見出し画像

パミール旅行記 2 〜準備編〜

私は、少なくともタジキスタンの首都ドゥシャンベまでは行こうと決めた。問題は、どうやって行くかである。また、それ以前の問題として、果たして本当に行けるのか、という懸念も多少存在していた。

(前回の話)
パミール旅行記 1 〜序章〜
(記事一覧)
タジキスタン・パミール旅行記

タジキスタンに入国できるのか?

私がタジキスタン行きを計画していた時点で、タジキスタンへの入国が可能かどうかについては、「原則入国不可」から「ワクチン証明も陰性証明もチェックされずに入国できた」まで、ネット上にはさまざまな情報が載っていた。

日本国外務省情報

「原則入国不可」情報の代表格は、日本の外務省であった。原則すべての外国人に対して入国制限が実施されており、例外的に許可された人のみが入国可能だという。

外務省HPより(※航空券等手配後の7月13日時点でのスクリーンショット)

しかし、私は早くからこの情報を疑っていた。後述のとおりアメリカやイギリスの外務省の情報では入国可能となっているし、SNS等での個人のレポートでも、タジキスタンに入国したという情報はあっても、入国できなかったという情報は見当たらなかった。また、同じ日本の外務省のサイトには、今年1月からタジキスタンが日本国籍者に対して査証免除措置を導入したとの情報も載っており、それとの整合性も取れない。

日本語情報サイトの情報

タジキスタン渡航に関する日本語情報では、「出国不可」というものも見られた。

「出国不可」としているサイトの例(※航空券等手配後の7月13日時点でのスクリーンショット)

しかしこちらも、実際に出国できなかったという報告は見当たらず、入国できても出国不可だと注意を促す情報も見つからなかった。

米国外務省情報

日本以外の外務省だと、アメリカの外務省の情報が「ワクチン証明またはPCRテスト陰性証明の提示で入国可」となっていた。

米国外務省HPより(※航空券等手配後の7月13日時点でのスクリーンショット)

主語が「アメリカ国民は」となっているのが少し気になったが、結論から言えば、私が実際にタジキスタンに入国した時の状況に関しては、このアメリカ外務省の情報の通りだった。

英国外務省情報

イギリス外務省の情報は、アメリカ外務省とは異なり、「到着72時間前までのPCRテスト陰性証明の提示が必要」となっていた。

英国外務省HPより(※航空券等手配後の7月13日時点でのスクリーンショット)

これに関しては、後にいろいろ調べてみたところ、タジキスタンのドゥシャンベ国際空港やソモン航空のサイトで、「CIS諸国(旧ソ連諸国)からの入国はワクチン証明で良いが、それ以外からの入国は陰性証明が必要」との趣旨の記述を見つけたので、後者のほうを反映させた情報なのかもしれない。ただしネット上での個人のレポートでは、CIS諸国以外からの航空便でもワクチン証明だけで良かったとの報告も見かけた。私はCIS諸国(カザフスタン)から入国したので、CIS諸国以外からの入国が実際のところどうだったのかは不明である。

結論

諸々の情報を合わせて私の得た結論は、「タジキスタンへの入国および出国は可能。ただし陰性証明が必要かどうかは不明」というものだった。

どうやってタジキスタンに行くか?

どうやらタジキスタンへの入国は可能らしい、ということがわかった。次は、どうやってタジキスタンへ行くか、すなわちどの航空券をどのように買うかである。

航空券の選定

日本からタジキスタンへの直行便は、コロナ禍以前から存在していない。どこかで乗り継ぐ必要がある。乗り継ぎチケット自体は存在しており、格安航空券比較サイトのSkyscannerで容易に検索可能である。

航空券は全般的に高めだった。航空券の値段が日付によって大きく変わるのは以前からのことだったが、いろいろな日付を試してみても、航空券の安い日がなかなか見つからない。コロナ禍以前は、「中国○○航空」といった系統の名称の航空会社が中央アジア方面へのかなり安価な便を出していた気がするが、現在は存在していないようだった。

