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ファウンダーのためのコミュニティ・プレイブック

先日、私の会社のコミュニティチームの同僚(アメリカ人)が、チームのslackチャンネルで、あるeBookを紹介していました。12月2日にFlybridge Capitalから公開された、The Community Playbook for Founders というeBookです。「ファウンダーのためのコミュニティのハウツー本」という触れ込みに惹かれて読んでみたところ、その素晴らしい内容に共感し、同時にめちゃくちゃ興奮し、早速twitterで紹介しました。

この小冊子には、コミュニティの立ち上げ時に何にフォーカスすべきか、どのように立ち上げてコミュニティを成功させるか、プロダクトへのフィードバックや組織での位置付け、そしてROIの測定方法など、プロダクトのユーザーコミュニティを立ち上げようとしている人が知りたいことが全部、理論とHow toの両面でコンパクトにまとめられています。
そして何とありがたいことに、PDFにして合計36ページからなるこのeBookは、無料かつ、何の個人情報も提供せずに全文が読め、PDFをダウンロードすることができます。

※本noteのタイトル画像もこちらからお借りしました。

ということで、みんなこれ読んで!でこのnoteは終了、と行ってしまいそうなところですが、全文英語なので、英語ネイティブでない大体の日本人(私もです)にとっては、少々のハードルがあることは否めません。
私はこのeBookの内容に感動し、ぜひこれを日本のコミュニティマネージャーにも知ってもらいたいと思ったので、大変僭越ながら、日本語の紹介記事を書かせてもらうことにしました。
(ちなみにもちろん著者ともこの企業とも何の関わりもありません)

こんな方に読んでいただき、ぜひ参考にしていただければと思います。

・BtoBプロダクトのユーザーコミュニティ運営に関わる人
・特に、SaaSスタートアップでコミュニティ立ち上げを狙う人
・BtoB SaaSの事業責任者や、その人を説得しないといけない立場の方

The Community Playbook for Foundersとは?

本文に入る前に、このeBookについて少々の補足を。
これを作成・公開したのはFlybridge Capital Partnersというアメリカのベンチャー・キャピタルの会社なんですが、この会社の理念を見て、めちゃめちゃステキ!と思いました。

Seed-stage venture capital for ambitious founders leveraging the power of community.
(コミュニティの力を活用した、野心的な創業者のためのシードステージのベンチャーキャピタル)

投資先は、Codeademy, MongoDB, Chiefなど。コミュニティに特化したVCなんて日本では聞いたことがないですが、シリコンバレーの最先端にはこんなVCがあるのですね。日本でもいずれ出てくると期待したいです。

このFlybridge Capital PartnersのFounderであり、泣く子も黙るあのハーバード・ビジネス・スクールの講師でもあるJeffrey Bussgang氏がJono Bacon氏(もとGit Hubのコミュニティ責任者であり、『アート・オブ・コミュニティ』の著者)と一緒に、2020年の1月にハーバード・ビジネス・レビューに掲載した論文がこちらです。

これはこれで大変素晴らしい内容なので、ぜひまた別の記事で紹介したいのですが、このHBRの記事の内容をより具体的な"How To"に落とし込んだのが、このThe Community Playbook for FoundersというeBookだそうです。

この電子書籍「ファウンダーのためのコミュニティ・プレイブック」は、起業家のためのより詳細なガイドとして、実践的な「ハウツー」を提供するものです。コミュニティ主導型の企業は、メンバーの非常に献身的で情熱的なエコシステムの力を利用して、アドプション(浸透)、成長、サクセスを推進しています。私たちは、このプレイブックが、コミュニティのパワーへの私たちのビジョンを共有してくれる起業家をサポートすることを願っています。

The Community Playbook for Foundersより。今後断りがない限り、ここからの引用となります)

ワクワクしますね!ここからは、本文の内容を引用しつつ、要約して行きたいと思います。

Chapter 1. フォーメーションとエンゲージメント

本書は、成功するコミュニティを立ち上げるために、ファウンダーがまず考慮すべき3つの点から始まります。

(1) Whoにフォーカスする
立ち上げの三原則の一番目に挙げられたのが、"Focus on the "who". Start with a narrow target persona."("Who"にフォーカスせよ。狭いペルソナから始めよ)です。

