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Hideg, Krstic, Trau & Zarina(2018). 産育休の長期化がもたらすキャリア上の負の影響に関する研究

要約

過去の研究から、産育休の長期化(1年以上)は女性のキャリアアップには負の影響があることが分かっている。本研究では、まず産育休の長期化がもたらす負の影響のメカニズムを明らかにしたところ、産育休の長期化は女性の主体性(agency)が低いという印象を与えることで、人材としての評価(hireability/雇用適性)が下がることがわかった。また、この結果を踏まえ、カナダの産育休政策を対象とした3つの研究を元に、女性の主体性に関する認識を高めるための介入策を検証した。

Study1では、大学生に何人かの履歴書を見せて評価させたところ、長い育休の人材はリーダー職への応募では低評価となった。このデータを分析することで、産育休の長期化=女性の主体性が低いという認識を評価者にもたらしており、女性のジョブ・コミットメントへ負の影響を与えていることが分かった。

Study2では、女性の主体性に関する情報提供(キャリア志向、目標、成果などを記した上司からの紹介状)があることで、この負の影響が緩和されることを明らかにした。

Study3では、産育休中に職場との連絡を取ることができる復職支援プログラムを企業が提供して女性が利用したという情報があると、①プログラムが提供されていないケース、②プログラムが提供されているが女性が使用していないケース、③プログラムが提供されているが女性の利用歴が分からないケースという他の状況より相対的に、主体性や熱意、ジョブコミットメント、雇用適性の評価が高まることが明らかになった

解説

産育休が長期化することでキャリアにマイナスの影響があるということは、多くの人がなんとなく感じていることだとは思います。産育休の長さが復職後の再適応に影響するという研究は他にもあるのですが、なぜそうなってしまうのかの理由が分からなかったため、実務の現場ではキャリアに影響を出したく無ければ産育休は短めで切り上げたほうがいいと言われてきました。

しかしこの研究では、なぜ長い育休がマイナスに影響するのかというメカニズムを解明したことが大きな貢献です。その結果、取得した産育休が長い=その女性の主体性(agency)や仕事への熱意が低いと見なされること、その結果、(実態はともかく)ジョブコミットメントや雇用適性が低い人材なのだと評価されて、期待をされにくくなるということが明らかになりました。これは、産育休の長さが主体性や労働意欲を測る尺度としても使われているということで、時短勤務の人(=労働時間が短い人)の意欲が低いと見なされるのと構造は同じです。なお雇用適性は原著ではhireabilityとなっていますが、employabilityのほうがわかりやすいかもしれません。要は人材として有益かどうかという評価です。またカナダだと1年の育休は長いと見なされるようですが、日本だともともと平均が1年弱なので、「1年以上」と読み替えるといいと思います。

この研究では、マイナス影響のメカニズムを特定した上で、効果的な対策も提案しています。主体性が低いと評価されてしまうことが問題なので、主体性や熱意の高さを伝えることが解決策になります。具体策としてこの研究では「復職支援プログラムに参加した」という情報が、主体性の証明になり、負の影響の軽減に繋がっていることが確認されています。なおこの論文の中では、復職支援プログラムの詳細は述べられていませんでした。

育休プチMBAは育休中の人向けの復職支援プログラムですが、学習によって参加者の「復職後もなんとかやっていけそう」という自己効力感が高まることで、復職後の再適応を促しています。また視座を広げる(マネジメント指向を身につける)ことで、労働時間制約と組織にとって有益な行動を両立させられるようになり、復職後の評価が高まったりすることを私も研究で確認しています。さらに、本研究の知見を活用するならば、復職前面談などでこうした復職支援プログラムに参加しているということを伝えることで、所属企業からの評価が自動的に下がる(無意識に負のシグナルを発信する)ことを回避することができるということです。遠慮深い方だと勉強してきました、学習効果がありましたということはアピールしにくいと感じるかもしれませんが、自分から動いたんですという話は比較的しやすいのではないでしょうか。ぜひ主体性をアピールしてみてください!

出典

Hideg, I., Krstic, A., Trau, R. N. C., & Zarina, T. (2018). The unintended consequences of maternity leaves: How agency interventions mitigate the negative effects of longer legislated maternity leaves. Journal of Applied Psychology, 103(10), 1155–1164.

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