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宇宙

「聞こえてますか?
ここから君までどのくらいの距離があるんだろう。僕の言葉が君に届くまで何億光年かかるんだろう。君に届いた頃には、僕はもう死んでしまっているかもしれない。それでも君に伝えたいんだ。どうか僕の声がいつか君に届きますように。」

空を見上げる。満天の星空とまではいかないが、数多の星がちらちらと瞬いているのが見える。
月はない。夜が静かに沈んで行く。
野原に寝転がり、星空に手を伸ばす。
届きそうだと勘違いしてしまいそうなほど空は近づく。宇宙に吸い込まれていく感覚。
それはただの想像にしかすぎないのだけど。
いつか君から届いたメッセージ。

『こちら冥王星。どこかの星に届いていますか?私の知らない世界があると信じて、こうしてメッセージを飛ばしています。どうかこのメッセージを受け取ったなら、返事をください。
私は冥王星のSARA。あなたはどこの星の人だろう。人類が宇宙へ進出してからどのぐらい経ったのかわからないけど、私が住むこの冥王星へは人の出入りはない。
私は私たち以外にも人類が存在してるって信じてる。こんな広い宇宙で私たちだけなんてそんなこと、あるはずないもの。
返信用のメッセージポッドを一緒に入れておきます。もしこのメッセージを受け取って返信する技術がなくても、これにメッセージを入れて発信してください。そうすればきっと私のところに返ってくるから。
私はこのメッセージがいつか誰かに届くと信じています。
これを受け取ったあなたは夢物語のようだと思うかもしれない。でも私はここにこうして存在しているの。
いつか私が見た地球の映像。あんなに素晴らしい世界がこの世に存在するなんて知らなかった。私もいつか地球へ行ってみたい。
どうして地球から人類が離れたのか今となっては誰も知らない。あなたがもし地球のことを知っていたら教えて。こんなに美しい星が私の住む冥王星からは遙か遠く、同じ惑星として存在しているなんてそれこそ夢みたい。
どうか、このメッセージが誰かのもとに届きますように。そして、私のもとに返ってきますように。』

最初はいたずらだと思ったんだ。
こんなふざけたメッセージが届くなんて子供だましにしてもずいぶん杜撰だなと。
でもメッセージと一緒に添えられたメッセージポッドというものを見てみると、それは子どもがいたずらで作れるような代物でないことは見ただけでわかった。
一体何の素材なのかどういう仕組みなのかすらまったくわからなかった。
果ては使い方すらわからない。
でももしこれが本当に地球外の人類、宇宙へ進出した人類が作ったものなら……
心臓が一瞬冷え、でも次の瞬間にはわくわくと憧憬が激しく胸を突いた。
自分が知らない世界が存在する。
これは未来の話か、過去の話か?
いろいろな想像が頭を巡り、ぐるぐると目の前が回る。

宙への憧れは人類の夢。それは、僕の知らないところで行われて、僕の知らないところで散っていく。そう思ってた。
でも今僕の手の中にその夢がある。
これが本当に夢でも、それでもかまわないと思った。
メッセージポットを手に、夜な夜な空を見上げるようになった。
どうしたら届くだろう、どうしたら君に僕の言葉を届けられるだろう。
空に瞬く星々。そのどれかにもしかしたら君がいるかもしれないと思うと心臓が激しく脈打って、足が震える。メッセージポッドにはすでにメッセージを入れてある。
いつか君に届くと信じて。
今日も君に少しでも近づけるように丘を登る。
野原に寝転び、空を見上げる。
空はこんなに遠いのに、君には今すぐ会えそうな気持ちになる。
メッセージポッドを空へ投げる。
『君に届け』
軽く投げたはずのメッセージポッドは、そのまま空へと吸い込まれていく。

「聞こえてますか?僕の声が届いてますか?」



(※冥王星は惑星ではない)

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