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【短編】 レジスターガール

「世界に絶望している人は、同時に世界から絶望されている」と書かれた街角のポスター。
 僕は、世界とか絶望とか言われてもあまりピンとこなかったで、ポスターを十秒間眺めたあと、その場を去って、いつも買い物をしているスーパーへ向かった。
「合計で七七七円になります」と、夜のレジを担当している、いつもの女の子は言った。
 消費期限間近で半額になった弁当や惣菜、そしてコーラ、朝食用のパンでこの値段。
 戦争が始まる前は、五~六〇〇円ぐらいで同じものが買えて、もっと安かった。

「千円お預かりします。おつりは二二三円です」とレジの女の子。
「今日は七七七円で、なんだかゾロ目になったので、告白します。半年ぐらい前から、ずっとあなたが好きです」と僕。
「おつりは二二三円です。またのお越しをお待ちしております」
 僕は顔を真っ赤にしたまま、彼女から、お釣りと七七七円のレシートを受け取って、その場を立ち去るしかなかった。
 魔が差したというか、ただの勢いだけで告白してしまったが、もうこの店には恥ずかしくて行けないなと思った。

 戦争は、初めは遠くの国で起こっていたことだが、気が付いたら自分の国も、隣国と戦争をするはめになっていた。
 僕は、恥ずかしくてトラウマになった例のスーパーには近づかないようになり、簡単に恋なんてするものじゃないということを教訓に生きていた。
「世界を守るために、あなたの勇気が必要です」
 そう書かれたポスターが街中に貼られるようになったが、僕は世界のことなんて知らないし、一度の告白でトラウマになってしまうほど勇気がない。
 だから、僕のような人間には、この世で生きる価値もないのかもしれない。

 戦争は、この街にもやってきて街中が爆撃を受けた。
 僕は何とか生き残ったけれど、住む場所も食べ物もない。
 それで、とにかく食べるものを探すために、焼け野原になった街を歩いていたら、あのレジの女の子に出会った。
「ごご合計で、一二三四円、えん、えんになります」
 彼女は、爆撃で破壊されたスーパーの瓦礫の中に立ったまま、誰もいないのに一人で接客をしていた。
「もう、接客はしなくてもいいんですよ」と僕は、彼女の手を握ってそう言った。
「でも、お客様が後ろででで、待って」
「もう、このスーパーは爆撃で破壊されて、お客様は誰もいません。あなたはきっと、人間じゃなくてアンドロイドだと思いますが、僕は、やっぱりあなたが好きです」

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