見出し画像

専門性をリスペクトしてチームを強くする

チームで仕事をするとき、専門性へのリスペクトは重要です。なぜなら、チームの生産性に大きく影響する要素だからです。
しかし、意外に専門性へのリスペクトに欠けるケースは多くみられます。
その構造と対策について書きます。


専門性へのリスペクトは欠けやすい

本質的に、専門性へのリスペクトを欠いたコミュニケーションは発生しやすいと考えます。
それはいくつかの人間の物事の捉え方の癖によると考えています。

直感的ではないことを受け入れがたい

たとえ仕事の場であっても、人は直感的な情報を受入れやすく、直感的ではない情報は否定しがちです。
しかし、直感的であるかどうかと、ある問題への適切な答えであるかどうかは、実際は関係がありません。
適切な答えが直感的でない場合もありますし、直感的な答えが適切でない場合もあります。
専門性がある人が専門性がある分野について意見を述べるとき、その意見はその人の専門的な知識や経験から見いだされたものでしょう。
しかし、その意見が直感的ではない場合、専門性がリスペクトされないチームにおいては、困難な説明を強いられることになります。

専門的な意見の根拠を短い時間で説明することは難しい

なぜなら、専門性に基づく意見が見いだされた理由を同じような専門性がある人以外に説明することは本質的な難しさがあるからです。
専門的な知識や経験を持たなければ理解できない思考が意見の根拠であった場合、その根拠となる知識や経験を短い時間で理解してもらうことは難易度の高いことでしょう。
そのような場合、その意見の理解に必要な部分に絞って専門的な知識や経験を理解してもらおうとするかもしれませんが、それでも難しいことです。
高度な専門性から見いだされた答えであればあるほど、この傾向は強くなります。

一つ例を挙げます。
インターネット上のログインにパスワードを要求するサービスでは、そのほとんどが、運営側は各ユーザーのパスワードを知らず、保存もしていません。
それでも、当然、パスワードでログインできます。
この仕組みやなぜそうするかについて、ソフトウェア開発の知識や経験がない人に説明するのは、すこし時間がかかるでしょう。

自分自身の知識を評価することの難しさ

また、自分自身の知識を評価することは誰にとっても難しいものです。そのことにより、結果的に専門性を持つ人にリスペクトを欠くコミュニケーションをしてしまうことがあります。

北大路魯山人の随筆を読むと、「半可通」という言葉がよくでてきます。「半可通」とは、部分的な知識しか無いのに通人ぶることを示します。
随筆を読んでいると、彼は、この「半可通」を何度も批判しています。

その彼に「半可通」と批判された人も、立派な人だったと思われますが、それでも「半可通」になってしまう。自分の知識がどの程度正確でどの程度のレベルかを自己評価し、行動に反映させるのは難しいと感じさせられました。

端的に言うと、知らないことを知らないと理解するのは難しい、ということです。
言い方を変えると、メタ認知の難しさ、とも言えます。

専門性へのリスペクトが欠けるとチームの生産性は大きく下がる

ここまで、専門性へのリスペクトが欠けないようにすることの難しさを書いてきました。
しかし一方で、専門性へのリスペクトが欠けると、チームの生産性は大きく下がります。

適切な判断が出来ず、成果が本来得られたものより低くなってしまう

当たり前のことですが、チーム内に知識や経験が存在するにもかかわらず、それを利用していないということなので、それらを利用したときに比べて適切な判断が出来ず、生産性は下がります。
気をつけたいのは、この現象は見えにくい、ということです。
本来得られた成果と実際の成果の差は、専門性があるメンバー以外には認識されづらく、下がった生産性が妥当な水準だ、と捉え続けてしまうおそれがあります。

(もちろんそれぞれのメンバーに専門性があり、あるメンバーに見えるのは自分の専門性から予測できる範囲です。そのため、すべての本来得られたであろう成果が見える人はいない、というさらなる難しさもあります)

専門性を持つ人の自尊心を傷つけ、無力感を感じさせる

専門性は、本質的に身につけることに労力や時間が必要なものです。だからこそ専門性と呼ばれます。

人間の気持ちとして、自分が大きなコストを支払ったものは大切に感じるという傾向があります(サンクコストの概念も参考になります)
そのため、専門性がリスペクトされないと、専門性を持つ人は傷つき、無力感を感じる可能性があります。

傷ついた人は、自分をより評価してくれる職場に移ろうとするかもしれません。
無力感を感じた人は、専門性に基づく提案や助言をすることをやめるかもしれません。
いずれにしても、チームにとって益があることではありません。

専門性へのリスペクトが欠けないために

以上のように、専門性へのリスペクトが欠けることはチームにとって損なことです。
一方で、専門性へのリスペクトを維持し続けることが難しいのも事実です。
どのようにすれば、専門性へのリスペクトを持つチームになれるかを考えました。

維持する努力が必要であると捉える

これまで述べたように、一般的に専門性に対するリスペクトを欠いてしまう傾向が人にはあります。そのことをまず認識することが大切です。
ということは、自然の成り行きに任せれば、チームでリスペクトを欠いたコミュニケーションが行われ、専門性を持つ人は、傷つき、無力感を感じるようになる、ということです。
これは極論に思えるかもしれませんが、非常によく見られる現象です。

専門性を持つ人に対するリスペクトは、それを意識して維持しようとすることをしなければ欠けていくもの、と考えることが出発点になります。

それぞれの専門性を認識し、それに基づいてチームを運営する

ではどのような努力をするか。
まず、誰がどのような専門性を持つかをお互いに把握することが大切です。自己紹介の時間を十分にとったり、自己紹介文を書いてもらったりするのもいいでしょうし、スキルマップなどの手法を使うこともできます。
そして、ある人が特定の分野に専門性を持つことが分かれば、その領域の議論においては、その人の意見を、議論の内容とその人の専門性のバランスに応じて重みを付けて取り扱うようにするのが適切でしょう。それは前述したように、専門性からの意見は本質的に理解してもらうための説明することに難しさがあり、ある程度は重みを付けて意見を取り扱うことでそのコストを省略できるからです。

まとめ

メンバーの専門性はチームのリソースです。
しかし、そのリソースは適切に扱わなければ力を発揮しないかもしれません。つまり、専門性へのリスペクトが求められる、ということです。

専門性へのリスペクトには、それを維持することに難しさがありますが、それらへの対策もここまで書いてきました。

専門性へのリスペクトを維持することの難しさを認識することからスタートしてください。
そして、自己紹介文やスキルマップなど、是非試してみてください。思った以上の効果が期待できます。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?