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イエローカード


大学4年の夏休み、アメリカ・モンタナ州に住む叔母のところへ遊びに行った。

サンフランシスコでエアバスに乗り換える。
エアバスというのは国内線の飛行機のことで、飛行機ががバスのように小さな地方都市を巡回する。
乗客は自分の街の飛行場に着いたら降りるのである。
しかしながらその頃の私はそんなことは知らず、到着する行き先はひとつであると思っていた。
羽田発福岡行きの飛行機が大阪に途中着陸することは決してない。
その感覚でいた。
なのでサンフランシスコのエアバス搭乗口の電光掲示板に自分の行き先である
「Greatfalls」
と表示されているのを確認したら、あ、この飛行機に乗れば着くんだ。と素直に思ったのである。
そして一番始めに着陸した飛行場に降りた。

しかし、そこは私が降りるべき飛行場ではなかった。

迎えに来てくれているはずの叔父はいない。

「あれーどうしたんだろう」

しばらく待ってみる。
来ない。
1時間待ってみる。
全然来ない。
なので電話をかけてみる。

当時は携帯などないので公衆電話。コインがどんどん吸い込まれて行く。


誰も出ない。
また待つ。待つしかない。
また電話をかけてみる。
半分パニックになっている叔母が出た。

「あんたどこにいるの!」

叔母は叔父と一緒に空港内を探しまわったそうで、だから電話をかけてもいなかったのだ。
警察にも連絡したらしい。

「あんたのいるとこはひとつ手前の空港よ!ちょっと周りに誰かいない?警備員か誰か!」

というのでそばにいた警備員のユニフォームを着た女性に受話器を渡した。
長く話した後、電話を切った警備員の女性は、私にゆっくりと説明した。
もちろん英語で。


「あなたはGreatfallsで降りなければならないのにひとつ手前のBllingsで降りてしまったの。
でももう向かう便はないわ。そして遅い時間だから今からHotelを取ることもできない。
だから、私の家に泊まりなさい」

彼女は親切に、私を自宅に泊めてくれた。
家には元軍人だったという小柄なお爺さんがいて、


「横須賀にいったこともあるよ!」

ときさくに話しかけてくれた。
ペットに大きなシェパードを飼っていて、家の中を自由に歩いていた。
挨拶するとフレンドリーにしっぽを振ってくれた。

「おやすみなさい」
と彼女もお爺さんも寝てしまうとリビングにシェパードと私だけになった。
緊張感がいっきに高まる。明らかに監視されている。
私がトイレに立つとシェパードは目だけで私を追いながら「ウウウ」と低く唸った。
ひーすみません・・・、そりゃ怪しいよね・・・。
唸るだけで立ち上がってくることはなかった。

次の日、彼女は空港に送ってくれ、私は丁寧にお礼を言った。

別れ際、
「これを持っていると皆が親切にしてくれるから見えるように手に持っていて」
と黄色いカードを渡された。

 そこには英語で
「私は車椅子が必要です」
「私は目が不自由です」
「私は英語が話せません」
と書かれており、


「わたしは英語が話せません」

の所にチェックがついていた。

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