値段が許容範囲内のチケットを見つけるのは容易ではなかったが、最終的には、そう無理のない日程で、途中韓国とカザフスタンで乗り換えをするが極端には時間のかからない比較的安価なものを見つけることができた。

ただし、そのチケットにはひとつ問題があった。評価の低い旅行業者が取り扱っており、且つ途中のカザフスタンで自主乗り換えなのである。自主乗り換えというのは、本来別々の航空券を旅行業者がひとつのチケットとして売っているということで、万が一乗り換えができなかった場合、航空会社の側からの補償は期待できない。一応、旅行業者のほうは万が一の場合の補償を謳っているが、各種レビューによるとその対応は極めて遅く、実用レベルでは無いらしい。私は結果的に、その「評価の低い旅行業者」を部分的に使うことになったのだが、質問を投げて返信が来るまでに数週間かかっており、万が一の場合に空港のカウンターでどうこうということは難しそうだと感じた。

最終的に私は、「日本〜韓国乗り継ぎ〜カザフスタン」と「カザフスタン〜タジキスタン」の2つのチケットを個別に入手することにした。前者の乗り継ぎは航空会社による公式のもので、万が一乗り継ぎができない場合も何らかの補償があるだろう。後者は直行便なので問題の発生する可能性は恐らく低い。カザフスタンで乗り継ぎができなかった場合は自分でどうにかする必要があるが、例の「評価が低い旅行業者」を通した場合も結局は自分でどうにかしなければならなそうなので、旅行業者を介していないほうが融通が利くように思われた。個別購入のもう一つの良い点は、旅行業者のものは日本での出発地が限られていたのが、同じ値段で選択の幅が広がった、ということである。

航空券の購入

私が最終的に購入した航空券は

  • アシアナ航空「福岡〜インチョン乗換〜アルマトイ(カザフスタン)」の往復

  • ソモン航空「アルマトイ→ドゥシャンベ(タジキスタン)」とアスタナ航空「ドゥシャンベ→アルマトイ」のセット

である。購入したのは5月末だった。

アシアナ航空の福岡〜アルマトイの航空券は、アシアナ航空の公式サイトで購入した。最初はクレジットカードで買おうと思ったのだが、何故か決済ができなかった。何度か試したがうまくいかず、最終的にはオンラインの銀行振込で購入した。うまくいかなかった理由は未だ謎である。

残りのアルマトイ〜ドゥシャンベのほうは、例の「評価の低い旅行業者」のサイトでクレジットカードで購入した。購入券の購入を試みたのが5月末だったのだが、6月に入ると燃料費のサーチャージが上がるとのことで、購入を焦っていた。当初はソモン航空、アスタナ航空それぞれのサイトでの購入を試みようと思っていたのだが、夜も更けている中でアシアナ航空サイトでのクレジット購入で躓いたのが一時的にトラウマになってしまっていたようで、購入処理自体は確実にできそうな件の旅行業者を使う以外の選択肢が思いつかない状態になっていた。なお、この旅行業者は先述のとおり質問への返信が極めて遅かったが、飛行機自体には結果的に何の問題もなく乗ることができた。

航空券の変更

日本出発の数週間ほど前に、アシアナ航空から韓国語のメールが届いた。私の拙い韓国語力で読んでみると、どうも福岡→インチョンのフライト日程が変更になったらしい(後で、後ろのほうに英文でも書いてあることに気付いた)。

新しい旅程は、まずはインチョンからカザフスタンのアルマトイに飛び、同日夜のアルマトイ到着後は自力で日本の福岡まで移動し、翌日午前中の福岡からのフライトでインチョンに飛ぶというものだった。なかなかハードというか、これを実現するにはプライベートジェットかどこでもドアが必要そうである。

アシアナ航空のスケジュール変更後の旅程(当初)

