エルモア・レナード 『オンブレ』

★★★☆☆

 今年の2月に新訳として復刊されたレナードの初期西部劇作品。『三時十分発ユマ行き』も同時収録。訳者は村上春樹。
 いわゆる積ん読状態だったのですが、ようやく読みました。

 語り手の『私』は特にどうということもない人物で、中心となっているのは『オンブレ』の異名を持つジョン・ラッセルです(オンブレとはスペイン語で「男」という意味)。このクールで、独自の哲学を持つ男を中心にして話は進みます。

 語り手と中心人物が別という構造が『グレート・ギャツビー』を想起させます。魅力的な人物を描くのに、自分で語らせるわけにはいきませんから、それも当然ですね。
 自分のことを饒舌に語る人はヒーローとは最も遠いところにいますもの。

 僕は西部劇ともエルモア・レナードとも縁がない読書人生を送ってきたので、他のものと比べることができませんが、それなりに面白かったです。
 切り詰められた文体と話のテンポのおかげで、小気味よくすらすらと読めます。
 ポール・ニューマン主演で映画化もされているそうです。たしかに映画向けの内容ですね。

 とはいえ、僕の好みかというと、いまひとつピンとこなかったのも事実です。もっと読みたいという気持ちにはなりませんでしたね。 ハードボイルド・ミステリー的なくくりだと、いろいろな意味でランズデールの方がおもしろかったかな、と(小まめに挟まれるジョークがおもしろかったのが多分にありますが)。

 こういうのは完全に好みの問題です。

 ところで、一点だけ気になった箇所がありました。

 それは、荒れ地に放り出され、水もわずかしかないという状況に陥ったときの、「夜になるまでは水分を摂ってはいけない(昼間に摂ると、すべて汗で出ていってしまうから)」というくだりです。

 これ、水分補給の考え方としては、医学的に完全にまちがってますよね?

 もちろん、書かれた時代背景と作品内の時代設定からすると仕方がないのですが、まちがった知識がさも賢人の知恵のように書かれていると、そこだけどうしても浮いてしまいます。水を飲むと余計に疲れるから飲ませないブラック部活を思い出しました。
 今年の夏が猛暑だったこともあり、そんなどうでもいいところが妙に気になってしまいました。

 作品の本質とはまったく無関係なところが記憶に残るというのも、小説を読むおもしろみだと思います、はい。

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