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ヤンキーマンガをぶっ潰せ!

 そいつを知ったところで価値はない。誰にも必要とされていないから。だがしかし、そいつは確かに存在する。
note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。

一発気合い入れるんで、そこんとこ夜露死苦!

〇こぶしで殴り合えば理解できる。

 今、お前のこぶしからお前の魂が伝わってくる。純粋無垢なお前の本当の姿。俺たちはわかりあえる。俺とお前は同じだからだ。俺たちははみ出し者。ヤンキー、チーマー、ギャング、不良。世間は俺たちにありきたりなラベルを貼りたがる。クソくらえだ。俺はただ誰にも縛られたくないだけだ。俺が俺でいたいだけ。欲しいのは自由だ。お前もそうだろう? 俺がお前を理解したように、お前にも俺のハートが伝わったはずだ。俺たちはもう争う必要はない。俺たちは仲間だ、兄弟みたいなものさ。さあ、一緒に意地を貫こうじゃないか。……それにしても、お前のこぶしは結構効いたぜ(笑)。

〇俺も昔はヤンチャだったけどよ……

 ポエムをほざいて仲良くなれれば、この世に争いなんか起きるはずがない。だいたい、お前らヤンキーが『自由』とか高尚な言葉の意味を知っているのか? お前らに理想を語る頭などない。お前らはただ手っ取り早く、誰かの〝上〟に立ちたいだけだ。肩を切り、でかい声でオラついていれば、人はお前を避け、煙たがられる。それをお前らが勝手に勘違いして、優越感に浸っているだけ。自分たちは他人と違うと思っているようだが、笑わせるな。お前たちはフツーだよ。フツーの人間。フツーの人は圧倒的な力の前に、潔く屈するものだ。今からそれを証明してやる。

〇見た目は冴えない中年男

 黒木悟。56歳。脂ぎってふけ交じりの頭髪はすでに薄くなり、バーコードの下から赤黒い頭皮がのぞいている。背も低く、下腹はだらしなく膨らみ、ベルトを締めるのも一苦労だ。よれたスーツ、黄ばんだYシャツ。その姿はリストラ寸前、あるいはホームレスなりたての元サラリーマンにしか見えない。だがそれは単なるカモフラージュに過ぎないのだ。彼には秘密があった。
 彼は組織に雇われたヒットマン。しかも凄腕と評価され、〝流れ作業〟と二つ名のあるプロ中のプロなのだ。

〇イキったヤンキー、黒木に絡む

 組織の命を受け、〝仕事〟の現場に向かうが、たまたま通りすがりのヤンキーグループに絡まれ、定刻に完遂することができなくなった。彼は組織に咎められる。そして、クビ。今までの功績から、生命までは取られなかったが、彼は失業する事になってしまった。彼は怒った。組織にではなく、仕事を邪魔したヤンキーたちに。やりがいのあった生きる目的が、ある日突然奪われてしまった。その失望・悲しみは怒りとなって、彼らに向かうことになる。
 彼はヤンキーを滅ぼすことに決めた

〇矛先はすべて

 まずは仕事を邪魔したつるんだヤンキーども。難なく片付けると、ヤツらが所属している『鬼気図那(おにきずな)』18人をまとめて爆殺。さらに上部組織の暴走族「婆覇夢宇土(バハムート)」にカチ込みをかけ、壊滅させる。生き残ったメンバーがケツ持ちの暴力団「鍛治澤組」に庇護を求めるが、俺たちを巻き込むなとばかりに、けんもほろろに断られる。
 途方に暮れたヤンキーに救いの手を差し伸べるのは、やはり同じヤンキーだった。敵対していた暴走族「徒羅!徒羅!徒羅!(トラトラトラ)」が一時休戦を申し入れたのだ。困った時には一致団結。おっさん一人に舐められてたまるか。俺たち、はみ出し者の意地と絆を見せる時が来た。
 こうして、ヤンキー軍団とおっさんヒットマン(元)の抗争が始まる。

〇クズどもを大量虐殺! 

 意気軒高なヤンキーが増殖したが、別に問題なし。所詮は烏合の衆。ベルトコンベアーで流れてくる素材にスタンプを押すかのように、次々と処理されていく。
 失禁しながら命乞いをしょうが、幼な妻の腹の中に無垢な命が宿っていることを訴えようがおかまいなし。黒木にとってそれは単なる作業なのだ。
 恐慌に陥った彼らは、仲間を裏切り、見捨てる。はみ出し者の帰る場所を自らの手で壊してしまったのだ。マンガのように仲間のために命を貼るものは一人もいない。絆も意地も命も軽く、安い。

〇中だるみはあるが…

 映画は終始、黒木のワンサイドゲームで進められる、ピンチらしいピンチもなく、中盤あたりの戦闘シーンはやや単調。殺し方バリエーションが少ない(主に銃での射殺とナイフの使用)のに、2時間を超える尺は増長だ。
 だが、クライマックスにかけての展開は興奮間違いなし。銃弾が尽きた黒木は300人のヤンキーを相手に、シャープペンシルと替え芯30本だけでせわしなく処分を行う。このシーンは妙に力が入って、まるでこれを撮りたいためにこの映画の企画を立ち上げたようだ。
なぜ、シャープペンシル? もっと勉強しろということなのだろう。

〇まさかのオチが……

 最後は続編を匂わせる終わり方で幕を閉じる。秋川書房という出版社が黒木を始末するよう他のヒットマンを複数雇うのだ。何せ秋川書房はヤンキーマンガで財を成した出版社。供給元と需要を潰されるのは、企業としては看過できない状況だという判断からだ。
 果たして黒木の運命は? それ以前に続編が制作されるのか? 別にどうでもいいことだが。
 なお、この映画のリメイク権をハリウッドが入手したとのこと。どこの国も抱えている事情は同じなのだろうか。


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