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辛うじてフナムシ

テトラに住んでいるから辛うじてフナムシ

書き初めに使えそうなポニーテールに枝毛

マッサージ店の看板に手のひらを重ねる子

有名人のサイン色紙のように汚れた換気扇

サイン・コサイン・タンバリン・違った?


 学生時代、とにかくお金がないものだから、当時の彼氏とよくテトラポットにしけ込んでいた。同級生カップルの中にもこのテトラポットを利用している子たちがいて、なんとなくそれぞれのナワバリのようなものが存在していたものだ。

 テトラポット、とひとくちに言っても、積まれた角度によって座り心地が微妙に違うので、カップルごとに「お気にのテトラ」というものが存在していたのである。

 消波ブロックという役割のことなぞ、当時は知らなかった。海が見えるロマンティックなシチュエーションで、人目から隠れることができる、という事実だけが、アホ高校生カップルにとっての全てだった。

 ぶっちゃけ、イチャイチャ場である。

 もっとお金があれば、ラブホに行くという選択肢もあったのだろうけど、今思い返してみると、きっとあの時はお金がなくて本当に良かったのだと思う。

 当時の彼氏は、スキあらばヤリたがったけど(まあ、お若い男子なのだから、これが正常なんでしょうな。笑)さすがにテトラポットでは行為に及ぶこともできず、私の貞操を守ってくれたのはまさに「消波ブロック」だった。消してくれたのは、波だけではなかったのだ。

 その頃、中学時代の友人たちが立て続けに、妊娠を理由に高校を中退していた。私にとってセッ○スは、これからの人生を台無しにしてしまう恐れのある行為としか思えなかった。大人になってからも、この思いは拭いきれなかったのだけど、まぁこの話は別の機会にでも。

 ファーストキスも、実はこのテトラの中で、だった。
 だけど、人目を避けられるはずのテトラの中で、とんでもない生き物に、このファーストキスを目撃されてしまう。

 フナムシが、じぃっとこちらを見ていた。

「アホやな、気にすんなや〜。」

 と当時の彼氏は笑い飛ばしたけど、待ってくれ、と。あなたは本当に、フナムシの全容を見たのか、と。

 海沿いで遊んでるんだから、テトラポット使ってるんだから、フナムシくらいいて当たり前。確かにそうなんだけど。

 テトラポットに住んでいるから辛うじて「フナムシ」と認識できるんだけど、もしもあいつらが自宅にいたらどう思う?

私にはGにしか見えない(涙)


 実家時代、入浴のたびに巨大Gと遭遇していた。しかも、毎回、複数匹。

 すぐに浴室から逃げ出せれば良いのだけど、間取りの関係で、浴室を出た途端、そこでアル中・DVの父親が泥酔している。脱衣所なんてオサレなものはない。

 父親に裸を見られたくない一心で、Gと浴室で震えていたのだけど、そんな我慢をしたところで、父親によって使用済みの生理ナプキンは開かれるわ、タンスの引き出しの中の下着を漁られるわで、私の乙女心はすでにズタズタになっていた。

「フナムシなんか、気にすんな!」

 という彼氏は、今思えばフツーに明るい男子高校生だったのだけど(しかも、相当優しい!)当時の私にはどうにもこうにも引っかかってしまって、別れることになってしまった。

 学生時代の私は相当鬱屈していたような気がする。だけど、楽しかったこともたくさんあったんだ。あったはずなんだ。

 Gに見間違ってしまうようなフナムシでも、テトラポットで見かけるなら大丈夫なように。

 少なくとも、海はいつだって、綺麗だった。

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