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山のなかの田舎で夫婦でネットショップ経営してたら、新しい働き方になってた

冒頭の写真は我が家のオフィスの様子である。三方ガラス張りで、どこを向いても山、山、田んぼ。妻におんぶされた子どもがすごい態勢で寝ている。

これまでのnoteでは主に田舎の自然環境や人間関係についての話をしてきたが、その裏で我が家は夫婦二人で輸入雑貨のネットショップを経営して収入を得ている。

今回は田舎暮らしに注目が集まる昨今、一つのサンプルとして我が家の「稼業」についてご紹介したい。

恵那に移住して8年、最初の3年は地域おこし協力隊、任期後は有機農家として野菜を生産・販売していた。ネットショップは妻が起業してから計5年、オレが経営に加わってから3年となる。

いわゆる田舎らしいナリワイを標榜していたオレが、なぜ田舎らしからぬネットショップなのか。

①『田舎らしさ』という呪縛

せっかくあくせくとした都会から離れて、ゆったりとした時間の流れる田舎に住んでいるのだから、そんな金のことなんかに腐心するのはさぁ

と言いたい気持ちはある。

できれば日々、この地域に多様性を生み出す活動や、農的暮らしからの気づきを共有することや、そんなことにかまけていられればとも思う。

必要最低限稼げればいいじゃん。

そういう声も良く聞こえてくる。

米・野菜は自給自足、衣服や家電はリユースかもらいもので十分、娯楽も近くにない、遊び場は山か川。風呂も冬場の暖房も薪をくべれば節約になる。家の改修はセルフリノベの方が安いし楽しい。なんなら資材は不要なものをもらってこれる。現金は有機野菜をマルシェで売るか、地域の人たちのお悩みを解決する仕事を集めて、月15万あれば家族4人で十分暮らしていけるよね、都会の金のかかる暮らしからおさらばだ。そんな移住事例もよく見かける。

・・・まあオレもわりとこの感じに近いところを目指して、田舎暮らしを完成させるためのピースとして農業にチャレンジしていたことも事実だ。

しかしこの15万円を、一人で農業で儲けとして稼ぐのがいかに大変か。いや大変だろうなということはわかっていたし、でも目指す暮らし方があるから大丈夫!なんて思っていた。

が、この額を稼ぎ出すのでさえ肉体も精神もぼろぼろになり、家族に不和をもたらし、そして残念ながら、我が家は15万円では暮らせなかった。

このいきさつは後で話す。

もちろん自分の未熟さとか、見通しの甘さとか、普通にやれる人は家族が何人いようがやっているから、言い訳はできないが、振り返ればオレは理想の中に住んでいたのであって、現実の暮らしを見つめることができていなかったとも思う。

人には人の、その家族には家族に必要な稼ぎがある。誰にでもできる、と喧伝された暮らし方をそのままなぞることが必ずしも幸せをもたらすとは限らない。

そこに気がついたところがスタートだった。

②田舎の働き口

では田舎での稼業、というのは実際どんなものだろうか。

田舎での職を大まかに分ければこんな感じだろうか。

①地域の企業などに就職する(製造業などが多い)
②自分で起業する(農業、その他1次産業、小売業、宿泊・飲食業、製造業、サービス業、コンサル業など)
③地域のこまごまとした仕事を請け負う(草刈りや買い物代行、地域交通の運転手、大工のお手子さんなど、小さな仕事を集める)

あるいは資本主義からの脱却を志す向きには

④自分は収益性にこだわらないナリワイに徹し、足りない分はパートナーにも稼いでもらう
⑤完全に自給自足、物々交換

という「もはや稼業を持たない」パターンもあるかと。

冒頭にあげた、月15万で家族4人、のような例は③もしくは④で生計を立てる傾向にあると思われ、「生き方重視」の在り方と言える。

あくまでオレの主観的観察だが、地元に住んでいる人やUターンしてきた人たちは、①の地元の企業に就職、または家業を継いだりすることが多く、移住してくる人は②の起業または③、④というパターンが多いように思う。

