ゆきのさきこ

東経133度、 北緯33度の地点、豊後水道の波の音を聞きながら、ただいま文学修業中です…

ゆきのさきこ

東経133度、 北緯33度の地点、豊後水道の波の音を聞きながら、ただいま文学修業中です。私の詩を読んでいただけるとうれしいです。

最近の記事

習いたての俳句

「2023冬から夏」   大根の輪切り千切り冬瑞し   山椿散らばる路をとぼとぼと   鎮南山今年生まれのメジロ鳴く   菜の花に送りおくられ土手を行く   啓蟄や何か蠢く足の裏    まばたきの合間に花は葉に変わり   少しだけ寄り道しよう春の宵   履歴書を書く女子もいて春のカフェ   新緑や赤子すやすや乳母車   ひとり居の老女の庭の木香薔薇     夏帽子去年の疲れを溜めたまま   蝶のため野アザミ一本そのままに   紫陽花や長き不在の古家守

    • 最初の短歌  旅の途中Ⅱ

      一 握 の 砂 こ ぼ る れ ば い く た び も 手 を 差 し 入 れ て し か と 掴 もう こ の 森 の こ の 桜 、 松 、 い く 本 か 六 歳 の 君 に 教 え て 歩く 子 育 て や 家 事 の 楽 し み 知 ら ぬ ま ま 老 い て 行 く 男 よ 半 分 寂し ニ ワ ト リ よ 鶏 舎 に 産 ま れ 食 卓 に           一 度 も 空 を 飛 ば な い ま ま に 消 ゆ るか 八 月 に 終 え る 命 の

      • まるいもの

        まるいものが好き  靴下を折り返した足首のところ 着ぶくれた子供が母親を呼ぶ声  人混みの中に湧くシャボン玉 老女の罪滅ぼしを終えた目 冬の別府湾に架かる虹

        • 眠る前に

          眠る前に              ゆきのさきこ 毎晩 眠る前に 一山越えたところにある実家の 母の寝息を確かめ 神戸に住む娘の家の 片付いた台所を思い 近所に住む息子の家の  寝かしつけられたばかりの孫を思う 時には 夏に出会った 傾山の岩陰に棲む鹿の震えを思いながら そのうち眠りに入るのだけれど 加えて 近頃 雪原に繰り出す兵士を呼び止めて トルストイやドストエフスキーについて 尋ねてみなければと それも なるべく急がねばと 思うのだ

        習いたての俳句

          ここにいる

          東経131度、北緯33度 ここはいい場所に違いない 南には九六位山  この山を越えて来る雨は心地よい 西には九重連山 九州山地は緑深く 私はとても小さくて 小刻みに息をして ここにいる なのに なぜこんなにも寂しいのだろう 何に焦がれているのだろう 反対側はどうなっているのかと 地球儀を抱えて探してみれば ウルグアイの側 大西洋上だ 耳を遠くすれば 豊後水道の渦巻く波の音だ 

          最初の短歌  旅の途中

          月山の頂の小屋に芭蕉も居て深き霧の中月の出を待つ 古文書の墨深々と千年の百済の願い永久に伝えよ 特急列車に行く宇佐平野の黄金色卑弥呼は夢をまだ見ています マラケッシュからアトラス山脈越えて2週間同行の月もやがて満月 スコットランドに英雄"ウオリス"あり伝説の荒野に紅きジギタリスの花 トルファンの古城に立てば土壁にモンゴル兵の蹄の音残るか ニューヨーク9.11跡地に滝二つ水音深く地底に落ちて 天を衝く武陵源の峡谷に我はアバターとなりて遊ばん サハ

          最初の短歌  旅の途中

          桃源郷

          桃源郷               ゆきのさきこ 森からの風に君は目を細める 来年 小学校にあがる君に 私たちの故郷の話をしておこう 「臼杵市大字高山字山路」 文字どおり谷あいの小さな村だ 先祖が住み着いたのは戦国時代だと いく世代も、田畑を耕し、子を育て、 奉公に出し、嫁にやり、戦争もあった 今は本家と分家が一軒だけ残る みんなどこへ行ってしまったのだろう 谷に霧が立ち 野に季節の花々  家を出て五十年 今も私の桃源郷だ 団地に造成されたこの森に お気に入り

          食べる

          実家に帰る途中の村に 裏庭でヤギを飼っているパン屋があって 孫と「ヤギのパン屋さん」と呼んでいた 先日立ち寄ったら店の女主人から ヤギはビニール袋を食べて死んだと聞かされた ビニール袋が消化されないまま 胃の中でぐるぐる回っていたそうだ ヤギは紙とビニールを間違えたのだろう 「今度はニワトリを飼うのよ」と女主人 ニワトリなら砂でも石でも貝殻でも 何でも食べるのでたぶん問題ないだろう 孫は 紙袋に入れてもらったメロンパンを取り出して パクリ 彼は生まれた頃から食が細く 周

          朝、旅の途中

          高台にあるマンションの八階 この頃は涼しくなったせいか深く眠れる 薄明るい窓を開ければ もう小鳥が二羽じゃれ合いながら 飛んでいった カラスも1羽飛び立つ 夕方までゆっくり遊んでおいで 雲が西の方からやってくる もしかして東シナ海を超えて来たのかい ヒマラヤ山脈も見たのかい もしかしてあのエベレスト街道筋の宿屋の 三つ編みの少女の上も通って来たのかい 東方の海に消えるための雲の旅 遠い昔 この街で二人の子を産んで育てた 私の甘やかな旅の日々 空ばかり眺めていてもいけない

          朝、旅の途中

          学校

          向かいのお宅には子供が三人いて 喧嘩やら癇癪やら賑やか 毎朝母親は色とりどりの洗濯ものを干す この春に男の子が小学校に上がったらしく 「にいにい、行ってらっしゃーい」の連呼 声は背中より大きいランドセルが 角を曲がるまで続く 教室で子供らはまっすぐに前を向いて座り 世界の叡智を受け継いでいくだろう 漢字も繰り返し繰り返し練習して やがて太宰治や芥川龍之介にたどり着くだろう 源氏物語、万葉集も待っている 数年前キリマンジャロの麓の小学校を訪ねた 子供達

          図鑑

          私たちは 花を花と呼ぶだけでなく 一つ一つ名前をつけてきた 今しがたあってきた花は「くじゅうはなしのぶ」と 呼ぶそうだ 草にも鳥にも山々にも みんな名前をつけて この地球は美しい図鑑 枯れ草の野を一人歩いてきた 私の 天空の あの稜線の 透明で不思議な現象に 私のありたけを込めて 名前を付けよう

          花の名前

          あなたはふいに立ち止まって 足元に咲いている花の名前を聞いた 私はその青い花の名前を答えた 答えたすぐ後で涙が溢れた 夕暮れのバスに乗りいつもの橋を渡る 涙はあふれ続ける 家に帰り いくつか電話をかけいくつか約束をし テレビのニュースを終いまでみると ベランダへ出て洗濯物を干す それでも涙は溢れて止まらない ただ花の名前を答えただけなのに

          花の便り

          ヤマザクラ、コブシ、レンギョウ 風に乗って 霊山、九六位山から花の便り 佐渡窪のマンサクも咲いたはずと とりあえず向かってみよう 明るい方へ 高い方へ 澄んだ方へ 靴ひもを固く結んで