徐々に色褪せていく青
村上龍の『限りなく透明に近いブルー』という小説が大好きだ。
福生の米軍基地周辺に住む若者達が、麻薬とセックスにまみれた退廃的な生活を送る様子を、ただひたすらに描写した小説。
上手く言語化できないけれど、この作品の雰囲気、世界観が僕を惹き付ける。
主人公のリュウは、仲間のケイ、モコ、ヨシヤマ、オキナワ、レイコ、カズオらとつるみ、米兵とマリファナを吸いながら乱交パーティーを開く。
この小説が芥川賞をとったとき、そのあまりに過激な内容は物議を醸したという。
リュウ達の、ワルっぽい生活に憧れがあったのかもしれない。
二十歳前後の若者が抱える空虚感に、共鳴する部分があったのかもしれない。
とにかく、この小説の世界が好きなのだ。
大学に入ってからコロナが流行りだすまでの間、僕はリュウに憧れ、この小説に似た生活を送っていた。
地元の仲間を集め、パーティールームを一晩貸し切って朝まで騒いでいた。
男女合わせて10人くらい。
みんな6歳から知っている仲だ。
小説と違って、僕らの世界には麻薬も乱交も無い。
その代わり、とにかく酒を飲む。
ひたすら飲む。
朝まで、浴びるほど酒を飲む。
太陽が上る頃、頭は割れるようにズキズキと痛み、テーブルの上には空のウィスキー瓶が、床の上には酔い潰れた仲間が転がっている。
昨夜の記憶なんてほとんどない。
そんなことを、よくやっていた。
まるで『限りなく透明に近いブルー』の世界を生きているみたいで、これが自分の青春なんだと思うと、楽しかった。
しばらく仲間と会えなくなると、僕は小説を読んだ。
そしてまた、「近いうちに集まろう」と仲間に声をかけた。
そんなことを繰り返しながら、月日は過ぎていった。
最後にみんなで集まったのはいつだったろうか。
新型ウィルスが日本でも流行り始め、僕らの集まりも自然と消滅していった。
一人で酒を飲む夜が圧倒的に多くなった。
一人で味わう朝の頭痛は、虚しかった。
かつて一緒にバカ騒ぎした仲間達は、
「もうあんまり、酒も飲まなくなったなあ」
と言いながら就職し、スーツを着て、社会に出ていった。
寂しかった。
そんな僕も、彼らと同じ色のスーツを着て、社会に出ようとしている。
僕は今宵も一人で、グラスを傾けている。
「ドアーズの"水晶の船"昔演っただろ?
あれ今聞くと涙出るな、
あのピアノ聞くとまるで自分が弾いてるような気分になってさ、たまらなくなるよ。」
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