これはおかしいとアシアナ航空の問い合わせ窓口に電話したところ、福岡→インチョンの当初予定の便が欠航になったらしく、希望であれば全日程の無料キャンセルに応じるとのことだった。出発地の変更が可能か聞いたところ、それも無料で可能とのことだったので、便のある関空発に変えてもらった。変更にかかった所要時間は、電話をかけ始めてからほんの5分ほど。非常にスムーズであった。

ところで、私は拙いなりに韓国語が読めたのでアシアナ航空からのメールに気付いたが、そうでなかったらメールに気付かなかったかもしれない。その場合に当日航空券がどういう扱いになるのかは、多少ワクワクする気持ちで気になると言えば気になった。

それから何日か経った後、帰りのインチョン→福岡の便についても変更のメールが来た。インチョン→福岡が欠航になったとのことで、今回は代替便の設定が無く韓国止まりになっていた。アシアナ航空の問い合わせ窓口に電話したところ、福岡以外の到着地に変更可能とのことなので、関空着に変更してもらった。今回も変更は非常にスムーズであった。

航空券は、当初福岡発着だったのが、最終的には関空発着になった。私は福岡と関空の間に住んでいるので、福岡のほうが距離的に近いとはいえ、結果的にそれほど問題にはならなかった。

なお、アルマトイ〜ドゥシャンベの航空券については、幸いにして変更は無かった。

ビザをどうするか?

この記事の最初のほうで触れたとおり、日本国籍者は今年1月からタジキスタンへの短期滞在においてビザが不要になったらしかった。しかし、私はビザは取っておこうと思っていた。

理由は2つほどある。

まず一つは、「パミール・パーミット」と呼ばれる許可証である。タジキスタンでは、パミールを外国人が訪れるには「GBAOパーミット」、通称「パミール・パーミット」と呼ばれる特別な許可証が必要となる(GBAOはパミールの行政区画上の名称であるゴルノ・バダフシャン自治州のロシア語名称 Горно-Бадахшанская автономная область / Gorno-Badakhshanskaya avtonomnaya oblast' の頭文字を取った略称)。このパミール・パーミットは、ビザと同時申請するか、あるいは首都のドゥシャンベで手続きをすることで取得可能であるが、後者の場合は取得までに丸一日かかるのが通例のようである。貴重な時間を有効に使うには、ビザと同時に取得しておくのが望ましいだろう(パミール・パーミットのみの単独申請はできないようである)。

もう一つは、ビザ無しの場合、10日を超えてタジキスタンに滞在すると滞在登録が必要になる、ということである。この滞在登録は、ある程度以上大きな宿に泊まる場合は宿が手続きをしてくれるが、安宿や知人宅宿泊の場合は自分で行わなければならず、しかもそれが極めて面倒らしい。私の滞在予定期間はぎりぎり10日以内なので、滞在登録は不要なはずであるが、何らかの理由で滞在が伸びる可能性もある。宿泊先についても、パミールの知人から「うちに泊まれるよ」との言葉をいただいており、せっかくなので知人宅に泊まってみたい。もし都合がつかず宿に泊まる場合も、安宿を使う可能性は高い。滞在登録を確実に不要にさせるには、ビザを持っていたほうが良いだろう。

そんなわけで、私はビザとパミール・パーミットを同時申請するつもりでいた。

しかし、ここでひとつ、大きな懸念事項があった。現在のパミール情勢である。

パミールの情勢

日本語メディアでは全く報じられていなかったが、この時のパミール情勢はあまり良くなかった。否、あまり良くないというレベルではなく、極めて悪い情勢だった。

そもそもパミール情勢は、かなりの頻度で不安定化している。

まず前提として、タジキスタンの中央政府とパミールとの関係は決して良好ではない。旧ソ連崩壊後に起こったタジキスタン内戦(1992年〜1997年)では、多くのパミール出身者がパミール出身というだけの理由で殺されたという。内戦集結後も、パミールの行政や警察の長は中央政府による任命で地元の住民は選ぶことができず、それらの中央から派遣された人々もパミール側に好意的とは限らず、しばしば衝突が生じていた。特に2012年に起こった衝突では多くの人命が奪われ、内戦終結後では最悪規模のものだった。その後も衝突は数年おきに起こっていた。

