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人事にとって悩ましくも面白い、「個の時代」がやってきた

こんにちは。デザイン会社グッドパッチで人事責任者をしている「チャッカマン」こと井出です。

noteに記事を書くのは3回目、まだまだ慣れていませんが、今回は「個の時代」をテーマにお話ししようと思います。

人事やキャリアデザインなどの界隈では、よく語られる話題ですが、最初に書いた記事で自己紹介した通り、私が大企業からベンチャーの人事に移るに至った理由の一つに「個に向き合う」があります。今回のテーマは、自分自身のキャリアやライフワークに密接に関わる、重要なアジェンダだと考えています。


会社主導で人生やキャリアが決まる時代から、「個」が重視される時代へ

私が大企業で過ごした16年間は基本的にCompany Centered(会社主導)が人事の考え方の基本だったように思います。

個人のニーズは聞きつつも、人事異動は会社主導で検討/決定がされるものでした。実際、定期異動の一斉内示日が近づくにつれ、自分自身も周囲もドキドキしてしまい、仕事が手につかなくなったことをよく覚えています(それを補う形で希望による異動制度もあり、一定機能していましたが)。

異動以外でも、大企業は一人一人すべての要望に応えることは難しいことが多く、ルールや規定にないものは、基本的に認められませんでした。会社が個人をコントロールする一方で、個人も安定した就業環境と高処遇、社会的名誉などを得ることができるため、Win-Winが成立していたと思います。


「大企業に入社したら安泰」は幻に

一方で、昨今はVUCAな環境だと言われるように、大きな会社であっても、定年まで雇用安定を保証することが、いよいよ難しくなってきました。

大企業の人事の取り組みで”キャリア自律”という言葉がよく聞かれますが、裏を返すと会社は社員の雇用の安定を保証できないことを意味しており、


「自分のキャリアは自分で責任をとる=会社に寄りかからないで!」

ということをメッセージしているようにも感じます。

また、賃上げのニュースが飛び交う中でも、希望退職も引き続き積極的に行われています。若くて優秀な社員を引き留めるため手厚い処遇を施しつつ、環境変化への適応が難しくなったシニア世代を、積極的にセカンドキャリアに導くことで、新陳代謝を加速させ、競争力の維持向上を図っているのでしょう。

労働人口の減少と個の時代の到来

内閣府HPより

上記内閣府の試算によると日本は生産労働人口は2020から2065年までに2900万人(40%)も減少すると言われています。驚愕の数字です。

そんな状況ですから、当然、採用活動は年々厳しさを増していきます。優秀な人材を確保し、定着させるには、個人の意向の尊重は無くてはならない状況となってきました。もはや、「個」を大事にしない会社は、生き残りが難しくなると言っても過言ではありません。

一歩先を行く、デザイナーたちのキャリア自律 

グッドパッチの場合

「デザイナー」という職種は、エンジニアなどと同じく、スキルが評価され、フリーランスが多いという特性があることもあり、驚くほど個人が自律しています。一例ですが、グッドパッチに在籍しているデザイナーのキャリアはこんなイメージです。

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入社前:30代で数社の事業会社・受託会社は当たり前
在籍中:副業をしている人ばかり
退職後:起業したり、フリーランスになる道を選ぶ人も多い
数年後:出戻り復活!も珍しくない
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こうした様子を見ていると、彼らにとってグッドパッチという会社は、さながら

「デザインの力を証明する」ための乗り降り自由な舞台


とも言えるでしょう。もちろん、所属してもらっている間は、組織人として守るべき一定の規律やルールはあり、好き放題できる会社ではありませんし、高いコミットメントと成果を出すことは求められます。ですが、長いスパンで見ると、縛るものはほぼ無いと言っていいように思います。

さらに進んだ会社と個人の関係〜Goodpatch Anywhereのケース〜

グッドパッチの中でも、会社と個人の関係がさらに進んだ形になっているのが「GoodpatchAnywhere」です。

IR資料を見ていただくと、デザイナー人数707名となっています。実はこのうち正社員のデザイナー数は141名で、のこりの556名がAnywhereに登録をしているフリーランスのデザイナーです。

IR資料より

Anywhereに登録しているデザイナーは、プロジェクト単位で有期雇用契約を結び、グッドパッチのクライアントワークで貢献してもらっています。

社員ではないため、プロジェクトで貢献してもらうこと以外の組織貢献や、会社へのコミットを求めることはありませんが、Anywhereコミュニティとしての活動に参加してもらうなど、独自の関係性を構築しています。完全なフリーランスでも企業に所属する組織人でもない、組織と個人の非常にユニークな関係性と可能性がここにあるのです。