・アーリーステージの起業家にとって、大きなビジョンを明確にして、広い顧客層をターゲットにすることは、資金調達には欠かせません。しかし、コミュニティのペルソナを定義する際には、狭く始めるのがベストです。他の方法では考えられないほどの狭さです。

強力なコミュニティを形成する際には、コミュニティのペルソナを自認する同じような心を持った人たちの少人数のグループから始めましょう。心理学的研究によると、人間は「心理学的なデフォルト」として、自分と似たような人たちを信頼できると認識して求めるように仕組まれているそうです。

・個人のレベルや職業のレベルでの価値観の共有や使命など、コミュニティを一つにまとめるような統一的なテーマが必要です。コミュニティの範囲が広すぎると、集まる理由が十分にありません。
女性エグゼクティブのためのコミュニティ・サービス"Chief"におけるコミュニティ・ペルソナの深堀り例

・ターゲット顧客のビッグピクチャー:世界のすべてのエグゼクティブ女性
・初期のコミュニティを小さくするフィルター:米国を拠点とするCレベルのエグゼクティブ
・初期のコミュニティ(もっと狭い定義)。ニューヨークに住むCクラスのエグゼクティブ女性
・初期のコミュニティ(さらに狭い定義)。ニューヨークの小売、メディア、テクノロジー業界に従事する女性幹部クラスの女性

「Whoから始める」、そして「コミュニティを一つにまとめるような統一的なテーマを決める」(≒コンテキスト・ファースト)などは、『コミュニティ・マーケティング』でお馴染みの小島さんが常々言われていることと一致しますね。やはりコミュニティのセオリーは万国共通なのだととても納得しました。

(2) 目的を明確にする
Whoを決めた後は、"What"、つまりコミュニティのバリュー・プロポジション(価値提案)を決めます。

・コミュニティのバリュー・プロポジションとは、何が人々をコミュニティに引き込み、何が彼らをコミュニティにとどめておくのかを示すものです。重要なことは、その価値提案は、あなたが惹きつけたい最初のコミュニティに対して可能な限り狭く具体的なものでなければならず、また、参加させるためにぶら下げるニンジンとして「アハ!」コンテンツの一部を含んでいなければなりません。

・WhoとWhatを定義した後は、(1) コミュニティを形成する上での、自分のビジネス上、そして個人的な目的は何か?そして(2) コミュニティの成功を定義するものは何か?の2つの質問に答えられるように準備しましょう。
コミュニティの主な目的の例:
・プロダクトのサポートとサクセス
・新規顧客の供給
・プロダクト・イノベーションとフィードバック
・プロダクトそのもの(注:語学学習のDuolingoのように、コミュニティそのものがプロダクトの価値になる場合)

多くの企業はすべてをやりたいと考えているため、これら4つの目的に優先順位をつけることは、初期のエネルギーを集中させるために非常に重要です。
コミュニティを構築する目的が何であるかを決定すると同時に、コミュニティのメンバー自身がコミュニティの一員となることに興味を持つ理由も考慮に入れておく必要があります。言い換えれば、なぜコミュニティのメンバーが現れるのか、コミュニティの一員になることの目的は何なのか、ということです。

コミュニティの"What"、つまり提供企業側にとってのコミュニティの意味、そして参加するメンバーにとってのコミュニティの意味を明確にするというのは、実は何となくコミュニティを初めてしまうと一番見落としがちなポイントだと思います。ターゲットを定めて、場を盛り上げることに集中すると、それなりに「コミュニティっぽく」なってしまうからです。ですが、一時的に盛り上がったとしても、参加者にその後も留まり続けてもらい、コミュニティに貢献してもらうには、そして社内でコミュニティの活動を継続するには、明確な目的が必ず必要になると私自身も考えています。

