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製造業とサービス業の違いに見る、 to B SaaS開発に必要な能力とは?

マネーフォワードビジネスカンパニーでMid Market 領域のCPO(Chief Product Officer)を担当しているヒロハラです。

前回のnoteでは、数々の反響を頂きありがとうございました。

今回は、SaaSベンダーはもちろん、自社でプロダクトを作っている会社において原点となる、個人的にとても重要だと思っている話を書いていきたいと思います。

もしかすると、昔から私のことを知っている方々からは、「またその話!?」と言われるかもしれませんが、ご容赦ください(笑)


製造業とサービス業

こちらの図では、縦軸を「IT系」と「非IT系」、横軸を「製造業」と「サービス業」と分けてカテゴライズしています。

この分け方にあてはめると、SaaSベンダーは「IT系の製造業」になります。

一般的に、おそらく誰もがSaaSベンダーを「IT系」とカテゴライズすることには違和感が無いと思いますが、一方で、SaaSベンダーを「製造業」とカテゴライズする意識を持っている人は少ないのではないのでしょうか?

今回のnoteでは、SaaSベンダーにおいて、縦軸のIT系かどうかという視点よりも、横軸の製造業かサービス業かという視点のほうがはるかに重要となる、という話について書いていきたいと思います。

なお、システム開発業界に絞ると、ここでいう製造業=プロダクト開発、サービス業=受託開発、と表現したほうがわかりやすいかもしれないのですが、今回のnoteでは、一貫して「製造業」と「サービス業」という言葉を使って書いていきたいと思います。

サービス業型モノづくりのプロセス

こちらが、サービス業型のモノづくりの流れです。

まずは、わかりやすく、代表的なサービス業である、レストランの注文プロセスを例に、この図を解説してみます。

レストランでは、まず、お客様が注文するところから始まります。例えば、「ホットコーヒー1つください」というような感じです。注文を受けたウェイターさんは、厨房にこの注文内容を正確に伝え、厨房は注文通りにコーヒーを作り、それをお客様に届けることで対価がもらえる、というプロセスです。

大規模なシステム開発は、さすがにそこまでシンプルではありませんが、基本的な流れは同じです。

サービス業型のシステム開発ベンダーは、まず、最上流のコンサルタントやプロジェクトマネージャーがお客様の注文内容を正確に聞き取るところからスタートします。お客様の注文内容(要件)を正確に把握し、その要件を要件定義としてまとめてSEに伝え、SEはその内容を詳細な仕様書にまとめてプログラマーに伝え、と正確に伝達していくことで、お客様の注文通りのシステムが出来上がり、それを納品することで対価を受け取れるというプロセスになっています。

現実にはシステム開発となると、その複雑性から、お客様も自分たちだけで明確に注文内容(要件)を固めることができず、ベンダーが一緒に考えることがあったり、場合によっては要件定義を丸投げされるようなケースもあると思うのですが、ここではまず、本来のプロセスを書いている点をご理解ください。

製造業型モノづくりのプロセス

一方で、こちらが、製造業型のモノづくりの流れです。

こちらも、わかりやすく、誰もが知っているプロダクトであるiPhoneの製造プロセスを例に、この図を解説してみようと思います。

iPhoneの製造プロセスは、先ほどのサービス業のプロセスとは異なり、ベンダー(Apple社)がプロダクトを企画するところからスタートします。お客様が、iPhoneひとつ作ってください、と注文してくる訳ではないところがポイントです。プロダクトの企画が固まると次のステップとしては、プロトタイプもしくはプロダクトの初期版を作ることになります。

そしてプロトタイプもしくは初期版をマーケットにリリースしユーザーに実際に使ってもらいその反応を見て、ユーザーの意見や要望に耳を傾け、その要望を分析。なぜそのような要望が出てくるのか自ら考えることでその本質を掴み、どのように改良するとよりユーザーに喜んでもらえるのか考え、企画をブラッシュアップ。それからプロトタイプやプロダクトをブラッシュアップし、改良版(新バージョン)をまたマーケットにリリースし、またユーザーからの意見や要望に耳を傾け、、、と、ここからは永遠にユーザーの声をヒントにしたブラッシュアップという活動を繰り返していきます。

iPhoneは、もう10数年ほど、このプロセスをぐるぐる繰り返してきていますし、これからも半永久的にこれを繰り返しながらさらに進化していくでしょう。

SaaSやパッケージソフトといったソフトウェア開発のプロセスも、基本的にはこれと全く同じです。

ベンダーによる企画からスタートし、プロトタイプやβ版をリリースし、利用ユーザーの声に耳を傾け、そしてその声をヒントにベンダーが必死に考えてユーザーの声の本質を掴み、プロダクトをブラッシュアップしてリリースし、というサイクルを半永久的に繰り返していく、というプロセスになります。