2021年11月、ゴルノ・バダフシャン州の州都ホログで一人のパミールの若者が当局による取り調べ中に死亡した。その少し前には、パミール側に対して比較的好意的とされていた当時の行政の長に代わって、そうではないと目される人物が行政の長についていた。ホログの住民は若者の死の真相究明を求めて抗議集会を行うが、当局はインターネットを遮断し集会を鎮圧、さらに数名の死者が出た。

抗議集会は、若者の死亡事件の真相究明とネット回線の回復が約束されたことで解散したが、ネット回線はその後何ヶ月も回復せず、死亡事件の真相究明も結局は反故にされることになる。その間、ロシアに滞在していたパミール人の有力者やブロガーが失踪し、その後タジキスタン国内で当局に拘束されていることが判明したり、タジキスタン国内でもパミール人のジャーナリストが拘束されるなど、当局による圧力が強まっていた。

2022年5月、ホログの住民は再び抗議に立ち上がった。当局は鎮圧に乗り出し、さらに追加の鎮圧部隊がホログへと向かっていた。一方、ホログ地区(シュグナン地区)の隣のルシャン地区の住民は、鎮圧部隊のホログ入りを阻止すべく道路を封鎖したが、ルシャンに到着した鎮圧部隊はこれを弾圧。多くの犠牲者が出るとともに、さらに多くの人々が拘束された。元々人口のあまり多くないルシャン地区の受けた打撃は、「男が誰もいなくなった」と言われるほどのものだったという。事態は2012年の衝突と並ぶ惨事となっていた。

これらの事態に、欧米各国の政府や国連は双方に自制を促す緊急の声明を発表し、パミール人の主要宗派であるイスマーイール派の最高指導者アーガー・ハーン四世殿下も、パミールの信者に対して自制を促すメッセージを発した。パミールでの衝突は欧米各国のメディアで報じられたが、日本語メディアでこの件を報じたところは、当時私の調べた限りでは皆無で、SNS上での個人の発言さえほぼ皆無だった。しばらくしてから外務省がこの件に関する注意情報を出したのが、私の知る限りでほぼ唯一の日本語情報だった。

破滅的な衝突の後、事態は急速に沈静化したようだった。当局側は目的達成で満足し、パミール側には無力感が漂う、という雰囲気が感じられた。その後も、パミール側の有力者が殺害される事件が起こり、当局側は「犯罪組織内の対立で殺された」としているが、恐らく誰も信じてはいないだろう。

パミールは以上のような情勢だった。

このような情勢なので、私の中にも、パミールに行けるのか、行って良いものなのかについてかなりの懸念があった。懸念事項のひとつとしては、果たしてこのような状況下で、いかに個人的に思い入れがあるとはいえ、客観的には物見遊山の観光客でしかない私がパミールに行って良いものか、という心情的問題があった。また、このような状況下でそもそも外国人観光役に対してパミール・パーミットは下りるのか、という物理的(あるいは手続き的)な問題もあった。

一方で、良し悪しは別として情勢は急速に沈静化しているようなので、数ヶ月後の8月にパミールに行くということ自体は非現実的というわけではないようにも思われた。パミールのインターネット回線も、今回は比較的早く回復したようだった。

私はネット上でいろいろと情報を探り、パミールの知人とも相談の上で、最終的には、前回の最後にあるとおり、「少なくともタジキスタンの首都ドゥシャンベまでは行き、もし可能そうならパミールにも行こう」ということに決めた。

なお、パミールに実際に行けるのかどうか心配していたのは専ら私のほうで、パミールの知人たちは基本的にそちらの方面での心配はあまりしていなかった。Bさんは「政治的に最適な時期ではないかもしれない」としつつも、パミールに行きたいならぜひ行くべきだと言ってくれた。