(3) エンゲージメントを高めるポートフォリオを作成する
コミュニティを立ち上げた後に(実際にはほぼ同時に、ですが)やるべきことは、メンバーのエンゲージメントを高める、つまりコミュニティに対して貢献をしてもらうと言うことです。自明のことではありますが、コミュニティは企業側からの一方的な情報提供や場の提供だけでは成立しません。一方的な提供だけだと、一般的な営業・マーケティング活動と同じになります。コミュニティの場を成立させるためには、メンバー一人一人に自発的に情報提供や場への参加、発信やアイデア・企画の発案、イベントの主催などをしてもらう必要があります。

そのために必要なこととして、本書では、メンバー一人一人がそれぞれ異なるステージにいても、それぞれの形でコミュニティに貢献できるようなポートフォリオを作成することが必要だと述べられています。

コミュニティメンバーのジャーニーは、認知(Awareness)→アテンション(Attention)→行動(Action)というステージで移り変わりますが、マーケティングのファネルと異なり、流動的です。

コミュニティメンバーのプロフィールや参加目的によって、コミュニティでの活動の種類やコミットメントのレベルは異なりますが、それぞれが価値のあるものとして評価されるべきです。
非営利の教師向けトレーニング・プログラムを提供するFacing History and Ourselvesにおけるコミュニティのエンゲージメント施策の例

Facing Historyの教師のコミュニティでは、カリキュラムの教材を様々な方法で取り入れています。ある教師は、教材を授業計画の一部に活用し、使用します。また、カリキュラムを専用のコース全体に組み込む先生もいます。Facing Historyは、地域の何万人もの先生方を対象に、あらゆる段階に応じてアクティビティやエンゲージメントのテクニックをカスタマイズし、どこにいても先生方を大切にしています。

下のグラフでわかるのは、コミュニティのごく一部の人々が最も深いレベルで関与している一方で、それ以外のケースではより基本的なレベルで関与しているということです。ここでも、どのレベルであっても関与することは評価されます。コミュニティのメンバー(この場合は高校の教師)は、一年の間に、あるいはキャリアの中で異なる時期に、さまざまなレベルの関わり方をすることが期待されています。

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マーケティングファネルと異なり、必ずしもステージを順番にまっすぐ上がっていくものではないこと、そしてどのステージにいたとしても、それぞれの形での貢献には価値があると認識するべし、というのは大事な指摘ですね。メンバーそれぞれの活動の意味が明確になるように、一つでなく複数の施策を組み合わせ、ポートフォリオとしてエンゲージメントの施策を考えるべし、というのは非常に納得感があります。

Chapter 2. プロダクト・フィードバックとサポート

次の章では、コミュニティを活用してプロダクトを磨こうとするときに、ファウンダーが意識すべき3つの原則について書かれています。

(1) 製品開発プロセスにコミュニティを意図的に取り入れる

・ファウンダーにとっての最初の課題は、見込み客を相手にアイデアを開発し、テストすることです。顧客の発見とは、見込み客が直面している問題を深く探り、可能な解決策を考え、その解決策が説得力を持って問題に対処できるかどうかを検証するために検証可能な仮説を特定することです。ファウダーは、満たされていないニーズを探るために、顧客の問題を特定し、調査するために数え切れないほどの時間を費やす必要があります。

コミュニティは、顧客の発見や製品開発のための強力な情報源となり得ます。プロダクトマネージャーのように、コミュニティマネージャーは、優れたリサーチ技術を駆使し、コミュニティに熱中することで、フィードバックとインサイトを引き出すことができます。
SoundCloudの初代コミュニティマネージャーであるDavid Noel氏の発言

「私の仕事はスポンジのようなもので、コミュニティに出てすべての水を吸収しながら、製品チームが本当に知りたいフィードバックだけを絞り出すことでした」

ここでの全体的な重要なインサイトは、顧客の発見と検証は継続的なプロセスであるということです。コミュニティと連携することで、そのプロセスを促進するための貴重なリソースとしてコミュニティを活用することができます。コミュニティのメンバーの声に耳を傾け、製品のロードマップや課題について透明性を保つことで、コミュニティを貴重なプロダクト要件生成マシンに変えることができます。

