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【短編】 昼寝のシャルロット

 家の前に女性が倒れていたので、体をゆすってみたら、彼女は目を半開きにしながら大きくあくびをした。
「すごく眠いので、あなたの家のソファを貸してくれませんか?」
 よく見ると、彼女は高校生ぐらいの女の子に見えた。
「すごく眠いので、あなたの家のソファを貸してくれませんか?」
 彼女は、壊れた機械みたいに同じことしか言わないし、全然起き上がらないので、とりあえず家の中へ運んだら、居間のソファをに倒れ込んで眠ってしまった。
 それで私が毛布を掛けてやったら、眠りながら毛布をたぐり寄せてミノムシみたいに丸くなった。

「わたしの名前はシャルロットです。ソファと毛布を貸してくれてありがとう」
 三時間ほどして目を覚ました彼女はそう言って、寝ぼけた顔のまま、どこかへ帰っていった。
 案外礼儀正しい子なのだなと思ったが、次の日も、彼女は勝手に家に入って居間のソファで寝ていた。
 家の鍵は閉めたはずなのに、何で入ってきたのだろうと思ったが、彼女が子どものように眠っている姿を見ると、無理に起こす気にはなれなかった。
「わたしの名前はシャルロットです。ソファと毛布を貸してくれてありがとう」
 彼女は目が覚めると、やはり壊れた機械みたいに同じことを言ってどこかえへ帰っていく。

 シャルロットが家に来るようになってから、お昼過ぎになると必ず居間のソファに彼女が眠っていて、私が彼女に毛布を掛けるというのが一つの習慣になった。
 たまに来客があると、この子は誰なのかという話になって面倒なのだが、私にもよくわからないけど、起こすのは悪いからそのままにしていると説明している。
 誰も私の説明には納得してくれないが、彼らも、彼女の寝顔を見ると何となく納得し、それ以上の質問はなかった。

 そんなこんなで、シャルロットが来てから三十何年ぐらい過ぎてしまい、私もそれなりに歳を取った。
 しかし彼女は、最初に会った高校生ぐらいの姿のままで、まるで時間が止まったようだ。
「わたしの名前はシャルロットです。ソファと毛布を貸してくれてありがとう」
 私は、彼女の素性を調べることは避けてきたのだが、その日は、なぜだか彼女のあとをつけてみたくなった。
 彼女が、昼寝から起きた後に向かった場所は、市街にある戦場で、銃弾や砲弾が始終飛び交っていた。
 そういえば、この国はずっと前から戦争中だったなということを私は思い出した。

 確かに、これじゃあ昼寝もできない。

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