ビザの申請

というわけで、タジキスタンのビザおよびパミール・パーミットの申請である。

今回の私のビザ申請は、ビザそのものというよりパミール・パーミットのほうが主な目的なのだが、先述のような情勢なので、果たしてパミール・パーミットが取得できるのか不安だった。もう少しほとぼりが冷めてからのほうが良いようにも思えたが、一方でビザ取得までに非常に時間がかかるとのブログ記事も見かけた。

タジキスタンのビザは、日本国内在住の日本国籍者の場合、以下の3通りの申請方法があるようである。

  1. 大使館で直接ビザを申請。

  2. ビザ(※電子ビザではない)をオンライン申請。

  3. 電子ビザ(e-Visa)をオンライン申請。

このうち最後の電子ビザを取る方法が最も簡便な方法らしく、私もこの方法を用いたのだが、上記ブログ記事のとおり、名目上は2日で取得可能となっているところが実際には何週間もかかることがあるらしい。日数は状況によって変わるだろうから、ひょっとすると1ヶ月以上かかるかもしれない。もたもたしていると、出発までにビザが取得できないということもあり得る。

先述のとおり、日本国籍者はビザ無しでもタジキスタンに入国可能なので、最悪ビザが間に合わなくてもドゥシャンベまでは行けるのだが、ともかくもいったんは申請することにした。

電子ビザのオンライン申請サイトは、Googleで「Tajikistan e-Visa」で検索すればすぐに出てくる。記入項目は特に難しいことはない。敢えていえば、「訪問の目的(Purpose of visit)」の選択肢として「Tourism sightseeing」と「Tourism vacation」があり、どちらを選ぶべきなのか迷ったが、今回は日本人基準では長めかもしれないがvacationと呼ぶにはあまりに短い滞在なので、「sightseeing」のほうを選ぶこととした。

肝心のパミール・パーミットについても、「GBAO Permit」を申請するかどうかの項目が普通に存在していた。果たして本当にパーミットを取得できるのか、やや不安に思ったが、「Yes」を選んで申請を行った。しかし、この不安が結果的に正しかったことが、後ほど証明されることになる。

必要事項をひととおり選択、記入またはアップロードし、代金支払い画面になった。タジキスタンでは、クレジットカードは基本的にVISAのみ使用可能で、MasterCardはカザフスタン系のHalyk Bankでのみ使用可能、というブログ記事を見かけていたが、e-Visaサイトのクレジット決済はVISAもMasterCardも対応していた。ひょっとして、Halyk Bankを使っている?

決済を済ませると、決済完了を知らせるメールが、例のカザフスタン系のHalyk Bankから届いた。タジキスタンでVISAに対応するには、やはりHalyk Bankの力が必要なようである。タジキスタン政府のシステムなのに決済はカザフスタンなのか、とやや妙な気もしたが、国によってはそういうことも一般的なのかもしれない。

申請から2週間ほどで、結果を知らせるメールが届いた。

ビザの申請(二度目)

ビザ申請の結果は「拒絶(Rejected)」だった。

メールには拒絶の理由のようなものは一切書かれておらず、シンプルに「your e-Visa … has been rejected. Thank you.」という文面があるだけだった。しかし、現在のパミール情勢を考えれば、拒絶の理由がパミール・パーミットであることは明らかだった。すなわち、パミール・パーミットが拒絶され、そのついでにビザそのものも拒絶になった、ということなのだろう。

果たしてこれからどうすべきか、そもそも上記拒否理由の推測は正しいのか、といったことも含めてネット上で情報をいろいろ探していると、「Caravanistan」という中央アジア方面を中心とした旅行情報サイトに行き着いた。その筋では有名なサイトらしい。