(2) 製品としてのコミュニティを確立する機会を探す

製品としてのコミュニティの例:Chief(女性エグゼクティブ向けのコミュニティ・サービス)

Chiefでは、コミュニティそのものが商品です。コーチング、ピアラーニング、ネットワーク構築などのサービスを中心に、卓越したプロフェッショナルな女性をサポートするために設計されたプライベートネットワークを提供しています。
・コミュニティを製品そのものになるようにデザインするには、参加者に報酬を与え、大きな価値を生み出すようにデザインされたコミュニティが必要です。

・コミュニティメンバーは 「Meetupのために顔を出すが、人のために戻ってくる」
Get Together: How to Build a Community with Your People. Book by Bailey Richardson, Kai Elmer Sotto, and Kevin Huynh より)

・それ自体が製品であるコミュニティを作るには、「フライホイール効果」が必要。フライホイール効果とは、コミュニティのパラダイムを設計して、エネルギー、典型的にはコンテンツを生み出し、それ自体がコミュニティへの関心を高めるようにすることである。Redditの例では、ユーザーが作成したコンテンツがGoogleで発見され、ソーシャルメディアでシェアされることで、より多くのユーザーのトラフィックが発生するようにしている。これらのソーシャルメディアでのシェアは、さらに多くのコンテンツを生み出し、自己増殖型の回転エンジンを生み出す。

(3) サポートコミュニティをデザインする

・自身をサポートできるコミュニティを持つことには複数のメリットがありますが、その中でも最も分かりやすいのはコストとレバレッジです。

・10人規模の小規模なスタートアップが、数百万人規模のコミュニティのサポートにスタッフが深く関与することは期待できません。このように、コミュニティが自らサポートすることで、コスト面でのメリットが得られるだけでなく、摩擦を減らすことができ、企業が迅速にスケールアップできるようになるのです。

・ベーコンが推奨するパラダイムの一つは、コミュニティのコアメンバーが正会員とカジュアルメンバーをサポートし、正会員がカジュアルメンバーをサポートし、カジュアルメンバーが新規メンバーをサポートするという、ペイ・イット・フォワードの文化を作ることです。言い換えれば、コミュニティのジャーニーの各ステージで、メンバーは新しいメンバーにメンタリングとピアサポートを提供するように奨励されています。以下の図は、ベーコンの本の中で、この概念をうまく説明しています。

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コミュニティが自らを支援するためのインセンティブは慎重に検討して作る必要があります。多くの部分では、コミュニティのメンバーはオーナーシップの感覚を持ったときに、他の人をサポートします。メンバーが他の人を支援したときに自分の評価を高める方法を作ることで、帰属意識や目的意識が生まれ、支援的なコミュニティの自己永続力を高めることができます。一方で、コミュニティの規模が大きくなってくると、違法なコンテンツや危険な行為を避けるために、厳格なコンテンツの規制や監視が必要になってきます。
Attlasianのコミュニティの例
Attlasianのコミュニティでは、新しいコミュニティリーダーが入ると、60日間のオンボーディングプランが作成されます。オンラインイベントの開催や記事のシェア、使い方や新機能についての議論が奨励されます。3ヶ月以内にイベントを開催しないと、アトラシアンのスタッフに通知されることになります。メンバーは、イベントの開催回数などでランク付けがされます。

コミュニティからプロダクトのフィードバックを得て、プロダクトをブラッシュアップしていくというアイデアは一般的なものですが、アーリーステージからコミュニティを活用するという点はさすがスタートアップ向けという印象です。本文でも、「多くのコミュニティは、すでに存在している。会社がファシリテートしようがしまいが、コミュニティは発生する」というCodecademyのコミュニティ・マネージャーの発言が引用されていますが、明言はされていないものの、コミュニティが成立する程度にプロダクトのPMFが達成していること、つまりすでにファンがいることは、コミュニティをプロダクト・フィードバックの場として活用とする前提となる条件であると感じました。逆に言うと、すでに存在するコミュニティが無いのにコミュニティを立ち上げることは、Cold Startの罠(コミュニティを始めても盛り上がらない)にかかるリスクがあると言うことです。

