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ゾンビエンジェル ジャスティスビッチ

モラル。品性。常識。どうでもいいです。オモシロが全てに優先する。
note空想映画劇場 ゴールデン・フェイク ただいま開場いたします。

神の放ったメギドの火が彼らを焼き尽くす

〇事故発生

 某県某市に建設されたU社の医療用ナノマシン製造工場の爆発事故は、日本社会に大きな影響を与えた。爆発によって散布されたナノマシンが人体に影響を与えたのだ。人のDNAに浸食、そして瞬時に他の生物のDNAデータに書き換えてしまうこの微小機械は、人類史上未曽有の悪夢を生み出した。このマシンに侵されると人はゾンビになってしまうのだ。

〇都市伝説

 ヤツら——ゾンビ——には当然生前の記憶はなく、ただ人肉を追い求める反射機械に過ぎなかった。ゾンビは増殖し、いまや日本をはじめ世界の総人口の半分が生きた屍である。そして人々の間にはとある都市伝説がまことしやかにささやかれた。
 人を1000人喰ったゾンビは天使に生まれ変わる、と。
 そして、その天使は他のゾンビを全て地獄に追い返すのだ。

〇誕生

 その日はいつものルーチンのはずだった。
 武装ボランティアの一員、倉守健斗はいつもように単独でゾンビが飽和した被害地区に潜入していた。目的は生存者と食糧などの物資の捜索。彼には特殊技能があった。理由は不明だが、ゾンビに探知されにくい体質なのだ。それ故に単独行動を許されている。
 倉守は奇妙な光景を目撃する。
 ゾンビが人を襲っている。いやそれ自体はフツーの行動だ。ヤツらは常に飢えている。問題は襲った人間を自分では喰わず、他のゾンビに分け与えている事。通常、ゾンビは単独行動だ。群れをなしているのは、ただの結果。人間だった頃の習慣を踏襲しているだけ。ゾンビに知性などはない。
 しかし、そこにいたゾンビたちは喰いかけの人間を一匹のゾンビに差し出している。
 大型のゾンビだ。中年男性、肥満体。全体が濁って薄汚いが半透明のジェルに包まれているようだ。目を凝らしてみると、中に人がいる。胎児の様に膝を抱えていた。

〇羽化するゾンビ。

 肥満ゾンビは膝から崩れ落ち、血尿のような体液を巻き散らかした。そしてジュクジュクした肉塊の中から、人が飛び出した。女だ。白い4枚の羽根を広げている。その姿はまさに天使だ。ゾンビから生まれたゾンビエンジェル。そして上空に舞いあがると、目から口から怪光線を放ち、周囲のゾンビを駆逐し始めた。

〇救世主……なのか?

 ゾンビはあらかた死滅し、避難民は胸をなでおろした。あの天使は神が遣わした救世主なのか? 喜びもつかの間、地に降りた天使は口を大きく開き生き残った人間を喰い始めた。
子宮の位置まで縦に割れた口蓋の中に飲み込まれた人々は悟る。餌である我々を独り占めするために、ゾンビどもを始末したのだ、と。

〇政府の密命

 ゾンビエンジェルはやがて卵を生み出した。化け物は化け物を生み出す。生まれてきた天使たちは、ゾンビと同様人を襲い、喰う。そして、生む。しかもゾンビと違って、空を飛びある程度の知恵もある。新たなる脅威の誕生である。うかつに自衛隊も動かせない。周辺諸国もあわよくばとばかりに、領海・領空侵犯を繰り返すためだ。そこで臨時政府は特殊部隊を急遽編制、その能力を買って倉守をスカウトする。先に述べた事情や、数からいって正面からぶつかり合うと犬死は必至なので、隠密作戦をとるしかないのだ。天使やゾンビを構成するナノマシンの活動をリセットする弾丸など、一応対策武器はある。だが、試作品のためその効果は不明だ。
 政府の代理人は、いわば強制的に命令する。あの天使たちを始末しろ、あんたのゾンビから無視される特性を利用して。そして代理人は恐るべき事実で彼を脅迫する。今から三日以内に天使たちを処分しないと日本政府は核兵器を使用する、と。

〇ゾンビいるところ天使がいる

 おざなりともいえる訓練を受け、特殊部隊は天使討伐に向かう。狙うはゾンビが密集している場所。人を襲うゾンビがいる所に天使は現れるという算段で、餌の独り占めを狙う強欲な天使の習性を利用するのだ。偶然助けた避難民から自身の身体の秘密を知る倉守。ゾンビを構成するナノマシンと、倉守自身がかつてケガの治療のため使用したナノマシンの残留物が変異により同じものになってしまったのだ。心無い避難民が言う。「お前はゾンビとお仲間だ。だからゾンビに無視されるんだ」。だがそれでも倉守は前を向く。己の使命を果たすのだ。そんな彼を導くために、次々とゾンビや天使、あるいは暴徒(ゾンビエンジェルを神の使者と崇めるカルト)の毒牙にかかる隊員たち……。天使が現れた理由、倉守自身の存在証明、政府や周辺諸国の思惑……。押し迫るタイムリミットが全てを飲み込む事になるのか……。最終決戦の、裁きの時は近い。

〇嫌なマルチバース……。

ストーリーや設定に雑さは否めないが、ゾンビや天使の造形や、グロが伴う戦闘シーンは丁寧に作られ、それなりに迫力がある。評論家の評価とは逆に、観客の支持は高く続編を望むレターも多いという。またWEB上に本作のプロデューサーのプロットファイルというものが流出しており、その内容は倒産した配給会社が持つ作品の版権を買いあさり、「VSシリーズ」なるものを展開するというものだ。「VSシャークマーメイド」「VSジェラルド・ゴッチ」……などなど。しかし公式な発表はなく都市伝説の類のものとされている。


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