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【短編】 いつか王子様が

 私はむかし、子どもでした。
 体が小さくて、いつも大人を見上げていましたし、よく転んで怪我をしたり、泣いたりしました。
 王子様と出会ったのは、小学校の鉄棒を、なんとなく飛び越えようと思ったら鉄棒に太ももを激しくぶつけて、地面でのたうち回っているときでした。
「鉄棒は、手でつかんで体を回したりするものなのに、君はなぜ飛び越えようとしたんだい?」
 王子様は、無邪気にそう質問しました。
「今は太ももが痛くて死にそうなので、質問は後にして下さい」
 私は、そう答えるだけで精一杯でした。
「ぼくは、君のような子どもに会うのが初めてだからびっくりしたんだ」

 私は、小学校の先生に発見されて病院に連れて行かれ、診察を受けましたが、とくに骨折もなく、ただの打撲だから心配ないと言われました。
「君は、鉄棒に足をぶつける変な子どもだけど、体は丈夫なんだね」
 王子様は、診察室から出てきた私に笑顔でそう言うと、病院を去っていきました。

 それから何日か過ぎたあと、小学校から帰る途中で、王子様が道端に倒れているのを見つけました。
「ああ、君は鉄棒の勇者だね。ぼくはお腹が空いて歩けなくなったのさ」
 私は王子様を家に連れて帰り、朝食用のパンや、カップ麺や、缶詰を集めてテーブルに置きました。
「こんなにたくさんは食べられないから、君も一緒に食べようよ」
 あの頃、両親は共働きで、家には子どもの自分しかいませんでした。
 だから、お湯を沸かすことぐらいしかできませんでしたが、王子様と食べたカップ麺は、なぜか特別に美味しかったのを覚えています。
 王子様は、私の家に一週間ほど滞在すると、旅に出なければいけないからと言って出て行きました。

 その数年後、世界中で疫病が大流行し、さらにその数年後に大国同士が戦争を始めてしまい、世界中が戦争に巻き込まれました。
 私は、敵側の核攻撃から何とか生き延びて、焼け野原になった街をあてもなく歩いていましたが、ついに力尽きて動けなくなりました。
「やあ、鉄棒の勇者に十年ぶりに会いにきたよ」
 目を開けると、昔と変らない王子様の顔が見えました。
「ぼくは旅先で、その日食べるものがない人や、戦争で傷ついた人にたくさん出会ったけれど、彼らの話をただ聞くだけで、他には何もできなかったよ」
 私は、王子様の顔を見て、子どもの頃みたいに泣いてしまいました。
「いまはカップ麺じゃなくて、カレーライスぐらいは作れますよ」

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