このサイトにはパミール方面への旅行者に向け、以下のような注意事項が書かれていた(※その後状況が変わったので、本稿執筆時点ではこの記述は無い)。

  • タジキスタンのe-Visa申請時には「GBAO Permit」を選択してはならない。選択した場合、申請が自動的に拒絶される模様。

  • GBAO Permitはドゥシャンベで取得可能なのでそちらで申請すること。

どうやら、e-Visaと同時にパミール・パーミットを申請した人は、全員e-Visaが拒絶されてしまうらしい。とりあえず、自分だけがrejectされたわけではないということに少し安心するとともに、そんな「みんなrejectされてますよ」という情報に安堵を覚えてしまう自分の、あまり良くない意味での筋金入りの日本人気質に、何となく微妙な気分にもなった。一方でパーミットの取得そのものはドゥシャンベで可能らしく、5月の件以降に取得したという報告も載っており、パミール行きの実現可能性に関してはより確実そうだった。

なお、ここでの「e-Visaの申請が自動的に拒絶される」というのは、「申請を手作業で機械的に拒絶に分類している」ということだと思われる。申請画面に「GBAO Permit」の項目があるのは、単にシステムの修正が追いついていない(または放置されている)だけで、いくらなんでも「アルゴリズム上で自動的に拒否」などということは無いだろう。そんな申請料自動没収システムはあんまりである。

ビザが拒否されたことによる精神的ショックは、実のところそんなに小さくはなかったのだが、何日か経ってから、気を取り直して改めて申請および申請料の支払いを行った。今回は申請画面から「GBAO Permit」の項目そのものが消えていた。ようやくシステム(または単に画面表示だけ?)を修正したようである。10日ほどで、パミール・パーミット無しのビザが添付された「承認(Approved)」のメールが届いた。

なお、タジキスタンへの出発が近づいた頃にあらためてe-Visaの申請ページを見てみると、「GBAO Permit」の項目が復活していた。今回はパーミットも取得可能になっているものと思われる。今申請すれば、とも思ったが、ビザの受取が出発までに間に合わない可能性があり、また既にパーミット無しビザを取得してしまっていたので、今回はドゥシャンベでのパーミット取得とすることにした。

陰性証明をどうするか?

タジキスタン行きにあたっての最後の懸念事項は「陰性証明」であった。

今回の経由地となる韓国とカザフスタンは、私の場合はいずれも陰性証明は不要であった。韓国は日本と同様に厳しい入国規制を課していたが、入国しない乗り継ぎ客については日本と同様に何の規制も無かった。今回、私は入国無しのトランジットなので、韓国は何の規制も無く通過できる。一方のカザフスタンは、既に新型コロナに関する一切の入国規制が撤廃されていたので、こちらも問題は無い。問題となるのはタジキスタン(および日本への帰国)だけである。

先述のとおり、タジキスタンへの入国については、ネット上には「原則入国不可」から「ワクチン証明も陰性証明もチェックされずに入国できた」までさまざまな情報が載っていた。

最初は念のため陰性証明を取ろうと思っていたが、調べてみるといろいろと手間暇費用がかかるらしい。また、万が一陽性だと旅行不可能になってしまう。可能であれば陰性証明無しで済ませたい(仮に感染していた場合に検査せずにそまま旅行しても良いのかという問題はあるが)。

ということで、タジキスタンの入国規制が実際のところどうなのか、改めて調べてみることとした。

航空会社情報

実際の各国の入国規制については、航空会社のホームページを見るのが一番、という情報をどこかで見たので、行きのカザフスタン→タジキスタンで使うソモン航空、および帰りのタジキスタン→カザフスタンで使うアスタナ航空のホームページを調べてみた。

帰りに使うアスタナ航空のサイトでは、比較的容易に英語情報が見つかった。PCR陰性証明またはワクチン摂取証明が必要、という米国外務省情報と同様の情報だった。この情報に従えば陰性証明は不要ということになるが、あくまで帰りに使う航空会社の情報なので、万が一空港で「陰性証明が必要」と言われた場合、反論の根拠としては弱いように思われた。