彼らがどのような形で、どのような思いで働いているのか、その一面を知ることができるインタビュー記事もあります。場所や空間に縛られず、完全リモートでも「コミュニケーションに支障は一切ない」と言い切る理由など、面白い話ばかり。少し未来の働き方が垣間見えるかもしれません。


「個人の成長」と「組織の成長」のすり合わせが難しい時代に

キャリア自律はスタートアップだけではなく、大企業でも当たり前の価値観となりました。もはや、会社が中長期にわたって個人を拘束することはできません。

逆に、個人(社員)は節目節目での選択が迫られます。今いる会社で仕事を続けるか、別の会社に移るか、会社に残るにしても、雇用形態含めてどの程度のコミットをするか──こうした意思決定をすることが、当たり前になりつつあるのです。

キャリア設計の自由度が上がった今、人事としても悩ましい課題に直面しています。

あくまでフルタイムで働く正社員ベースの組織の話になりますが、会社組織として掲げている目標と個人のやりたいことの接続や、フルコミットで働き続けるだけの価値(成長機会や面白いプロジェクトに携わる機会など)を提供し続けることの難しさが増しているのです。

個の意志を尊重しすぎるあまり、個人個人の仕事が会社の目指すベクトルと異なるようでは困りますし、結果、チームパフォーマンスが落ちてしまい、業績悪化に陥るようでは本末転倒です。会社組織全体も成長してこそ、一人一人への投資や機会提供も広がっていく、ということを忘れてはいけません。

現場でも、個人と組織のすり合わせの難度が格段に上がっており、結果として、ミドルマネジャーに求められる組織マネジメントの難度も高まっています。

想像を超えたスピードで「個の時代」へのリバランスが進んでいる現状に対し、組織のマネジメント方法や、マネジャーのあり方のトランジションが追いついていない点は、グッドパッチだけでなく、日本全体が今後乗り越えるべき大きなテーマと言えるでしょう。


これからの人事の役割、そして個の時代の先について

人事という職種は、社員と会社組織の間に立つ存在です。両者のすり合わせが難しくなっているということは、人事という存在や仕事の重要性が高まるということでもあります。

個人が自律的に働きながら、会社全体の戦略実現も加速する、そういった個と組織のWin-Winを作っていくことが、これからの人事には求められるように思います。

現場のミドルマネジメントへの並走はもちろん大きなテーマですが、人事にしかできない制度・施策の企画運用ももちろん大切です。キャリア選択の自由度の高まりに合わせる形で、一定の柔軟性を持たせながら、現場の課題解決に寄り添っていくことが、ますます必要になるでしょう。

単にルールを決めて執行していくのではなく、組織の成長を見据えながら、個人一人ひとりの人生や価値観にも向き合い、重なる部分でWin-Winを紡ぎ出す。人事というのは、人とビジネスを調和させる役割へと、どんどんシフトすることが求めれるようになるのではないでしょうか。

私個人は、会社主導で人事をしてきた経験が長かったことへの反動もあり、個に向き合う人事を標榜し、直近はベンチャーで仕事をしています。ところが、個の自律が当たり前の会社に来てみると、逆に組織を強くする方の課題があらわになり、そちらの課題解決がより重要なテーマとなってきました。

この先にどういった未来が待っているのか、予測するのは非常に難しいところではありますが、基本的に会社主導に戻る未来はないでしょう。労働人口が減る構造的問題が抜本的に解消されない限り、パワーバランスが変わることはないからです。

したがって、個の尊重をベースにおきながら、組織として成長も実現していく、その時経営やミドルマネジメント、そして人事はどうあるべきなのか──これが、今後の組織マネジメントの大きなテーマになっていくものと考えます。

おわりに

グッドパッチは今回紹介した通り、正社員、フルリモートのAnywhereも含めて自律した個が集まった組織であり、コミュニティになっていると私は感じています。そして、個の時代に合わせた企業のモデルケースとなるべく、先陣を切って向き合い続けていく宿命を背負ってるようにも思うのです。

その意味では、これからも世の中に前例が無いようなチャレンジをしていくことになると思いますが、前向きにトライし続け、そんな中で私たちしていく経験を「人と組織のデザイン」に昇華させ、さまざまな会社のお悩みに答える形で、社会に還元できたら素敵だなと思っています。


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