当然①の就職が一番安定して収入を得られる。

収入面を重視するならなぜ地元企業に就職などの方法を取らずに、二人で自営業をするに至ったのか。次にそのいきさつなどを書いていきたい。

同時に、田舎で起業したことが、自分自身や我々夫婦と家族にとって何をもたらしたかも書きたい。
これから移住をしたいと思っている人や、なんか今の働き方合わんなーと思ってる人の気付きになることがあったら幸いだ。

③危機感に迫られて始まった新しい働き方

そもそもオレは自分の田舎暮らしを完成させるためのピースとして農業を始めたので、収入にさほどこだわらない、どちらかというと自分の充実度を重視した④タイプであり、当然経済的にとくに栽培技術もままならない初期はほとんど収入もなかった。

この状態に乳児を抱えた妻が危機感を募らせ、子どもを見ながら家でできる仕事をと思っていたところ、商材のご縁があったのをきっかけに独力でECを開業した。

しばらくはサイト構築から梱包・発送まで妻一人で手掛けていて、収益も一人でやっていることを考えればそれなりにあげていた。パソコンが嫌いだったのに、とにかく何とかしなきゃという一心でほとんど一から積み上げていったことを思うと、相当な努力をしていたと思う。

オレがECに加わる直前には農業は4年目を迎えていて、作物を育てるのはだいぶ上達し、野菜の味にも自信はあった。お客さんの引き合いもあり、一人ではさばき切れないでいたほどである。

しかしそれでも一人で栽培から出荷、販売管理まで行うのは過酷かつ、これほどやっても実際の収入となる額はまさに雀の涙。

初めたばかりのころは、己が自然の中で人らしく生きることに満たされれば、金なんて最低限あればいいんだ、奥さんのECと両輪でやっていれば、慎ましくも生活は成り立つ、なんて考えていた。

しかし実際には、毎月切り詰めながら、したいこと買いたいものを我慢し、来月どうしようと頭を抱える状態に陥り、妻は相当なストレスになっていた。

オレも稼げない不甲斐なさと、妻との緊迫した空気感にやはり精神的にダメージを負っていた。

経済面に加え、夫婦共働きなのに、オレは農作業で疲労困憊となり家事も子どもの相手も全部妻の負担になっていたのにも気づいた。
両輪と言いながらも全て妻任せではないか。

これ以上の負担をかけられない、なんのための田舎暮らしであろうか。元来家族のためと思っていたはずの自分の理想が不和のもとになっているのであれば、それに何の価値があるのか。

それに気づいたときに、自分のやるべきことが決まった。

まずは家を大事にすることを決め、体力的に余力を残せて、収益に伸びしろのある妻のネットショップを成長させることにした。

これがオレが今ネットショップに関わっているいきさつである。

就職という選択肢はほとんどなかった。いろいろと挫折を繰り返しているものの、それでもなお自分が移住してまで得たかった何かを得たい、という気持ちが残っている。

少しでも家族の側にいられる働き方、少しでも自然を身近に感じられる働き方。妻のECに加わるというのは、それを満たせるものであった。

さらに商材が自分にとっても素敵だと思えたのがよかった。欧州の手作り品で、一つ一つに職人の想いが込められている。大量生産・大量消費ではなく、持続的で心豊かな生き方に適うものとして多くの人々の手に渡るのは、自分たちの価値観に合うものだと思えた。

そうでなければまた別の選択をしていたかもしれない。

④経営の立て直しから始まった

そうして始まった夫婦でのネットショップ経営。オレが加わったころは、妻も家事子育てで仕事にかけられる時間が少なく、一人での運営に行き詰まり、売り上げも頭打ちになっていた。業務の外注化もうまくいってない。サイト全体を見ても「穴」があちこちにあった(いや実際よく一人でここまで構築したなと思うぐらいがんばっていたのだが)。

