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神は細部に宿る【『最後の秘境 東京藝大』ブックレビュー】

基本情報

タイトル:最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常
著者:二宮敦人
出版社:新潮社
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2021年1月30日に読了。

感想

2年くらい前だったか。下北沢のブックオフでこの本を見かけた。タイトルを見る、手に取る、目次を見る、本文をぱらっと見る。面白そう。具体的には、自分の生きている世界と違った世界が覗けそうなので面白そう。だがそのときは買うに至らなかった。

そして今日(2021年1月30日)、公立図書館の377(大学)コーナーを眺めていたら、本書を見つけた。初めて出会ったときには見落としていたが、著者は私が7年前くらいに読んだホラー小説『!』の作者であることに気がつく。「はじめに」を読むと、やっぱり面白そう。というわけで、借りてきて、2~3時間くらいで一気に読み終えてしまった。

著者の妻は、東京藝術大学の彫刻科に通っている。この妻が、とにかく面白い。これをきっかけに調べてみたら、藝大の環境やそこに所属する人々も、とにかく面白かった。という本である。

最も印象的だったのは、藝大生の「ものを作る」ことや「音を奏でる」ことにかける時間と労力が、想像以上に凄まじかった点である。我々が普段目に留めない細部を、気にかけて気にかけて徹底的にこだわる。そうしてアウトプットされたものは、素人のものと実際に「違う」のだろうなあと思う。一般人の目や耳では、どこが違うかを明確に指摘することはできない。しかし、「違う」ことだけがわかる。「神は細部に宿る」とはこういうことなのだろう。

この本からインスピレーションを受けて考えたことをひとつ。
私は、何かを学ぶ行為もまた、ある意味アート・芸術・自己表現的なものだと言えると思う。学ぶ行為は、自分を作り変える。物質的基盤としては、何かを学ぶことによって我々の脳の配線は物理的に変化する。その変化が、我々の認知や行動の変化に繋がっていく。学びは、自分の見方・感じ方・考え方を変化させ、自分という作品を理想のものに仕立て上げていく。そんなふうに感じるのである。
佐藤勝彦が『教養のためのブックガイド』で、教養とは

「人がよく生きるといったときに、(中略)それを自分でバランスよくデザインできる能力」

と言っていたことを思い出した。何をどう学び、どう自分を作り変えれば、自分にとっての「よく生きる」が実現できるか。これは自分自身でデザインしていかなければならない。つまり、「教養を持っている」とは、「自分という作品を、学ぶ行為によって良いものに作り変える能力を持っている」ことなのかもしれない。

話が逸れてしまった。
2年前の下北沢で予想した通り、この本のなかには、自分の生きている世界と違った世界が広がっていた。だが、深いところまで潜ってみると、意外と違っていないのかもしれない。藝大生たちの作品に対する(私から見ると)奇妙なこだわりは、私たちの学びに対する(私から見るとそうではないが、おそらく世間から見ると)奇妙なこだわりと通底している。誰も目を向けなかったところに目をむけ、誰も考えなかったことを考え、誰も作らなかったものを作る。時間や労力を惜しまず、とことん探究しつづける。
こうして今日もまた、「芸術界の東大」生=藝大生「学問界の藝大」生=東大生は、共に上野公園を囲みながら、芸術作品と学問作品(=論文など)に勤しむのである。

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