橘玲 『幸福の「資本」論』

★★★☆☆

 6月に発売になった橘玲の新刊です。幸福(の土台となるもの)を3つの資本から設計するというコンセプトで書かれています。
 この手の本はどういうジャンルになるのでしょうね。マニュアル本ではないし、ビジネス本になるのでしょうか。

 本書では幸福の条件を「自由」「自己実現」「共同体=絆」の3つに定め、それぞれが3つの資本である「金融資産」「人的資本」「社会資本」と関係していると説きます。

まとめると、

「金融資産」=手持ちのお金(あるいはお金になるもの):自由
「人的資本」=お金を稼ぐ能力=仕事:自己実現
「社会資本」=人間関係:共同体=絆

と要約できるでしょうか。

 この3つの要素をどう配分するか。それについて科学的かつ論理的に述べています。

 橘玲のよいところは、わからないものはわからないと認め、できるだけバイアスをかけずに、妥当性の高い説を採用するところだと思います。
 たとえば、人間の性質を述べる際、精神分析みたいなものより、進化論や脳科学の方を重視します。ひと言でいって、科学的なわけです。なので、情緒に流されるようなところがありません(そうでないと『言ってはいけない』のような本は書けないでしょう)。
 本書もその点が徹底されています。

 気になるところがあるとすれば、これまでの主張とほぼ同じところでしょうか。橘玲の著書を何冊か読んだことがある人だと、度々同じ話に出くわします。ほとんど新しい話がないといってもいいくらいです。

 僕はこれまでに何冊も読んでいるので、正直なところ、読まなくてもよかったなと思いました。おさらいする意味では悪くなかったですけども。

 音楽で喩えるなら、ベスト盤のようなものでしょうかね。ベスト盤というのは、オリジナルアルバムを聴いてきた人からすると、知ってる曲しか入ってないので、あまり聴く必要がないですよね。それと似た読後感でした。
 とはいえ、橘玲の本をあまり読んでない人ならば、手に取るのをお薦めします。明快で読みやすく、ベストセラー作家なのにケレンミがありません。
 本書が気に入ったら、他の著書にも手を伸ばしてはいかがでしょうか。

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