コミュニティ組織のデザイン
本書で割かれているのはわずか1ページですが、コミュニティを担うチームが組織の中でどのような位置付けであるべきかについて、とても大事なことが書かれています。

・多くのファウンダーは、コミュニティ機能がどこに報告すべきかという疑問に悩んでいます。それはマーケティング機能なのか、エンジニアリング機能なのか、製品機能なのか。それとも創業者に直接報告すべきなのか?レポーティングの構造の選択は、コミュニティの性質、その目的、そして社内でどのようなシグナルを発信したいかによって決まります。

・コミュニティが戦略的な機能であるというシグナルを社内に送りたいのであれば、他の機能が運用面で成熟する間に、一時的にであってもCEOに報告する役割を持たせるとよいでしょう。一般的には、コミュニティ機能はマーケティングやプロダクトなどの顧客に関わる機能に報告することが多いようです。例えば、Atlassian のコミュニティチームは、ブランドエクスペリエンスとカスタマーエンゲージメントの責任者に報告しており、その責任者は Chief Marketing Officer に報告しています。
・非常に重要なのは、コミュニティの責任者は、機能横断的に業務を遂行し、積極的にコミュニケーションを取る必要があるということです。また、エンジニアリングのワークフローを理解し、顧客のニーズに対応するための技術的な洞察力を求めなければなりません。また、上述のように製品チームの近くにいて、具体的なフィードバックを可能な限り効率的に提供する必要があります。最高のコミュニティマネージャーは、サイロを避けます。その代わりに、チームビルダーであり、サービス指向であり、コミュニティと会社の間の2つの世界の架け橋となる連絡役の役割を果たすことに専念しています。要するに、コミュニティの責任者が誰に報告するかよりも、コミュニティが組織内でどのように機能するかの方が重要なのです。

「社内でどのようなシグナルを発信したいか」という表現はとても興味深いと思いました。社内説得はコミュニティマネージャーの大事な(そして、通常かなり手こずる)仕事ですが、レポートラインとは、コミュニティが何の意味を持つのかを社内に対して示すものであるという認識はとても大事です。

コミュニティをどの組織の中に位置付け、誰にレポートするのか?はよく議論されるテーマですが、その中にあって「コミュニティの責任者が誰に報告するかよりも、コミュニティが組織内でどのように機能するかの方が重要」というのは非常に本質的で重要な指摘だと思います。「そうはいっても、現実は・・・」となりがちなところですが、本質を見失わないようにしたいものです。

Chapter 3. ビジネスモデル

このチャプターでは、スタートアップのビジネスモデル における4つの構成要素(バリュー・プロポジション、技術とオペレーション、市場参入、利益計算式)とともに、企業がコミュニティを構築することがどのように競争上の優位性を築き、それによって優れたビジネスモデルを創造し、維持できるかについて述べられています。

多くのスタートアップはLTVとCACを楽観視しすぎている

・スタートアップの利益計算式は、通常、顧客の生涯価値(LTV)を顧客獲得コスト(CAC)で割ったものとして計算されます。

・多くの起業家は、LTVの計算を過度に楽観視しています。
コンサーバティブなLTVの計算を行うためにチェックするポイントは3点あります。
1. 保守的な解約率(つまり、顧客が離反して支払いをしなくなる率)を考慮し、顧客の寿命を3年とする。
2. ベンチャーキャピタルの調達コストの高さを考慮して、割引率を保守的な30%と仮定する。
3. スタートアップの粗利益率が長年にわたって最適以下であることを認識し、保守的な粗利益率を適用する。

・多くの起業家は、CACも楽観視しすぎています。特に、顧客獲得は石油を掘削するようなものです。時には湧き水にぶつかり、それがきれいに流れることもあります。しかし、最終的にはその井戸は枯渇し、別の井戸を探す必要があります。同様に、ある特定の顧客獲得の施策が、経済的にもうまく機能している場合もあるでしょう。しかし、最終的にはそれがうまくいかなくなり、別の戦術を展開する必要があります。このように、起業家は、最初の数人の顧客や初期の顧客コホートの初期の良好なCACの結果から安易に推定しないように注意する必要があります。

