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【短編】 家庭訪問の日

 今日は家庭訪問なので、私はちゃんと服を着て、呼び鈴が鳴るのをじっと待っていた。
「こんにちは。ミミさんの担任の小比類巻と申します」
 担任の小比類巻は、玄関ではなく冷蔵庫のドアから現れたのでびっくりしたが、時間通りに来たのでまあいいかと思った。
「ところでミミさんが見当たりませんが、どちらに?」
 ミミは空想上の自由な子どもだから、多分私の頭の中にいます。
「ああなるほど、そういうことなのですね。学校では普通にミミさんと接しているので、ご家庭にも居るものだと勝手に……」
 私は、お茶と海苔巻き煎餅を小比類巻にすすめて、ミミの学校での様子を聞いた。
「ミミさんはとても協調性のある子どもで、クラスで喧嘩が起こるとすぐ仲裁に入って、銃撃戦になるのを防いでくれます」
 銃撃戦とは?
「ああ、最近の小学生はみんなピストルや機関銃を持ってまして、何かあるとすぐに撃ち合いになって、重症者や死者が出ることが社会問題になっているのですよ」
 私はテレビもネットもほとんど見ないから、全然知らなかった。
「中にはミサイルを使う子どももいて、学校ごと破壊されたケースも全国で十数件ほどあります」
 そういえば、ミミが服をボロボロにして帰ってきたことが何度かあったなと、私は記憶を思い返した。
「つまりミミさんは空想上の子どもだから、銃弾やミサイルでも傷付かないわけで、だから喧嘩の仲裁ができるのですね! 納得、納得、納豆巻き!」
 いや、ミミはきっと傷付いている。
 私には何も言わないが、人間同士が傷つけあう場面を見て、ミミが何も感じないなんてあるわけがない。
「あ、次の家庭訪問がありますので、小比類巻は海苔巻きを食べながらこれで失礼いたします!」
 私は、再び冷蔵庫を開けようとする小比類巻のむなぐらを掴んで、ミミに喧嘩の仲裁なんかさせないで、お前ら教師が何とかしろと怒鳴った。
「そうカッカしないで閣下どの。暴力では何も解決しませんよ。ミミさんはきっと善意で喧嘩を止めているだけで、われわれ教師は彼女の善意を認めてあげるべきだし、間違った方向へ行かないよう見守ることが勤めだと思っております」
 私は小比類巻から手を放し、さっさと消えろと言った。
「ミミさんは、あなたが思っているよりたぶん大人です。そういう子どもの変化や自主性に気づいてあげることも……」
 あと、自分の名前で遊ぶな。全然面白くない。
「ミミさんにも、同じこと言われましたよ」

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