花の名を借りるということ
「紫陽花みたいだね」
最も尊敬する働く女性であった、大好きなマネージャーに言われた言葉です。
学生になってバイトを始めてから約2年、バイト運に恵まれず、給料が2ヶ月間貰えなかったり新人故の偏見ばかり受けていたりして職を点々としていた私を救ってくれた今のバイト先。少し栄えた駅前の、華やかなお店。中々覚えてもらえないような横文字の名前のバー。
心から接客することはこんなにも楽しくてキラキラするものなのだと教えてくれたマネージャーは、今月結婚して退職しました。
彼女はどんな人相手でも、怒る時は理由を述べてからしっかり厳しく接しました。経歴の差や見た目関係なく。時には、年上や上司にもはっきりと意見しました。
大勢のスタッフがいる会社のサービス指導役として、社員からアルバイトひとりひとりの個性を見定めて教育してくれた人です。厳しいながらも、個性をちゃんと射止めていたからこそみんなから好かれていました。
そんな彼女がくれた冒頭の言葉は、自分のことを「可愛げない」とか「意思を強く表現しきれない」だとかばかり思っていた私の自分への評価を見直すきっかけになりました。
おかげさまで、
明るく優しく聞こえるように無理して作っていた声を止めることができました。
隠すことも魅力のひとつであると気付くことができました。
綺麗な花に例えてもらった自分の素に自信を持つことができました。
人を変えるきっかけは、真剣に向き合うことと花の名を借りることで、案外簡単に作ることが出来てしまうのかもしれない。なんて。
それをさらっとやってのけるのは、私にはまだまだ難しいです。
けれど、いつか、私もマネージャーがしてくれたように言葉で人に魔法をかけてみたいです。
紫陽花が咲く季節が来ました。
私はこの季節が来て、紫陽花を見る度に
もう戻っては来ない、キラキラ輝くことを知った
駅前のバーで働き始めた頃のことを思い出すでしょう。
私は、最高の仲間たちをバイト先で見つけました。
クローズ後に日報を書きながらC7の席に座って何気ない話をする
この”今だけ”の時間のことを、幸せと言うのだと思います。