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【神田幸助シリーズ】怪奇・大腸菌人間

【あらすじ】
乳酸菌研究の第一人者である友田哲夫博士が自身の研究室で殺された。容疑にかけられたのは、大腸菌の研究員である林田智子と夫の林田一郎、そして哲夫の部下である雲丹ノ原権蔵。
全員にアリバイがある完全犯罪と思われたが、私立探偵である神田幸助は全員を呼びつけ、林田智子が犯人であると断定した。

幸助「このようにして、あなたは大腸菌で形成された液体生物、その名も『大腸菌人間』を作り、哲夫博士を殺した。そうではないですか!?」
権蔵「大腸菌で形成された大腸菌人間だって? そんなバカな。ありえない!」
幸助「いえ、そんなこともないんですよ。智子さんは普段から研究で大腸菌DNAを操作している。そんな彼女なら、大腸菌人間を作ることなんて、おちゃのこさいさいなんですよ。」
権蔵「そうか!僕は乳酸菌の研究をしているから不可能だが、智子さん、あなたなら大腸菌人間を作れる!」
一郎「おい、智子。ほんとなのか? お前が、大腸菌人間を作って、哲夫さんを殺したのか?」
一郎が智子に詰め寄る

智子「…くっくっく。探偵さんって、面白いことを思いつくのですね。いいわ、私が大腸菌人間を作ったとしましょう。だとしても、私が大腸菌人間に殺害を命じたとは限らないんじゃない?」
権蔵「あっ! 確かに! 智子さんが大腸菌人間を作ったとしても、命令をしたとは限らない。探偵さん、犯人は他にいます!」
幸助「はい。確かに智子さんの言う通り、智子さんが大腸菌人間に指示したとは断定できません。ただ、あなたは大腸菌人間に殺害を仕向けることはできた。」
智子「…」
幸助「ここに来た時からおかしいと思ったんです。研究室に入ると私含め誰もが腹痛を訴えるのに、あなただけが無事だと。
…智子さん、あなた大腸菌人間と関係を持ちましたね?」
智子「!!!」
一郎「おい、ほんとか智子!」
一郎、智子に詰め寄る

幸助「あなたは大腸菌人間と関係をもつことで、研究に邪魔だと思っていた哲夫博士に殺しを仕向けた! そして、大腸菌人間はその辺にあった包丁をつかって哲夫博士を殺し、排水口から逃げた! そうではないですか!?」
権蔵「確かに! 大腸菌人間は液体生物だから排水口から逃げることができる! アリバイは完全に説明できている!!」
一郎「おい! ほんとか智子ぉ! ほんとなのかよおぉ」
智子に詰め寄る

智子「…くっくっく、ほっほっほっほっほ。ここまでバレてしまっては仕方がないわね。そうよ。私が大腸菌人間を使ってアイツを殺したわ。
そして、大腸菌人間とも関係を持ったわーー!」
一郎「な、なにーー!!」
一郎とっさに隣にいる権蔵を殴る
智子「…アイツが悪かったのよ。ヨーグルトでもなんでも、いつも大腸菌は乳酸菌にやられてばかり。大腸菌だって世の中に役立っているのに、アイツばかり目立ってたから、殺してやったのよ。」
権蔵「そ、そんな理由で! そんな理由で人を殺したっていうんですか!?」
智子「来ないで! それ以上近づいたら大腸菌人間を出すわよ! 私はもう全身の大腸菌を操れるんですから!!」
智子全身から大腸菌を出す
幸助「待ちなさい! それ以上出すと、危ない!!」
突然大腸菌が智子を襲いだす
智子「キャー!助けてー!」
一郎「おい智子! まてー! まってくれー!!」
智子20秒ぐらいかけて消失する。走り寄った一郎もまきぞいをくらい半身溶ける

権蔵「探偵さん、何が起きたんでしょう。」
幸助「おそらく大腸菌人間も人殺しをしたくなかったのでしょう。私利私欲のために自身を使った人間に対して、逆襲をしたのだと思います。」
権蔵「なるほど。大腸菌にも良心があったということですね。そう考えると、くだらない理由で人殺しをするような人間は、大腸菌に喰われて死ぬのがザマァないですね。死に方はグロかったですが清々しました!」
一郎「うおおおー、お前たちのせいで智子はー!!」
半身の一郎、幸助と権蔵をボコボコに殴る

(ナレーション)
一郎が権助の顔面を潰している間に、大腸菌人間は排水口から海へと逃げた。
嘘のない、痛みも悲しみもない世界へ。大腸菌人間は走った。走った。
智子さんが言っていた「海」が見えてきた。太古の時代、この海の中でDNAが生まれたという。

意を決して飛び込むと、大腸菌人間は身体を維持できず溶け出した。はじめは恐怖を感じたが、智子さんの言葉を思い出した。
「この世のどこかに必ず、大腸菌も乳酸菌も人間も、平等に暮らせる世界があるのよ。」
海から溶け出る先に、その世界がある気がした。

虚ろう視界の中で、大腸菌人間は夢を見た。
白衣を着た智子さんはいつものように研究に熱心で、隣にいる哲夫博士も笑っている。遠くから博士の愛犬ジョンが走り寄ってきた。よかった、死んだのは気のせいだったか。ジョンの下痢は完全に治っているようだった。

ふと、シャーレに私を接種している智子さんと目が合った。まっすぐに私を見る目をみて思い出した。そうだ。初めてこのグレーの澄んだ瞳を見たとき、彼女に恋をしてしまったのだ、と。

大腸菌人間は最後の最後まで彼女の瞳を写し、そして次の瞬間、彼の有機物は完全に海へと溶け出ていった。


記事:アカ ヨシロウ
編集:彩音
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