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できれば咲き誇る花のせいにして
春は、惑いやすい。
ここのところ、望みのない恋をしている。
「望みのない」は、「叶わない」では、なくって。
「特にこれといって望むことのない」が、正解で。
でもきっと「叶わない」も「敵わない」も、正解で。
望みない、望まない、望めない。
いつかきっと、強く惹かれてしまうから、桜の花びらの落ちる速度ではらはらと視線を落として、男の人にしては丸っこい肩をなぞるようにして目をそらす。
そうして散らした視線たちが、散り積もった花弁のように嫣然と地面を埋めて、わたしの足元をすくっていく。
たったひとこと口にすれば散ってしまう気がして、口をつぐんだまま空を見上げると、明け方の赤みを帯びた光に、散りかけた桜がまるで鱗のように映えていた。
うんと傷ついた魚のような景色に息をのんで、それからふうっとおおきく息を吐く。
春は惑いやすい。惑いやすいのだから。
行き場のないこの気持ちも、吐きだせないでいる言葉も、いっそ伝えてしまおうか。
できれば咲き誇る花のせいにして。
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ハッシュタグイベント #春が来た 投稿用ふたつめ。
一作目→「春日追想」こちらはショートストーリーのようなものを。
桜を見るたびに、「僕には桜が灰色に見えるんだ」って言っていた色覚異常の男の子を思い出します。かつて、ほんのすこしだけすきだったひと。
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