見出し画像

タイム・カプセル、タイム・ボム

〇廃校の思い出

 202X年。某県某市の田舎町。この町唯一のA小学校が廃校になる。少子化の影響による統廃合。時代の流れだ。しかし、この学校の歴史は、関係者の間で語り継がれるに血違いない。その手助けをするアイテムがある。
 タイム・カプセルである。廃校により、予定より早く掘り出されることになった。いずれこの校舎は更地となり売りに出されるのだから、致し方ない。それよりも、一体どんなものがカプセルに保管されているのだろうか? 在校生、卒業生、教員……この学び舎に関わる全ての者たちは、好奇心と期待感に胸を躍らせているに違いない。

〇そして、カプセルが掘り出された。

 当時の地図を参考に重機を使って掘り出される。結構深いぞ。業者の奮闘(しかも格安)もあって、ようやく掘り出したが……。
 カプセルは2つあった。記録によれば一つのはずだ。首を傾げる関係者。まあとにかく開けてみよう。細かいことは後で考えればいい……。
 カプセルを開いた途端、閃光。遅れて爆音と爆風が襲ってくる。そう。カプセルの中身は爆弾だったのだ。被害を受けたのは爆心地から半径数キロに及ぶ。だが、被害内容は我々の想像をはるかに上回っていた。

〇爆発による被害は

 被害内容は奇妙なものだった。現場にいた卒業生や作業員はみな行方不明。死体はおろか肉片しか残っていない。核爆弾なみの破壊力か……。いや違う。廃校によって取り壊されるはずの校舎は健在だ。傷一つついていない。しかし、校舎の様子は様変わりしていた。木造の2階建て校舎に。元は鉄筋コンクリートの4階建ての建築物のはずだ。まるで〝当時〟の様子がそのまま現れたかのようだった。そしてもう一つのタイム・カプセルが無傷のまま残されていた。その中にはスマートホンと思われる小型の機材らしきものが入っていた。カプセルが埋められた時代には存在しえなかったものである。そしてその〝スマホ〟が音を立てた。

〇指名された人物は

 〝スマホ〟と思しき通信機器。スピーカーモードでこう語りかける。『こちらはJSA。作業員・見学者:A小OB全員無事。引き渡しの手順について話会いたい』
 JSA(日本国家安全保障局)。公安とはまた別の対テロ組織と噂される組織だ。その実態は未だ不明。フィクションの類だろうという話も根強い。偶然、〝電話〟を受けた刑事:近藤史子はいぶかしながらも耳を傾ける。『心配するな。我々は味方だ』。そしてこうも言う。『テロリストを捕まえたい。協力してくれ。情報は提供する』。

〇爆弾の正体

 爆発物の正体は厳密で言うと、爆発物ではないらしい。時限式時空間振動弾。通称:タイム・ボム。時空を歪ませて範囲内の空間をとある時代の空間と交換することが可能で、実際の効果は目にしている。信用するしかあるまい。タイム・ボムはタイム・トランスポーターという一種のタイムマシンによって〝射出〟される。先に話したテロリストたちはタイム・トランスポーターを奪い、近藤のいるこの時代に逃亡した。タイム・トランスポーターはすでに奪還したが、ヤツらはタイム・ボムを数発この時代、この日本に撃ち込んだという。K・K・Kを母体とした選民思想団体「ザ・ワン」のメンバー。ヤツらは現代でクーデターまがいのテロを起こし政権を奪取。同じやり方で世界各地に出没し、世界を牛耳るつもりらしい。未来製の武器で武装した兵士がいる未来の土地と交換することによって、現代を侵略するのだ。西暦2101年のオーバーテクノロジーを使えば、少ない兵力でも制圧できる。ヤツらは本気でそう考え、実行しようとしている……

〇とにかく……

 君にはテロリストの追跡および確保、ヤツらの、この時代での協力者を特定してほしい。今は教えられないが、君にしかできない理由がある。無論、援軍は送る。行方不明者の引き渡しはその後になる、と声は言う。他に手がかりもなく、渋々ながらも〝声〟の主張を聞く近藤。無視をすれば確実に犠牲者が出そうだからだ。
 男の声、女の声、子供の声、年寄りの声。発言の度に変わる声はこういう。『ありがとう。君なら協力してくれると信じているよ。君は組織ではいわゆる〝一匹オオカミ〟だ。こっちにとってもそっちにとっても都合がいいだろう』。少なくとも〝声〟は知っている。自分がここでは鼻つまみものであることを。近藤は苦笑しながらも〝声〟に協力することにした。かつて A小学校で学んだ者としては声の主らが持っているであろう本物のタイム・カプセルの中身を覗いてみたかったからだ。それに断ると……
「〝人質〟の命はないわけか……。さて、本当の悪党はどっちなんだろね」

〇意外を狙いすぎて……

 肥満体型だが、バック転など軽々こなす無駄に身体能力の高い主人公赤ちゃん型量子コンピューター「ボーイ・マモル」。潜伏しているテロリスト達の真の目的。そして〝声〟の正体……。どれも意外性を狙いすぎて、かえって物語が混乱し本筋が分かりづらくてなっている印象を受ける。それもそのはず、作品の完成まで監督が3回、脚本は5回も変わる迷走ぶり。配給元と製作者との溝が大きくなり収拾がつかなくなった模様で、納期に間に合わせるために無理やり完成させた形となった。しかしそれでも、近藤役を務めた荒木恵子の奮闘と、貧乏くじを引いた形となった監督の小林霧には拍手を送ってもいいだろう。

2045年 火星 配給:ユービックファクトリー


配給↓


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?