ソモン航空のサイトには、英語サイトには関連する情報が見当たらなかったが、ロシア語で検索してみたところ、情報が見つかった。

ソモン航空HPでの、タジキスタン入国に関する情報(が載っているカザフスタン入国に関する情報)。2022年7月13日時点でのスクリーンショット。

情報は、直接的には6月8日からカザフスタン入国に際してPCRテストが不要になった、ということを伝えるものだが、タジキスタン入国に関しても「従来どおり、ワクチン証明書またはPCR証明書が必要」との記載があった。

これで、万が一空港で「陰性証明が必要」と言われたとしても、「ソモン航空のサイトにはこう書いてあった」と反論できるだろう。念のためロシア語での記載内容を暗記しておこう、せめて「либо 〜, либо 〜」(〜、または〜)という表現は覚えておかねば、と久々にロシア語の辞書と少し格闘した。タジク語の表現もあれば覚えておきたかったが、あいにくタジク語版サイトは工事中だった。

ビザ情報

タジキスタン入国はどうやらワクチン証明だけで済みそうだ、と確信しかけていた頃、タジキスタンのビザ申請が承認されて電子ビザが送られてきた。そのビザの注意書きには、以下のように陰性証明が必要との記載がされていた。

ATTENTION - All passengers travelling to Tajikistan from any point of origin must hold a negative COVID-19 PCR test certificate for a test taken no more than 72 hours before departure.

タジキスタン電子ビザの注意書きより

航空会社のサイトではワクチン証明でOKだが、ビザでは陰性証明が必要とという、矛盾した情報に私は突き当たった。

航空会社を信用すべきか、ビザの注意書きを信用すべきか。やや迷ったが、私は航空会社のサイトを信用することとした。ビザの注意書きは、おそらく昔の情報が修正されずに残っているだけではないだろうか。ビザ申請フォームのGBAO Permitの件からしても、その可能性はおおいにあるように思われた。

とはいえ、たとえ本当は修正し忘れだったとしても、ともかくもビザにはそのような記載があるのだから、そこで文句を言われる可能性は皆無ではない。万が一の時に反論するために、ワクチン証明でOKということを補強する情報がもう少しほしい。

空港情報

航空会社以外である程度信頼のおける入国条件が書かれていそうなところとして、ドゥシャンベの空港のHPはどうかということが思いついた。きっかけは、韓国通過条件を調べている時に、航空会社かどこかのサイトからインチョン空港HPへの誘導がされていたことかもしれない。ともかくも、「Dushanbe International Airport」をキーワードにドゥシャンベ国際空港のHPを見つけ、サイト内を調べてみた。

英語版サイトの新着情報をチェックしたところ、全く新着情報ページになっていなかったが、ロシア語版やタジク語版では新着情報ページには新着情報がちゃんと載っており、新型コロナ関係の入国条件について書かれているものも見つかった。

タジキスタン入国条件についてのロシア語情報(ドゥシャンベ国際空HPより)
タジキスタン入国条件についてのタジク語情報(ドゥシャンベ国際空港HPより)

これによると、CIS諸国(≒旧ソ連諸国)からタジキスタンに入国する旅客は、2022年3月15日からワクチン証明だけで入国可能だという。

なお、「新着情報」でのこれらの記事の日付は2022年3月30日となっていた。条件が変更になった3月15日から二週間以上経っている。ここでもやはり情報は遅いようである。

ドゥシャンベ国際空港HPロシア語版のニュース一覧より
ドゥシャンベ国際空港HPタジク語版のニュース一覧より

結論

以上の調査結果を総合し、私は陰性証明無しでの入国を試みることにした。

万が一、ワクチン証明だけではダメだったら、カザフスタンで改めて陰性証明を取得を取る必要があり、それが飛行機の出発までに間に合わない場合はカザフスタンからタジキスタンまで陸路での移動も検討しなければならないかもしれない。私は念のため、アルマトイでPCR検査が可能な場所や、アルマトイからドゥシャンベまでの陸路での所要時間を調べたりもしたが、幸いにしてそれらが必要になることは無かった。

(続く)


サポートをいただけるととても励みになります! 頂いたサポートで、外国語に触れる旅に出かけます!