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麒麟がくるレビュー・2軍       その08「同盟のゆくえ」に決着

私の単なる思いつきで、今年82歳になるじーちゃん(日本人。日本在住)と12歳になる息子・エル(日本人とスペイン人のハーフ。スペイン在住)にNHK大河ドラマ『麒麟がくる』のレビューをお願いしている。うーん。この2人にちゃんと感想を言わせるのって、サーカスの猛獣使いばりのカロリーが必要なんです。

実はじーちゃんには課題を与えていた

前回、エピソードの最後に待望の織田信長が登場したことを全く気づいていなかったじーちゃん。いろいろ反応が薄すぎてまともな感想を述べようとしないこの老人に、私は窮余の策として第8話を視聴する前に課題を与えておいた。

ドラマでは、織田信秀と斎藤道三の間での同盟を結ぶにあたり、道三の娘である帰蝶と織田信長の政略結婚の話が進んでいた。

私がじーちゃんに伝えた課題とは、
「信長の人となりをちゃんと見ておいて」
というものである。
この82歳の男にいらぬことは聞くまい。一点に絞った。
じーちゃんは根は真面目なところがあるから、ピンポイントなお願いをすれば迷わずに、忘れずにやってくれるはず。

第8話は、明智光秀に惹かれたままの帰蝶が、その光秀に尾張へ行って、結婚相手の織田信長がどんな人物なのか見てきて欲しい、と頼んだ続きだったのだ。
なら、こっちは、じーちゃんにも同じ事を頼もう、というわけだった。
じーちゃん、ちゃんと信長見といてね。

「家康はよかった」

今回は電話越しにも比較的しゃっきりした印象のじーちゃん。
私はあえて課題を繰り返さずに訊ねた。
「お願いしてたことについてはちゃんと見てくれた?」
じーちゃんは鷹揚に答える。
「うん。そりゃお前、宿題を与えられてたからな。家康はよかったぞ
明智光秀を石田三成と言い切ったじーちゃんが、またやらかした。
「信長でしょ」
突っ込むのも疲れるが、ここで訂正しておかないと会話ではずっと「家康」と言いかねないので。

そんなじーちゃんの信長の印象が以下である。

・「うつけ」というのは評判だけで、まともな男じゃった
・魚の売買を通して自国の人に収益を上げる方法を教える、頭のいい商才ある男じゃ
・あの役者(信長役の染谷将太のこと)はよくTVに出るんじゃ。いつ出てきてもいい加減な役じゃ

最後のコメントはあまり関係ないが、じーちゃん的には浦島太郎もどきの格好をした織田信長が、どうして漁に行き、魚を売るのか、そのあたりには疑問はない。素直にその販売っぷりと、客に「もっと高くうれるぞ」と教える信長を評価したのである。
ま、確かに魚を丸ごと一匹売るよりも、一切れずつ売った方が人は買いやすいし、割高に売ることもできるもんね。
ドラマではそういうところを見せたかったのだろうか。

「あの魚、おいしそう」

では、自分をイギリス人だと思っている、かぞえ年12歳のスペイン人と日本人とのハーフ、エルは信長登場シーンをどう思っているか。同じ質問をすると、彼はこう答えた。

(自分が釣った魚を浜辺で人に売っているシーンで)
・いい人。偉そうじゃないし、リッチなサムライの子供なのに、show off(見せびらかすこと)しない
・だけど、何やってんの? サムライなのに
服はハイクオリティじゃないねぇー
あの魚、おいしそう

彼の場合は、商売のことより見た目をそのまま感想にした印象。
しかし、あの信長は、エルが考えていたどの武将の姿よりもサムライらしくなかったことだろう。
エルは強い武将が好きだから、信長の今後にかなり期待している。あの信長はエルの期待に応えられるのか!?

ダンス上手いの、あれで? 

エルは熱心にドラマを観る大変よい視聴者だ。
ドラマ制作者の意図通り、今はもちろん明智光秀や斎藤道三が好き。
登場人物については、敵味方関係なく、好きか嫌いかでちゃっちゃと区別する。
本人は意図していないのだが、たまに真理や盲点を突いた鋭い意見を述べることもある。

【明智光秀の母・牧の方】
頭いいねぇ。女の中では僕、この人が一番好き。帰蝶はお嫁さんになって、同盟しなくちゃだめ。ルールはルールってことを言ってる。国のことを考えなくちゃ。
【平手政秀(信長の守役)】
可愛い。この間まで戦争していた相手だったのに、(元敵だった斎藤道三の娘の)帰蝶にあんなに丁寧にお話しするんだねぇ。
【駒】
ばか。あのダンス、あれ、ダンス上手いの? あれで? なんでみんな喜んでるの? (扇子を持って踊るシーンで)
【藤田伝吾(光秀の家臣)】
(伝吾が子煩悩な様子を見て)Happy Familyだねぇ。あれ、だけどお母さん(伝吾の妻)は、どこ?

で、光秀なんだけど

第8話で注目されたのは、織田信長の行動と帰蝶の輿入れ決定だが、もう一つ大きな動きがあった。
それは、モテ男・明智光秀が2人の女性、帰蝶と駒を振ったことだ。彼が帰蝶に織田信長の嫁になることを勧め、ひたむきな光秀への想いをぶつける駒には、帰蝶に恋心を持っていたと思わせてあきらめさせた。

数え年12歳のエルは、小柄で痩せているので存在感としては小学3、4年生。そんな彼がぽつりと言った。
「光秀は帰蝶がお城に帰るとき、お見送りしなかったね。お見送りしたら(帰蝶を)止めちゃうからだね。本当は行って欲しくないから」
何ぃ、エル。あんたにそれが見えたの? 光秀にそんな複雑な心境を見ていたとは。なかなかアナドレナイ。

じゃ、エルの祖父(つまりじーちゃん)は何と言ったか。
2人の女から好かれているわけじゃ。(光秀は)帰蝶に対しては迷いもあるようだが、武家はやはり、まず国のことを考えるんじゃのう。国のためじゃ。駒については、(京に戻る彼女を)峠まで送ってやるという礼儀はある。しかし、ただそれだけじゃ
意外に渋いお言葉。でも、私は初めて(!)じーちゃんの言葉に納得した。

光秀の駒に対する態度は、優しさも、寒さを心配して同衾させたりしたのも全て「ただそれだけ」だったんだ。
じーちゃん、ありがと。今回はその言葉、いただきました!