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【短編】 少女連邦共和国

 人口は十万人程度で、面積は東京二十三区ぐらいのかなり小さな国だ。
「少女連邦共和国は、外交的には一つの国だけど、内部的には複数の国をまとめたもので、旧ソビエト連邦や、アメリカ合衆国と同じ国家形態なの」
 少女連邦共和国のホームページを見ると、親切にそう書いてあった。
「わたしたちの連邦は、普通少女国、ツンデレ少女国、魔法少女国、超能力少女国、そして異世界少女国という五つの国でできていて、政治経済の中心地になっている首都は普通少女国だよ」

 この国は、原則的に少女という存在しか認めない国で、入国制限がとても厳しい。
 しかし私は、「猫や犬などの動物を三年以上飼っている小説家」という条件を満たしていたので何とか入国が許された。
 私はずいぶん前からアナスタシアという名前の猫を飼っているのだが、空港の入国審査でなぜその名前にしたのかと問われて、緊張した。
「えー何となくロシアっぽい名前が頭に浮かんでそう名付けただけなのですが、何か問題でも?」
「いえ、あたしもアナスタシアで、何か不思議な気持ちになって思わず理由を聞いてしまっただけだから、別に問題はないよ」
 無事に審査をパスした私は、少女変換室という部屋に連れていかれ、一瞬で少女の姿に変身させられた。
 少女連邦共和国に滞在する間は、何人たりとも少女の姿で過ごさなければならないという決まりがあるからだ。
 実際に少女の姿になってみると、フリフリのドレスを着ている自分が恥ずかしくなった。 
 でも、身長や体型や顔立ちは少女そのものなので、別におかしくはないし、あとは喋り方の問題だなと思った。

 私は、予約していた宿で少し休んだあと、毎晩開かれているという夜会パーティーに行ってみた。
「こんばんは。変な子だと思われるのは承知で、あなたと何となく話したくなって夜会に来てしまったの」
 そう声を掛けてきたのは入国審査官のアナスタシア嬢で、誰も知り合いのいない私にとってはむしろ嬉しい再会だった。
「あたしは、ツンデレ少女国出身なのだけど、ツンツンしながら好意を示すのがどうにも苦手で、入国審査みたいなお堅い仕事をしているの」
 あなたは今のままで十分素敵よと、少女になった私は無責任に言った。

「ところで、あなたはどんな小説を書いているの?」
 不思議な小説を書いているけど、ぜんぜん売れなくて死にたい気分。
「ほら、今あなたは少女なんだから、そんな夢のないこと言わないで」

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