ネットワーク効果はCACを下げる

・ネットワーク効果は、ユーザーが増えるほど、製品やサービスの価値が高まるビジネスモデルの強力な属性としてよく議論されます。例えば、Linkedinの強力なネットワーク効果は、顧客獲得コスト(CAC)を下げ、LTV/CAC比率を向上させます。

・ビジネスがネットワーク効果を持つと、顧客獲得エンジンにバイラル性を生み出すことができます。バイラルマーケティングの経済力は、バイラリティの度合いをLTV/CACの計算に適用すると明らかになります。例えば、各新規顧客が平均して0.5人の新規顧客を獲得した場合、バイラル性のない企業に比べて、LTVは1.5倍になります。BenchmarkのBill Gurley氏は、ネットワーク効果は、企業が「10倍の収益」クラブ(今日の株式市場では「20倍の収益」クラブと改名すべき)のメンバーになるために必要な最も重要な要素の一つであると指摘しています。

コミュニティがビジネスモデルに与える良い影響

・コミュニティを構築しなくてもネットワーク効果は得られます。しかし、コミュニティを持つことで、ビジネスモデルのあらゆる要素に強力でポジティブな影響を与え、さらなる価値を生み出し、ネットワーク効果をさらに高めることができます。

・さらに、強力なコミュニティは、熱狂的なメンバーが新しいメンバーの獲得を助け、市場投入プロセスを加速させ、結果として顧客獲得コストが低下し、よりタイトなバイラルループをもたらします。このようにしてCACは減少し、一方でLTVは増加し、上述のようにスタートアップの利益計算式を改善します。
まとめ:強いコミュニティは、企業のビジネスモデルに非常に良い影響を与えます。そのため、コミュニティ効果の高い企業を「魔法のようなビジネスモデル」と呼んでいます。

コミュニティがネットワーク効果を高め、CACの削減とLTVの増加をもたらし、結果的に企業の利益に非常にポジティブな影響を与えることが大変分かりやすく書かれています。企業がコミュニティを持つ意味が明確に示されており、マネジメントを説得しないといけない立場の方にとってはとても役に立つ説得材料になるでしょう。

経営サイドの方には、ぜひこの「ビジネスモデル」のチャプターだけでも読んでいただきたいと思います。

Chapter 4. コミュニティのROIの測定

おそらく多くのコミュニティマネージャーが知りたいと思うであろう、コミュニティのROI(CROI)の測定方法について書かれています。具体例が計算式付きで示されているのは大変ありがたいですね。

コミュニティのROIを測定すべき理由

・小さなチームがオンラインで大きなバズを巻き起こしているとしたら、なぜそれを測定することがが重要なのでしょうか?しかし、コミュニティ機能を真に戦略的なものに成長させ、大きなテーブルに座るためには、ROIを分析的に測定し、他のイニシアティブへの投資と比較する必要があります。

・CROIを測定すべき理由:
 - コミュニティの支出を正当化する能力
 - 何にお金を使うかを決める
 - コミュニティ機能の説明責任を果たす

・コミュニティROI(CROI : Community Return on investment)の背後にある計算は簡単で、MROIの背後にある計算に似ています。具体的には、コミュニティ投資の結果として得られる金銭的価値の増分からコミュニティ投資のコストを差し引き、その数字をコミュニティ投資のコストで割ると、CROIが測定されます。

Attlasianにおける新規売上創出のCROI計算例

・一番簡単なのは、コミュニティへの投資が売上増分に直結する場合に測定することです。Attlasianの例では、コミュニティイベントチームの重要なパフォーマンス指標として「総参加者数」を使用しています。イベント の参加者の行動を調べたところ、参加者の 81% が参加後 30 日以内に無料ライセンスをダウンロードし、34% が購入したことがわかりました。

・AttlasianのCROIの計算式:($1632 [コミュニティイベント参加者が購入したライセンスの利益] - $100 [イベントコスト]) / $100 [イベントコスト] = 15.3倍のCROI

