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【短編】 地球外人類

 ペンギンが地球外人類だということは、今では当たり前のことです。
 しかし、そのことが公式に認められた二〇三一年当時の人々は、とても混乱していました。
 その頃はまだ、地球外人類のことは“宇宙人”と呼ばれており、SF小説などに出てくる架空の存在でしかありませんでした。
 しかも、当時人気のあった水族館と呼ばれるレジャー施設で、いつも愛想を振りまいていた動物が実は宇宙人だったということに、人々は強い衝撃を受けたのです。

「ペンギンは、ヘンテコな鳥の姿に擬態した宇宙人、いや地球外人類であることが、動物翻訳機によって解明されました」

 これは、ペンギンが地球外人類であることを最初に発見した、高橋教授という無名の科学者がメディアの会見で語った言葉です。
 当時、まだ精度の低かった動物翻訳機に教授が劇的な改良を加えたことで、動物と人類が、急に、普通に会話できるようになったのです。

「私たちがなぜペンギンの姿を選んだのかっていうと、南極なら人類と距離を取りながら地球を観察できるし、もし見つかったとしても珍しい動物ということで乱暴なことはされないだろうと考えたからよ」
「本来はどんな姿をしているのですか?」
「私たちは本来、電波みたいなもので、あなたたち人類が目で見ることはできないの」
 じゃあDNA検査をいくらしても無駄だなと、高橋教授は思いました。
 ペンギンからは、地球上の鳥類に擬態したDNAしか見つからないからです。
「他にも宇宙人はいるのですか?」
「まず“宇宙人”っていう呼び方が失礼で、まるでバケモノ扱いされている気分だわ」
「では、どんな呼び方がいいのでしょう?」
「そうね……、地球上の人類と対等の地球外の存在という意味で、“地球外人類”っていうのはどうかしら?」
 これ以降、高橋教授の提案によって宇宙人は“地球外人類”と呼ばれるようになりました。
「さっきの質問に答えると、地球外の人類は、すでに地球上にたくさんいて、私たちみたいに動物や人間に擬態したり、目に見えない形でそこらへんに漂っていたりするわ」
「あなたたちが地球に来た目的は何ですか?」
「私たちは、ただ、あなたたちがどんな存在になっていくのかを見ていたいだけ」
「地球侵略とか、そういうことは……」
「侵略っていうのは、自分に足りないものを他者から奪うことだと思うのだけど、私たちや他の地球外人類には、たぶん、あなたたちから奪いたいものなんて何もない」

(2021/10/17新作)

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