無我の線を描けるか
「子供に教わることなんかねぇよな」と思っていたが、親戚の子供が描いた絵を見て「あぁなるほど、これは見習うものが多いな」と感じた機会が、ついこの間あった。
夏が終わる頃、兄が「息子の進路について話を聞いてほしい」というので、彼の家族全員を家に招くことにした。
子供は3人兄妹。中3の甥の下に小6と小2の妹が続く。その甥っ子がエンジニア職を知りたいというので、私は彼と両親とでヒアリングを行い、妹2人の対応は妻に任せた。
妻は画家をしており、他の作家の作品も買うので家には絵画が多く飾っている。その絵にお姉ちゃんが食いついた。絵が好きなのだという。
彼女たちの話を聞いていた妻は、床が汚れないようにビニールシートを広げ、画用紙と絵の具を用意し「好きに描いてみよう」と絵を描かせていた。
最初は2人とも「キャラクター」や「風景」をそれぞれ描いており、妻は横で眺めていた。
ふと妻は新たに画用紙を用意すると、丸を何度も重ねて描き、彼女たちに渡してみた。(妻は最近抽象画を主に描いている)
すると、その2人はその丸に顔を描いたり、花を描き出し、最後にはお互いの絵に黙々と色を重ねるようになった。
そこにきて、冒頭の言葉だ。
彼女たちの描く線が、無我で最高に自由なのである。
「子供の線」といってしまえばそうなのだが、『描いてやろう』という邪心がこうも見えない絵があるのかと驚いてしまった。この線も、この配色も、大人にはできないのである。
帰ったあと、床に広げた画用紙をマジマジと眺める妻に
「あなたにはもう描けない線ですな」
と言うと
「そうね」
と返した。
「いつか私は、この作為的でない線を、自由に出せるようになりたいのよね。学ぶものが多い絵ね。」
ピカソが晩年サササっと描いた絵が、なんと素直な線でかっこいいのだろう。
彼女たちの絵をピカソと言うには褒めすぎかもしれないが、のびのびと描かれたそれらは全て「良い絵」であった。
子供から学ぶものがあるとは。驚くことの多い1日を過ごした。
記事:アカ ヨシロウ
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