アーネスト・ヘミングウェイ 『日はまた昇る』

★★★★☆

 言わずとしれたヘミングウェイの長篇デビュー作。2012年にハヤカワepi文庫から出た新訳版で読みました。訳者は土屋政雄。いま話題のカズオ・イシグロの『日の名残り』や『わたしを離さないで』などの翻訳をしている方です。ううむ、タイムリー。

 とはいえ、同じノーベル文学賞受賞者の作品といえども、ヘミングウェイは1954年受賞なので、63年も前のことです。カズオ・イシグロと関連づけるのはいくぶん無理がありますね、はい。

 気を取り直して。

 ヘミングウェイの魅力は短篇に詰まっているというのをよく目にしますが(主に、ヘミングウェイの短篇のあとがきで)、長篇を読むと、それもなんとなく肯けます。
 おそらく、ヘミングウェイの最大の魅力はその文体にあるからでしょう。話型や展開が悪いわけではないですが、やはり文体のマジックが大きいと思います。
 そうなると、短篇で十分堪能できてしまうんですよね。

 本作も話としておもしろいのかというと、なんとも言い難いです。休暇で旅行に行き、釣りをしたり、闘牛を見たり、祭で弾けたりするだけの話ですから。今風に言うと、ビッチとパリピがウェイウェイする話です(意訳しすぎですけど)。

 もちろんそれだけで“文学作品”になるわけがありません。今作を文学作品たらしめているものがあるわけです。
 それは抑制された文体であり、冷静な視座であり、喪失感と熱狂の対比だったりするわけですが、そういう解説もどうなのでしょう? 書いていると嘘くさいような気がしてきます。

 僕は単純にその文章に惹かれました。ヘミングウェイを好きな人はおそらくヘミングウェイの文章そのものに惹きつけられるのだと思います。逆に言うと、文体に惹かれない人はあまり好きにならないのではないでしょうか? 僕も昔々に読んだときはまるでピンときませんでした。つまんねえ、と思った記憶だけあります。

 とりあえず、短篇に手を出してみて、気になったら長篇も読んでみるとよいと思います。いろんな訳者の版がありますが、この新訳はお薦めです。読みやすくてしっかりとしています。
 僕は今度は原文で読んでみたいと思っています。

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