今度はオレが危機感を募らせた。ここで事業が潰れれば本当に無一文だ。

幸いオレにも少しは役立てそうなスキルと経験があった。

オレは自作で音楽活動サイトを作っていたことがあって、簡単なコーディングの知識はあった。

そして地域おこし協力隊のときに、町の情報サイトの運営に携わり情報発信の手法に触れ、劇的にPV数をあげた経験がある。このときアナリティクスについてもある程度知ることができた。

さらに、農業で商売を始め、100円の利益をあげることが、どれだけの手間と労力と知恵がいるかを身をもって味わった。

これらをもとに、一つずつ「穴」を潰していく作業に入り、サイトを整えていった結果、半年後には売上を2~3倍に増やすことができた。

ここら辺の施策については、また別の機会に触れる。

オレが加わって3年目を迎えているが、その間に次男が生まれたり、消費税が上がって消費が冷え込んだり、コロナ禍のあおりをもろにくらったり、紆余曲折を経ながらも、夫婦二人で徐々にビジネスを成長させることができている。

まだ手放しで安心とまでは言えないが、ビジネスとして歯車が回りはじめたことで、家の雰囲気は格段に良くなっている。お互いの窮地をいい方向に変えることができたと確信している。

何より、家庭内の会話が、今をどう乗り切るかの話から、これからやりたいことの話に変わってきた。

一度自分の目指す暮らし方にチャレンジしてみたからこそ、そこから学んで今があるとも言える。だから過去は失敗だったと思ってもいない。

⑤自宅で夫婦で自営業をする、ということ

この変化を作り出した要因は何だったのか。田舎であること、夫婦であること、自宅であること、など色々が絡み合っているとも考えられる。

図らずも「新しい働き方」と喧伝されるものを実践している、とも思える。

そこで田舎で夫婦で自宅で自営業をすることのメリットとなったものを考えてみた。

1.二人で家事・育児をするのが当たり前
一番のメリットはやはりこれだと思う。一緒にやったり、役割を分けてやったり、その時々で必要に応じて家のことをやっている。
どちらかが手が空かない時、外の活動に出る時などに、フォローし合えることで、どちらかが我慢する状態を出来る限り抑えることができる。

2.子どもは父親が家にいるのが当たり前
よく家庭での父親不在の弊害みたいなことが話題になるが、ここでは父親常在。子どもたちが父親は家のことして当然だと見えてればそれでいい。
何よりオレ自身、子どもの成長を間近でいつも見られるという、想像以上の喜びを得ている。

3.妻との会話が多い
夫婦間で仕事に限らず会話する時間がたくさんあることで、お互いの理解につながる。
大変な時期も一緒に乗り越えたという絆の深まりも感じる。
1.2とも共通するが、オレも妻も子供のことや家のことがどんな状態か、同じレベルで把握できるので、いろいろと話しが早い。

4.自然に囲まれたオフィス
冒頭の画像のように目をモニターから上げれば、緑の樹々、青い空。ちょっと天気が良ければ気分転換に川沿いを散歩したり。仕事で受けるストレスは多々あれど、多分疲れの蓄積度はビル街とは違うのでは。
他には例えば商材の写真撮影で小物として、庭の草花をふんだんに使える。まつぼっくりも入れ放題。季節感の演出はネットショップで大事な要素。街だと意外に入手が難しいだろう。こんなこともちょっとしたメリットになる。

5.仕事の合間に外仕事
朝は田んぼや畑(自給分としてコメなどは育ててる)、午後からデスクワークなんて日も。朝身体を動かすと身体が締まって気分がいい。

6.通勤時間0
全ての時間を暮らしのために使える。

こんなところだろうか。毎日同じ場所にいるなんて耐えられないなんて人もいるかと思うが、オレにとって家族が第一義なんで、家にいることは何の苦もない。

デメリットがないわけでもない。

1.パートナーとの関係と仕事のパフォーマンスが直結。
四六時中一緒にいるので、時には感情的になることも。それが仕事のパフォーマンスと直結している。
話す相手がほとんど妻に限られるので、最近他の人とどう会話していいかよくわからなくなってきた。

