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底意地の悪い社会

ある中学生が、学校でいじめられていたそうです。

本人はとてもおとなしく、優しく、嫌なことに怒りを表すこともなく、いつもニコニコしています。
こちらが問いかけたことに、すぐに反応が返ってこなくて、「うーん」と考え込むことが多くて、おそらく問われたことを頭の中で整理して、応えを出すまでに、とても時間が掛かるのではないかと思います。
だからといって、考える力が無いわけではなくて、整理に時間がかかるので、すぐには応えられないのでしょう。
彼の応えを待てないと、周りが勝手に結論を出して、「ね!そうだよね!」と押し切ってしまうと、『違うのにな』と思いつつ、彼は反論できずに「たぶん、そう」と応えるしかなくなってしまいます。

そんな彼が、いじめられたキッカケは、修学旅行で、備え付けの石けんではなく、持参の石けんを使っていたというところから始まったそうです。
アレルギーがあるので、持参のものを使っていたようなのですが……。

多くのイジメが、こんな意味不明のことから始まります。
彼がとても反応が早くて、その場で「これは薬のようなものなんだよ!しかたないだろ!」と反論できる子だったらどうだったんでしょう?
からかった方は、「あ、そうなの。ごめん」と言って、おさまったかもしれません。

いつも反応が鈍い=攻撃しても反撃してこない
ということを見越して、イジメのターゲットを選び、たまたま皆んなと違うところを見つけたから、イジメが始まった、という経緯が想像できます。
そもそも、そんなに大人しい子が、誰かを攻撃したり、嫌がらせをしたりすることはあり得ませんから、いじめた側が、『嫌なことをされたから、仕返しをした』という構図は成り立ちません。
完全にいじめた側の悪意です。

幸い、早めに発覚して、今では落ち着いたようですが。

いじめられた側の本人は、「嫌だ」とも「学校に行きたくない」とも言わなかったそうです。
もしかしたら、なんでこんな攻撃を受けているのか、一所懸命考えていたのかもしれませんね。
それが正しいのか、間違っているのか、考えても答えは出てきません。
でも、いつも誰かの問いかけを、いったん自分の中に持ち込んで答えを探すクセのある彼が、いじめられた事象も、いったん自分の中に持ち込んで答えを探していたのかもしれないな、と思うと、イジメそのものでなく、彼の中の混乱が辛かったのだろうなと思います。

この世の中は、なぜか『反応の速い人間』の天下です。
仕事でも、素早く功績を出せる人間が重宝され、何か問題が起きた時には、即座に反応し対処できる人間が必要とされます。
周りと違うことをする場合(この場合は、特別な石けんを使っていた)、それは何故なのかを即座に説明しないといけない(決してそうではないのですが、子どものうちから、周りと違う人に嫌悪感を抱く習慣が付いているのだと思います)

正しかろうが間違っていようが、ハッキリとした応えを返せる人間が信頼される人間と思われるフシが強いように思います。
のんびりしている人を蹴落として、先へ先へと進もうとする、底意地の悪い社会。

行動の早い人も、実はどこかでペースダウンしたいのかもしれない。休みたいのかもしれない。
でも周囲がそれを許さないから、頑張るしかない。そうすると、のんびりしている人がうらやましく思えて、ズルいという発想になるのかもしれません。

この話題に出した中学生は、私の小中学生の時のペースと似ているので、彼の心を勝手に想像してしまったのかもしれません。
そして、彼がいじめられていた状況は、私が、職場という集団の中でうまくやれない原因とよく似ているのではないかと感じられます。

彼をいじめていた同級生たちは謝罪し、卒業すれば二度と関わることはないのでしょうが、果たしてこれは、いじめていた同級生たちだけが、特別に意地悪だった。同級生たちと離れれば、一件落着となる問題なのでしょうか?

いじめた同級生たちの底意地の悪さは、社会そのものの底意地の悪さではないかと、私には感じられてしまいます。


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