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荒廃した茶畑を再生して和紅茶ができるようになるまで(2)

前回は紅茶を作るに至ったいきさつを書いた。今回は栽培方法や味のこと、この先の展望について書く。

茶を無肥料・無農薬で栽培すること

茶の栽培は、同じ樹を何度も刈り込んでは新芽を摘んでいくので、大きくしすぎないように一定の時期に刈り込んで樹高を低く抑える(ほっとくと普通に立派な木になる)。このとき刈り落した枝葉がそのまま土に還り、有機質を循環させるので、本来余計な肥料分などはいらない。

適切な時期に適切な刈り込みや草抜きをしていくうちに茶の樹も勢いが増してきた。紅茶の味もどんどん良くなっていく。肥料を与えると収量が増え旨味は増すが茶葉本来の味わいが隠れてしまう。無肥料の紅茶は無肥料ならではのスッキリとしていて、かつほのかな甘みが奥の方からやってくる味わいがある。紅茶ではあるが、日本茶用の品種ではあるので華やかな香りではないが、食事にも合う紅茶である。

さらに、製茶したてのフレッシュな新茶も美味いが、時間がたつにつれてゆっくりと酸化が進むとさらに味わい深く、まろやかさを増していく。そんな紅茶の楽しみ方も知っておくと幅が広がる。

しつこいようだがこの紅茶はポケットマルシェから購入することができる。

紅茶の先にあるもの

毎年出来上がった紅茶を受け取りに豊橋の後藤さんの茶畑に伺っているが、今回話をしていた中で印象的だった言葉がある。

それは紅茶に合う水について話していた時だった。

「よく紅茶には軟水が良いとかいうけど、硬水で淹れてみたら違う魅力を感じることもある。味を決めるのは育て方や仕立て方、品種、収穫の時期、毎年の気候など要素が多すぎて、一般化することはできない。今目の前にある茶葉に向き合って、どう淹れればこの紅茶の味が全て引き出せるのか、いろいろ試してみるしかない。」

確かにベーシックはあるものの、全てが方程式のように当てはまるわけではない。これはあらゆる物事に言える。
農業、ビジネス、地域活性化、人間関係、自己啓発、社会の在り方。一般化された、こうすればこうなる、という情報ばかりを追いかけても、それが自分にとってベストがどうかはわからない。
今自分の目の前にある野菜を見つめ、商品を見つめ、地域を見つめ、人を見つめ、自分を見つめ、社会を見つめる。
個々の事象を見つめて一つ一つに自分なりの解を導いていかなければ、自己啓発本ばかり本棚に積まれるようになる(自分のことだ)。

紅茶の話を聞いていたはずなのに社会のことまで広がって考えさせられるのは、後藤さんの紅茶に対する向かい合い方が、農業というより何か真理を追究する哲学のように感じるからかもしれない。彼がアーティストと称される所以だ。

ちなみに後藤さんは紅茶を自分で仕立てはじめてから3年はしばし寝ることも食べることも忘れて、品種・栽培時期・気候・酸化時間などあらゆる組み合わせの仕立て方を試してデータに起こしたらしい。

紅茶づくりも5年目を迎え、少し次のステップに踏み出す時期になってきたのかなとも思っている。何せ茶農家と言えるほどもない小さな茶畑だ。であれば、もう少し社会と関わる何かに使っていけないか、この茶畑と社会がつながりあってお茶を作るだけでない何かに活かせないか、考えている。

今年の紅茶は、樹勢が良くなってきたおかげかいつにも増してキレが良い。
ちなみに水はやっぱりうちの山水で淹れるのが一番美味い。この水で育ってきた茶葉だから。

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