2.刺激が少ない。外の世界と交流がない。
なんだかんだ街を歩いたり外出れば、普段にない刺激に出会えたりするもの。田舎の変化はとてもゆっくりしていて、気が付きにくい。
あとは世間の空気感などはやはりその場にいないとわからないものがある。ネットの情報だけでは出来事は知れても、あくまで表層的だ。

3.家の仕事と稼業のバランス
朝掃除したり、子どもが保育園から帰ってくれば、意外に仕事に割く時間は少ない。そりゃビジネスの成長も遅々たるものにはなる。
忙しいときは草刈りもほったらかしになってしまって、家の周りがジャングルと化す(今年は結構外注した)。
逆に、家と仕事の境がなく、常にどちらも気にかかる。家族との時間の最中にも仕事のことを思い出して作業したりしてしまう。

4.わりとニートに間違えられる。よくて変わり者にみられる。
自宅の中で仕事をしている、というスタイルがあまり周りにいないため、夫婦で引きこもっている、なんて噂も耳にする。どうせ暇だろうなんて勘違いされて、いろいろ頼まれたりする。
その逆で、どえらい稼いでるなんて思われていることもある。
どちらにせよこの手の働き方への理解が浸透するにはまだ時間がかかりそうだ。

ほとんどメリットの鏡写しにはなる。ある程度デメリットの解消法などは考えておくといいだろう(意識して仕事時間を決めるなど)。

メリットを付け加えるなら、春先のステイホーム期間も、とくに自分たちの働き方や生活は何も変わらなかったので、外に出られないストレスというのはほとんどなかった。

田舎に住みたいけどどのような仕事をすればいいか、イメージが湧かないでいる人も多いと思う。誰にでも当てはまるものではないと思うが、少しでもイメージの足しになってくれたら幸いだ。

⑥キラキラしなくてもいい

一つ気がかりになっていることがある。
移住事例をひもとけば、やたらと「社会の役に立つ」「自然に寄り添う」「地域の食材を使ったカフェを古民家リノベーションして開く」といったキラキラした移住例が出てくるのを見たことがあるかもしれない。

志ある人たちは地域に変化をもたらしながらそれ自体をマネタイズして生計を立てるソーシャルビジネスを立ち上げたりもして、ローカルスターとして脚光を浴びる。

そのまぶしさにこりゃオレにはムリだ、となる人もいるかと思う。

移住する人はこんなことしなきゃいけないの?とやや強要感すら感じる。

だが、今田舎に住んでいる立場からすれば、すべての移住者が高い意識で地域課題を解決するイノベーションを起こす必要はないと感じる。

何かの仕事に就いたり自分の手に持つ職でじっくりと確実に暮らしを整える。それだけで何の不足があるか。

都会でネットをのぞくだけでは知りえない仕事が地方には結構あったりもする。何度か移住希望の場所に通って、地域の人たちと交流を持てるようになれば、何らかの手がかりは得られるだろう。

都会でのムリのある働き方を変えたい、伸び伸びした環境で子育てしたい、まずはそういう身近な願いを叶えてもらえたら、田舎側の自分としては嬉しい。

やむに止まれずスタートした我が家のネットショップ事業ではあるが、かえって客観的に田舎暮らしを見つめ返す機会にもなった。
ビジネスとして必ずしも田舎である必要性はなくても、その中から現状の自分と家族に合った、田舎だからできる暮らし方を見つけることができた。

自然や地域とのかかわりもまた増えてきた。今できる少しずつのことをYouTubeで発信しはじめてもいる。

当面はネットショップを成長させていき仕組みを整えつつ、少しずつ夫婦の目標を実現していくつもりだ。それが我ら夫婦には合っている。

もし田舎で働くことのイメージが湧かなければ、うちに来てもらえばいい。何か手伝ってもらえばなおありがたい。

※追記
キラキラ移住のことを探ってたら、noteにこんな記事を見つけた。地域おこし協力隊の方の文章で、まさに移住者がスターとして扱われることで、かえって移住へのハードルが高くなっていそうな現状に言及されている。自分もスター扱いされてスターになりえない事実に自他ともにがっかりした記憶がよみがえります。

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