製造業とサービス業の違い

この、製造業とサービス業のプロセスの違いについて、シンプルにまとめると以下2点になります。

・ 起点がユーザーかベンダーか
・ プロセスが一直線で終わるか、スパイラル的に半永久的に続くか

この2点の違いにより、製造業型とサービス業型では、開発チームに求められる能力が全く異なってきます。

サービス業型モノづくりに必要な能力


サービス業型のモノづくりにおいて、絶対に必要になる能力は、以下の通りです。

・ ユーザーの注文を正確に聞き取る能力
・ 聞き取った内容を正確に伝える能力
・ 注文通りに正確に作りきる能力

もちろん、システム開発の場合は複雑性が高いため、「コーヒー1つ」のようなシンプルな注文内容にはなりません。

そのため、お客様がどんなシステムを必要としているのかをより詳細に聞き出す、もしくはお客様と一緒に要件を具体化し言語化していく、などの能力も必要にはなりますが、サービス業の場合、何を作るかは発注者であるお客様が決めるべきものであり、ベンダー側は、それを正確に聞き、正確に伝え、正確に作るという能力が何より重要になります。

製造業型モノづくりに必要な能力

一方で、製造業型のモノづくりに必要な能力は、サービス業型とは大きく異なり以下のようになります。

・ ユーザーが潜在的に求めているものを想像し自ら考えて企画できる能力
・ 企画をもとにプロダクトのβ版やプロトタイプを開発できる能力
・ ユーザーの声の本質を掴み、真のユーザーの欲求を見つけ出すことができる能力
・ 半永久的にプロダクトをブラッシュアップし続けることができる能力

製造業の場合、何を作るかは自分たちベンダーが決めるので、企画力、開発力、仮説検証力、継続力などの能力が必要となります。

そして、これら能力のさらに根幹には、何より、自分で考えられる能力が必要です。

これまでのnoteで、自分で考える、ユーザーにヒアリングしない、といったポイントを何度か書いてきたのですが、それはこの製造業とサービス業の違いからきています。

ユーザーに答えを聞いてそのままモノを作るなら、それはサービス業型の開発です。

iPhoneのようにユーザーの期待を超えるプロダクトは、自ら想像し考え、企画開発したものを、ユーザーの声をヒントに、さらに自ら想像し考え、半永久的にブラッシュアップし続けていくことでしか生み出すことはできないのです。

SaaSベンダーの開発チームに必要なこと

文中に書いた通り、SaaSベンダーは「IT系の製造業」です。

to Bのシステム開発においては、これまで日本では特に、サービス業型のシステム開発が大半でした。ここ10年ほどで、日本にも多くのSaaSベンダー、プロダクトベンダーが誕生したものの、自分たちがサービス業ではなく製造業である、と意識しながらプロダクト開発しているチームはまだまだ少ないのではないでしょうか。

ユーザーの期待を超えるプロダクトを生み出すには、プロダクト開発に関わる全ての人が、製造業型開発の意識を持ち、製造業型開発に必要な能力を磨き続けることが必要ではないかと思います。

さいごに

今回は、製造業とサービス業について書いてみました。

なお、製造業とサービス業、どちらが良い悪いということではなく、両者には大きな違いがあり、自社が行う事業がどちらなのかを認識して仕事を進めることの重要性が、今回書きたかったテーマです。

私が子供の頃は特に、日本はハードウェア中心に製造業が強く、ウォークマンをはじめ、さまざまな画期的なプロダクトが生み出されていました。

また、ソフトウェアの世界でも、ゲーム業界では今も次々と魅力的なタイトルがリリースされていますし、最近ではto Cのアプリ等でもとても優れたプロダクトが多く生み出されていると思います。

これらのプロダクトは例外なく、自分たちが必死に考えて企画開発し、ブラッシュアップし続けることによって生み出され進化してきたものではないかと思います。

一方で、to Bのソフトウェア業界、特にバックオフィス向けソフトウェア業界においては、まだまだ製造業としてのこだわりが足りない部分も多く、自ら必死に考えてプロダクトを作らなければいけないにも関わらず、何を作ればよいかお客様に聞いて作ってしまったりすることもあるのが現実かなと思います。

マネーフォワードでも、さまざまな to B プロダクトを毎年次々とリリースしていますが、改めて、製造業としてのこだわりを持ち、自ら考え抜いて企画開発しブラッシュアップを繰り返すことで、ユーザーの期待を超えるプロダクトを生み出し育てていきたいと思います。

これからも、本物の to B SaaS、本物の to B SaaSベンダーを目指して、一歩ずつ頑張っていきたいと思います。


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