユーザーが主体になるユーザー会をやったほうがいいと思います」という趣旨のコメントを発見(正確にはちょっと違う表現だったと思いますが)。これはファーストピン候補!とピンと来て、営業担当者経由でお客様につないでいただき、幹事になっていただくことができました。

オーディエンスに合わせてコミュニティを分ける

コミュニティの立ち上げを考えていた当初、私は漠然とTwitterを中心にオープンなユーザーコミュニティを立ち上げればそれでうまく行くだろう、と考えていました。
ですが、幹事となってくださる企業の方々と話したり、会社としてのコミュニティへの期待値などを紐解いていく中で、プロダクトのオーディエンスとなるユーザーには2種類いることが分かって来ました。そして、異なる属性のオーディエンスに合わせて、それぞれ別の形のコミュニティを立ち上げるのが良さそうだという思いに至りました。
そこで整理したのが以下の2種類のコミュニティです。

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契約企業の社内RPA推進者を対象としたユーザーグループ
ユーザーグループは、契約企業の社内推進担当者を中心に、心理的安全性が確保されるクローズドな場で、ディスカッションを中心に密な情報共有を行うコミュニティとして立ち上げました。お客様である、有料で契約していただいている企業にサービスを活用してもらい、RPAを使って業務を自動化して効率化していくこと、つまりカスタマーサクセスを目的としています。

こちらは社内でカスタマーサクセスやセールスのメンバーとも連携して、お客様に積極的に参加してもらうよう声をかけてもらったり、その後のフォローアップをしてもらいます。クローズ性を保ちつつ、ミートアップの管理を効率的に行えるツールとしてDoorkeeperというプラットフォームを利用。ユーザー企業数社に幹事を務めていただき、どのような場にしたいかのコンセプトづくりから、月に1回程度行う分科会の企画も幹事メンバーと一緒に進めていきました。

個人のRPAデベロッパーを対象としたDeveloper Meetup
RPAの業界には、一般のITエンジニアと同じく、RPAを生業としてキャリアを立てている方が多くいます。派遣社員として活躍している方や、RPAツールのトレーナーの方、またエンドユーザー企業でも複数のRPAツールを併用している方も多い印象です。これらの方々に対して、広く裾野を広げて認知を上げていくこと、つまりコミュニティマーケティングの文脈でのコミュニティが必要だと考えました。

無料のエディションも提供しているため、すでに使っている方への技術情報の提供はもちろん、コミュニティをきっかけに気軽に使い始めてもらえるようなコミュニティ作りを目指しました。

ちょうど社内で、本社のDeveloper Relationチームで運営しているDeveloper Meetupを日本でもやろうとする動きがあり、その文脈に合わせて社内の有志のメンバーで立ち上げを行うことになりました。

Developer Meetupはオープンであることを目指していたので、Connpassでイベントを立てて、Twitterなどのソーシャルで積極的に宣伝。興味がある方であれば、サービスを使っていなくても参加OK!という前提で、実際に開発を行っている方が興味を持ちそうな内容にフォーカス。内容も断りがない限りすべてTweet OKとし、終わった後はTogetterでTweetまとめを作って、Tweetがコンテンツになるような工夫を行いました。

今回、プロダクトのオーディエンスが2種類存在することから2種類のコミュニティをそれぞれ立ち上げましたが、お手本にしたのは実はAWSのユーザーグループ、JAWS-UGです。JAWS-UGには、従来の開発者を対象としたコミュニティとは別に、エンタープライズ企業を対象としたクローズドなコミュニティ「E-JAWS」があるそうです。

私の場合は、ユーザーグループの対象はエンタープライズだけでなく契約企業であれば誰でも参加OKという形にしましたが、「契約企業のカスタマーサクセス 」と「個人の開発者へのコミュニティマーケティング」というコミュニティの分類は、企業をターゲットとし、無料のエディションも提供しているプラットフォーマーであれば、他でもトレースできるテンプレなのではないかと思っています。未検証ではありますが。

ということで、ここまで、「ファーストピンの探し方」「コミュニティの設計」について見てきました。次は「ステークホルダーをどう説得するか」について近日中に公開予定です。続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。

追記:続きを公開しました!

これまでのところでご意見やご感想、ご質問があれば、ぜひどうぞTwitterでお気軽に話しかけてください!待ってます。


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