【短編】 放課後の神隠し
学校の放課後、集落の裏山に遊びにいったら道に迷ってしまった。
キレイな景色が見える場所があるということで、男子と女子、十人の同級生で楽しく山に行っただけだった。
「ぜんぜん知らない道だけど、まずは下へ降りてみよう」
山道に一番詳しい同級生はそう言ったが、道を下った先にあったのは、まったく知らない町で、同級生の誰も来たことがないという。
辺りはもう薄暗くなっていて、早く家に帰りたいと言ってめそめそ泣く子も出てきた。
同級生の何人かが、携帯や公衆電話で自宅に電話をかけてみたが全く繋がらない。
「君たち、道に迷ったんだね」
みんなが絶望的な気分になっていたとき、知らないおじさんが声をかけてきた。
「数カ月に一回ぐらい、君たちみたいに道に迷った子どもが来るから、ここには無料の宿泊施設があるんだよ」
おじさんの後についていくと、二階建ての鉄筋コンクリートの建物に案内された。
三十分ほどテーブルの前に座っていたら、温かい食事が出てきのでみんなでそれを食べた。
「今夜は、ぐっすり眠るといいよ」
そして朝になり、同級生のみんなは目が覚めたが、やっぱりそこは昨日泊まった宿泊施設で、状況は何も変らない。
「この町にとどまるのもいいし、帰る道を探すものいい」
おじさんは、テーブルで朝食を食べる私たちにそう言った。
「この町にいても誰も助けには来ないから、たいていの子どもは帰る道を探すのだけど、自分の家へ無事に帰れる子どもはほとんどいない」
同級生のみんなは、おじさんの話にぽかんとしているだけだ。
「帰る道を探すにしても、知らない町にたどり着くだけで、そのうち帰ることをあきらめる子どもも多い」
おじさんは、私たちみたいな迷った子どもを見つけるたびに保護して、その子どもたちに、この迷った世界のことを説明しているらしい。
「実はわたしも、裏山で迷ってここにたどり着いた子どもの一人でね。その後、新しい家族に拾われて、何とか今まで生きてこれたのさ」
私たちは当然、家に帰る道を探すことを選んだ。
でも、どこへ行っても知らない町ばかりで、結局、最初に来た町へ戻ってしまった。
「君たちみたいな子どもには酷なことかもしれないけれど、また一から人生をやり直してもいいじゃないか」
最初の町のおじさんは、再び会った私たちにそう言った。
「君たちの顔は、前に会ったときより疲れているけれど、ずいぶんスッキリしているように見えるよ」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?