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【元夫のこと②】ずっと、羨ましかった。

もともと私たちは、夢を追う者同士だった。
しかし、妊娠した私は産後の育児のため、また家族三人を養うためにそれまでの仕事を辞め、今の仕事に就いた。夢を道半ばで諦めた感覚はあったが、当時の私にとって、生まれてくる子供と夫との生活の方が大切だった。

それでも、やはりどこかで結婚前と変わらずに夢を追い続けている夫のことを羨ましく思っていたのも事実だ。夫は帰宅時間を気にせずに仕事をし、帰りには飲みに行く。「ワンオペ」状態で育児をしながら働く私は、気が向いたからと事後報告で飲みに行ったり、仕事が終わらないからといって残業することはできない。会社員の私と違い、夫の仕事は自営業だから仕方がない。そう自分に言い聞かせて、なんとかその羨ましさを胸の内に押し込めていた。そして夫には、家族のことで私のように夢を諦めてほしくないと。

保育園のお迎えギリギリまで仕事をして、自転車を立ち漕ぎして息子を迎えに行き、食事をさせ、風呂に入れ、寝かしつけをする。息子が寝付くまで座る暇もない。息子が寝た後は、終わらなかった仕事をこなし、PCを叩きながらリビングで寝落ちする。夫の帰宅する音で目が覚め、食事の配膳をし、晩酌の相手をし、眠った後にはまた朝が来て(しかも息子は2歳まで夜泣きがひどかった)、目まぐるしい一日が始まる。

保育園からの突然の呼び出しにもすべて私が対応した。「夫は自営業だから仕方がない」。会社には急な仕事の中断を謝り、保育園の先生には迎えが遅くなったことを謝り、息子には具合が悪いのに保育園に行かせたことを謝る日々。

しかも家計を支えていたのは夫の稼ぎではなかった。私が手取り13万弱の夫と息子を扶養に入れていた。仕事で辛いことがあっても、そう簡単に転職を考えたりすることはできない。これ以上所得が減ったら、暮らしていけなくなってしまう。

そんな日々に追い詰められ、夫へ抱いていた羨ましさは、やがて妬みになった。「今日は飲んでくるよ」というLINEに「いいわね、誰の都合も聞かずに飲みに行けて」などと返すようになった。

『男の人は メールひとつでどこでも行けていいわね』「Aさんの場合。」やまもとりえ

夫も私の歪んだ思いを感じとったのだろう、息子が小学校に上がるタイミングで自営業を畳み、一般企業に就職をした。しかし初めての社会人生活に挫折して転職を繰り返し、夢の代償のように心を病み、最終的に私の収入と変わらない現在の仕事に就いた後は、人が変わったようになってしまった。

いや、変わったようになってしまった、のではない。
私の妬みが、歪んだ思いが、変えてしまったのだ。
夫という人を、夫と自分との関係を、そして自分の夫への思いを。


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