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ゲルドムの逆襲~モデラーズ・プレイ

あなたの人生を変えるものではない。絶対に。しかしそれは確かに存在する。
note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。

転売屋は〇ね

〇その設定は……

 シリアルキラー ケイン・ナグモは警官隊に追い込まれていた。このままでは大好きな人殺しができなくなってしまう。ケインは焦っていた。そうして逃げ込んだ先は、閉店後の家電量販店。必死に抵抗を見せるが、そこは多勢に無勢、次第に追い込まれてしまう。
 そして、確保用のテーザーガンの暴発によって、命を落としてしまう。しかし、彼の殺人にかける情熱は、怨念となって、家電量販店・おもちゃ売り場のプラモデルに取り付いてしまう。……それってチャ〇キー


〇乗り移った先……

 ケインの魂が乗り移ったプラモデルは、アニメ『装甲機動歩兵ガンドル』に出てくる『ゲルドム』という、これまたパチもの臭いロボットだ。不運な事にコイツを手に入れてしまったのはボビー少年。主役メカを選ばず、脇をチョイスする渋いセンスを持った純情少年だ。母親からねだってようやく手に入れたプラモを組み立てると、彼に災難が襲い掛かる。

〇アニメ順次です

 ケインは新しく手に入った〝身体〟を試してみると、ある事に気付く。原作で使用していた〝武器〟が現実世界でも使えるのだ。機体に埋め込まれた素粒子ビーム砲や、手持ちのホット・ククリナイフ、スモールバズーカなど、殺傷能力の高いイカれた火力を手に入れた殺人鬼がする事は決まっている。
 まずはご挨拶とばかりに、ボビー少年の向かいの家に火力をぶっ放す。シングルマザーの母親にいつもねちねち絡んでくる嫌なババアを焼き殺す。そして家に忍び込んだ職場の同僚で母親のストーカー男を、ククリナイフで試し切り。威力を十分に堪能したところで、新しい身体をくれた恩人、ボビー少年にお礼をする。もちろん、恩返しは殺す事。

〇その特性ゆえの……

 絶体絶命の危機に陥ったボビー君だが、母親の決死の反撃で、撃退に成功する。ケインはプラモデルなので熱に弱い。料理用のガスバーナーで、身体を溶かしたのだ。蒸発するケイン。屈辱だ。殺人鬼の俺が、逆に殺されるとは。この恨み決して忘れん。俺は人殺しが好きなだけで、殺されるのは大嫌いなんだ。

〇見よ。プロのモデラーの実力を。

 同時刻、ボビー少年と同じプラモデルを買った者がいた。プロモデラーのコージー・ハセガワである。彼が仕事用に組み立てた『ゲルドム』に異変が起きた。ケインの魂がしがみついていたのだ。警官隊に殺されたあの日、あの場所に売っていたプラモデルの一つで、溶かされた瞬間、こちらの身体に魂が移動したのだ。思わぬ自身の能力に歓喜しながらも、同じ失敗を繰り返さないようケインは考える。コージーを脅し、身体のパワーアップに成功する。子供の作ったそれとは違い、接着材をはみ出さず丁寧に作られた身体に活力が蘇ってくる。新しい武器も手に入れた。弱点の熱も金属パーツを身体に組み込む事で解消。復讐だ。俺を殺したヤツを八つ裂きにしてやる。警官たちはもちろんの事、あの親子を惨殺しないと、俺は新しい人生の第一歩を踏み出せないんだ。
 ケインはコージーを虐殺すると、ボビー親子の家に向かう。覚醒した能力、完成したプラモを操る力を手にして。ヤツらは俺を倒したと思い込んで油断しているはずだ。このコージコレクションを使ってどう仕留めてやろうか。ほくそ笑むケイン。果たして、親子の絆が勝つのか、殺人鬼の執念がそれを上回るのか、激闘の第二ラウンドのゴングが鳴らされる。

〇そして彼女は……。

 どこかで聞いたような設定と絵面だが、火力高めのこの作品意外と悪くない。何も考えずにただただ身を委ねればいい。プラモデルである『ゲルドム』もクレイアニメのようなCGで表情豊かに表現されている。見終わって損をしたような気分にはならないだろう。かといって、あなたの人生を変える作品では決してないが。
 劇中、片目・片足・片腕を失いながらもわが子を守るシングルマザーを演じたサラ・フランクリンは、その熱演がその後の仕事に繋がり、オ〇〇ーにて主演女優賞にノミネートする一連の流れに上手く乗った(受賞作『クレイジー・クレーマー』)。どんな仕事でも手を抜かず、一生懸命やらなければならないという好例である。


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