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詩「夜行」

バスに揺られていた
知らない町から
高速道路に乗るのはわかったが
日はとうに暮れていたから
車窓からは何も見えなかった

支給されたのは給仕服だった
給仕をするのだから当然だったが
一列に並んだ新人を前にチーフと呼ばれるひとが
一度だけレクチャーをして見せたあと
すべては始まっていた

式場に集まったひとびとを
案内して椅子を引く

運ぶ皿にはひとつひとつ名前があったが
判別はつかないまま無言で差し出す
まかないはレトルトカレー
市長からの祝電のあと
全員で踊るように指示があり

猫が歩いていた
路地の隙間を

披露宴が終わると
すべては捨てられた
分厚いステーキ肉もグラスワインも
フルーツの盛り合わせも
すべて同じゴミ箱の中へ
一緒くたに捨てられて

猫が歩いていた
路地の隙間を
バスに乗る直前に
見かけた
ホテルの灯りの他
辺りは真っ暗だったから
幻だったのかもしれない

記憶に記憶を重ねたら
もうそれは過去とは呼べなくて

バスに揺られていた
もうずいぶんと眠りこけていた
目を開くと
窓の向こうに
灯りは満ちて



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