価値の拡張
大学の講義で、(株)東京チェーンソーズの代表取締役 青木亮輔氏のお話を伺った。
こちらは林業の可能性を拡大している会社で、木の新しい価値を創造するという思いで様々な活動をされている。
例えば、これまで丸太への加工の過程で捨てられていた枝や根を、デザイナーさんとコラボして証明やテーブルにして商品化するなどしている。これまで廃棄されて無価値であったものに、デザインで新しい価値をつける、そしてそのモノを最大限に生かす、可能性を開くこと、にチャレンジしているとのこと。
また、木を使った机の制作体験や、苗木を山に植える、山の中でのキャンプ、など体験の提供にも積極的に取り組んでいる。
講演の中で青木氏は、固定観念にとらわれず林業を多様化させていきたい、ということをおっしゃっていた。
これらの話をヒントに、ビジネス的観点で考察してみる。
①価値の拡張
これまで丸太という商品だけの提供であったが、丸太を配給している「山」を生かした体験価値の提供を始めている。つまりモノとしての丸太(プロダクト)に加えて、「山」を生かした体験(サービス)の価値にも拡張している。
②バリューチェーンの拡大
これまで丸太という原材料の配給だけであったが、家具や装飾品に加工し、販売するところまで自社のバリューチェーンを拡大している。そのため既存の固定概念にとらわれずにやりたいことが実現しやすくなり、提供価値の幅も広げることができる。
実際のところ
どんどんと新しいことに挑戦し、提供価値の幅を広げてきているが、やはり既得権益層や製材所、工務店など、林業に関わる方々との話し合いや調整は一筋縄ではいかなかったとのこと。
ゆえに、対話を重ね、業界としてやお互いの課題感を共有することをしてきたと言う。加えて、東京チェーンソーズがイニシアチブをとってやってきたことが一般消費者の人たちに受け入れられて実績ができたことも、信頼につながっているとのこと。
サステナブルに活動を続け、成果を出していくには、自社だけでなく、関係各所みんなで価値を創っていこう、という態度が大事であることが、お話から臨場感をもって伝わってきた。
そして、業界関係者だけでなく、実際に山に来てくれる人、商品を買ってくれる人たちとも会話を重ねるという、エンドユーザーも含めた対話というのが必要なことであろう。
企業同士が共創事業をするにはパーパス創るのが大事だと言われているが、このパーパス策定においても、昨今は企業だけでなくユーザーとも対話しながら創っていこうという趣がみられる。
専任教授が最後に、コミュニティを創りそこから価値を創出している、と言われたが、納得。新しい価値創造においては、顧客体験、実現性、経済合理性の検証に加えて、どのような生態系を築き、価値連鎖を実現するのか、ということも設計し、実装していかなければならない。