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ずっと前の野村沙知代さんと私


そういえば、私は東京のグラフィックデザイン専門学校に通っていた。

その頃、アルバイトをしていたデザイン事務所の仕事で、野村沙知代さんと
雑誌の対談がありました。もうずいぶん昔の話で雑誌の名前すら忘れてしまった。たしか大人の女性が読む高級雑誌だったと思う。

事務所の仲間は誰も野村沙知代さんの対談相手を引き受けず、
一番若手の私が餌食になった。

あの頃の沙知代さんは全盛期でかなり辛口で沙知代の黄金時代。
私も若かったしバッシングされても別にいいや、はい、どうぞ。的な軽い感じで出て行った。


場所は都内のホテルのスイートルーム。
スイートルームってこんなにゴージャスだったんだ。とただただ驚いた。

スタッフさんが撮影の準備をしている間、
沙知代さんは何本もプカプカ~とマイルドセブンをふかしていた。
その間、照明のライティングを一切せずに待機していた。

沙知代さんが灰皿にタバコをねじり捨てた途端、

ピカーッ


と照明が神々しく光を放い
沙知代さんを輝かせた

沙知代さんはテーブルに置いてあった私物の黄色い103円ライターを手で払って床に叩き込んだ。

床に叩きこまれたライターは絨毯に沈み、完全に存在を消した。
誰も拾わないライターは写真に写らなければ問題ないのだろう。

沙知代さんからすると、きっと目の前にいる私を感情のないマネキンに見えているのだろう。

さあ!辛口ゴング鳴らしてちょーだい!

と、
魂に盾を張った私を相手に、沙知代さんは、急に脚を大きく組み替えて乙女っぽく艶やかになった.....

「あのねぇ。私がOLだった頃....」と、しっとりとした中低音で優しく語り出した。

私が若かった時代は、とにかくOLで(?)一生懸命働いたお金を貯めて、お金が貯まると友人たちと豪華客船旅行に出たのよ。そこで男性との出会いを探したものよ。普段は一切、贅沢なんてしないで、船に乗るために頑張ってきたの。お陰で、友達はいい結婚したわよ。私が結婚した相手は船で出会ったわけじゃないけどさ〜。
と、再びマイルドセブンに火を点けた途端、激しく光る照明が

カチャ

っと消えた。激しいライティングに甘やかされていない沙知代さんを恐る恐る見ると、とてもツヤがあり綺麗な人だった。
「あなたも頑張りなさいよ。いい男を掴む為にね」と沙知代さんは言った。

あの頃の女性達は人より幸せになろうと必死だったのだろう。
ハングリー精神があり負けず嫌いで強かったのだろうか。

テレビで見る恐さは、テレビの沙知代さんで、
本当は優しい人なんだ。と、その日気がついた。心が豊かになった対談に満足した私は出来上がった記事も写真も一切見なかった。

あれから20年が経ち、私が働く業界も変わったけど
今でも弱気になるとたまに思い出す。ハングリーな女性の武勇伝を。


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