・つまり、コミュニティイベントへの投資1ドルごとに、その投資された1ドルに対して15倍以上のリターンがあるということになります。これは傑出した数字です。

CODECADEMYにおける既存顧客のCROI計算例

・CODECADEMYの例では、既存会員のCROIを測定します。サブスクリプションベースのビジネスの場合、アクティブなコミュニティメンバーとコミュニティに参加していない顧客とのチャーンの差を測定することができます。

・CODEEACADEMYでは、アクティブなコミュニティメンバーの平均契約月数は20ヶ月で、顧客全体の平均は15ヶ月と5ヶ月の差がありました。月額料金、利益率、コミュニティのコストからCROIを求めることができます。

・CODECADEMYのCROIの計算式:($80 [アクティブなコミュニティメンバーであることで得られる利益の増分] - $20 [コミュニティ・プログラムの投資コストの顧客一人当たり平均]) / $20 [コミュニティ・プログラムの投資コストの顧客一人当たり平均] = 3倍のCROI

他にも、コミュニティの財務的なインパクトを証明するためのいくつかの指標があります。

- 販売パイプラインの増加
- 案件サイズ(ACV)の増加
- サポートチケットの回答によるコスト削減
- 製品への機能追加

コミュニティビルダーは、ビジネスビルダーである

コミュニティ機能は最終的にはCMO(最高マーケティング責任者)に報告することが多いため、CROI を測定することの重要性は明らかです。コミュニティにより増えた財務上のインパクトをビジネスモデルの計算とより明確にリンクさせることができれば、コミュニティのプログラムや活動への投資を正当化することができます。最も洗練されたコミュニティビルダーはまた、洗練されたビジネスビルダーになりつつあります。

読んでいただくとわかる通り、残念ながら、誰でも簡単に一瞬でROIを測定できる魔法の計算機は存在しません(笑)

むしろ、従来の方法に則った確実な計算の方法がここでは示されており、そうだよね、と納得する内容でした。ROIの計算は筆者も言う通り、まだまだ発展途上の領域ですが、新規売上に直結させるのは現実的には難しくても、既存顧客のチャーンへのポジティブインパクトを計算するのは十分実行可能な方法かと思いました。

最後に

最後は本文全体のまとめです。

コミュニティの立ち上げでやるべきこと:
・まずは、"Who"からスタート。ターゲットペルソナは狭く絞るべし。
・コミュニティを立ち上げることのビジネス上の目的を明確にする
・どうなればコミュニティが成功したと言えるのかを定義する
・コミュニティの立ち上げとエンゲージメントのプランを立てる
・コミュニティの価値(バリュー・プロポジション)を明確にする
・すでに存在するコミュニティを活用することで、Cold Start(コミュニティが盛り上がらない問題)を回避する
・参加者のコミュニティ・ジャーニーを定義し、適切なタイミングで価値を提供してもらうポートフォリオを作成する
さらにコミュニティを洗練させるためにできること:
・サポートのためのコミュニティを設計する
・コミュニティをプロダクト開発のリソースとして活用する
・コミュニティの価値をよりパワフルにし、スケールさせる「コミュニティ効果」を強固にする
・よりコミュニティへの投資ができるよう、コミュニティのROIを測定する

ということで、かなり長文になりましたが、本文から大事なポイントをかなり引用しながら整理してみました。コミュニティの立ち上げからメンバーをどう引き込んでいくか、プロダクトへのフィードバックからROIの測定まで、一連のセオリーがカバーされている良書だと思います。
より詳細な内容を知りたい方は、ぜひ原文を読んでみてください。

※もし要約や翻訳が間違っているのに気づいた場合は、ご指摘いただけたら幸いです。

そして最後に、日本のコミュニティ・マネージャーの皆さん、英語さえクリアできれば、優れた最新の情報はこんな風にたくさんあります。私もアンテナを立てて、また次にいいものがあればぜひご紹介したいと思いますが、必読書があったら教えてください。ぜひ一緒に英語の文献を読んで最新のナレッジを取り入れましょう!

もしよろしければ、Twitterなどでつながっていただけたら嬉しいです。


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